薬の費用対効果分析…新薬の価格適正化狙う

限られた財源で有効治療

 医療費が年間約40兆円に膨らむなか、厚生労働省は来年度から薬や医療機器の価格が効果に見合っているのかを考える「費用対効果」の分析を踏まえた値段の見直し作業を始める。

 限られた財源で多くの人に有効な治療を医療保険で受けてもらうための方法だが、慎重な運用も求められる。

 「天国と地獄です」。会社員の佐久間泰博さん(50)は、今年保険適用になった新薬と、かつて使った治療薬の違いをこう表現する。

 30歳の時、C型慢性肝炎と診断された。標準的に使われるインターフェロンという薬の注射を始めると、副作用で連日、39度を超す高熱に悩まされた。別の副作用のうつ症状も表れ、半年間、仕事を休んだ。だが、C型肝炎ウイルスは消えなかった。

 転機が訪れたのは2年前。米国で飲み薬の新薬が開発され、日本で始まった治験に参加した。目立った副作用はなく、ウイルスも消えた。「会社にも家族にも迷惑をかけずに済む。普通の生活は何物にも代え難い」と笑顔で話す。

 佐久間さんが治験で使ったのは、今年9月に発売されたC型慢性肝炎の治療薬「ハーボニー」だ。患者の7割を占めるタイプのウイルスに効き、治験では全員が治癒している。世界的にも高い効果で話題になった薬だが、もう一点、耳目を集めたのが、薬の値段だ。薬1錠あたり8万円強。治療は12週間で、合計の薬剤費は約670万円に上る。日本の場合、患者の負担は国の肝炎への助成で月に最大2万円に抑えられるが、財政への影響は大きい。

 ハーボニーだけでなく、近年、世界では続々と高額な新薬が誕生している。そこで、各国政府が取り入れ出したのが、薬や医療機器の価格が効果に見合うかを分析する「費用対効果」という手法だ。

 効果は、生活の質と生存期間を組み合わせ算出する「QALYクオリー」という単位が使われる。1年を健康な人と同じに過ごせるなら1QALYだが、副作用から寝たきりが続くと0・3QALYになるイメージだ。

 具体的には、薬を使い「歩き回れるか」「痛みはあるか」「ふさぎ込んでいないか」を患者たちに聞き、生活の質を数値化。生存期間と合わせ効果を計算する。新薬と既存薬を比べ、効果の伸び1QALYにつき、価格の伸びが500万~600万円以下なら費用対効果は「良い」とされる。

患者団体「東京肝臓友の会」の職員としても活動する佐久間さん(手前)。会には新薬への電話相談が多く寄せられ、事務局長の米沢敦子さん(奥)と対応を話し合う

 東京大の五十嵐あたる特任准教授(薬剤経済学)がハーボニーを分析すると「良い」という結果になった。1錠の値段が高くても、効果が高く、ずっと飲み続けるわけではないことなどが効いたようだ。逆に「悪い」とされたケースは、ある抗がん剤が1QALY当たり1100万円強と海外の研究で算出されたことがある。

 厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会は来年度から、この「費用対効果」を試行的に導入する。すでに販売されている薬から高額と判断したものを選び、企業に分析を求める。その後、厚労省など公的機関が改めて分析し、医師や経済学者らからなる有識者会議が、他に治療法はないか、価格が適正かを検討する。価格に反映されるのは2018年度の見通しだ。

 価格の適正化に使うための手段だが、下げすぎると採算が取れないため、製薬会社の販売控えも想定される。五十嵐特任准教授は「患者に必要な治療が届かなくなるようなことが起きないように、丁寧な議論が必要となる」と指摘している。

豪州は保険適用の可否に使用

 海外では費用対効果を価格の調整や保険適用をするかどうかに使っている。

 価格の調整に使うのはフランスやドイツ。既存薬より高い値付けを企業が求めるときに、費用対効果の分析を提出する。ドイツは企業と保険者の間で価格設定でもめたときに判断材料の一つとしている。

 オーストラリアは全ての新薬、英国は主に高額な薬剤を費用対効果の分析対象にし、保険適用の可否に反映させている。英国では費用対効果が悪いとして抗がん剤を保険の対象から外し、患者の不満が高まる事態も起きたことがある。

 日本で保険適用の可否に使うかは将来の本格導入に向けた検討課題だ。英国には分析結果によって薬の患者負担の割合が変わる制度もある。医療保険制度の維持のために、どんな負担の仕組みがいいかを国民全体で考えていく必要がある。(米山粛彦)

2015年11月22日 読売新聞)

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