[FT]ロシア機爆破、テロ断定遅らせたプーチン氏の戦略

　11月13日のパリのテロ攻撃を受け、世界中のビルがトリコロール（フランスの三色旗）にライトアップされたが、それはロシアへの弔意であっても何らおかしくなかった。やはり青、白、赤の三色旗を誇るロシアは、３週間前に爆弾がロシアのジェット旅客機を墜落させたときに219人の市民を失った。パリで129人の命を奪った攻撃にショックを受けているフランスと同じように、ロシアもまたイスラム主義者のテロの犠牲者だ。

■政治問題化させない

犠牲者へ手向けられた花を前に悲しむ市民。サンクトペテルブルクの空港には数千人の人々が集った（３日）＝ＡＰ

　だが、フランスで繰り広げられる光景と異なり、ロシア国民はおおむね、自分たちの悲劇について大きな疑問を呈したり、政府に答えを迫ったりすることを控えてきた。これは単にロシア人の有名な冷静沈着な態度の問題ではないと政治アナリストらはいう。ロシア史上最悪の航空機墜落事故はウラジーミル・プーチン大統領と同氏のシリア軍事作戦が政治的な責任問題になるのを防ぐよう設計され、冷静に実行されたコミュニケーション戦略の成果でもある。

　先延ばしがロシア政府の重要な戦術だった。西側諸国の政府が10月30日の墜落事故は過激派組織「イスラム国」（ＩＳ＝Ｉｓｌａｍｉｃ　Ｓｔａｔｅ）が仕込んだ爆弾の結果だったとの懸念を表明し始めても、ロシア政府は２週間以上、テロの話をなんとかもみ消すことができた。悲運のロシア機の目的地だったサンクトペテルブルクは即座に悲しみにあふれた。市の中心部の広場で徹夜の祈りが捧げられ、何百人もの人が空港で花を手向けた。ソーシャルメディアも哀悼の意を表す言葉であふれかえった。だが、政治とは無縁だった。

　「事故が起きた時点でテロ行為を認めていたら、シリア侵攻に対する罰と受け取られる可能性があったし、間違いなく、そう受け取られただろう」。元ロシア政府顧問のグレブ・パブロフスキー氏は、ラジオのインタビューでこう語った。「（そうだったら）ずっと痛ましい気持ちで受け止められたはずだ。また、ロシア政府は常に、この最初の痛切な反応を和らげようとする。時間がたてばたつほど、ほかの問題と入り交じってくるからだ」

■シリア作戦強化に転換

ロシア機事故について担当相から説明を聞くプーチン大統領（２日、モスクワ近郊）＝RIA Novosti/Kremlin・ロイター

　プーチン氏が方針を変えたのは、16日になってからだ。ロシア政府が公表した映像で、ロシアの秘密情報機関のトップが、爆弾が航空機を墜落させたと大統領に報告する様子が映し出された。プーチン氏はそこで、シリアでの軍事作戦を強化すると宣言した。

　この発表は、主要20カ国・地域（Ｇ20）首脳会議の直後に行われた。首脳会議では、フランスのフランソワ・オランド大統領が、同国は今、ＩＳと戦争状態にあると宣言。ＩＳとの戦いが次第に国際的な最優先事項になりつつあった。