今ではその影響を東南アジア、インド亜大陸、アフリカ、欧州に見ることができる。マレーシアは以前から、イスラム教徒のマレー人という多数派と大規模な中国系マイノリティーが共存に成功し、かつ繁栄している多民族国家の例だと言われてきた。しかし、状況は変わりつつある。
隣国シンガポールのビラハリ・カウシカン元外務次官は、マレーシアでは「非イスラム教徒の政治的・社会的な居場所が大幅かつ継続的に小さくなっている」と指摘する。
さらに「過去数十年に及ぶ中東からのアラブの影響が、マレー版のイスラムを着実に侵食してきた・・・以前よりも厳格で排他的な解釈に置き換えられた」と付け加える。
また、ナジブ・ラザク首相の政権を揺るがしている汚職問題は社会の緊張を高めている。同政権が支持を取り付けるにあたり、イスラム教徒の利益を代弁するアイデンティティー政治を頼りにしているからだ。ある政務次官は先日、マレーシアを陥れようとするグローバルなユダヤ人組織の陰謀に野党が加担しているとまで述べていた。
世俗的な憲法を持つイスラム国家のバングラデシュではこの1年間、知識人やブロガー、出版社の社員などがイスラム主義過激派に殺害されている。キリスト教徒やヒンドゥー教徒、イスラム教徒シーア派への攻撃も増えている。
こうした暴力の大半はイラク・シリアのイスラム国(ISIS)やアルカイダによるものだ。しかし、マレーシアと同様にバングラデシュでも、湾岸諸国は教育資金の提供や出稼ぎ労働者が形成する人的なつながりを通じて、イスラム過激派の台頭に大きな影響を及ぼしたように思われる。
模範とされてきたトルコも様変わり
西側諸国ではずいぶん前から、トルコはイスラム教徒が多数派を占め、かつ世俗的な民主主義の確立にも成功している国の最高の事例だと多くの人が思っていた。ところがレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の時代になって、宗教はこの国の政治やアイデンティティーの問題で以前よりもはるかに重要視されている。
英エコノミスト誌などはエルドアン大統領を「穏健派イスラム主義者」と評している。だが、2014年に発した「(西洋人は)友人のように見えるが、実は我々の死を望んでいる。我々の子供たちが死ぬところを見たいと思っている」という大統領の言葉には、穏健さなど微塵もない。