アメリカ西海岸の名門。
自由な校風で知られるこの大学に今全米から注目される一人の研究者がいます。
旧ソビエト出身の気鋭の数学者…フレンケル教授が挑んでいるのは「ラングランズ・プログラム」と呼ばれる数学界最大のミステリーの一つ。
教授の最終目標は整数や分数など数とは何かを研究する数論。
図形の形や性質を調べる幾何学。
そして複雑な関数を読み解く解析学など一見互いに無関係だと考えられてきた数学のさまざまな分野に実はミステリアスな深いつながりがある事を証明しようという壮大なチャレンジです。
もしこのラングランズ・プログラムが完成し更に数学の全ての分野が地続きである事が示せれば数学者たちを悩ませ続ける数々の難問が解決する可能性があるといいます。
それだけではありません。
フレンケル教授は抽象的な世界を描く数学と私たちが暮らす現実世界を研究する物理学の間にも驚くべきつながりがあると予想しています。
数学の最先端理論を突き詰めていけばこの宇宙を支配する物理法則が次々と姿を現すのではないかというのです。
フレンケル教授は今回一般の学生から数学の専門家までを集めた全4回の特別講義を行いました。
最先端の世界が次々と登場。
学校では決して教えられない美しくて楽しい数学の世界が大展開します。
第2回では数学の最も重要な分野の一つである「数論」に焦点を当てる。
そして対称性という概念が数や方程式に対する我々の考えを一変させた事について話そう。
驚くべき事にその発見を最初に成し遂げた弱冠二十歳のフランスの数学者ガロアはその直後に決闘で命を落としてしまった。
だがその発見は実に革新的なものだったんだ。
(拍手)第2回の講義に参加してくれてありがとう。
初めに前回までに学んだ事をおさらいしよう。
私が強調したのは数学には複数の異なる分野があるという事だった。
そして数学の研究はジグソーパズルを作り上げる事に似ている事だった。
この講義で特に関心のある分野とは何だろうか。
この事は既に前回話した。
この男性はロバート・ラングランズ。
この写真はプリンストン高等研究所の彼のオフィスで撮影されたものだ。
ラングランズ・プログラムを考案した人物だ。
彼は50年前別の数学者に宛てた手紙の中でそのアイデアを書いた。
ラングランズについての興味深い話がある。
彼は数か国語を流ちょうに操る。
外国語でいくつもの記事や本を書いている。
母国語の英語だけではなくフランス語ドイツ語ロシア語トルコ語を話す。
大学に入るまでは英語しか話せなかったらしいんだが。
最近私は彼と仕事をしていてよくメールのやり取りをするんだが彼は「ロシア語でやり取りしたい」と提案してきたんだ。
ある日彼がロシア語で読んだというロシア人作家のリストを私に送ってきた。
それを見て私は少し恥ずかしい思いをした。
なぜなら自分がロシア語で彼と同じくらい本を読んだかどうか自信が持てなかったからだ。
私がいつも思っているのはラングランズが数学の異なる分野をつなげようという驚くべき美しいアイデアを思いついた事と彼の高い言語能力との間に何らかの関係があるのではないかという事だ。
さてラングランズ・プログラムを説明するために前回対称性について話した。
より具体的に言うと幾何学における対称性だ。
丸や四角いボトルや入れ替えの群の対称性について取り上げた。
今回の講義で伝えたいのは幾何学とは別の分野数論で対称性がどのように現れるのかという事だ。
だからまず数論のメインテーマである数について話していこうと思う。
整数については前回少し考えた。
数えられる全ての数の事だが数学者は整数と呼ぶ。
整数とはどんな数だろうか。
数える事で理解できる普通の数だ。
123…というように。
それ以外にゼロやマイナスの数−1−2−3などもある。
数学者が整数を見つけるまでの物語はとても興味深い。
特にゼロの存在は非常に神秘的で人間がゼロの意味を十分に理解するまでには何千年もの時間がかかったんだ。
もちろん整数は我々にとってとても身近な存在だ。
日々の暮らしの至る所で出会っている。
君たちは私の電話番号が整数である事はもちろん知っているだろう?私の生年月日も整数だ。
ATMの暗証番号も整数。
まあこれは将来の技術革新で変わるかもしれないけど。
でも少し考えてほしい。
整数だけが暮らしの中で出会う数の全てではないだろう。
例えばこんな数もある。
分数だ。
分数は整数同士の比を表している。
例えば値段だ。
2.95ドルを持っていたとしよう。
それは2と95を100で割った数だ。
整数や分数はなじみ深い数だ。
それはまとめて「有理数」と呼ばれる。
長い間数学者は有理数が数の全てだと考えていた。
例えば古代ギリシャのピタゴラス学派の学者たちがそうだった。
彼らはこう思っていた。
現実に存在している数は有理数しかなくそのほかの数はこの世には存在しないと。
しかしそんな主張には無理がある。
受け入れる事はできない。
有理数でない数に出会ってしまうからだ。
いとも簡単にだ。
例えばこんな直角三角形を考えよう。
斜辺の長さはどうなるだろうか。
ピタゴラスの定理を使えば計算できる。
前回も出てきた定理だ。
1の2乗と1の2乗の合計は斜辺cの2乗と等しくなる。
だから斜辺cの2乗は2だ。
ここで新たな数学的な記号を作り出そう。
√だ。
これは2乗すると2になる数を表していてと呼ばれる。
この数が整数や分数つまり有理数で表せない事は簡単に証明できる。
有理数で表せないつまり分数で表せないこの数は「無理数」と呼ばれている。
「理の無い数」という名前になっているがそんな事はない。
分数で表す事ができない数なんだ。
無理数はの他にもたくさんある。
やもある。
3乗すると3になる数もそうだ。
さて無理数と出会った事で我々となじみ深い整数と分数という有理数の世界が崩れてしまった。
こんな場合数学では2,000年以上にわたって受け継がれてきた解決のためのアイデアがある。
それは全てを受け入れるという考え方だ。
のような我々の手に負えない野獣と出会った時逃げ出したりそんなものは存在しないと思い込んだりするのではなく受け入れてみるんだ。
広い心で受け入れて何が起こるかを見てみるんだ。
それは有理数という家族にという見知らぬ他人を受け入れるようなものだとも言える。
ところでにも親戚のような数がある。
があったとするとを2倍にしたものが考えられる。
このように数を増やす事は我々がよくやる方法だ。
同じように3倍にしたも考えられる。
それ以外にもある。
今度は分割したを考えてみよう。
半分にしたものがある。
2分の1のだ。
もちろん3分の1にもできる。
このようなの親戚たちは数式でまとめて表現する事ができる。
pをqで割った分数をに掛ける。
pとqは整数だ。
この数たちもそうだし例えば11と15でも大丈夫だ。
さてこれで全てだろうか?そうではない。
我々は最初有理数について考えていた。
n分のmというような分数だ。
ここから話を始めたんだった。
それではの親戚は分数で表す事ができるだろうか。
有理数をという形で表現しよう。
このようなの親戚の数だがこれも有理数ではない。
有理数の家族の一員になる事は決してないんだ。
なぜならもし分数が掛けるに等しいとすると両側にqを掛け両側をpで割るとm・qをm・pで割る事になる。
するとが分数つまり有理数で表されてしまう。
は無理数だったのでこれは矛盾している。
つまり×は有理数ではない事が分かる。
ところで数を取り扱う時に重要な事は何だろうか?それは演算だ。
この場合演算とは足し算引き算掛け算割り算だ。
有理数の家族のメンバーは皆この演算ができる。
という他人を家族に迎えられるかどうかはこの演算ができるかどうかにかかっている。
2つの有理数があったとしよう。
足し算と掛け算をしてみる。
するとその答えも有理数になる。
同じように引き算や割り算でもそうなる。
重要な事は我々はこれが当然の事だと考えている事だ。
2つの有理数を引き算や掛け算しても答えは有理数になる。
でも整数の場合は違う。
2つの整数を足すと答えは整数になる。
掛け算しても答えは整数だ。
しかし割り算は答えが整数にならない場合もある。
この事を整数は足し算と掛け算では閉じているが割り算では閉じていないと表現する。
さては有理数ではない。
どうしたら新しい数の家族を作り出せるだろうか。
家族には全ての有理数そしてとその親戚が含まれなければいけない。
また全ての演算で閉じているという家族のルールも守らなければいけない。
例えば掛け算で閉じているという事は有理数とを掛け合わせた数も新しい家族のメンバーに入っていなければならないという事だ。
足し算で閉じているとは有理数とを足し合わせてできる数がやはり家族のメンバーになっているという事だ。
この条件を満たす新たな家族の形を数式で表すとどうなるのだろうか。
実は全てa+bという形になるんだ。
具体的な例で見てみよう。
2+1/3×を使って掛け算をしよう。
例えば1/2−3に掛けよう。
掛け算するにはこの括弧を外せばいい。
−1になって−35それを36で割って掛ける。
おっと失礼6だったね。
こうして計算ができた。
これで何が分かったのか?細かな数はどうでもいい。
私たちが以前から知っている有理数という数の家族にという数も加えて新しい数の体系を作る事ができたんだ。
その体系に含まれている数の全ては「a+b×」という形で表す事ができているんだ。
この新しい数のすばらしいところは有理数に対して行うのと同じ演算ができる事だ。
足し算引き算掛け算割り算ができ全ての演算で閉じている。
この新しい数の体系の事を数学者は「数体」と呼ぶんだ。
有理数ではない数の存在に出会った事により新しい数の体系数体を作った。
同じようになどの他の無理数でも数体を作る事ができる。
実は数体を作る事はある物語の始まりにすぎない。
耳を傾けてほしい。
この新たな数の体系は実は隠された対称性を持つんだ。
これは数論における対称性を理解する入り口なんだ。
私にとって数学は偉大なミステリーであり難解な探偵小説だ。
なぜこんな数が存在するのか?誰が注文したのか?はなぜ有理数ではないのか?他にどんな数が存在するのか?この数の対称性とは何か?そんな謎がいつも数学者たちを駆り立てているんだ。
さてこの新しい数の体系はどんな対称性を持っているか?ここである「変換」をやってみよう。
a+bをaーbに換えるんだ。
この変換を新しい数の体系の全てのメンバーにやってみる。
この変換をしてもその数の体系は変化しない。
足し算掛け算引き算割り算も変換前と変わらずできる。
より具体的に見てみよう。
この数を見ていこう。
これをaとしよう。
aは−1だ。
この6分の−35をbとする。
この数に変換を行ってみよう。
この変換ではaは同じままだ。
だから−1。
でもbは符号が変わる。
プラス35割る36掛ける。
全ての数に同じ変換をする。
しまった!今日は36が好きだな。
ありがとう。
黒板に間違った数を書くのは悪くない。
これで私の話を誰が聞いているか分かるからね。
もしまた間違ったら訂正してほしい。
さてもう一度変換をしたらどうなるか見てみよう。
1回変換すると符号がプラスからマイナスに変わる。
もう1回行うと今度はマイナスからプラスに変わって元の数に戻る。
2回変換すると初めと同じになって1回転する。
これを変換するとこれになる。
これを変換するとこれに戻る。
これは私たちが前回の講義で見たものに似ている。
蝶の対称性だ。
蝶の場合対称性があると言える理由は2つの羽を入れ替えても姿が変わらないからだ。
さあに対応する1つの羽を考えよう。
もう一つは−だ。
羽を入れ替える事はを−に入れ替えるという事に対応する。
当たり前に思えるかもしれないが重要な事は新しい数の体系が有理数にはなかった対称性を持つという事だ。
と−を入れ替えても変化しないという対称性だ。
でも君たちはこう疑問に思うかもしれない。
そもそもなぜと−を入れ替えても変化しないのか?ここで実はこの講義の初めに私は少しうそをついた事を白状しないといけない。
の話をした時にピタゴラスの定理を使った。
その時「この数はこの方程式の答えになる。
cの2乗が2に等しい。
cはである」と言った。
cは三角形の斜辺の長さを表している。
長さというのは常にプラスの値だ。
マイナスというのはない。
しかしこの方程式についてよく考えると実は2つの答えを持っている事が分かる。
−も答えになるんだ。
これは三角形の辺の長さにはならないが存在する。
−ももちろん新しい数の家族に含まれている。
も−も同じ方程式を満たすので一体で不可分なものだから蝶の2つの羽のように考えられるんだ。
だからその2つを入れ替えたとしてもその体系は変化しないんだ。
つまり2つの数は同じ方程式の答えになっている。
xはまたは−だ。
これまでに私は方程式の答えについて語ってきた事になる。
まとめてみよう。
有理数の家族に見知らぬ者が加わるという話をした。
整数と分数が全ての数だと思っていたところに突然新参者のが現れたんだ。
でもこの新参者は有理数じゃない。
どうすればいいのか?彼も家族に迎え入れたいので新しい家族の形を作った。
今我々はここまで来た。
そしてこの新しい数の対称性や−といった登場人物についても考えた。
だけでなく−も家族だった。
なぜならばそれは双子のような存在だからだ。
2つとも同じ方程式から生まれた答えなんだ。
さて今まで話してきた事は実は方程式の解の公式を探す事と関係しているんだ。
その方程式は多項方程式または代数方程式と呼ばれているものだ。
今まで我々は2次方程式について考えてきた事になる。
2次方程式だ。
なぜなら2乗が含まれているからだ。
2次方程式は係数が整数となっている方程式だ。
この場合はxの2乗の係数は1。
係数とは何かは知ってるよね?ここは2だ。
この方程式には整数しか出てこないがその答えは整数でも有理数でもない。
こうして新しい数の家族数体にたどりついた。
そして実はその新しい数の体系が持つ対称性は今日我々が「ガロア群」と呼んでいる群を形成するんだ。
「ガロア群」だ。
フランスの偉大な数学者エヴァリスト・ガロアは二十歳の時に決闘で殺されてしまった。
本当に信じられないような話だが死の前日の夜に数学の原稿を完成させていた。
決闘の前夜にだ。
ある理論を急いで書き残したんだ。
こうして彼の理論は今に伝えられている。
この有名な手書き原稿に残されているんだ。
今でも大切に保管されている。
原稿には「もう時間がない」と書かれていた。
私はいつも考える。
この二十歳の男についてだ。
彼は心の奥底で自分は明日殺されると分かっていたのだろう。
彼は何をしたのか?ろうそくの明かりの前に座っている彼の姿が思い浮かぶ。
ガロアは何を書いたのだろうか?愛する人に手紙を書いたのではなく自分の数学理論数学的発見を書き記したんだ。
同時代の他の誰も成しえなかった発見を共有したかったのだ。
なぜならばもし共有しなければ数学の知識には何の価値もないからだ。
誰も知らない理論に何の価値があるだろうか?共有した時に初めてとてつもない価値が生まれるんだ。
愛のようにね。
彼が書き残したものは一種のラブレターだと私は思う。
我々全員に宛てたものだ。
だから彼の発見を共有し使って楽しむ事ができるんだ。
数学を勉強する事が感動的であるのは突然あるひらめきを得て新発見をし今まで研究していた問題を解く事ができた時。
それは新しい考えや概念を生み出した瞬間だ。
一秒の何分の一という僅かな時間で世界中の誰も知らない事を発見するんだ。
ガロアは何世紀にもわたって解けなかった問題を最終的に解決した。
その問題とはラジカルを使った方程式の解の公式を見つける事だった。
「ラジカル」とはここバークレーでよく聞く「過激だ」という意味ではない。
ルートや3乗根4乗根などの事を表している。
そういえば「ルート」という言葉も別の意味を持っている。
「根っこ」という意味だ。
同じ言葉でも数学で使う場合と日常で使う場合とで意味が違うものはたくさんあるんだ。
√だと例えばがある。
2の3乗根や4乗根もあるが必ずしも2である必要はない。
5や他の数でもいい。
n乗根と書ける。
この中の数字はaとでもしておこうか。
これをラジカル「累乗根」と呼ぶんだ。
問題はx=2のような方程式の答えを導けるかという事だ。
つまり累乗根だけを使って方程式の答えを書けるかという事だ。
x=2の場合はもちろん書く事ができる。
ここで重要な事は累乗根は方程式の答えを表現するために作り出されたという事だ。
我々がでやったように。
学校で2次方程式の解の公式を習った事を覚えてるだろうか?その2次方程式とは方程式がxの2乗とxといくつかの係数を持っている。
この方程式の解の公式を習ったんだ。
私がちゃんと書けるかどうか見ていてほしい。
まあここでは細かい事は重要ではないんだが。
重要な事はここの部分だけ。
足し算や掛け算引き算や割り算以外のものは√だけだ。
これが累乗根を使って書かれた解の公式の例だ。
累乗根を使った公式だ。
問題は2次より高い方程式に対して同じように累乗根による解の公式が作れるかという事だ。
それでは次は3次方程式だ。
3次方程式は何を含むか?xの3乗xの2乗とxと定数だ。
果たしてこの方程式にもabcdと累乗根だけを使って書ける解の公式は存在するだろうか?存在する事が分かっている。
さてここからすばらしい物語が始まる。
それを君たちに話したい。
何世紀にもわたり数学で最も興味を引いた問題にまつわる物語だ。
2次方程式の解の公式はアラビアの数学者アル=フワーリズミの著作に記されていた。
8世紀から9世紀にかけて生きた数学者だ。
西暦820年に本を出版している。
今から1,200年ほども前の話だ。
ちなみにいくつかの公式は更に遡る事600年ほど前ギリシャの数学者ディオファントスも知っていたという。
アル=フワーリズミの本はその後の数学に大きな影響を与えた。
これはソビエトで発行されたアル=フワーリズミの生誕1,200年の記念切手だ。
「ソビエト連邦」と書かれている。
とてもいい絵だ。
これは彼の本。
題名に書かれた「アル=ジャブル」というアラビア語。
これは「入れ替え」や「完成」という言葉と関係がある。
実はこれが英語の「アルジェブラ」代数学の語源となっているんだ。
また彼の名前アル=フワーリズミは長い間「アルゴリスミ」と間違って発音されてその後「アルゴリズム」という言葉ができたんだ。
彼は現在の私たちが使う最も重要な概念を結び付けたんだ。
本の中でこの公式は違った表現で書かれているが意味は一緒だ。
さて3次方程式の解の公式が見つかるまでにはそれから700年間もの時間が必要だった。
この公式は特殊な場合の3次方程式の解がどうなるかを表している。
この係数が1でこれがゼロの場合に成り立つ公式だ。
重要な事はこの公式が累乗根を含んでいる事だ。
この公式は通常「カルダーノの公式」と呼ばれていて数学史上最大の論争の一つだ。
それは数学史上の大スキャンダルとさえ言えるだろう。
時間があまりないので概略だけを話そう。
この公式はもともとイタリア人数学者のデル・フェッロが発見したものだった。
当時数学者は競争相手がいたので自分の研究成果を発表しなかった。
数学の勝負で勝つためだ。
もし君たちが3次方程式の解の公式を知っていたら相手に方程式を解くように言う。
相手が解けない場合君たちは「私は答えを知っている」と告げる。
もし相手から同じ質問をされたら君は解いてみせる。
そうやって競争相手に勝てば仕事を得る事ができる。
だから公式を見つけても秘密にしたんだ。
仕事を得る方法は今とは違うけれどもしかしたら案外いい方法かもしれない。
あまり知られていないがタルタリアというもう一人の数学者もいた。
タルタリアも独力で解の公式を得たと宣言していた。
しかしここから物語が複雑になってくる。
4年後にタルタリアは秘密の公式をカルダーノに漏らした。
カルダーノは大変面白い人物だ。
医師で数学者占星術師ですごいばくち打ちでもあったんだ。
大ペテン師とも言われる。
話がとてもうまかったらしい。
カルダーノはタルタリアを説得し公式を聞き出し誰にも言わないと約束した。
4年間は約束を守ったがデル・フェッロも公式を発見していた事を知ったカルダーノはデル・フェッロを訪ね義理の息子に公式を見せてもらった。
そこでカルダーノはこう言ったという。
「タルタリアとの約束は白紙だ。
私はデル・フェッロの公式を公表する」。
2年後の1545年にカルダーノは本を出版した。
彼の本はルネサンス期の最も重要な本の一つとされ「アルス・マグナ」と呼ばれた。
「偉大な技術」という意味だ。
副題には「代数の根本」と書かれている。
ルネサンス期の人々は偉大な技術である代数学を理解していた。
今の我々とそれほど変わらない。
この本の出版でタルタリアは「しまった!」と青ざめ「カルダーノの業績になっているが公式は私が発見したんだ」と残りの人生を人々を説得して回る事になったんだ。
面白い事に現在この公式はカルダーノの公式と言われている。
正式にはデル・フェッロまたはデル・フェッロ/タルタリアという名称なんだがカルダーノ・タルタリアとも呼ばれる。
とにかくとても面白い物語だ。
さて物語は続く。
カルダーノの弟子のフェラーリルドヴィコ・フェラーリは4次方程式の解の公式を発見した。
累乗根を使ったものだ。
その公式にはルート3乗根4乗根を含んでいる。
そしてフェラーリはタルタリアを破滅へと導く事になるんだ。
タルタリアはカルダーノにだまされたと激怒していた。
カルダーノとの勝負を望んだがフェラーリが代わりに相手をする事になった。
ミラノで1548年に計算の勝負が行われた。
立会人は知事だった。
このビッグイベントには大勢の観客も集まった。
結果はフェラーリの圧勝だったという。
その後タルタリアは仕事を失った。
厳しい時代だからこそのドラマチックな展開だ。
我々はよく気軽に公式について口にするが数学者が公式を発見するまでにこんなドラマが起きていたと君たちは想像できるだろうか?さてここでまとめてみよう。
2次方程式の解の公式がある。
3次方程式4次方程式の場合も累乗根を使ってこんな感じで解の公式を書く事ができる。
では5次方程式はどうだろうか?5次方程式でも累乗根で書き表せる公式があるはずだと自信のようなものを感じるだろう。
6次以上についてもそうだろう。
だがこの問題は300年もの間解けなかった。
最終的に決着させたのがガロアだった。
大方の予想に反してそのような解の公式は存在しない事を証明したんだ。
2次3次4次方程式に解の公式があるのはラッキーな事だったんだ。
実は2次3次4次というのは構造が単純なのでたまたま公式が存在したんだ。
しかし5次方程式以上ではそのような解の公式は存在しないというのだ。
どのように証明したのだろうか?ガロアの問題の証明の方法に注目してほしい。
彼は問題を真正面から解かずにいわば問題をハッキングしたんだ。
問題の裏側に回り込んだんだ。
この問題は普通は方程式の解の公式を見つける事と理解される。
例えば4次方程式。
3次には解の公式があった。
4次にもあった。
次の方程式はこの5次方程式だ。
ガロアはこの式には累乗根を使った解の公式は存在しない事を示した。
彼は直接公式を見つけようとしたのではなく問題を読み替えたのだ。
解の対称性は解を知らなくても知る事ができる。
これはすばらしい事だ。
この事の最も単純な例についてはx=2の方程式で考えた。
x=2の場合と−という2つの解がある事は学んだ。
ガロア群についても話した。
それは2つの解を入れ替える対称性の群だ。
実は方程式の解を知らなくてもそのガロア群は知る事ができるんだ。
方程式に2つの答えが存在する事は明らかなのでその対称性は解を交換するか交換せずにそのままにする2通りしかない。
それは蝶のような対称性の群だ。
前回の講義で学んだ事で捉えるとこのガロア群は2つの物体の入れ替えの群に等しい。
前の講義でオレンジの並び替えをした事を思い出してほしい。
2つのオレンジの入れ替え方は入れ替えるか何もしないかの2通りだ。
方程式に2つの解がある事を知っていればその対称性の群が2通りの入れ替え方を持つと推測できる。
同様にガロアは3次方程式のガロア群は3つのオレンジつまり3つの物体の入れ替えの群である事を示した。
4次方程式のガロア群は4つの物体の入れ替えの群だ。
ここでガロアは「解の公式が累乗根で書けるかどうか」という問題は「対称性の群の構造を調べれば分かるのではないか」と考えた。
それは方程式のガロア群がある特別な性質を持つかどうかで決まるという事だ。
つまりそれは入れ替えの群がその特性を持つかどうかに等しい。
ガロアの論法は2個3個4個の入れ替えにはその特性が存在するが5個以上には存在しない事を示そうというものだった。
ここで私が伝えたいのは彼は問題をハッキングした事だ。
問題を完全に読み替える事で300年間分からなかった事が突然明らかになったわけだ。
ところで数学では学校の授業でこの公式を覚えなさいあの公式も覚えなさいと教えられる事があると思う。
方程式の解の公式もそんな公式の一つだ。
そう考えると学生たちはガロアによる証明をとてもありがたいと思うだろう。
たくさんの解の公式を覚える必要がないからだ。
しかし数学とは公式と計算を学ぶだけではない。
概念と考え方についての学問だ。
その優れた例はガロア群というアイデアだ。
我々が新しい数の体系で見つけた対称性の群の事だ。
それは方程式の答えを有理数に追加する事で得られたものだった。
この群の構造を調べれば方程式の答えが累乗根によって書き表せるかどうかが分かる。
これがガロアのすばらしい証明なのだ。
では最終的にはどのようにやったのだろうか?5つの物体の入れ替えの群つまり5次方程式の5つの解について調べたんだ。
ちなみにn次方程式は一般にn個の答えを持つ事は分かっている。
さて何通りの入れ替え方があるのだろうか?5つの場合は答えは120通りだ。
2つの物体では2通りの入れ替え方がある。
3つでは6通り。
4つでは24通りだ。
まだ数が小さいのでガロア群の構造は単純だ。
その事を数学者は「可解」と呼ぶ。
その場合累乗根を使って方程式を解く事ができる。
しかし5次方程式のガロア群は120通りもの入れ替えになりはるかに複雑となるので可解でなくなる。
だから解の公式はない。
これがガロアがたどりついた結論だ。
入れ替えの群は数学では「対称群」とも呼ばれている。
ここでまた「対称」という言葉が現れたがこの場合は5個の物体における対称群という事になる。
質問だね。
解の公式がある時とない時の違いをもっと詳しく知りたいのですが…。
説明しよう。
「可解」である群とはどういうものだろうか?非常に簡単に言うとそれは「可換」か「非可換」かという事柄と関係している。
実は我々が議論しなかった話が1つある。
それは群が「可換」か「非可換」かという事だ。
可換とは2つの異なる変換の順序を入れ替えてもその結果が変わらない事を意味している。
例えば前回の講義でやったボトルの回転は「可換」だ。
30度と20度の回転。
順番を変えても結果は変わらない。
でも球の場合は違う。
2つの異なる軸を中心に回転させると回転させる順番によって異なる結果になってしまうので「非可換」だ。
詳しい説明はここでは省くが「可解」である群は可換群によって構成されている。
可換群によって作り上げられているんだ。
一方で可解でない群は可換群に分解する事ができない。
5次のガロア群は可換群だけでは構成できない。
だから可解ではない。
これがおおまかな答えだ。
ここまでをまとめよう。
今我々はどこにいるのだろうか?私はこの一連の講義で君たちに数学の3つの異なる分野について話すと言った。
その分野とは数論調和解析そして幾何学だ。
そしてこれらの分野に共通し最も重要だと思われる概念が「対称性」だと伝えた。
前回の講義では幾何学ではどのように対称性が現れるのかについて考えた。
物体にさまざまな変換を行う事で対称性の群が現れる事を見た。
今回の講義では数論ではどのように対称性が現れるのかを見てきた。
幾何学の場合と似ているものがあった。
例えば入れ替えの群だ。
一方で新しい考え方とも関連していた。
それは方程式の解の公式が存在するのかどうかという事だった。
これは幾何学の場合とはだいぶ違うように感じるがこれが数論における対称性の現れ方なんだ。
次回の講義ではロバート・ラングランズがガロアがすばらしい方法で取り組んだような数論の問題をどのようにして調和解析という別の分野に結び付けたのか。
そして対称性が果たした役割について話そう。
ちなみにこれは新聞に掲載されたラングランズの写真だ。
後ろの黒板に注目してほしい。
ラングランズ・プログラムを構成する主要な要素が書かれている。
ジャーナリストに説明するために彼が書いたんだ。
さてラングランズの頭の上には何が見えるだろうか?ガロア理論だ。
今日はガロア理論について考えてきた。
しかしもっと多くの事を知らなければならない。
次回ラングランズ・プログラムについてより詳しく話していく。
そして数学史上最大の問題だったフェルマーの最終定理に取り組もう。
ラングランズ・プログラムの考え方を使っていかにして問題が解かれたのかを体験するんだ。
どうもありがとう。
(拍手)2015/11/20(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
数学ミステリー白熱教室 第2回「数の世界に隠された美しさ〜数論の対称性〜」[二][字]
カリフォルニア大学バークレー校の数学者、エドワード・フレンケル教授が、数学界最大のミステリーの一つ「ラングランズ・プログラム」の不思議な世界にご招待する!
詳細情報
番組内容
「数論」が持つ“対称性”に着目し、ある難問にアクロバット的解決を与えたのが19世紀のフランスの天才数学者、エヴァリスト・ガロアだ。その難問とは『5次以上の方程式に解の公式はあるか?』。ガロアは決闘に敗れて亡くなる前夜、この難問に対する驚くべき解決法を書き残した。それは「数論」の問題を正面から解くことを避け、裏に回りこんで“ハッキングする”ような手法だった。「ラングランズ・プログラム」の原点とは?
出演者
【出演】カリフォルニア大学バークレー校教授…エドワード・フレンケル
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz
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