消費税率を10%に引き上げる際、食料品などの税率を現行の8%にとどめる軽減税率の導入を巡って、自民、公明両党の溝が深い。

 外食を含む飲食料品全般を対象にする案など、幅広く適用したいのが公明党だ。自民党は、消費税収を社会保障に充てることを決めた「一体改革」の枠組みを重視し、生鮮食品などに限るよう主張している。

 消費税には、所得の少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」がある。与党が軽減税率を検討し始めたのは、逆進性を和らげるためだった。ところが、ここへきて「景気への悪影響を小さくする」「痛税感を緩和する」との狙いが語られている。

 そればかりか、軽減税率導入に伴う税収減の穴埋め策として、低所得者向けの社会保障給付の取りやめが浮上するなど、本末転倒とも言える議論が続く。

 ■検討されない2案

 そもそも、軽減税率では支援の必要がない高所得者も恩恵を受ける。税収減の度合いと比べて低所得者を支える政策効果は大きくない。

 低所得者対策を中心とする「再分配」の仕組みを整えることは、税財政政策の眼目である。自民、公明両党もよくわかっているはずだ。

 民主党政権だった3年前、自公両党も賛成して成立した税制抜本改革法には、次の三つが逆進性対策として列挙された。

 まず、給付付き税額控除。税額控除とは納税額を直接減らす減税手法のことだ。税制と社会保障などの給付を一体で設計しようという考え方である。

 次に、総合合算制度。医療や介護、保育の自己負担を個人ごとに合計し、上限を設ける仕組みだ。所得の少ない人にとって、社会保障に伴う保険料や自己負担の逆進性は消費税より大きいとの指摘がある。総合合算制度は、保険料が対象外ではあるが、社会保障に伴う負担を取り上げた点が注目された。

 そして、軽減税率である。

 給付付き税額控除は、負担と給付を国民ごとに把握する手段が乏しいことが難点とされてきたが、来年から本格導入されるマイナンバーを使えば道が開けそうだ。ところが、与党は検討を始めるそぶりすら見せない。

 総合合算制度にいたっては、制度導入のために消費増税分の一部を充てることになっていたのに、軽減税率導入に伴う税収減対策として、撤回の方向で与党が合意してしまった。

 どんな制度が負担と給付の観点から公平なのか。根本から考える絶好の機会を、与党は自ら放棄している。

 ■変化に遅れる税制

 政治の「迷走」を横目に、再分配について議論を続けている組織がある。官と民、二つの税制調査会である。

 政府税調は、働き方やライフスタイルの多様化など、構造変化に合わせた税制をテーマに掲げる。国民の所得や資産の状況について、現役組や高齢者といった世代にとらわれがちだった従来の見方を脱して「正社員と非正規社員」「貯蓄や不動産の多い人と少ない人」といった観点からとらえ直すのが狙いだ。

 このほどまとめた論点整理では、若い低所得層の負担を軽くするべきだという方向性を示した。世代を問わず所得や資産が多い人にもっと税金を納めてもらい、貧しい人への支えを厚くするための税制改正を目指し、来年夏に答申を出す。

 もう一つが、大学教授や元官僚らが「納税者一人ひとりが税制を考えよう」と立ち上げた民間の税制調査会だ。政府税調が省庁の縦割りから議論の対象を税制に限っているのに対し、民間税調は医療・介護などの保険料や自己負担、社会保障を中心とする給付も視野に入れ、再分配の全体像を問い直そうとしているのが特徴だ。

 高所得者が多く持つ株の配当や売却益への課税が軽いため、所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる。税制の再分配機能は弱く、社会保障頼みになっている。子どもの貧困から格差・不平等が世代ごとに拡大するのを防ぐため、社会保障と教育政策を一体で考えたい……。独自の視点も交えながら、近く税制改革案をまとめる。

 ■対策は待ったなし

 二つの税制調査会に共通するのは、少子高齢化と格差・不平等の深刻化が同時に進む日本の現状への危機感だ。

 社会の公正や安定への配慮にとどまらない。非正規や無業の若者が増え続ければ知識や技能の伝承が途切れ、国全体の成長力が低下しかねない。貧しい高齢者の増加を放置していては、既に不十分な社会保障制度や予算が破綻(はたん)してしまう。

 深刻な財政難を考えれば、「消費増税は10%まで」と見るのは楽観的に過ぎるだろう。だから今、再分配に正面から向き合うことが必要なのだ。

 与党には、こうした問題意識がないのだろうか。