パリ同時テロ事件から1週間。
現地では武装した警官による捜査が続いています。
犯行声明を出した過激派組織ISはヨーロッパ各地に潜伏し次のテロの機会をうかがっているといわれています。
疑いの目は罪のないイスラム教徒そして、戦火を逃れてきた難民たちにも向けられ人々、そして、社会は分断の危機に直面しています。
パリの同時テロは世界をどう変えたのか。
現地からの最新報告です。
生字幕放送でお伝えします
パリは朝から雨が降り続いています。
ここはパリ中心部にある共和国広場です。
自由、平等、そして友愛というフランス社会が最も大事にしてきた価値観を象徴する場でもあります。
テロから1週間がたったきょうこの雨にも関わらずこのマリアンヌ像のもとには今も花を手向ける人たちの姿が絶えることはありません。
パリでは、この1月にも過激な思想の持ち主が新聞社を襲撃する事件がありました。
そのときフランスは暴力には断固、屈しないと立ち上がりました。
そして、このパリを中心に100万人もの人が決意のデモに立ち上がりました。
その僅か10か月後に再び悪夢が襲いました。
無差別に誰もが標的になりうることを強く印象づけた今回のテロによってフランスの人々が抱く印象は全く違うステージへと進んでしまいました。
私も最も多くの犠牲者が出たコンサートホールを訪ねてみました。
数え切れないほどの花束とろうそくの炎がありました。
音楽を愛する人々の集いの場所だったこのコンサートホールは一転、沈黙に包まれていました。
自由をおう歌し人生をおう歌するパリの人々の価値観を根底から脅かすこととなった同時テロ。
今回のテロに関わったとされる容疑者のうち少なくとも5人はフランス国籍の若者でした。
そのことがフランスだけでなく国際社会に衝撃を与えています。
パリの中心部にあるバー。
突然、破片が飛び散ります。
銃撃の瞬間店内に設置された3台の防犯カメラが捉えた映像です。
襲われた人々が次々と店内に逃げ込んできたり床に倒れ込んだりしています。
赤い丸で囲まれたのはテロの実行犯。
手にはカラシニコフ銃。
市民に銃口を向けるさまが映し出されています。
飲食店を襲撃したのは3人の武装グループ。
今回の同時テロは3つのグループ少なくとも9人で実行されました。
このうち5人がフランス国籍だったことがこれまでに分かっています。
(銃声)武装グループは8か所を襲撃。
129人が亡くなり350人以上が負傷しました。
同時テロから5日後の18日。
パリ郊外で警察と武装グループの間で激しい銃撃戦が行われました。
(銃声)このときの銃撃戦で今回の首謀者とみられるアブデルアミド・アバウード容疑者が死亡しました。
アバウード容疑者らはパリに続き空港やショッピングセンターでのテロも企てていたと地元メディアは伝えています。
アバウード容疑者はシリアで過激派組織IS・イスラミックステートに加わりました。
アメリカ当局がISの対外作戦部隊の中心人物としてマークしていたともいわれています。
NHKではISの実態を知る元戦闘員の証言を得ることができました。
ヨーロッパからシリアのISに参加した人間の多くは元イラク軍の秘密工作員から徹底的な軍事訓練を受けているといいます。
今回の同時テロの特徴はヨーロッパ出身の若者たちが中心になっていた点です。
首謀者のアバウード容疑者はみずからの出身地であるベルギーに協力者を作り実行犯を水面下で育てていたことが今回の取材で明らかになってきました。
アバウード容疑者がテログループに引き込んでいった若者たちは一体、どんな人物だったのか。
まず向かったのはサッカーのスタジアムで自爆テロを行った最年少、20歳の容疑者が住んでいた地区です。
容疑者と同世代の若者たちに話を聞いていったところそれまで知られていなかった容疑者の素顔が見えてきました。
名前はビラル・アドフィ。
容疑者はフェイスブックを利用したびたび更新していました。
そこに載っていたのは今回の襲撃で使われたのと同じカラシニコフ銃の画像。
テロリストの格好をして地元の仲間と一緒に写っている写真も残されていました。
武器や過激な思想に憧れる若者に過激派組織が接近している実態がかいま見えてきました。
アドフィ容疑者はシリアに滞在したことがあるとみられています。
今、フランスの捜査当局が監視対象リストに入れている人物は1万人以上に上ります。
さらに周囲からは、過激な思想と無関係とみられていた若者までISに取り込まれていたことが分かってきました。
今も逃亡中のサラ・アブデスラム容疑者と自爆テロで死亡した兄のブラヒム容疑者の兄弟が住んでいた地区です。
ベルギーの捜査当局によるサラ容疑者の大規模な捜索活動は今も続いています。
この地区の住民の半数はイスラム系などの移民です。
首都ブリュッセルの中心部に隣接するモレンベーク地区。
容疑者のサラとブラヒムの兄弟はテロの1か月あまり前までこのバーを経営していました。
イスラム教の戒律で禁止されているアルコールも提供していました。
兄弟と幼なじみだったという女性が初めてメディアの取材に応じました。
2人は過激派とは程遠いどこにでもいるような若者だったといいます。
サラ容疑者の兄です。
一緒に暮らしていた家族も2人がテロを起こすほど過激な思想に染まっているとは気付かなかったといいます。
テロリストを生み出す温床と考えられているのは貧困と高い失業率です。
この地区では半数を超える若者に働き口がありません。
アルジェリア系移民の30代の男性です。
もう2年半以上、仕事を見つけられずにいるといいます。
これまで400以上の会社に応募しましたが移民というだけで、ほとんど門前払いになったといいます。
モレンベーク地区の副区長アフメド・エル・カヌースさんです。
若い世代の就職支援に力を入れ失業率を下げようと試みています。
しかし、効果は上がらずISの誘いに乗ってシリアに向かう若者が後を絶たないといいます。
貧困や高い失業率につけこむようにして若者たちを取り込んでいったとみられるアバウード容疑者。
私たちは、その手法を探るべく足跡をたどってみました。
ベルギー東部にある刑務所。
アバウード容疑者は現在、逃亡中のサラ容疑者と5年前、ここでともに収監されていたといわれています。
刑務所という閉ざされた空間でのつながりが今回のテロ事件に結び付いた可能性があるのです。
テロ対策の専門家は刑務所が若者にイスラム過激思想を広める拠点になっていると分析しています。
取材を進める中で、私たちは息子がISに勧誘されシリアに向かってしまったという一人の母親に出会いました。
ベロニック・ルートさん66歳です。
生まれも育ちもベルギーのルートさん。
一家は、敬けんなキリスト教の信者でした。
3年前、就職が思うようにいかずふさぎ込んでいた23歳の息子が突然、姿を消しました。
警察に届けを出し行方を捜し続けていた、ある日。
ルートさんは衝撃的な映像を目にしました。
ISの動画サイトに息子の姿があったのです。
息子はシリアでISの戦闘員として活動をしていたのです。
同時テロのニュースを聞いたときルートさんは息子が関わっていないか動揺したといいます。
ヨーロッパ刑事警察機構・ユーロポールはシリアに渡ったテロリスト予備軍が2000人はいるとみて警戒を強めています。
どこにでもいるような若者たちが突如、テロに加わるという衝撃に世界が震かんしています。
ごく普通の若者が身近な人すら気付かないうちに急速に過激な考え方へと傾斜していくその多くの行き着くところはみずからが育った国や地域への報復です。
それにしてもうっ屈した感情を持っていたとはいえなぜ彼らが人の命を奪うことをためらわないような組織に加わってしまうのかその理由の一つにISの勧誘のしかたがあります。
高度な技術を駆使したプロパガンダ映像をネット上に大量に拡散させる。
そして、SNSなどの交流サイトを通じて世界の若者と個人的につながっていく。
あたかもその先に理想郷があるように装う、ISの手法に迫ります。
ISが若者を勧誘する手口に詳しい人物に話を聞くことができました。
ジャーナリストのアンナ・エレルさん。
ISから命を狙われているため顔を映さないことを条件に取材に応じてくれました。
エレルさんは去年ジャーナリストであることを隠してISの幹部と接触しました。
これは、実際にテレビ電話でISの幹部と会話したときの映像です。
ISにひかれる若い女性にふんしてスカイプでのやり取りを行って勧誘のしかたの特徴について教えていただけますか?ISがインターネット上に公開しているPRビデオです。
そこからは欧米の若者を勧誘しようという意図がうかがえます。
ヨーロッパ出身の戦闘員がそれぞれの国のことばでISへの参加を呼びかけています。
さらに戦闘の様子や日常生活を美化して伝えています。
こうした映像はシリアにあるISのメディアセンターで欧米のメディア出身者によって制作されているとみられています。
ISは欧米に住むイスラム教徒の若者をターゲットにインターネット上に次々と映像を公開しています。
それらの映像はさらに熱心な支持者によって世界中へ広められます。
そして映像に関心を持った若者がフェイスブックやツイッターなどを通じてISのメンバーと接触するのです。
エレルさんが接触したISの幹部が強調したのは理念や教義ではなくISに加わることのメリットでした。
エレルさんはISの勧誘を受けてシリアに渡り戦闘員となった若者やその家族も取材しました。
多くは社会に不満を持つイスラム教徒たちでした。
多様性を認めるといいながら排除されている人々がいるという問題といいますか何か、そうしたヨーロッパの事情問題、課題というものを感じたことはなかったですか?ISはその思想に共鳴する若者たちに身近な場所でのテロを呼びかけるようになっています。
ことし3月、ISの支持者がまとめたとみられるテロの指南書がツイッターで公開されました。
携帯電話や電子レンジを使った爆弾の作り方から周囲に気付かれずに計画を進める方法まで事細かに説明されています。
アメリカのCIA・中央情報局の元諜報員パトリック・スキナーさん。
テロの手口が広まることであらゆる場所でテロのリスクが高まっていると警鐘を鳴らしています。
ISが若者を利用してテロを拡散していく背景にはアメリカを中心とする有志連合に追い詰められていることがあるとみられています。
去年8月から始まったIS掃討作戦。
その後、ロシアやトルコなども空爆を始めます。
フランスは、ことし9月からシリアにあるISの拠点への空爆を開始。
さらに今月には空母を派遣しました。
ISは空爆によって多数の戦闘員が死亡。
資金源となっていた油田も破壊されるなど大きな打撃を受けています。
そうした中でISは支配地域以外でのテロの呼びかけを強め各地でテロが繰り返されているのです。
ここフランスをはじめヨーロッパや中東での取材経験が長い鴨志田記者に来てもらっています。
鴨志田さんよろしくお願いします。
まず、この事件の捜査、続いていますが最新の情報どうなっていますか?
きょうでちょうど事件の発生から1週間になりますけども警察の捜査や捜索は絶え間なく続いていてさまざまな動きが伝えられています。
きょうも警察が2日前に強制捜査に踏み切ったパリ郊外の事件の首謀者とされる男が潜伏していた住宅から新たに女の遺体が見つかったという情報が入ってきています。
非常に長い間フランス社会などを取材をしてきた立場からテロというのをどういうふうに見ていますか?
フランスでは、これまでも社会の格差や差別に不満を募らせたイスラム系の移民の若者たちの怒りが噴出して社会が大きく揺さぶられる場面が多く見られました。
ちょうど10年前ですけどもここパリの近郊から移民の若者たちの暴動がフランス全土に広がりまして数週間にわたって連日、警察官と衝突して、私もその取材に当たりました。
同じフランス人でありながら移民の家庭に生まれたというそれだけの理由で就職で不利になり社会の底辺から抜け出せないという移民の若者たちを取り巻く状況は実は10年たってもあまり変わっていないんですね。
社会の矛盾というのは10年たっても変わっていないけども暴力のあり方姿というものが大きく変わってしまったということですか?
そのとおりだと思います。
行き場を失った若者たちをひきつけるようになっているのがイスラム教徒であることの誇りをあおって敵意を、むき出しにしているISなんですね。
その過激な思想にひかれてこれまでフランスからISの支配地に渡った若者は2000人に上っているとして外国人戦闘員になってしまったりあるいは一部は帰国して国内で新たなテロを引き起こす危険が指摘されているんです。
かつては社会への怒りや不満に任せて路上で石や火炎瓶を投げていた若者のたちがいまやISから武器や資金を提供されて過激なテロを強行するようになっているという現実にやりきれない思いがします。
先ほどのVTRでISの勧誘方法が非常に巧みであるということを紹介しました。
そういうことを含めて高度化されたテロだからこそ非常に取り締まるのが難しいという言い方をする専門家もいるんですけどもその辺り、どんなふうに?
今回のテロは周到な計画のもとに実行犯グループが戦闘にも使えるような武器を大量に持って複数の場所で次々に市民を襲っていったという意味ではかつてなく大がかりで残虐なものだったということがいえると思います。
もはやテロというものにとどまらなくて市街地で繰り広げられた軍事作戦のようだという声も聞かれます。
その一方で実行犯たち全員が統率のとれた動きをとっていたかというと必ずしもそうではありません。
中には執ように銃を乱射して多くの市民を殺害した者がいた一方で逆に、おじけづいて発砲をためらっていたメンバーもいたという証言もあるんですね。
サッカースタジアムの近くで自爆した2人の若者は自分だけ死亡しています。
このために実行犯グループは実は武器の扱いに慣れていない若者も多く含まれていたという見方もあるんです。
つまり、テロの手法が高度化したというよりは誰が、いつ何を標的にどのような攻撃を仕掛けるのかが分からなくなってしまったということでこのテロ対策が一層難しくなっているんだと思います。
かつてのアルカイダのテロのように非常に高度に訓練されたテロリストというイメージとは違って大衆の中にいる普通の人々が指令に基づいてテロを起こしてしまうという新たな形になっているということがいえそうですよね。
一方のISなんですけども「イスラム国」「国」という名前を名乗っているというこれまで例えばシリア、イラクといったそういう地域で、ある種の占有地領土的な拡大を目指していたという印象があります。
今回は、こうしたパリの例に見られますようにその海外でテロを混乱を引き起こすということをやった、そこはある種のISの戦略の転換みたいなものは考えられるんでしょうか。
そういってよいと思います。
先月からトルコやレバノンでのテロ事件ですとかエジプトでのロシア機の爆破事件、そして今回のパリでのテロなどISは各地で大規模なテロを展開するようになっているわけですね。
その背景にはアメリカを中心とした有志連合がISの支配地域の空爆を強化していて守勢に立たされている中であえて海外でテロを展開することで国際社会を混乱させて有志連合の矛先を逸らそうという狙いがあるんだといわれているんです。
この1月に、ここで新聞社襲撃事件があって大変ショッキングな事件で私も、ここに取材に来て感じたことはショックな部分、われわれはそうした暴力に屈しない立ち上がるんだという決意のようなものも同時に感じたんですね。
ところが今回、いろいろ話を聞いてみますとある種の無力感といったら違うかもしれませんが感じている危機感のレベルが違うような異にするような印象を持ったんですけども鴨志田さんは、どう感じますか?
今回のテロに対する市民の受け止めというのがこれまでの事件とはかなり様子が違うというふうに思います。
新聞社が襲われた事件のあとにはパリの市民はフランスが掲げてきた言論の自由を守ろうとパリだけでも100万人の人が街頭に出て、デモ行進に参加して連帯を呼びかけていたんですね。
ところが今回は今なおテロの恐怖に人々は、おびえていて事件から2日後に、この広場で集会が呼びかけられたときも僅かな物音で人々は一斉にパニックに陥ってわれさきにと逃げ出す姿が世界に報じられました。
いかに今回の事件が人々に深い恐怖を植え付けているかを物語っているんだと思います。
まさに人々を恐怖に陥れることで多様で寛容な社会を分断しようというのがISの狙いです。
この凄惨なテロを前にフランスの人々が今同じ国民として結束を保っていけるのかあるいは人種や宗教の違いから対立を深めて分断されてしまうのかそこが試されてるような気がします。
鴨志田記者にはまた後ほど聞きます。
排他的になりがちな社会ではそれによって、居場所がどんどん狭まるつらさを味わうのは大抵の場合は少数の人たちです。
今回のテロの場合はフランスに住むイスラム教徒の人たちが有形無形の圧迫を受けている実体も明らかになっています。
イスラム教徒が多く住むパリ郊外のあるコミュニティーを取材しました。
イスラム教徒の住民が多いパリ近郊に向かいました。
この地区で最大規模のモスクです。
ふだんは多くの人が集まるモスク。
訪れる人は、まばらでした。
祈りをささげていたのはイスラム教徒をまとめる地区の代表たちでした。
金曜日の礼拝で信者の皆さんにどういうことをテロを受けてですねどんなことをメッセージを送るかということを声を一つにしようということでそのための緊急の打合せが今、行われるそうです。
この日は答えが出なかった話し合い。
イスラム系住民たちの間で苦悩が深まっていました。
イスラム教徒への差別をなくすため活動をしている団体を訪ねました。
嫌がらせを受けたという相談が殺到していました。
その数は、ことし1月にパリの新聞社が襲撃されたテロ事件のときをはるかに上回っているといいます。
そして、1月のテロ事件のときにはなかった新たな事態が起きているといいます。
同時テロ事件の3日後50人を超える警察官が突然、ドアを壊してモスクに入り捜索を始めたといいます。
破壊された天井。
教典は床に散らばっていました。
さらに、パソコンのデータも持ち去られたといいます。
自由や寛容を国の理念として掲げてきたフランス。
同時テロ事件後厳しい対応を打ち出しています。
政府は非常事態を宣言。
国境の管理を強化し過激な思想を持つモスクの閉鎖を検討し始めました。
オランド大統領はテロの封じ込めを徹底するため憲法改正に乗り出す方針も表明しました。
さらに、同時テロ事件はヨーロッパの難民政策を大きく揺るがしています。
ことし、ヨーロッパに押し寄せた難民や移民は80万人を超えています。
ギリシャのレロス島です。
トルコから海を渡ってきた難民がたどりつくヨーロッパの玄関口の一つです。
この島で、ヨーロッパ諸国が恐れていた事態が起きました。
同時テロ事件が起こる1か月半前の先月3日。
実行犯の一人が、ここで難民申請しヨーロッパに入っていたのです。
今も、連日200人以上の難民が押し寄せ地元自治体では対応が追いつかないといいます。
大量に押し寄せる難民の中にテロリストが潜んでいるかもしれない。
ヨーロッパの国の中から難民政策の見直しを求める声が上がっています。
シリアなどからの大勢の難民を受け入れてきたパリ近郊の街です。
同時テロ事件を受けて住民たちの間に感情の変化はあったのか。
同時テロ事件から1週間。
寛容の国・フランスが揺れています。
反イスラムを掲げる集団が犠牲者を追悼する集いに押しかけました。
しかし、同調する市民はおらず集団は退散しました。
イスラム教徒の女性が掲げるのは「フランス国民と団結」というメッセージ。
草の根レベルで市民たちの対話が続いています。
社会の分断を乗り越えることができるのか。
モスクの代表を務めるムアメッド・エニッシュさんです。
1月に起きた新聞社を襲撃したテロ事件後イスラム教徒のことを正しく知ってほしいと一般の住民たちと対話を続けてきました。
1月の事件のときも私はここに取材に来たんですがあの1月の事件と今回のテロっていうのはひょっとすると2倍あるいは、それ以上に問題は皆さんにとって深刻ということになりますね。
今、あの事件を受けてこの地域のムスリムの皆さんがどのようなメッセージをどのような形で発するべきだと考えていらっしゃいますか?そして、エニッシュさんはフランス社会が分断の方向に向かったとしても決して諦めないという決意を語りました。
再び鴨志田記者です。
今のエニッシュさんの取材を終えて分かれるときに私は本当に道は険しいけれど頑張ってくださいとしかいえなかったんですね本当に道は険しいと感じたんですけど鴨志田さんの目から見てどうでしょうか。
フランスには多くの人が移民しているといわれましていまや中東や北アフリカから移り住んでこのフランス社会に同化しようと懸命に取り組んできた1世はほとんどいなくなって移民の2世や3世がほとんどの移民を占めるようになっているんですね。
そうすると同じフランス人に生まれながらなぜ移民の家系に生まれたという理由だけで差別されるのかという怒りが、渦巻いているわけですね。
今回の事件のあとにこの当局の高圧的な対応ですとかほかの国民の冷ややかな視線を受けてイスラム系の移民の若者が一層、反発してこのフランスという国への帰属意識を失ってまた、ISへと傾斜してしまうことが懸念されます。
今回の事件の、もう一つのショッキングな出来事パリの人たちにショックを与えているのはテロリストとなった若者の中に今、大量にシリアなどから押し寄せている難民。
その難民申請をしていた人間が加わっていたことが明らかになって、それが非常にここではショックとして受け取られていますよね。
実行犯の中に難民申請をした男が含まれていたということはフランスのみならずヨーロッパ全体にとって最も避けたいシナリオだったと思います。
シリアの内戦が長期化してめどが立たない中でことしの夏ごろから大量の難民が堰を切ったかのように今では1日8000人ものペースで難民がヨーロッパにたどりついているんですね。
EU・ヨーロッパ連合はなんとか各国の間で受け入れの割り当てを決めたものの難民の中にテロリストが潜んでいるということになりますと一気に受け入れを拒絶する空気が広がりかねません。
フランスのオランド大統領はそれでも難民を受け入れ続けるといっていますけれどもすでに国内の一部からは受け入れに断固反対する声が上がり始めています。
国際社会が4年以上にわたってこのシリアの内戦を放置した結果いわば被害者である難民と同時に加害者であるISのテロリストの両方がシリアからヨーロッパを目指すようになってしまったわけでフランスをはじめ各国は難民保護とそしてテロ対策という両立が極めて難しい課題と向き合うことになっているんです。
対ISという面で考えたいんですけどフランスはまさに対ISの最前線に立っている感がありますよね。
アメリカやロシアにも協力を呼びかけている。
今後のそうしたISに対する掃討作戦の展開はそこら辺はどんなふうに考えていますか?
テロのあとオランド大統領はISへの空爆を強化する一方でこれまで対シリア政策をめぐって対立していたアメリカとロシアの両方と連携して対IS包囲網を築きたい考えなんですね。
ただ、フランスはかつてのイラク戦争でアメリカによる軍事介入に反対したように中東への軍事介入を安易にしてしまうことは大きな混乱を招くとして常に慎重な立場をとってきたんですね。
ですから空爆によってISが一時的に弱体化したとしてもテロの脅威は長期にわたって続くということもほかのどの国よりも理解しているはずだと思います。
さらに米露の間に入って軍事作戦の主導権をとるということは混迷を深めているシリア情勢の行方にも重い責任を負うという意味でありまして外交上も大きなリスクを背負うことになります。
フランスのみならずこの国内を、まとめること。
そして、対ISという対外的な連携を強めること。
それぞれに難しさというのはあるんでしょうけどあるいは限界もあるでしょうがそうしたことをすべて総合して今度の出来事ということが国際社会そして、フランスに投げかけた課題というのはなんだと考えますか?
14年前のアメリカの同時多発テロ事件のあと当時のブッシュ政権がアフガニスタンやイラクで推し進めた軍事力によるテロとの戦いは世界にさまざまな多くの犠牲も生んできたわけですね。
その教訓をもとに今、国連では対テロ作戦を決して国際法を逸脱してはいけないということですとか何よりもテロの根本原因である国内外の格差や差別を解消していくことが重要だと今、声高に言われるようになっているんですね。
それに加えましてたとえテロ対策を重視する立場からでもシリアから命からがら逃れてきた難民に門戸を閉ざすというのは国際人道上許されないとなっているんです。
テロを受けて悲壮な決意をしたフランスですけどもさまざまなジレンマを抱えながらいかにISとの戦いを押し進めていくかというのはいわば世界に共通する重い課題になっていると思います。
ここまで鴨志田記者とともにお伝えしました。
今、指摘がありましたように今回の事件というのはフランスというそして世界を代表するといっていいその民主主義国家の根幹を揺るがすそして、分断の危機をはらむ事件といえそうです。
しかし、実際にパリの街を歩いてみますとそれでもカフェには大勢の人たちが食事や会話を楽しんでいらっしゃいますし実際に話を聞いた一人は力の解決ではなくて私たちは生きることを楽しむことを体現していくことで暴力と戦っていくと話している人もいました。
私は、そのことばに心を打たれました。
今、世界で起きているいろいろな出来事いろいろな混乱の根底に今まで放置されてきた長い歴史の矛盾があったとすればそれを解決していくのもまた長い道のりになると思います。
それを地道に続けていくことそれが遠回りのように見えて実は唯一の近道なのかもしれません。
きょうはパリからお伝えしました。
2015/11/20(金) 22:00〜22:58
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「パリ同時テロ事件の衝撃」[字]
パリで起きた同時テロ事件。欧州が掲げてきた「人権・自由・寛容」の理念が脅かされ、社会に分断が生じている。世界はテロの脅威にどう向き合えばよいのか。最新現地ルポ。
詳細情報
番組内容
フランスのパリで起きた同時テロ事件。過激派組織ISは「恐怖はまだ続く」と声明を発表。国境を越え広がるISの脅威に、世界がしんかんしている。難民の中に紛れてテロリストが入り込むという懸念が現実のものとなったことで、ヨーロッパが掲げてきた「人権・自由・寛容」の理念が脅かされ、社会に分断が生じている。世界はテロの脅威にどう向き合えばよいのか。最新の現地ルポを軸に、国際社会に突きつけられたテロの背景に迫る
出演者
【キャスター】大越健介,【解説】NHK記者…鴨志田郷
ジャンル :
ニュース/報道 – 報道特番
ニュース/報道 – 海外・国際
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:17104(0x42D0)