しかし、私や他の人が行った研究により、最低賃金が適度なレベルに設定されているならば、必ずしも雇用を低下させたりするものではないとの確信を持つに至った。
最低賃金が上昇したのを受けて職を削減する雇用主もいるが、最低賃金が上がったことで空きポストを埋めたり、離職率を低下させたりできる雇用主もいる。利益を浸食したとしても、雇用は増えることになる。
過去25年間以上にわたる最低賃金に関する多くの研究では、最低賃金は適切なレベルで設定されている場合、すべての条件を踏まえた正味の効果で見て、雇用にはほとんど、または全く影響がないことが明らかにされている。
たとえば、カルフォルニア大学バークレー校のデービッド・カードと私が行った調査結果は次のようなものだった。
ニュージャージー州が1992年に最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに引き上げた時(今日のドルに換算すると、約7.25ドルから8.60ドルへの上昇)、同州のファーストフード・レストランにおける雇用成長率は、最低賃金が時給4.25ドルに据え置かれた隣州のペンシルバニア州と全く変わらなかった。
同じく重要だが、あまり知られていない事実もある。それは、ニュージャージー州においては、法律により賃上げを義務付けられた低賃金レストランと、労働者がすでに新しい最低賃金以上を稼いでいたため賃上げの直接的影響がなかった、元々賃金の高いレストランとの間で、雇用成長率に差が見られなかったことだ。
最適の最低賃金はいくらか?
私は、よく次のような質問を受ける。
「低賃金労働者の雇用に悪影響を与えないまま、最低賃金をどこまで上げることができるのか? そして、最低賃金をさらに上げた結果、賃金が上がるより職が失われる効果が大きくなり、低賃金労働者全体の収入が減少してしまうのは一体どのレベルなのか?」
現在までの研究では、そうした質問に正確に答えることができない。しかし、向う5年くらいの間に連邦の最低賃金を時給12ドルあたりまで上げても、米国の雇用に大して悪影響がないことは確かだと思う。
そうした判断をする根拠の一つは、英国の独立機関である低賃金委員会が委託した約140の研究プロジェクトの結果だ。
そこでは、最低賃金の設定により低賃金労働者の賃金上昇率が平均を上回る結果となった事実と共に、それが雇用や経済に悪影響を及ぼしたという証拠はほとんどなかったことが明らかにされている。