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本当に世界の人は日本のポップカルチャーに夢中なのか? 政府の「クールジャパン戦略」はこれだけズレている!

最先端のポップカルチャーを海外に売り出す構想は、なぜうまく行かないのか。日本政府が主導するプロジェクトの問題点と現状を、米有力誌が鋭く指摘する。
from The Atlantic(USA)
Text by Patrick St. Michel
Illustration by Takashi Taima for COURRiER Japon

自分たちがどんなにクールか、ぜひ世界に知ってほしい──。日本はずっとこう願い続けている。

この1年近く、日本政府は、海外進出を目指すプロジェクトに巨額の出資をするという発表を次々と行っている。例を挙げてみよう。

日本のポップカルチャー関連の情報発信やネット通販を行う「トーキョーオタクモード」。外国に積極的に出店しているラーメン店「一風堂」。日本のTVコンテンツを現地語で放送する専門チャンネル「WAKUWAKU JAPAN」……。世界に日本文化を売り込み、ビジネスとしてお金を儲け、2020年の東京五輪への関心をかきたてようというのだ。

10年ほど前から、日本は政府主導で「クールジャパン戦略」を展開し、いわゆる「国民総クール力(GNC)」の向上に力を入れてきた。アニメや漫画、音楽、食べ物などポップカルチャーの基本的な要素だけでなく、畳や塩など地味な製品も、GNCの担い手とされた。そして13年11月、海外に進出する企業やプロジェクトに数十億ドル規模の初期投資をする官民ファンド「海外需要開拓支援機構」、すなわち「クールジャパン機構」が設立された。

不発に終わるスターの売り込み

 日本が文化の輸出に力を入れ始めたのは、1990年代初頭のバブル崩壊から数年後のこと。80年代まで経済成長を支えた産業の代わりに、世界でも先端を行くというポップカルチャーの輸出に注力したのだ。ところが最近、人々の間である疑問が膨らんでいる──クールジャパンは誰に向けて発信しているのか? 外の世界か、それとも日本国内なのか?

2002年、「カリフォルニア・サンデー・マガジン」のダグラス・マクグレイ編集長は、日本の文化輸出について「フォーリン・ポリシー」誌に寄稿し、日本の「国産クール」を国家の「ソフトパワー」にたとえた。米国の映画や音楽、テレビ番組が全世界に浸透して、数十年前から「アメリカン・クール」のイメージを広めていることと重ねて論じたのだ。

マクグレイの記事は大反響を呼び、05年には、日本政府が「クールジャパン戦略」を公に語り始めた。NHKはその名も『cool japan 発掘! かっこいいニッポン』という番組で、外国人がJポップや菓子、建設現場など、日本のあらゆる特徴に感激する姿を放送している。

ただし、ここ数年の「クールジャパン戦略」は、特に欧米では散発的にしか展開されていない。日本のアニメや漫画の人気は、2000年代半ばに全盛期を過ぎた。もちろん「進撃の巨人」や「ワンピース」は海外でも人気で、テレビゲームや映画も相変わらず影響力を持つ。しかし、日本のポップカルチャー全体はニッチな人気のままだ。「ジャパノファイル(日本びいき)」「ウィーアブー(日本かぶれの西洋人)」という呼びかたに、好意的な響きはあまりない。

日本のスターを海外で売り出そうという政府の努力の多くは不発に終わっている。その一方で、クールジャパン戦略の手を借りず、ユーチューブで世界的に人気を集めるアーティストもいる。きゃりーぱみゅぱみゅや、アイドルのメタルバンド「BABYMETAL」などが好例だ。日本の前クールジャパン戦略担当大臣は、BABYMETALの3人をオフィスに招き、彼女たちが政府の支援なしで国際的に成功している理由を知ろうとした。

アジア諸国では、韓国が、国策として「韓流」カルチャーを猛烈な勢いで世界に売り込み、日本を追い越そうと図っている。実際、韓国政府の文化戦略はクールジャパンのはるか先を行く。韓国の映画やテレビ番組、音楽は多くの国に浸透し、欧米のアーティストもKポップのスターとの共演を望むようになった。

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COURRiER Japon Vol.133 天才の「法則」