過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威にいかに向き合うか。世界が直面する喫緊の、そして最大の難問である。

 日本としても、国際社会と団結し、できる限りの貢献をする必要がある。安倍首相が、国際会議などを通じて連携を呼びかけたのは当然のことだ。

 残念なのは、では具体的に何をするのか、何をすべきかの議論が深まらないことだ。

 議論の場となるべき臨時国会は見送られた。自民党では共謀罪の新設が取りざたされているが、テロの病根をどう絶つかの本質的な議論とは程遠い。

 大事なのは、日本外交が何を強みとし、国際社会の中でどんな役割を担うべきなのか、テロの時代に対応する日本外交のあり方を問い直すことである。

 その答えは、戦後日本の歩みから見えてくるのではないか。

 これまで日本は海外での武力行使に歯止めをかけてきた。その結果、中東などで根づく平和国家ブランドこそ、日本外交の貴重な資産である。

 米欧やロシアが空爆を強化しているが、中長期的にみれば、軍事だけで過激思想の温床はなくならない。憎悪の連鎖を招く副作用もある。軍事と非軍事の両輪が欠かせないのだ。

 安保法制が来春に施行されれば、自衛隊が中東などで、他国軍の後方支援に、より踏み込んで加わることが可能になる。しかし、それは日本の強みを失わせかねない。

 日本はむしろ、中東の人びとの暮らしの安定をはかる非軍事の人道支援の分野で独自の役割を果たしうる。そこに持てる力を注ぐことが重要だ。

 まず議論すべきは、難民支援に本腰を入れることだ。すでにシリアとイラクの難民と国内避難民向けの支援を昨年実績の3倍に手厚くすると表明した。さらに支援の手を広げたい。

 厳しすぎる難民認定基準は見直し、受け入れを拡大すべきだろう。当面は難民の若者を留学生として招いたり、先進的な医療を希望する難民を受け入れたりする工夫もあっていい。

 ピークだった97年度の1兆1700億円から半減している途上国援助(ODA)予算の増額も、検討する必要がある。

 歴史的に複雑な関係にあるアラブ諸国やイスラエル、イランのいずれとも対話ができることも、日本外交の大きな資産だ。それを生かして、難民問題やテロ対策の国際会議の開催などで汗をかくことも意義がある。

 人道外交を重んじる平和国家日本。その理念を忘れず、粘り強く役割を果たしたい。