Skip to main content

次世代マイコン特集(2) 40nm世代マイコンが実現する、自動車の新時代

Share:

SPECIAL マイコン新時代 第2回 自動車の新時代を切り拓く、40nm世代の次世代マイコン「RH850」 自動車用マイコンの用途が、飛躍的に拡大している。従来は、自動車の「付加価値」創造を主な用途としていたが、現在は、「走る」、「曲がる」、「止まる」という自動車の基本機能にまで用途が広がった。また「環境対応」や「安全性能」などを中心に、自動車への市場要求は高く、その実現のためにも、多くの高性能マイコンの搭載が不可欠になっている。成長を続ける自動車用マイコンの市場動向と、ルネサスが送り出す40nm世代の次世代マイコン「RH850」が切り拓く自動車の近未来像を、ルネサス エレクトロニクス マーケティング本部 自動車システム統括部長の金子博昭が語る。
第1回 新時代の幕開け、40nmマイコンが始動 第一弾製品「RH850/F1xシリーズ」を発表!
ルネサス エレクトロニクス マーケティング本部 自動車システム統括部長 金子 博昭

拡大を続ける、自動車用マイコン市場

世界の自動車販売台数は、年間4~5%の成長率で伸び続ける見通しだ。2013年には、全世界で8,000万台の自動車が販売されると予測される。販売台数の拡大をけん引するのは、中国やインドなどの新興市場だ。特に、今後3年間は中国市場の伸びが非常に高いと見込まれている。すでに、中国の自動車販売台数は2009年に1,000万台を超え、米国に次ぐ世界第2位の自動車市場となった。2015年にはその2倍に相当する2,000万台に達すると予測されている。

自動車は元来、マイコンはもちろんのこと、半導体そのものを必要としていなかった。例えば40年くらい前の1970年頃の自動車には、ラジオを除くと自動車には半導体は搭載されていなかった。自動車本来の機能である「走る」、「曲がる」、「止まる」は機械部品だけで実現されていたのだ。半導体が貢献したのは、自動車の「付加価値」の部分だった。

ところが、現在の自動車は、従来の「付加価値」の創造に加えて、「走る」、「曲がる」、「止まる」という機能に、半導体が搭載されている。そのため、将来への見通しは、自動車の台数増を上回る成長率である年間10%程度が期待されている。マイコンに目を向けると、自動車用マイコンの市場規模(数量ベース)は、2018年には2010年の2倍に増えるとの予測がある。(図1)

図1:自動車用マイコンの世界市場予測(数量ベース)

図1:自動車用マイコンの世界市場予測(数量ベース)

「環境」、「安全」、「快適」、そして「コネクティビティ」が加わった

自動車に対する、市場からの要求は大きく分けると三つ。最近では四つになったと言われている。最初の三つは「環境」、「安全」、「快適」。最後の一つは「つながること(コネクティビティ)」である。

「環境」とは、地球温暖化ガスの排出量を減らすという要求を意味する。排気ガスの少ない自動車、言い換えると燃費の良い自動車を実現する。この実現にマイコンや、パワーデバイスなどの半導体が大きく貢献している。

「安全」とは、交通事故を減らすとともに、事故が発生したときの人や物に対するダメージを軽くすることを意味する。事故原因の多くは、運転者の判断ミスや操作ミスなどによるものだ。人間によるミスを減らすためには、特に高い処理性能を持ったマイコンが要求される。

「快適」とは、自動車に乗ることによって得られる体験を意味する。かつてはカーオーディオがその代表と言えた。住宅地では出せないような大きな音量を、自動車の車内で楽しんでいた。現在では「クルマに乗った方が快適になる」環境を用意しつつある。例えば、ドアを開けると個人を認証して音声でアナウンスしてくれる、ドアを開けたときの照明の点灯の仕方を優しくする、といった付加価値をマイコンが提供する。

「つながること(コネクティビティ)」は最近になって出てきた要求だ。スマートホンと情報の共有・操作の連携はもとより、道路交通情報のリアルタイム取得やカーナビゲーションの高知能化など、周囲の自動車や道路とコミュニケーションする高度な運転者支援機能の実現にマイコンは不可欠だ。

自動車用マイコンで断トツのシェア

自動車用マイコンの市場でルネサスは、断トツの市場シェアを有する。市場調査会社のデータによると、2011年におけるルネサスのシェアは42%※に達する。これを近い将来には、最低でも50%に引き上げたい。

これだけのシェアがあるということは、自動車が搭載する多種多様なマイコンの大半に、ルネサス製のマイコンが採用されているということを意味する。パワートレイン、シャシー、ボディ、セーフティ、クラスタ(計器類)といった機能ごとに制御用のハイエンドマイコンが搭載されており、さらにその先にはセンサーやスイッチなどを制御するローエンドマイコンが組み込まれている。
※出典:IHS iSuppli Competitive Landscaping Tool (CLT)

図2:自動車向けマイコンのラインナップ

図2:自動車向けマイコンのラインナップ

業界トップが送り出す、次世代マイコン「RH850」

すでに42%に達しているシェアを、さらに高めて50%を超えるようにすることは容易なことではない。そのための戦略製品となるのが、40nm世代技術を採用した32ビットマイコン「RH850」だ。「RH850」は、実績豊富なV850マイコンとSuperHマイコンの強みを融合したマイコンであり、自動車用アプリケーションの実行性能でもナンバーワンを狙う。

図3:40nm世代マイコン「RH850」の強み

図3:40nm世代マイコン「RH850」の強み

「RH850」は実行性能当たりの消費電力がきわめて低い。自動車では、電子制御ユニット(ECU)と呼ぶ組み込みシステムにマイコンを組み込んでいる。ECUは車体のすき間を利用してレイアウトするので、なるべく小さいことが望ましい。ECUの消費電力が大きいと、放熱のために余分な空間が必要となり、ECUを小さくできない。ECUの消費電力の大半はマイコンの消費電力で決まるので、消費電力が低いことは大きな強みとなる。

また、自動車用途では、動作温度範囲の広さが求められる。特に、高温時の動作を保証することが必要である。「RH850」の動作温度は、雰囲気温度(*1)で最高125℃、接合温度(*2)で最高160℃までを保証する。自動車のエンジンルーム付近にも安心して配置可能だ。

(*1)雰囲気温度:マイコンの周りの温度
(*2)接合温度: ジャンクション温度、半導体が破壊される温度

マルチコアが実現する、「確実」な機能安全

最近の自動車に求められている仕様に「機能安全」がある。機能安全とはシステムの故障を自動的に検出して安全を確保する仕組みで、国際的な機能安全規格である「IEC61508」と「ISO26262」に準拠しなければならない。ルネサスはIEC61508の規格策定活動に当初から関わっており、機能安全の考え方を深く理解している。機能安全に関わる活動の歴史は10年に及んでおり、技術的な蓄積では業界随一のものがある。

「RH850」では高性能CPUコアと低消費電力技術を組み合わせることで、機能安全、高速演算、入出力処理を同時実行可能なマルチコア技術を実現した。機能安全コア、高速演算コア、入出力処理コアを用途や目的に応じて選択することで、高い性能と低い消費電力を抜きん出た水準でバランスさせることが可能になった。320MHzで動作するコアも搭載予定だ。特に機能安全コアは、デュアルコア・ロックステップ(*3)による、素早く、確実な故障検出を低消電力で実現している。

(*3)デュアルコア・ロックステップ:2つのCPUコアで同じ処理を実行し、その結果を比較しエラーを検出、2重化で、素早く故障を診断する技術。

制御系のアプリケーションをフルカバー

「RH850」はマイコン製品群の総称であり、自動車内の高度な制御アプリケーションを実行するECUに向けた製品だ。「RH850」で自動車のすべての制御アプリケーション、具体的にはパワートレイン、シャシー、インスツルメントクラスター、ボディ、セーフティ、ADASなどを全面的にカバーすべく開発された。市場としては先進国市場から新興国市場までを、車種としてはハイエンドのラグジュアリーモデルからローエンドのベーシックモデルまでをカバーする。

そのため、制御系のアプリケーション群をフルにサポートするシリーズ展開を考えている。

図4:RH850ファミリの製品系列

図4:RH850ファミリの製品系列

ソフトウェア開発負担の増加を抑える

制御系のすべてのアプリケーションを1種類のマイコンプラットフォームでカバーするということは、ソフトウェア開発の負担が軽くなることを意味する。これまでは、車種ごとに、さらにはアプリケーションごとにアーキテクチャの異なるマイコンがECUに採用されていることが少なくなかった。こうなると、マイコンのアーキテクチャごとにソフトウェアを開発する必要があった。こういった手間のかかるソフトウェア開発手法は、最近では市場から受け入れられなくなりつつある。ルネサスは、あらゆる制御系ECUに幅広く適用できる単一のアーキテクチャを提供することで、お客様のソフトウェア開発の負担軽減を支援する。

また欧州の自動車業界から急速に採用が広がっているソフトウェア開発負担を軽減する仕組み「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」も、ルネサスは積極的にサポートしている。2004年7月にプレミアムメンバーとしてAUTOSARコンソーシアムに参画し、ソフトウェアプラットフォームや開発プロセスの標準化活動に関ってきた。

AUTOSARのソフトウェア開発アーキテクチャでは、ハードウェアの違いを吸収することでアプリケーション・ソフトェアを部品化する。ソフトウェアの部品化によって、自動車メーカや電装品メーカなどが開発したアプリケーションの流通性や再利用性が高まる。この結果、従来に比べるとソフトウェアの開発効率が飛躍的に向上すると期待されている。

AUTOSAR向けの具体的なソリューションとしては、「MCAL(Microcontroller Abstraction Layer)」と呼ぶ、マイコンに依存する部分を吸収するためのデバイスドライバ・ソフトウェアがある。ルネサスは2007年から、自動車用マイコンとともにMCALを提供してきており、RH850マイコンでも、最新のAUTOSAR4.0に対応したMCALを供給する。

ルネサスは単一のマイコンプラットフォームと、業界標準のソフトウェアプラットフォームを提供することで、ソフトウェア開発負担の増加に歯止めをかける。

メモリ容量制限からの解放が、新たな発想を生む

自動車用マイコンのソフトウェア開発で重要なのが、内蔵フラッシュメモリの容量である。過去の自動車用マイコンでは内蔵フラッシュメモリの容量が、ソフトウェア開発の制限要因となっていることが多かった。しかし、40nm世代の微細な製造技術によって、最大で8Mバイトと大容量のフラッシュメモリを内蔵する「RH850」では、ソフトウェア開発でフラッシュメモリ容量の制限を意識する割合が大幅に減る。これまでは複数のマイコンに分けていたアプリケーションを統合したり、フラッシュメモリ容量の制約で盛り込めなかった機能を追加したりといった利点を期待できる。

大容量のフラッシュメモリが、より高度な機能安全の実現や、新たな発想を生み、自動車の「新時代」を切り開くだろう。

市場要求の半歩先を行く、ルネサスの40nm世代マイコン。今後の展開に注目していただきたい。


End of content

Back To Top