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127 ティロス廃工場、前編
首都プロレアから南へ一時間程テレポートで移動したところへ一つの街がある……いや、あった。
昔、魔導以外の技術「機械」という研究してきた技術者の街、ティロス。
ある技術者が子供のおもちゃを作るという名目で行われていた機械人形という技術、それに魔導を込める事で、それは強力な力を発揮したのである。
これが特に街の権力者にウケて、機械人形という技術は街を挙げての大研究となった。
そして研究の甲斐あって進化を続けた機械人形は高い戦闘能力を持ち、その力に魅了された街の権力者は機械人形を量産して首都へ歯向う手段にしようとしたのだが、事前に魔導師協会に見抜かれてその工場ごと研究は破壊されたらしい。
研究者たちも掴まり、人もいなくなったこのティロスという街はいつしかダンジョン化したのである。
「何か寂しいところね……」
「元々人が住んでいたところですし、人の消えた風景というのは不気味なんですよね……」
「あっはは~ここにお化けは出ないってゼフっち言ってたじゃないさ。クロちゃん」
両腕を抱いて震えるクロードを背中から抱いて、からかうレディア。
更にクロードの耳に口を近づけ、脅かすように呟く。
「でもそれはゼフっちの嘘でさ、……いるのかもしれないけどねぇ……?」
「ひっ……?」
「そ、そうなんですか?ゼフ君……」
レディアの脅かしにすっかりビビってしまったのか、青ざめる二人。
あっははと笑うレディアをこづき、フォローを入れてやる。
「誰がそんな嘘をつくかよ……ティロス廃工場、ここの魔物は全てそこで生産された機械人形のなれの果てだ。霊体系の魔物は全くいない」
ちらちらと雪の舞う寂れた街を歩き、ダンジョン化した街の中心、ティロス廃工場へと向かう。
工場が一番魔物が沸くポイントであるが、街にも少しは生息している。注意が必要だ。
「シルシュ、物陰から魔物が出てくるかもしれないし、警戒を頼む」
「は、はい……」
シルシュは先ほどレディアに脅かされ、完全にビビってしまったようだ。
レディアをじろりと睨み付けると、目線を逸らして口笛を吹いている。
全く困ったものだな……。
ふと余所見をして居た為、立ち止まったシルシュの背にぶつかってしまった。
シルシュは辺りを警戒するように少し身を沈め、その耳はぴこぴこと探る様に動いている。
「魔物、です」
シルシュの声に従い、前方にレディアとクロードが素早く立ちはだかる――――が、その一瞬の隙を狙い、遠くから破裂音が聞こえてきた。
音のした方を覗くようにレディアの瞳孔が開き、その手がひゅおと空を切る。
白い残像を残し、シルシュの眼前で動きを止めたレディアの手が掴んだものは小さな鉄の塊。
レディアの手に装備されたグローブからは摩擦によるものか、一筋の煙が揺らめいている。
一連の動作がギリギリ見えたのはワシくらいなもので、他の皆は何が起こったのかよくわかっていないようだ。
「これがゼフっちの言ってた銃弾ってヤツか。確かに厄介だねぇ~」
目に見えぬほどの速度で飛んできた銃弾をぽいと放り投げ、大斧を抜き放つレディア。
レディアの視線の先を見ると、兎の耳が生えた少女の人形が、兵隊のような格好をした魔物が見える。
発見と同時に、スカウトスコープを念じた。
ラッキーラビ
レベル68
魔力値21658/21658
おもちゃ廃工場の魔物、ラッキーラビ。
打ち捨てられた機械人形にダンジョンの魔力が宿り、動き出したものの一つである。
その手に持った装飾銃は連射こそできないが、長い射程と高い攻撃力を持つ。
ウサ耳の軍服少女という目を引く外見は相手を油断させるためのモノなのであろうが、そんなもので加減をするつもりは一切ない。
(しかし遠い……! 魔導の射程外だな)
シルシュが感じ取ったのはラッキーラビ一体のみ、下手にミリィたちについて来させると攻撃を食らう恐れがある。
「皆はそこにいろ。ワシがなんとかする」
走りながらブラックブーツを念じると、ワシの身体を風が纏い、走る速度を引き上げる。
ラッキーラビはまだ、銃の装填に時間がかかっているようだ。
次の一撃は食らうかもしれないが、その頃にはこちらの射程に捉えられるだろう。
(もうすぐ射程圏内……!)
そう思い、ふとラッキーラビの方を見ると、その姿は立ち塞がったレディアの影で隠されていた。
――――直後、ガツンという金属を叩く音と共にラッキーラビが地面へと叩きつけられる。
あの距離をもう駆け抜けたのか、恐るべしレディア。
レディアの一撃を貰ったラッキーラビは地面に叩きつけられるがすぐに起き上がり、銃に取り付けられた剣で応戦するが、それがレディアに当たるはずもなく、全ての攻撃に強烈なカウンターを決められていた。
がきんがきんと凄まじい音が鳴り続けるが、魔法で強度を高めた金属で出来たラッキーラビには、物理攻撃では大したダメージは与えられない。
宝剣フレイブランドを抜き放ち、レディアのすぐ近くまで駆けつけた。
「離れろ、レディア」
「おっけ~っ!」
ワシの声にすぐさま飛び退いたのを狙い、宝剣フレイブランドで斬りつけながらタイムスクエアを念じる。
時間停止中にブルーボール、ブラックボール、グリーンボールを念じ、剣から輝くレッドボールと共に解き放った。
「テトラボール!」
金色の軌跡と共に、ラッキーラビの胸に刺さった宝剣フレイブランドは、そのまま地面にラッキーラビを縫い止める。
しかしラッキーラビの魔力はまだ尽きていない。色のない瞳をこちらに向け、銃を探そうとぎこちなく手を動かしている。
かりかりと銃の柄を掻くその腕を踏みつけ、動きを完全に封じた。
地面に磔にしたままのラッキーラビを見下ろし袋を漁るワシに、レディアは不思議そうに尋ねた。
「ゼフっち、トドメは刺さないの?」
「ちょっとな」
ごそごそと袋から取り出した月光の籠手を腕に装着し、スティールを念じながらラッキーラビの、軍服を纏ったその胸にワシの手を突き入れた。
動きを封じられ、ワシの手で体内を弄られるラッキーラビは無表情のまま時折びくんびくんと震えている。
月光の籠手を装着する事で使える魔導「スティール」は、念じる事で魔力で構成された魔物の身体を透過し、その中からアイテムのみを抜き取る事が出来るのである。
ラッキーラビは高価な装備品であるラビットヘアバンドをドロップする為、スティールを使うとそれを手に入れやすいのだ。
ごぽ、とラッキーラビの身体から腕を抜くが、手に入れたものはただのネジ。
外れである。
用済みとなり、ぐったりと倒れ伏すラッキーラビにトドメを刺し、消滅したラッキーラビがドロップしたネジを袋に仕舞っているとミリィたちも駆けつけてくる。
「大丈夫だった?ゼフ」
「あぁ、レディアのおかげでな。数発食らうのは覚悟していたが」
「いや~ははは……それほどでもぉ~」
照れ臭そうに両腕を組むレディア。
「今の銃という奴でしたっけ? 相当強力だったと思いますが、こんな強い魔物が中には一杯いるんですか?」
「遠距離攻撃をしてくる魔物はこいつくらいだが、高い攻撃力と防御力を持つという意味ではこのレベルの魔物はうじゃうじゃいる」
「だ、大丈夫なんでしょうか? 不安です……」
クロードとシルシュは少々不安げだが、今のワシらならば大丈夫であろう。
「大丈夫だ。その為にテレポートピアスも渡してあるだろう?」
最悪の場合、テレポートを使えば逃げることは可能だ。
クロードとシルシュは少ないとはいえ何度かテレポートを使える魔力はあるし、レディアに関してはまぁ問題ないだろう。
警戒をしつつ進んでいくと、前方に巨大な門があらわれた。
所々錆びた鉄が剥き出しになった門は、どこかもの悲しさを感じられる。
「中から沢山の魔物と鉄の匂いがします」
「ティロス廃工場は北の大陸のダンジョンでは魔物の数がダントツに多い。囲まれそうになったらテレポートで逃げるんだ。奥へ行くほど魔力密度は高くなり魔物の数も増えていくが、逆に中の魔物は工場から外には出ようとしない。ばらけてしまったら一旦逃げて、ここで集合だ」
「わかりました」
注意を促して中に足を踏み入れると、警備気取りの四足の機械人形が赤い目をぎらりと光らせてくる。
ガーディアン
レベル62
魔力値12109/12109
スカウトスコープを念じると、ガーディアンの機械の目がきゅいんと開く。
丸みを帯びたメタリックなボディは中々に恰好がよく、ワクワクさせられるものがある。
いいデザインだ。ここの技術者はきっとワシと気が合う事だろう。
「ブルーゲイルっ!」
そんな事を考えていると、ミリィが問答無用のブルーゲイルでガーディアン3体を吹き飛ばした。
「何してんのゼフっ! ちゃんとダブルを合わせてよっ!」
「……悪かったよ」
モノの良さがわからぬミリィにため息を一つ吐き、ワシも戦闘に加わるのであった。

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