執行猶予中の30代の男性は、自らが強制わいせつ事件を犯すまでを振り返り、経緯をノートに記した。
《金欠でストレス》→《我慢》→《夜道をうろつく》→《少女を付け狙う》
引き続き「→」の部分に対処法を書き込んだ。
《家族に相談》《発散のためスポーツチームに入る》《コンビニに入り店員と会話》
性犯罪の再犯を防ぐためのプログラムが今夏、九州の保護観察所で行われた。
心理療法を使って犯行を思いとどまらせるプログラムが保護観察所や一部刑務所に導入されたのは2006年。対人関係や被害者感情などを学ぶ科目もある。
法務省の12年の発表によると、刑務所での受講者の再犯率は21・9%。非受講者より7・7ポイント低く、一定の効果はあるとされる。
【性犯罪者の行動と心理】服役中の加害者「欲求、今も消えない」
制度開始から10年を前に、課題も見えてきた。
福岡地裁で今春あったわいせつ事件の公判。知的障害のある少女を狙ったとして起訴された福岡市の男(67)は、過去の服役中に再犯防止のプログラムを受けていた。男は、裁判長から受講時のことを問われ、「難しすぎて、よく分かりませんでした」としか答えられなかった。出所から4カ月足らずでの犯行だった。
「出所した受講者に聞くと『何ですか、それ?』と言われることもある」とある保護観察官。性的欲求が起きにくい刑務所では現実感に乏しく、実社会での歯止めになりにくいとの指摘もある。
保護観察所でプログラムを受けられるのは、刑期満了前に出所してきた仮出所者と執行猶予中の人。回数は5回に限られる。「『あとは自分で頑張って。さようなら』という制度になっている」(矯正関係者)
社会としてどう性犯罪者を受け入れ、見守るのか。試みの一例が大阪にある。
大阪府では3年前、子どもへの性犯罪歴がある人に住所の届け出を義務付ける全国初の条例を施行した。狙いは監視ではなく支援という。
これまでに届け出たのは64人。当初は再犯防止のプログラムに取り組んだが、受講者の要望を受け、5年間無料のカウンセリングに切り替えた。1回90分で、月1度の利用が大半。多くが対人関係に悩みを抱えており、担当の臨床心理士は「話しだしたら止まらない。それだけ相談できる場がないんでしょう」。犯歴が漏れないよう就労支援などは基本的には行わない。
出所者情報は保護観察所などから提供されず、届け出は自己申告。「全体をカバーできておらず、どれほど意味があるのか」と効果を疑問視する声もある。
だが、利用者は言う。
「来ることが(再犯の)歯止めになっている」「行けないと(ストレスがたまって)危ない」
刑務所に勤務経験のある藤岡淳子大阪大大学院教授(非行臨床心理学)は「再犯防止には、人や社会とつながり、『変わりたい』という強い意志を持ち続けることが不可欠」という。根気強い取り組みの向こうに、光が見えてくる。
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