米国で数年間にわたり徐々に時給を12ドルにすると、大まかに見て今日の英国の最低賃金とほぼ同じになる。
しかし(連邦の)時給15ドルというのは過去にどの国でも見られない高水準で、逆効果を生みかねない。職がほとんど、または全く喪失されることなく時給15ドルという最低賃金を吸収できる、高賃金の都市や州もあるだろう。しかし、米国のすべての州や都市、町についても同じことが言えるかどうかは、全く予想がつかない。
より合理的なのは、ワシントン州のパティ・マレイとバージニア州のロバート C. スコット両民主党上院議員が提唱する、2020年までに連邦の最低賃金を時給12ドルまで引き上げるという法案だ。これは32名の上院議員による共同法案でオバマ大統領とヒラリー・クリントンの支持を得ている。高賃金の都市や州では、最低賃金を15ドルに上げることも可能だろう。
低賃金労働者の苦境は国としての悲劇ではあるが、全国で最低賃金を15ドルにまで押し上げることは、とるに値しないリスクのように思える。特に、勤労所得税額控除など別のツールと最低賃金の引き上げを組み合わることで、低賃金労働者の生活を活性化できると考えられるからだ。
経済学というものは、トレードオフとリスクの理解に尽きる。最低賃金を過去の調査で研究された範囲以上のレベルに設定すれば、トレードオフはよりシビアに、そしてリスクはさらに高まることになろう。
翻訳/オフィス松村
アラン B.クルーガー(ALAN B. KRUEGER)
1960年生まれ。プリンストン大学教授。オバマ政権で経済政策担当の財務次官補などを経て、2011年から13年まで大統領経済諮問委員会(CEA)委員長。労働経済学や教育の経済分析で多くの業績を持つ。邦訳書に『テロの経済学』(東洋経済新報社)。
1960年生まれ。プリンストン大学教授。オバマ政権で経済政策担当の財務次官補などを経て、2011年から13年まで大統領経済諮問委員会(CEA)委員長。労働経済学や教育の経済分析で多くの業績を持つ。邦訳書に『テロの経済学』(東洋経済新報社)。