あらすじ
2029年、震災後の日本。
人々はコンタクトレンズ型の拡張現実デバイス「カクリヨ」の作り出すもうひとつの現実と、すべてを予想する謎の量子コンピューター〈 IZANAMI 〉とともに生きていた。
ディザ☆スターと呼ばれる猟奇犯罪者たちがひしめく東北の復興特区「時巡市」は、震災後に無国籍企業〈 AIR 〉によって買い取られ、「忘却されるアーカイブではなく、忘却させないアーカイブを」というスローガンのもとに、カクリヨによる体験型アーカイブを実現させ、今や世界的な観光地として名高い。同時に時巡市は、新たなるテクノロジーの実験場となっていた。カクリヨ、自動運転される車やドローン、プラズマ廃棄システム、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)、時間哲学、遺伝子操作、体内時計を操作する薬〈 クロフィニル 〉、あらゆるものが投機対象になる新型SNS〈 PAX 〉、そして地下に埋められた最新の加速器〈 日本号 〉、新興宗教〈 クロノカルト 〉……。それらはすべて〈 AIR 〉の創業者である時彫一族の意思によって導入されたものだ。謎が多い時彫一族についてわかっているのは、彼らが「時間」と名がつくもの―物理学、生物学、情報科学、薬学、そして宗教と哲学―に並々ならぬ異常な興味を持っているということだけである。
物語は、時巡市に住む17歳の少年と、14歳の少女の出会いから始まる。