掟上今日子の備忘録 #7 2015.11.21


(隠館厄介)
人と人がいればおのずと関係性というものが生まれる
特に男と女の場合関係性は目まぐるしく変化する
例えばどちらか1人が死んでしまったら残された者は忘れがたいその記憶はどうなるのだろう
今日子さんは卑怯だ
自分だけはすぐにでも忘れられるのだから
それだけに今日子さんは脆く儚い
(絆井法郎)あぁ〜。
(鳴き声)ん?おっ?
(まくる)えっ?おいおい…何?
(まくる)おっ…えっ?えっ?何?何だ?どうした?ん?何?それ。
(ドアが閉まる音)
(猫の鳴き声)気のせいか?《今僕は怪しい不法侵入者だ》《災厄まみれの厄介だからこそ今日まで清廉潔白に生きて来たというのに…》ん〜?
(ベル)
(ベル)はい。
はいサンドグラス。
あっ今日子さん絆井法郎です。
あぁうん…表に?怪しい人影?それで?うん。
男。
大きなリュックを背負った…。
(猫の鳴き声)
(掟上今日子)誰もいない?そうですかお騒がせしました。
これまで何度もやってもいない犯罪のぬれぎぬを着せられて来た
しかし今度ばかりは言い訳が立たない
みんなの目を欺きこっそりと今日子さんの部屋に入ろうというのだから
話は昨日にさかのぼる
重信さん?
(重信)シ〜!お〜ちょっと…。
大声を出すな。
社長直々の極秘ミッションだこれは。
社長って作創社の?
作創社とは都内にある大手出版社であり重信さんはそこの編集者である
これって須永フェスタの時の…。
須永先生の最後の原稿だ。
推理小説家須永昼兵衛
先月須永先生の大ファンである今日子さんと僕は須永先生の別荘で須永フェスタに参加した
屋敷のどこかに隠された原稿を捜すというイベントだ
ところがその朝須永先生は心不全で急逝
危うく須永先生の遺稿が行方知れずになるところだったがさすが今日子さん見事原稿のデータを見つけ出し事なきを得た
…はずだった
この原稿が何か?実は須永先生の死に自殺の可能性が出て来た。
重信さんの話によると心不全で亡くなった須永先生が自殺だったという可能性が浮上した
というのも常用していた睡眠薬を過剰摂取した疑いが出て来たからだ
自殺だったとなればセンセーショナルな大ニュースである
作創社の宣伝部からはいっそそれを売りに遺稿を出版しようという声まで出始めた
しかし小中社長は須永昼兵衛が自殺したとは考えにくいという
そこで今日子さんに白羽の矢が立った
(重信)今日子さんに依頼してもらいたい。
早急に内密に。
直接依頼すればいいじゃないですか。
夢にまで見た今日子さんに再び会ってしまったら彼女の美しさにどうにかなってしまいそうなんだよ。
いつの間にそこまで…。
というわけで僕が今日子さんに依頼を伝えることになった
小中社長いわくもし自殺であればこの中に何らかのヒントが隠されているはずだと。
作家人生最後の作品にあの須永昼兵衛が何もしないわけはない。
それを確認しないことには自殺として売り出すことははばかられる…というお気持ちのようです。
裏を返せば自殺ではないという確証がほしい。
あるものを証明するならまだしもないものを証明するのは難儀な話です。
ですが須永先生が自殺をするとは考えにくい…という意見には賛成です。
須永先生の作品には自殺をする人物が出て来ない。
1人も?例え話ですら出て来ません。
まるで自殺という言葉そのものを避けているかのように。
でもそれは…。
ええ私の記憶の限りではという話です。
記憶を一日で失うようになってから出版された本については読んだとしても忘れてしまってますから。
つまりこの調査を遂行するにはこの1冊を読んだだけでは足りないということです。
須永先生の全著作の手配を。
こうしてひと晩明けた今日
おっ!あっ…厄介です。
あっ厄介さん!はい。
見つかりませんでしたか?はい。
あの…依頼の内容は?今朝起きてから左の太ももに残してあったメモを読んだので大体のことは。
見ますか?あっいえそれは…。
どうぞ中へ。
どうぞ?はい。
よいしょ。
須永先生が45年間で書き上げた作品は書籍にして99冊です。
壮観ですね!ホントに全部読むんですか?もちろんです目的は自殺に関する表現が本当にないのかを確認するだけではありません。
100冊目となるこの最後の原稿を読み解くヒントを得ることが主眼です。
読んだ記憶のある作品も含めて年代順にイチから読んで行くことで須永先生の心の変遷をあらためて理解する必要があります。
99冊普通の人なら何日かに分けて読めばいい
でも今日子さんの場合一度眠ると忘れてしまう
本来一日で解決できる依頼しか引き受けない探偵なのだ
だが須永昼兵衛に関わる依頼ともなれば話は別だ
徹夜で読んで読んで読んで読み尽くします!昨日の私が推薦文を残していました。
一筆お願いします。
はい。
昨日僕は今日子さんにスカウトされた
こんな形で須永先生の遺稿を読むことになるなんて。
はい…約束を楽しみにしてたのに…。
約束?あっ…。
もしかして私と?あっ…おっしゃってください明日には忘れます。
その本が出版されたら僕が買ってサンドグラスの書棚に置いておくって約束したんです。
今日子さんがそうしてほしいって。
私がそんなことをあなたに?はい。
その話が信用につながったようで…
僕が寝ないよう見張りを?もちろん時給もお支払いします。
でも部屋に泊まるというのはさすがに…。
極秘任務ということですから情報の拡散は防がねばなりません。
ご都合が悪ければ先ほどの重信さんという方に…。
やります!僕にやらせてください。
いつも助けられてばかりのこの僕が名実ともにワトソンに
探偵と依頼人から探偵と助手に昇格だ
では。
よろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします。
早速ですが。
これを。
書籍リストです。
発行年月日とタイトルをまとめてもらいました。
これで順番通りに読むことができます。
小中…。
確か須永先生の最初の担当編集者。
今や社長です。
編集者だからこそこの件にも熱心なんだろうと昨日の今日子さんが。
なるほど。
社長さんとはお話が合いそうです。
実は今朝厄介さんが来る前に最後の原稿を読んだんですけどはっきり言って凡作でした。
凡作?鬼気迫るものもなく良くも悪くもいつも通りの須永昼兵衛。
厳しいですね。
ファンだからこそです。
これを最後の作品にしようとしたとは思えません。
うっかり最後になってしまったというほうがぴったり来ます。
社長さんが自殺を認めないのも無理はない。
はいですが現時点ではファンの心証にすぎません。
全部読んでみないことには。
1冊目。
デビュー作の『水底の殺人』から始めます。
はい。
《30分で長編1冊とは驚異のペース》《読むのが速いと言うだけのことはある》《99冊×30分=2970分=49.5時間》《2日ちょっとで読み終わる》《2日の徹夜くらい余裕だ》《今日子さんをただ見守るだけのこの仕事》《退屈で眠くなるかと思ったが…》《全くならない!楽しくて仕方ない!》《今日子さんを見ているだけで時給が発生する》《この世にこんな幸せな仕事があったとは》《待てよ》《もし僕と今日子さんが結婚し妻と夫という関係になったとしたら…》おかえりなさいただいま《今日子さんを毎日見られる》《リラックスした姿や寝顔でさえも》《いや待て待て今日子さんは眠るたびに僕のことを忘れてしまうわけだから…》誰?僕は君の夫で…不審者が私の部屋に!毎朝毎朝通報しないでくれ!助けてください!《ダメだ》《なまじ不運な人生を送って来たせいで妄想ですら幸せな想像ができない》厄介さんはご結婚は?結婚の妄想なんてしてません!してたんですか?あっいや…結婚はしてません。
するご予定は?全く。
彼女は?残念ながら。
よかった。
えっ?彼女がいたらこの状況は申し訳ないなぁと。
あぁ…。
結婚願望は?なくはないですが…。
男と女の関係性のゴールが必ずしも結婚である必要はないとも思います。
確かに。
お互いにとってベストな選択ができればそれで。
何か想定している相手がいるような…。
気にしないでくださいサ〜っと流してください。
流して。
須永先生も私が記憶している限りお独りでした。
あぁ生涯独身だったみたいです。
遺産は遠い親戚が受け取ると。
その方達は須永先生の死について何と?自殺として売り出すことで本が売れるならそうしてほしいってスタンスのようです。
須永先生を何だと思ってるんでしょう。
須永先生は命と向き合って来られた作家です。
推理小説家ですから作品の中で人は死にますけど決して死を粗雑には扱わなかった。
須永先生の名誉のためにも頑張らなくては。
《ふと心配になった》《須永先生への強い思い入れが判断を誤らせることもあるのではないか…》
(也川)今日今日子さん見た?見てないね。
いただきます。
う〜ん!とってもおいしいです!お口に合ってよかったです。
うん!これもおいしいです!ぜひサラダも。
ビーフストロガノフって作れるんですね。
意外と簡単なんです安い食材で代用利くし。
へぇ〜。
《このシチュエーションはまるで同棲したてのカップル》《同棲したことないけど》あらごめんなさい。
《いかん意識しているのは明らかに僕のほうだけだ》《冷静に助手という任務に徹しなければ》
須永先生は並行していくつものシリーズを手掛けていた
作品をシリーズ別に分けるとほとんどの作品が何かしらのシリーズもので計22のシリーズが存在する
そしてどのシリーズもきちんと完結している
読者が1人でもいる限り何年かかろうとも作品を完結させる
それが須永先生の矜持だったようだ
あれ?何か?この数年須永先生は新しいシリーズを始めていないんです。
一方で続いていたシリーズを全て終わらせている。
これってご自身の作家人生を締めくくろうとしていたようにも見えませんか?それは須永先生の素人の発想です。
須永先生の素人?その現象は珍しいことではないんです。
過去にも何度か全シリーズが終わる空白のタイミングが存在し当時のファンが「先生は筆を折る気かもしれない」…とやきもきしたそうです。
はあ。
そしてまた新しいシリーズが始まる。
じゃあ『とうもろこしの軸』も新しいシリーズだったんですか?いえノンシリーズでした。
ノンシリーズ?つまりシリーズものではない1冊で完結している作品。
はいごく稀にあるんです。
『瞳悟空』や『天使が通る人生』『すったもんだの殺人』あたりがそうです。
どれもマイナーですね。
ノンシリーズはあまり売れませんしファンの間でも筆休め的な作品だという認識です。
筆休め?先生も時には読者受けや売り上げを考えない気楽な小説を書きたくなるんでしょう。
ハァ〜本を連続して読むって案外疲れますね。
集中力を高めるヨガのポーズ知ってます。
ジムで掃除のバイトしてたら覚えちゃって。
教えてください!はい。
じゃあ右足を軸にして左足をふくらはぎに乗っけます。
はい。
そして胸に手を合掌させてください。
はい。
で鼻で息を吸いながら手を上に上げて行きます。
ス〜。
ス〜。
はい。
これで…。
思えばこの時が和気あいあいのピークだった
いや2日目も楽しかった
徹夜ハイとでもいうのかお互いに妙な親近感が生まれ以前からこうしてずっと2人でいたような…
しかし変わらない関係なんてないのだ
あっ!すいません。
ハァ…。
すいません。
《こらえよう今日子さんは集中力を使い頭脳をフル回転させ続けているわけで僕より疲れているのだから》《この3日で読書スピードはどんどん落ち込み今や1冊読むのに2時間かかっている》《今後3時間にスローダウンしたとして残りあと35冊》《35冊×3時間=105時間=…》《あと4日!?》それは無理だろ。
何ですか?独り言で。
気が散ります。
申し訳ありません。
《思えば無謀な挑戦だったのだ》《「とても無鉄砲」だったのだ》《今日子さんならもしかしてと期待した僕が甘かった》《1人の人間が寝ずに99冊もの本を読むなんて「とりとめのない多重事故」だったのだ》《できることならいつまでも「嬉し恥ずかし文化祭」でいたかった》ハァ…。
おわ〜!!今日子さんダメです!大丈夫ですか!?うるさっ!大声出さないでください。
《この12時間今日子さんの機嫌の悪さはピークに達している》言われなくても頑張ってます。
ハァ〜徹夜続きでそんな重いもの食べられません。
厄介さんって気が利かないんですね。
あ〜気が散る気配を消しててください。
《何だこれは…》《結婚もしていないのに倦怠期の夫婦か》水。
《倦怠期の夫婦どころじゃない》《これは奴隷だ》《主人と奴隷の関係だ》《分かってる全ては眠気と疲労のせいだ》《この状況のせいであって今日子さんのせいではない》《問題は僕が今日子さんを嫌いになってしまいそうなことだ》《今日子さんを憎々しく思う日が来るなんて…》《睡眠不足はこうも人から正気を奪うのか》《いや僕という人間が小さい男だから悪いのか》《そもそもこんな仕事引き受けなければよかった》《本はといえば重信の野郎がこんな依頼を持ち掛けて…》《いや本はといえば須永先生が…》なぜ死んだ須永昼兵衛!!すいません…。
静かにします。
チッ!《いかん僕もだいぶ壊れて来ている》《思い出そうかわいかった今日子さんを愛すべき今日子さんを》《かわいかった…》《あの時もこの時もあの時…》そういうのパスですパ〜ス〜!《余計なことまで思い出してしまった》ハァ。
《今この時のことも今日子さんは忘れてしまう》《僕は忘れられないのに嫌いになりたくないのに》《忘れてしまえる今日子さんは卑怯だ》今日子さん部屋で孤独死してたらどうしよう!えっ?だって今日でもう…。
4日。
4日も下りて来ないんだよねぇ様子見に行こうよ。
うん。
あぁ〜いやいやいや。
いやいやいや。
今日子さんだって大人なんだしただ上に住んでるからってだけであんまり干渉したら野暮なんじゃないかな。
そうだけど…。
あっ法郎さんってさ今日子さんの部屋入ったことあるの?ん?いや?ないよ。
そうして再び日は暮れ…
この頃にはもう今日子さんに頼まれるがまま眠らないためのあらゆる方策を尽くすしかなく…
はぁ〜!まずい。
ごめんなさい。
こんなもの食べさせたいわけじゃ。
はい。
目が覚めます。
《これじゃ拷問だ》《罪人と拷問の執行人だ》《なぜ好きな人をここまで苦しめなくてはならないのか》今日子さん!限界です…つねってください。
ほっぺたつねってください強めに。
いやでも…。
早く。
この眠気を乗り切らにゃいとここまでの仕事が無駄になります。
協力してくれている厄介さんに傲慢無礼にゃひどい態度を取っている自分への罰でもあるんです。
誓約書に何て書いたか忘れたんですか?失礼します。
両手で。
はい。
はいそのままで。
《今日子さんは以前言っていた》知りたいんです私は掟上今日子がなぜ探偵なのか《その真意が何なのかいまだに分からないけれど謎を解くことが今日子さんの人生で望みであるのなら僕はそれに付き合うしかない》いい感じです。
乗り越えましょう。
はい。
読書開始から90時間
僕と今日子さんは運動部のチームメートさながらのスポ根的関係へと移行していた
しかし肝心の推理は置き去りでとにかく99冊を読み切る…という見当違いの目標へと向かっていたようにも思う
うっ!くっ…。
もうやめよう。
終わりにしよう。
さっきから4時間ずっと同じ本読んでます。
『ことなかれな俺』から一歩も進んでません。
まだ21冊もあるんですよ。
読むだけじゃなく推理もしなきゃいけないんです。
一度受けた依頼を解決したいのは分かるけど。
今何日ですか?お昼です。
ん?5日目。
私としたことが…5日もお風呂に入ってない…。
シャワー浴びて来ます…。
お湯浴びてお水浴びれば…目も覚めると思います…。
まだ続けるんですか?もちろん…。
朝ごはん…昼?よろしくお願いしまします…。
あっ。
寝室入っちゃダメですよ。
食事…。
(シャワーの音)食材もうないよ…。
(シャワーの音)
(シャワーの音)え〜…。
今日子さんがシャワーから出たら…。
何か買って…。
(シャワーの音)あぁ!今日子さん!今日子さん聞こえますか!?
(シャワーの音)すいません開けます!
(シャワーの音)今日子さん!今日子さん!《冷水を浴びたまま3時間死んでしまう》《この人は死んでしまう》
冷え切った体を急激に温めると冷たい血液が心臓に戻りショック状態を起こすことがある
スキー場でバイトした時に習った凍傷のケアと同じだ
少しずつ温めないといけない
僕はレスキューさながら患者を温め続けた
ハァ…。

この時の僕は多分かなりイカれていた
疲れと寝不足と今日子さんが無事だったというそのことに
だからあんな大胆なことができたんだと思う
僕は今日子さんを裏切る
こんな依頼初めからなかったのだ
記憶を奪わなければ今日子さんはまたイチから同じことを始めてしまう
今度こそ死んでしまう
初めて記された僕への信頼
全てをなかったことに
跡形もなく徹底的に
忘れていい全て忘れればいい
忘れてしまえばまた新しい一日を始められる

犯罪だけは犯すまいと清く正しく生きて来た僕だがいざとなるとさまざまな仕事経験が生かされ証拠隠滅のためのあらゆる知識を持っていたことに気付く
僕は悪党だ立派な犯罪人だ
僕と今日子さんは加害者と被害者になってしまった
裏切り者の僕はもう二度と今日子さんに助けを求めることはできない
それでいい
探偵は他にいくらでもいる
でも今日子さんは1人しかいない
その時僕は何げなく見てはいけないものを見てしまった
どうした?昨夜いろいろ…。
あっいやこの6日…あり過ぎまして…。
ハァ。
で…調査のほうは?途中で今日子さんが寝ちゃって…。
全部忘れちまったってことか。
僕のせいです。
手掛かりは何もなしか。
『とうもろこしの軸』の…発売予定日。
はぁ?今日子さんの二の腕に書いてあったんです。
(隠館の声)多分…眠ってしまう直前に書いたものだと。
それ…いつどうやって見たの?ハァ…。
いいじゃないですかそんなこと。
確か発売予定は来年の2月って言ってましたよね?ああそれが何だっつうの?分かりません。
仕方ない須永先生の死は自殺ということで。
須永先生は自殺ではありません。
今日子さん!重信さんと厄介さん。
当たり。
どうして?早速ですが証明を開始します。
須永先生は自殺ではなかったという証明です。
証明できるんですか?はい僭越ながら。
今朝目を覚ました私は昨日までのことをすっかり忘れていました。
でも…。
部屋でこのリストを拾った。
えっ?抜かりましたね。
このリストは何なのか?疑問に思った私はここに書かれていた小中さんの名前に注目。
朝一番で作創社に問い合わせたところ小中社長に直接お会いすることができ須永先生の話に花を咲かせつつ今回の依頼の件をあらためて教えてもらい状況を把握しました。
昨日までの私は須永先生の全著作を読むという無謀な行動に出たようですがそんな必要はなかったんです。
このリストだけ見れば事件はほぼ解決できた。
えっ?昨日までの私は仕事にかこつけて全著作を読みたいという気持ちもあったんでしょう。
ファン心理とは恐ろしいものです。
リストだけでどうやって?見て1秒で気付きました。
1秒!?重要なのは出版年月日。
ある作品群だけ出版月が同じなんです。
どのシリーズですか?
(重信)ちょ…見せてみろ。
シリーズではない作品群です。
ノンシリーズ。
続きものじゃない1冊読み切りの作品ってことですか?はい。
このリストでいうと1番25番48番51番66番79番の6作品がノンシリーズ。
あっ…全て出版が2月。
『とうもろこしの軸』もノンシリーズで出版予定は2月だ。
これらの作品は須永先生自らが企画する原稿捜索イベント須永フェスタに使われた作品でもあります。
とても偶然とは思えません。
(今日子の声)そこで作創社のライブラリーでこれらの作品を読ませてもらったんです。
すると意外なことが分かりました。
ノンシリーズだと思われていたこの作品群はある共通点を持つ1つのシリーズだったんです。
ん?全部ジャンルもテーマもバラバラですが。
はい。
私もこの7冊に特化して読まなければそうとは気付きませんでした。
じゃあ何が?脇役です。
脇役?脇役?共通する1人の人物が誰にも気付かれないようさりげなく目立たず7作品全てに登場してるんです。
(今日子の声)ノンシリーズ1作目。
デビュー作の『水底の殺人』。
主人公の妹のクラスメートとして17歳の女学生が登場します。
妹と出席番号が近いま行の苗字を持つ少女。
その7年後に出版されたのが『瞳悟空』。
24歳の桃田という女性が事件の目撃者として登場します。
その9年後『天使が通る人生』。
主人公の女性刑事のペンフレンドとして三十路を過ぎた桑田さん。
桑田?桃田じゃないんですか?結婚したんです。
その翌年『すったもんだの殺人』。
主婦の朝美さんが主人公の道案内をしてくれます。
ここでようやく下の名前が分かりました。
旧姓桃田朝美さん。
それから9年後に出版された『バタ足倶楽部』。
受付の桑っちとして40歳代半ばの女性が登場。
さらに7年後の『黄緑少年』では朝ちゃんと名乗る50歳代の女性に子供達が落とし物を届けます。
そして12年後『とうもろこしの軸』。
主人公の一家にとうもろこしを分けてくれる62歳の農家のおばちゃんが登場します。
(今日子の声)出版時期と年齢がぴったりです。
須永先生はノンシリーズの中でひそかに少女から成長しおばちゃんになって行く1人の女性を描いていた。
ではその朝美さんとは誰なのか?実在するんですか?はい。
小中社長が古い資料を調べて問い合わせてくれました。
学生時代須永先生がお付き合いしていた少女。
それが…朝美さん。
17歳の時ご病気で亡くなったそうです。
だから須永先生は命と向き合う作家になった。
生きたくても生きられなかった彼女を思い自ら命を絶つ自殺を忌み嫌って作中で一度も言葉ですら使わなかった。
2月は彼女の誕生月だったそうです。
須永先生にとってノンシリーズの執筆は筆休め。
ファンはみんなそう思っていましたがとんでもない。
須永先生にとってはノンシリーズこそが宝物だったんです。
(今日子の声)物語の片隅で朝美さんは元気に高校を卒業し働いて…。
(今日子の声)結婚して家庭を持って子供を育て…。
ひっそりと平穏な人生を生きていた。
(今日子の声)45年にわたって須永先生と共に。
『とうもろこしの軸』の中で朝美さんはまだお元気です。
1人の人間の人生を描くのであれば大往生するまでを描いてこそ人生。
ノンシリーズはまだ完結していません。
そうだ…志の途中だ。
須永先生が物語を終わらせずに自殺するはずがない。
社長さんも納得してくださいました。
自殺ではなく不慮の死による最後の作品として遺稿を出版するよう部下に厳命するとのことです。
以上で証明を終わります。

(重信)今日子さん!またいつか。
さて厄介さん。
大人の話をしましょうか。
何から話しましょうねぇ。
あの…先に聞いていいですか?どうぞ。
須永先生の作品リストリュックの中にしまった記憶があるんですが部屋に落ちてたっていうのは?はいウソです。
じゃあどうして?どうしてだと思います?もしかして…寝てなかった?いいえぐっすり眠りました。
おかげで事件を解決することができたんです。
一度寝てさっぱりして新たな角度から作品リストを見ることでパ〜っと。
僕が体のどこかのメモを消し忘れた?あっ…。
いいえ。
厄介さんは見事に消し去ってくれました。
基本データは残してくれたようですが須永先生の事件に関することはキレイさっぱり。
太ももまで丁寧に。
すいません見てません見ないよう触れないよう気を付けて…っていうかそれどころじゃなくて…。
はい泣いてましたもんね。
温かくていい気持ちで寝てたのにあんまり泣いてるから起きてしまいました。
あの時…?
(今日子の声)驚きました何が起こったのか全く分からずひとまず寝たふりを。
ドアが閉まる音
(今日子の声)厄介さんに依頼のメモを消される前に全て確認し。
(今日子の声)大体の状況は把握できました。

(足音)
(今日子の声)それから眠らずずっと起きていて今この通り。
じゃ僕が今日子さんの体のメモを消してる間も…。
ばっちり起きてました。
信じられないなら止めてください!もうメモを見ちゃってたなら必死に消す必要もなかったわけで。
この人頑張ってるなぁって応援したくなって。
はっ?頑張る男子の姿大好物なんです。
あの状況でのんきな…。
だって怖くなかったんです不思議と。
厄介さんにメモを消されてる間何だか安心してたんです私。
この人なら大丈夫安心できるって。
多分この人はずっと前からこうやって私に優しくしてくれてたんだろうなぁって。
何となく。
お世話になりました。
うちにいた5日間私随分ひどい態度も取ったのでは?はいかなり。
ハァお恥ずかしい。
いえお互いさまです。
そうですね私なんて裸見られちゃったし…。
忘れてください。
努力します。
今度厄介さんのも見せてくださいね。
えっ?冗談です。
ハァ…。
またご入り用の際はご連絡ください。
依頼していいんですか?もちろん。
それと…寝室の天井のことですが。
決して口外しないように。
おかえり。
夕飯食べる?結構です。
もう寝ますおやすみなさい。
うん。
あの時見てしまった見てはいけないもの
朝ベッドで目覚めた今日子さんが一番に目にするであろうメッセージ
今日子さんの筆跡ではないあの文字は?
誰があれを?分かりません。
私はそれを知りたくて探偵をやっているのかも。
でも自分が探偵であることにはしっくり来るんです。
探偵掟上今日子。
その名前さえあれば一日を生きて行けるような気がする。
おかしな話ですね。
この日僕はある決心をした
探偵と依頼人という関係からすれば出過ぎたまねかもしれない
でも僕はそうせずにはいられなかった
須永先生が朝美さんの人生を人知れず紡ぎ続けたように
今日子さんの儚い人生を消えてしまうその日々を
誰かが僕がこの手で
2015/11/21(土) 21:00〜21:54
読売テレビ1
掟上今日子の備忘録 #7[字][デ]

今日子と厄介は推理作家・須永昼兵衛の死の真相を調査するため彼の全著作99冊を読破することに。しかし徹夜が続き2人の心身は限界…今日子はシャワー室で倒れてしまう!

詳細情報
番組内容
今日子(新垣結衣)と厄介(岡田将生)に、先日亡くなった推理作家・須永昼兵衛に自殺の可能性が出てきたため、真実を調べてほしいという依頼が来る。今日子は、調査のため須永の全著作99冊を読破すると言い出し、自分が眠らないよう厄介に見張ってくれと頼む。部屋に閉じこもり読書をするうちに、距離も縮まっていく2人・・・しかし、数日が過ぎるうちに心も体も限界をむかえ、遂に今日子はシャワー室で倒れてしまう…
出演者
新垣結衣
岡田将生
及川光博
有岡大貴(Hey!Say!JUMP)
内田理央ほか
原作・脚本
【原作】
「忘却探偵シリーズ」西尾維新
『掟上今日子の備忘録』『掟上今日子の推薦文』『掟上今日子の挑戦状』『掟上今日子の遺言書』
【脚本】
野木亜紀子
監督・演出
【演出】
佐藤東弥
音楽
笹野芽実
末廣健一郎
【主題歌】
「No.1」西野カナ(ソニー・ミュージックレーベルズ/SMEレコーズ)
【オープニングテーマ】
「溢れるもの」Goodbye holiday(avex trax)
制作
【プロデューサー】
松本京子
森雅弘
【制作協力】
日テレアックスオン

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
ステレオ
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