人間の3大欲求は食欲、睡眠欲、そして性欲である。
中でもセックスはドラッグなどを除けば、人生における最大にして最高の幸福であり快楽であるというのが僕の認識だった。
だからこそ皆それを手にするために必死なんだと思っていた。全ては性欲のためにオシャレに気を配ったり、藤沢数希の恋愛工学を購読したりして、多大な労力とコストをかけて異性を口説いているのだと思っていた。
僕はそれを確かめる必要があった。人間にとっておそらく最高レベルの快楽であろうことを体験せずして死ぬわけにはいかないと思った。どうせ死ぬなら一度だけ体験してそれから死ぬべきだと思った。
だから風俗に行った。
だが、それは僕が期待していたほどの快楽ではなかった。あまりに期待が高まりすぎていたのだ。これなら「右手」の方が優秀だと思った。
こんなもんか。こんなことのために皆必死なのか。賢者モードになる前に事の最中に賢者になっている自分に気づいた。
皆、こんなことのために必死になって、オシャレに気を配ったり、恋愛工学を購読したり、住宅ローンを組んだり、結婚式挙げたり、多大な労力と時間とコストをかけているのだと思ったら、何もかもが茶番に思えて虚しくなって生きていくのが嫌になった。
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1960
- メディア: 文庫
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