南シナ海が「開かれた海」であり続けるために、日米が連携するのは当然だ。そうだとしても、米国は米国の、日本は日本の役割を大事にしたい。

 安倍首相がオバマ大統領との首脳会談で、南シナ海で米軍が行っている「航行の自由作戦」への支持を表明した。

 中国が埋め立てて造った人工島近くに米軍艦船を派遣し、国際規範に沿った「航行の自由」を示すのが作戦の狙いだ。独断でルール変更をめざす中国の行動は容認できるものではなく、首相の支持表明は理解できる。

 一方で、米軍の作戦が南シナ海の緊張を高め、偶発的な軍事衝突を招きかねないことも確かだ。中国に責任ある大国としての自制を促すためには、軍事的な抑止と、外交的な緊張緩和のバランスが求められる。

 その意味で懸念されるのは、日米協力の必要性を強調する大統領に対し、首相が南シナ海での自衛隊活動について「(海域の)情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と伝えたことだ。

 菅官房長官は「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」と説明したが、首相の発言は将来の自衛隊派遣に含みを残したとも受け止められる。先の国会での安全保障法制の審議では、南シナ海への自衛隊派遣について十分な議論はなかった。

 首相の真意は何なのか。やはり早期に国会を開き、きちんと説明してもらう必要がある。

 海上自衛隊の艦船は現在も南シナ海を航行しているが、継続的な警戒監視活動は行っていない。法制上、不測の事態への対応が難しく、活動に制約をかけてきた面がある。

 だが安保法制が来春に施行されれば、並走する米艦の防護が可能になるなど、米軍と自衛隊の共同行動がやりやすくなる。

 かねて米国からは、南シナ海での自衛隊の活動に期待が示されてきた。米軍の負担がそれだけ軽くなるからだろう。

 しかし、日本は中国を侵略した歴史があり、隣国でもある。日中が軍事的に衝突すれば、米中の場合以上に事態の収拾が難しいことは想像に難くない。

 日米が同じ行動をとることだけが連携ではない。日本として何を、どこまでするのか。国民的な議論が欠かせない。

 軍事的な行動を言う前に、東南アジア諸国などと連携しながら、経済や環境、エネルギーなど幅広い分野で中国を対話に巻き込み、同時に国際ルールを守るよう促していく。

 緊張緩和に向けた外交努力こそ、日本の役割ではないか。