司法試験:法科大学院教員を除外 来年の考査委員
毎日新聞 2015年10月21日 22時49分(最終更新 10月21日 23時13分)
司法試験考査委員だった青柳幸一・元明治大法科大学院教授(67)=国家公務員法違反で在宅起訴=が教え子に試験問題を漏らした事件を受け、再発防止策を検討していた法務省のワーキングチーム(WT)は21日、来年の試験問題を作成する考査委員から現役の法科大学院教員を外すよう求める提言をまとめ、同省の司法試験委員会に了承された。来年の試験に限った措置で、再来年以降の考査委員の任命の在り方についてはWTで引き続き検討する。
考査委員は法相が任命する非常勤の国家公務員。これまでは法律の実務家(裁判官、検事、弁護士)と法科大学院教授らの研究者で構成され、今年の問題作成を担当した考査委員132人のうち39人が研究者だった。
事件を受け、法科大学院教員を考査委員から外すよう求める声が強まったが▽問題作成には研究者の専門知識が欠かせない▽法科大学院の教育内容を試験に反映させる必要がある−−といった理由で現実には除外は困難との見方もあった。
WTは現役教員を除外しつつ、研究者の考査委員を確保する必要性も考慮。法科大学院での指導経験があるような研究者や、学部の教授らから選任することを提案した。
例年に比べ考査委員の任命が遅れており、法務省は今後速やかに人選を進める。1カ月程度で終えたい考えだが「主要な研究者の多くが法科大学院で指導にあたっている」(同省幹部)といい、難航する可能性もある。
事件では青柳元教授が2006年に現行試験が始まって以降、10年連続で考査委員を務めていたことも問題視された。WTは今後、考査委員の任期の在り方などについても検討を進める方針。
WTは弁護士や司法研修所で教官を務める裁判官・検事ら法律家計7人で構成。今回の提言は全会一致だった。【和田武士】
◇「不公平」解消に期待も
試験問題を漏えいしたとして起訴された青柳幸一元教授(67)が所属していた明治大法科大学院の今年の司法試験合格者は53人で、全国74校中8位の合格者数だった。考査委員を務める教員の多くは、元教授のように東京や関西圏の有名校や大規模校で学生を指導している。全体の合格率の低迷で法科大学院の淘汰(とうた)が進むが、こうした大学院は比較的人気が高く、司法試験合格者も多いのが現状だ。
合格者や合格率が「1ケタ」のような学校は入学者が少なく、教員数も多くない。法務省が考査委員を務める法科大学院教員に対し、修了者や受験直前の学生の指導を禁じているため、考査委員を出した場合、科目によっては授業が成り立たなくなるおそれがあるという。考査委員は東京での業務も多く、地方に拠点を置く教員にとっては負担が大きい。
法務省関係者によると、こうした事情から地方校の教員に考査委員就任を打診しても断られることがあり、結果的に都市部偏重の傾向に拍車をかけている面があるという。
地方の国立小規模校を経て、今年の試験に合格した20代男性は「東京の有名私立校に進学した友人から『考査委員の授業を受けている』と聞いてうらやましかった」と話す。考査委員の指導を受ければ「受験に役立つものの考え方や情報が自然と得られるはずだ」と考えていたという。
教員を完全に排除することには慎重論も根強いが、男性は「法科大学院教員以外の学者を確保できて、試験問題に研究者の視点が反映されるなら、その方が公平だ」と提言を歓迎した。【和田武士】