サイエンスZERO「温泉が電気を生み出す!注目の低熱発電」 2015.11.21


(「いい湯だな」)のんびりつかりたいですね。
私たちを癒やしてくれる温泉。
実は今全く別の用途で脚光を浴びています。
それは…。
温泉の熱を利用して電気を生み出しているんです。
支えているのはバイナリー発電という技術。
鍵を握るのは低温でも沸騰する低沸点媒体です。
この技術を使えば海水まで発電に使えちゃうそうなんです!これまで見過ごされていた低温の熱を利用するバイナリー発電。
その可能性に迫ります!今日のテーマは「温泉」。
はい。
そして私たちも足湯につかって。
いや〜やっぱり寒い時は温泉ですね。
最高ですよね〜。
はい。
今日はちょっと猿も気持ちよさそうに入ってます。
一緒に。
今日はリラックスモードでいきましょう。
この温泉を使って電気を作るという事でしたけど。
そうなんですよ。
お湯って基本的にどんどん沸いてくるじゃないですか。
だから無尽蔵といっていいんですね。
あとは二酸化炭素みたいな温室効果ガスも出ません。
なのでとってもクリーンなエネルギーなんですよ。
それ使えたら最高ですよね。
そうですよね。
そして温泉を使った発電を可能にしているのがバイナリー発電。
英語ではBinary。
「2つの」という意味なんですね。
「2つの」?え〜どういう事だろう。
じゃあ今日はその謎を解き明かしつつまずはどうやって温泉で発電するのかを見ていきましょう。
長崎県の南東部島原半島にある…年間20万人の観光客が訪れる長崎を代表する温泉地です。
いいな〜。
気持ちよさそう。
2年前地元の旅館などが協力して温泉を使った発電所をオープンさせました。
ただいまの発電出力は24kW。
一般家庭およそ50世帯分の電力です。
この発電所全体で最大150kW320世帯分の電気を作る事が可能です。
でも一体どういう仕組みで発電しているんでしょうか?装置の中には代替フロンという液体が入っています。
ここに温泉を使って温めたお湯を接触させると…。
代替フロンが加熱されて蒸気に変身。
この蒸気がタービンを回転させる事で電気を生み出します。
代替フロンの蒸気は冷たい水で冷やせば再び液体に戻ります。
この循環によって発電し続けるのです。
こちらがタービンを回す発電の主役…低温で沸騰するのが特徴です。
試しに30℃ほどのぬるま湯につけてみると…泡が発生!たちまち沸騰し始めました。
代替フロンの沸点は15.3℃。
このように低い温度で沸騰する物質を…ちなみに発電に使っている温泉の温度を測ってみると…。
十分な温度があるので代替フロンが沸騰しタービンが回るのです。
広がりを見せる温泉を使った発電。
なんと自宅に発電所を持っている人もいます。
え〜自宅で。
そんな人いるんだ。
大分県別府市の郊外に住む…家の敷地には高温の蒸気が噴き出す源泉があります。
これまでお風呂や蒸気を使った料理などに生かしてきましたがお湯の9割は捨てていたそうです。
そこで去年5月。
自宅に発電所を建設。
一日におよそ1,600kWhの電気を生み出して電力会社に供給しています。
月にすると200万円分にもなるんだそうです。
うわ〜月200万ってすごいですね。
しかも自宅で発電って。
羨ましいですよね。
羨ましいですね。
でもね奈央ちゃん発電所を作るにはそれなりのお金がかかるんですね。
別府には源泉を貸すと発電所を作ってくれる会社があるんですよ。
恒松さんはその会社と契約をしてるんですね。
そして毎月レンタル料を受け取っているんだそうです。
なるほど。
そういう事なんですね。
さて奈央ちゃんこの発電がどうして「Binary=2つの」というか分かりましたか?すいませんまだそれは分からないんですけど。
まあそうですよね。
じゃあ専門家に聞いちゃいましょうか。
環境エネルギー政策が専門でバイナリー発電にもお詳しい阿部博光さんです。
先生この発電のバイナリーというのはどういう事なんですか?発電の過程でですね2つのシステムを取り入れているという事なんです。
つまり最初にお湯で低沸点媒体を沸騰させるというシステムがまずありましてその次にですね沸騰した媒体でタービンを回すという事でつまりその2つのシステムを組み合わせる。
すなわち「2つの」という意味でBinary発電という訳です。
なるほどそういう意味だったんですね。
これって温泉も地下で作った熱だと思うんですが地熱発電とは違うんですか?温泉の使ったバイナリー発電も地熱発電の一種ではあります。
ただ地熱発電となると規模がはるかに大きいという事でもありますね。
地熱発電はどういうシステムなんですか?地熱発電はまず地下深く掘り下げましてそこの高温高圧の蒸気を使って発電します。
150℃以上あるんですがそれで巨大タービンを回すと。
つまり高温高圧あと巨大タービンを回すんでかなりの規模の発電所を建設しなければいけないという事です。
これがその巨大タービンですか?これです。
これが巨大タービンです。
すごい大きいですね。
地熱発電やろうとすると本当に大規模になっちゃうんですね。
そうですね。
地熱発電というのは地下をかなり2,000メートルぐらい掘り下げますしお金もかかりますし時間もかかります。
次にバイナリー発電はどういうものなんですか?バイナリー発電というのは比較的低い温度の温泉で発電ができるという事です。
あと規模も小さくていいという事ですんで一般の家庭でも導入できるという事でもあります。
ただやはり難点というのもありましてスケールという温泉成分がですね配管などにくっつくというような事もあります。
ですから一般的に温泉を使ったバイナリー発電はまず温泉で普通の水を温めてからそれで媒体を沸騰させるというようなシステムをよくとる事があります。
温泉って日本…本当に全国にあるじゃないですか。
このバイナリー発電を使えばかなりの量の電力が賄えるんじゃないですか?そうなんです。
鋭いです。
そのとおりです。
日本は火山大国と呼ばれておりまして地熱資源量が世界第3位の水準を誇っております。
それで温泉を使ったバイナリー発電にしましても年間57億kWhの電気を作る事ができるといわれておりますし大体それが163万世帯分の1年間の電力を賄うという事でもあります。
うわすごいな。
使わない手はないって気がしてきましたね。
今現在日本の温泉はどれくらいバイナリー発電をやってるんですか?全国で大体14か所やってます。
まあ予定のものも含めてるんですが。
おっ結構…何か別府温泉多いですね。
別府温泉はやはり日本一の湧出量を誇りますし源泉数も日本一です。
まあ全国的にも地熱のポテンシャルというのはやっぱり多いもんですからこれから温泉発電というのは別府だけではなくてあちこちで普及は進むのかなと思ってます。
別府も非常にいいとこですんで。
別府温泉一回行ってみたいんですよね。
是非遊びに来て下さい。
温泉も自然エネルギーの一つだと思うんですけれども今その自然エネルギーの中でも特にこのバイナリー発電というのが注目を浴びてる訳ですか?はい。
そもそも自然エネルギーの買い取り価格は国の政策によって種類によって買い取り価格が違っております。
その中で太陽光がやはり主流になりまして多くの人が作って電気を売りたいというふうになってしまったもんですから太陽光の買い取り価格は今下がってる状況にあります。
温泉バイナリー発電はまだそういう段階ではありませんで太陽光発電よりも買い取り価格は高いという事でもありますしこれは追い風になって普及が進んでいくのかなと考えられます。
低温の熱で電気を作り出すバイナリー発電機。
およそ50年前アメリカで誕生したあと日本でも開発が進みました。
この当時使われていた低沸点媒体は…主に使われていたのはCFC−11という種類。
23.8℃で沸騰する性質を持っています。
なぜフロンは低温で沸騰するのでしょうか?それには分子の性質が関係しています。
例えば水の場合液体の時は分子が互いに強く結合し密な状態になっています。
ここに熱が加わり100℃に達すると…。
分子はバラバラに離れて気体になります。
これが沸騰です。
水は一つの分子が持つ酸素原子と別の分子が持つ水素原子が強く引き合っています。
これが分子同士の結合力を生み出すのです。
この結合力の強さは分子によって異なります。
そして結合力が強いほど沸点は高く逆に弱いほど沸点は低くなります。
CFC−11の場合分子同士の結合力が水に比べてずっと弱くなっています。
そのため僅か23.8℃で沸騰し気体に変わるのです。
こちらの映像液体のフロンに手をつけています。
するとたちまち乾いていきます。
おお〜。
すぐ乾いた。
へえ〜。
沸点の低いフロンがどんどん気体になっていった結果です。
またフロンは熱を伝えやすいという性質もあるため冷蔵庫やカーエアコンの冷媒などに使われました。
ところが1980年代に入り大きな転換が訪れます。
フロンに含まれる塩素がオゾン層破壊の原因となる事が分かり使用が厳しく規制される事になったのです。
こうした中急ピッチでフロンに代わる物質の研究が進みました。
そして80年代の終わりに代替フロンが誕生したのです。
オゾン層を破壊する塩素を含まない代替フロンが現在では広く普及しています。
へえ〜分子同士の結合力が弱いと沸点が低くなるんですね。
こういう低沸点媒体というのはほかにもあるんですか?低沸点であと安定性というものが求められます。
そうなると意外と少ないんですよね。
アンモニアですかね。
へえ〜。
それでは代替フロンではなくアンモニアを使ったバイナリー発電機を見に行きましょう。
大阪府池田市にある下水処理施設。
汚れを処理する過程でおよそ75℃の排水が発生します。
この熱を使ってバイナリー発電を行っているんです。
こちらが低沸点媒体として使っているアンモニア水。
純粋なアンモニアは沸点−33℃です。
え〜−33℃?低いですね。
アンモニアは水に溶かして使う事ができるため水の量を変えれば沸点を自由にコントロールできるというメリットがあります。
その反面毒性や可燃性があり取り扱いが難しい物質です。
使用にあたっては厳重な安全対策が必要です。
そのため温泉地などのバイナリー発電では扱いやすい代替フロンが広く使われているんです。
さてここまででバイナリー発電の基礎はばっちりですね。
はい。
それではここからは応用編です。
(指を鳴らす音)おお〜。
今度は海ですか。
はい。
温泉もよかったけど海も何か開放的でいいですね。
3年前に海洋温度差発電という技術を紹介したの覚えてますか?確か沖縄の久米島でしたよね。
はい。
海面の温かい水と深い所の冷たい水の温度差を利用して発電ができるという話でしたよね。
そのとおり。
実はこの仕組みにもバイナリー発電が使われてるんですよ。
3年前はまだ建設途中という状況だったんですが今はもう実際に電気を作り出してるんです。
再び久米島を取材したのは今年7月。
こちらが完成した海洋温度差発電の施設です。
沖縄県が佐賀大学などと共同で建設したこの施設。
2年前から発電を行っています。
発電の基本的な仕組みは温泉を使うバイナリー発電と同じです。
熱源は太陽で温められた海の表層水。
温度はおよそ30℃です。
この熱で媒体を蒸発させ電気を作ります。
媒体の冷却には深さ600メートルからくみ上げる深層水を使います。
こちらは8℃ほど。
この方法熱源となる表層水の温度が低いため温泉などと比べると発電の効率は悪くなります。
しかし海水の量は膨大。
このスケールメリットを生かす事で大きな電力を生み出そうとしています。
現在久米島の電力は主に重油を使った火力発電に頼っています。
燃料は島の外から運んでいるため何かの理由で輸送が途絶えれば電気を使えなくなってしまいます。
海水を使ったバイナリー発電はこの不安を解消する切り札。
将来は1万kW級の施設へと大型化し島の全ての電力を賄う事が目標です。
海水を利用して安定的に電気を作るという画期的な試み。
世界中から視察が相次いでいます。
一方こちらは…去年8月から1年間新しいタイプのバイナリー発電施設の実証実験が行われてきました。
まず目に留まったのはこちらの巨大な設備。
集められた太陽の熱で黒い管の中を通る油を熱しそれを熱源にしてバイナリー発電を行います。
更に巨大な風車。
そして木材チップを燃焼させる…こうした設備で作り出した熱を全て一つのバイナリー発電機につなげて発電を行う試みです。
これには大きなメリットがあります。
太陽熱は悪天候の時や夜間には十分な熱を確保できません。
また風車は風がなければ回りません。
そんな時バイオマスボイラーで燃やすチップを増やします。
こうしてバイナリー発電機で使う熱が一定になるようコントロールしています。
つまりバイナリー発電機で3つの熱源をつなぐ事により不安定な自然エネルギーから安定した電力を得る事ができるのです。
更にもう一つメリットがあります。
バイオマスボイラーの燃料にしているのは地元の山でとれた竹。
地面の表層に浅く根を張る竹は増え過ぎると山の保水力を弱め土砂崩れを起こしやすくすると指摘されていました。
伐採してチップにすれば山の環境を保ちつつ燃料を確保できます。
まさに一石二鳥です。
へえ〜。
自然エネルギーってやっぱり不安定ですけど間にバイナリー発電を入れる事でかなり安定して電力を作る事ができるんですね。
更には竹を切って山の環境まで保全できると。
何か可能性がすごく広がりますね。
バイナリー発電というのは1970年代の技術ですよね。
はい。
それは今まであんまり注目されてこなかったんですか?工場の廃熱とかそういった事で注目はされてた事はあります。
ただやはり自然エネルギーが注目され始めたのは3.11ですよね。
東日本大震災を受けて福島原発事故が起きてやはりそのころから特に温泉を使ったバイナリー発電というのが大きく注目され始めたという事でもありますね。
温泉やその工場の廃熱以外にも何か使えそうなものってあるんですか?熱というのは極端な言い方ですがありとあらゆる所にある訳です。
つまりバイナリー発電というのは多くの場面で適用ができるという事でもあると思います。
その熱を有効利用すればいいという事が基本だと思います。
かなり広がっていきそうですね。
そうですね。
その自然エネルギーというのはやはりその地域ごとの自然を利用して温泉ももちろんですが風力にしても太陽光にしても電気を地域で作ってその電気を地域で使う事ができると。
すなわち地産地消という事ができるという事はすばらしい事でもないでしょうか。
何か地産地消って聞くとすごく食物とか思い浮かべるんですけどでも同じように電気も…すごくいい事だなって思いましたね。
そうです。
原発のように大規模集中型とは違いまして小規模分散型と普通いわれてるんですがそれぞれの地域で電力を起こしてある地域がもし何かのトラブルで電気が使えなくなったらその周辺が電力を送ってやるとか。
そういうお互いの持ちつ持たれつの関係もできると。
大規模集中型でしたらその一つがトラブルになりますと広範囲にわたって電気が行かない。
それも長期間になってしまう。
そういう傾向もありますんでやはり自然エネルギーのいいところは小規模分散型だという事でもあると思います。
先生は今後どんな未来図を描いてらっしゃいますか?温泉大国日本ですから別に北海道でもいいし東北でもいいし伊豆でもいいしそれはあらゆる場所で利用できるんで温泉バイナリー発電というのはやはりこれからどんどん普及してもらいたいというのが率直な気持ちです。
VTRで個人のおうちに発電所ってありましたけどああいうシステムっていうのは全国にもあるんですか?別府の地元の企業が考え出したいわゆる噴気をレンタルすると地元ではいってるんですがまだ全国にはないです。
何か本当それが広まっていけばあんなすごい小さなスペースでもできるんだって知れば全国に広まりますよね。
基本的にはですね既存の温泉を使うという事がやっぱり大事だと思うんですよ。
例えば別府の場合でしたら7〜8割は無駄に捨てられてるといわれてるんですよね。
それを使えばいい訳であってあえて掘削するという事は必要ない訳です。
もともとあった資源を無駄にしないで使うというのが基本だと思います。
バイナリー発電今日はどうでしたか?いや〜温泉ってもともと好きで癒やしでしかないと思ってたんですけどこれから温泉を使って発電ができるとなったら生活ももしかしたら助けてもらえるかもしれないと思うと更に好きになったし大切にしてかなきゃなってすごく思いました。
そうですね。
未来がちょっぴり明るくなった気がしますね。
阿部さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございます。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2015/11/21(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「温泉が電気を生み出す!注目の低熱発電」[字][再]

今、温泉のお湯で発電する取り組みに注目が集まっている。低温で沸騰する媒体を加熱し、発生した蒸気でタービンを回す。応用すれば海水でも発電可能だ。低熱発電に迫る。

詳細情報
番組内容
今、全国の温泉地で、お湯で発電する取り組みが始まっている。可能にしたのは「バイナリー発電」という技術。温泉の熱で水よりも沸点が低い「低沸点媒体」を加熱し、発生した蒸気で発電機のタービンを回す。従来の地熱発電では使えなかった150℃以下の低熱の温泉が活用できるうえ、大規模な発電設備も必要ないため手軽に始められるのだ。さらにこの技術を応用すれば海水までも発電に利用できるという。低熱発電の可能性に迫る。
出演者
【ゲスト】別府大学国際経営学部教授…阿部博光,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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