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128 ティロス廃工場、中編
道中の魔物を撃破しつつ、ティロス廃工場の巨大な敷地、その片隅へと足を向けた。
ティロス廃工場は大量のガーディアンが沸くのが特徴で、魔法金属で出来た機械の身体には魔導以外ではダメージが通りにくい為、戦闘時間も長くなり、注意しないとすぐに囲まれてしまう。
前衛を張るクロードとレディアも、苦戦を強いられているようだ。
「うひ~めっちゃ強いね~ここの魔物」
「ボクたちの攻撃ではびくともしませんね……」
「その分ワシらが頑張るさ」
「そうそうっ! 私とゼフで頑張るからねっ!」
ミリィがワシの肩に腕を回し、その小さな手でぺちぺちとワシの胸を叩く。
「ん、こちらは魔物の匂いがあまりしませんね」
シルシュの誘導に従い、進路を選びながら進んでいく。
魔物の数が多いこのティロス廃工場では、シルシュがいなければ中々目的の場所に進めなかったであろう。
とはいえ全ての魔物をスルー出来るはずもなく、ある程度は戦闘を強いられる。
「ブルーゲイルダブルっ!」
前方を塞ぐガーディアン二体ミリィと共に放った一撃で仕留め、また先へと進むのであった。
「何とか辿り着いたな」
目的地である工場敷地内の片隅、ここは後ろを壁で囲まれており、魔物も殆ど沸かない場所である。
ここであれば奇襲を受けることは殆どない。
「で、どうするんだっけ?」
「クロードとレディアがここに魔物を引き連れて来て、それをワシとミリィがブルーゲイルダブルで一確していく。シルシュはワシらへの魔力の回復と、誰かがダメージを負った際のリカバリーだ。最悪の場合は狂獣化して暴れて貰う」
「は、はい。頑張ります!」
そう言って両手を胸の前で握るシルシュ。
クロードとレディアの方を向くと、共に戦闘準備をしているようだ。
緊張気味のクロードは胸に手を当てて深呼吸をし、いつも通りリラックスしているレディアはうーんと大きく伸びをした。
「二人にはブラックブーツを常時かけておく。出来るだけ切らさぬようにするが、そちらでも気を付けてくれ」
「わかりました」
「おっけ~っ」
ブラックブーツを念じると、二人の身体を風が纏い、その髪がふわりと揺れた。
「では、やるとするか」
「はい」
「んじゃ、行ってくるね~」
クロードとレディアは共に逆方向へと駆け出し、その後をガーディアン数体が追っていく。
さて、二人が帰ってくる前にアインを呼んでおくとしよう。
サモンサーバントを念じると、光の中からアインがあらわれ、その閉じた瞳と翼を勿体振るようにゆっくりと開けていく。
いつも普通に出てくるくせに、何を勿体ぶってカッコつけてるんだこいつは……。
「なぁに?おじい」
「……一応呼んでおいただけだ」
「なによそれーっ! 私だって急がしいんだからね!」
呼んでもない時に出てくる癖に……。
大量の魔物を相手取る戦闘は、効率自体は良いがリスクも高く、処理に手間取りすぎると全滅もあり得る。
万が一の際に備え、神剣アインベルを使う事も考えて、アインを待機させておくべきだろう。
「ここの魔物は高級媒体を落とすのだ。それを拾うのがお前の仕事だ」
「了解っ!」
文句を言っているアインに餌を吊り下げると、面白いほどすぐ食いついてきた。
まるで兵隊の様に敬礼し、ぴんと背を伸ばすアイン。
相変わらずどこから知識を得ているのか謎である。
「……来ます」
シルシュの言葉で、ワシもミリィも戦闘体制へと移行する。
シルシュが指差す方向へ意識を向けると、地を鳴らす音が聞こえてきた。
(ゼフ君、今から……そちらへ向かいます。ガーディアン六体……っ、くらいです!)
クロードからのあまり余裕のなさそうな念話が聞こえ、ミリィとシルシュが身構えた。
アインは餌を待つ犬のような顔をしている。
「ミリィ、上手く狙えよ!」
「うんっ!」
すぐにクロードと、その後ろを追うガーディアン数体が見え始めた。
ガーディアン共は各々かなりバラけており、クロードは必死でそれから逃げているようだ。
ミリィの動向に注意し、その狙いと動きに合わせていく。
ミリィが息を吸い、手に魔力を練り上げていくのに合わせてワシもブルーゲイルを念じた。
「ブルーゲイルダブルっ!」
二重に強化された青い氷嵐がガーディアンの群れを直撃し、その身体を錐揉みさせながら宙に吹き飛ばす。
(一体撃ち漏らしたか)
氷嵐に巻き上げられ、がしゃがしゃと落ちてきて消滅していくガーディアンの群れの残骸、その横から一体のガーディアンがすり抜けるようにこちらへと突撃してくる。
クロードがそれに気付き、向き直ってガーディアンと相対しようとするのを制する。
「クロード、構うことはない。そいつをそのまま引き連れて行け」
「ええっ!? 倒さないんですか?」
「次に引き連れて来た時に、纏めて倒した方が効率的だろう?」
「な、なるほど確かに……」
納得したクロードにブラックブーツをかけ直し、また魔物を集めに行って貰う。
(あと数を伝えてくれなくても大丈夫だ。どうせ一撃で倒せなかった分はもう一度引き連れて行って貰うしな。あと出来るだけ纏めてくれると魔導で狙いやすくて助かる)
(……善処します)
それから暫く、クロードは時々攻撃を盾で逸らしながら前回より纏めてガーディアンを引き連れてきた。
今度はブルーゲイルダブル一撃で、魔物の群れを消し飛ばし、アインが落ちてきた高級媒体を拾いに走る。
「わーいっ!」
「ナイスだクロード」
「えへへ……ありがとうございます」
照れるクロードにブラックブーツをかけ直して送り出す。
その様子を見ていたシルシュがぼそりと呟いた。
「私も何だかやりたくなってきました……」
余程やりたくてウズウズしているのか、尻尾をぱたぱたと振っている。
これはあれだ。
昔、飼っていた犬にモノを放ってやると喜んで取ってきた……。
「取ってこい?」
「はわっ!?」
ミリィのツッコミに、シルシュが小さく声をあげる。
「こらミリィ、そういうことは思っていても口に出すもんじゃない」
「うぅ……ゼフさんも同じこと思ったんですね……」
へこむシルシュをミリィと二人でなぐさめていると、帰ってくるクロードが見えたのであった。
クロードの引き連れてきた魔物の群れを消し去り、また送り出す。
そしてバラバラと落ちてくる高級媒体を、拾い食いしているアイン。
行儀が悪いぞ、全く。
「それにしても、レディアさん遅いですね……」
「そうね……大丈夫だと思うけど……レディアだし」
確かにクロードはもう何度か戻って来たというのに、レディアは未だに戻って来る気配がない。
まさか死んではいないだろうが、囲まれて逃げられなくなった可能性も無きにしもあらず。
念の為、呼んでみるか。
(レディア、そっちは大丈夫か?あまり時間が経つとブラックブーツが切れてしまうぞ)
(おおっ!ごめんねゼフっち~魔物を集めるのに夢中になっちってさ~そろそろ戻るよ~)
あっははと笑いながらレディアが答える。
今まで集めていた……だと……?
嫌な予感に冷や汗を流していると、シルシュの耳がぴくんと動く。
「レディアさんが戻ってきます……沢山の魔物の匂いも……!」
シルシュの指差す方を見ると、凄まじいまでの土煙が見えた。
地鳴りと共に、ガチャガチャと金属の擦れ合う音も聞こえ始める。
おいおい何十匹いるんだ?
(……これはマズいな)
処理をミスると大惨事になるかもしれない。
ミリィを下がらせ、アインの手を掴む。
「ミリィ、ワシがミスったらフォローを頼む。最悪シルシュとワシを掴んでテレポートで飛べ」
「わ、わかった……!」
「アイン、剣になれ」
「はーい」
光と共に神剣形態になったアインベルを構え、一歩前に出る。
万が一、ミリィとのブルーゲイルの同時念唱に失敗すると、一撃で魔物の群れを一掃できない可能性があるからだ。
レディアの引き連れてきた魔物が全貌を見せ始め、レディアはひょいひょいと攻撃を避けながらこちらへと近づいてくる。
……五十体はいるぞこれは。
しかしレディアの魔物コントロール能力は高く、全ての魔物をブルーゲイルの範囲内に収めている。
確かにクロードに魔物を纏めてくれと数は言わなくていいとは言ったが……。
「お~い帰ってきたぞ~」
しかも楽しそうに手を振っている。
そういえば集めるのに夢中になってたとか言っていたな。
出来るだけ安全に……そうだ、アレを使ってみるか。
(レディア、今から目の前に大穴が出来るから、飛び越えるのだ)
(へ? んと……うん、わかった)
タイムスクエアを念じ、神剣アインベルにレッドボール、ブルーボールを込め、振るうと同時にブラックボール、グリーンボール、ホワイトボールを念じ、解き放つ。
五重合成魔導、
「プラチナム……スラッシュ!」
白光が辺りを包むと共に、ぴしりと音が鳴り、足元を払うように描いた剣の軌跡は、ワシの眼前に巨大な亀裂を作り出していた。
亀裂の幅はレディアの背丈の二倍ほどで、底は見えない。
予想以上に広くなってしまったが、レディアはちゃんと飛び越えられるだろうか……。
「おおっ♪ ゼフっちすご~い!」
感嘆の声を上げながら、走る速度を上げてそのまま亀裂を問題なく飛び越えるレディア。
勢い余ってワシの身体にそのままのしかかり、押し倒されてしまった。
「ったた……ごめんね。調子に乗っちゃって……」
「いや、数を指示しなかったワシも悪いよ……ところで退いてくれるか?」
「あっはは」
レディアの胸がワシの顔から離れ、立ち上がって後ろを振り返ると亀裂にガシャガシャと落ちていくガーディアンたちが見える。
「うわ……すっご……」
「倒してしまうぞ、ミリィ」
「う、うんっ……」
ミリィと二人で念じたブルーゲイルダブルによって、氷嵐に巻き上げられた魔物が消滅したのであろう、高級媒体と鉄クズやネジがバラバラと落ちてくる。
用が済んだので、アインを神剣形態から人型へと戻すと、直ぐに落ちた高級媒体の元へと突っ走っていった。
「わーい!ごっはんー♪ レディアありがとーっ!」
「あっはは~いえいえどういたしまして」
両手いっぱいに高級媒体を抱えたアインが、レディアに擦り寄っている。
アインの中でレディアの株が上がっているようだ。
現金な奴め……。
「レディア、今のは少し多すぎるな。倒しきれないとピンチになってしまう恐れもあるし、次はもう少し控えめで頼む」
「ありゃ、ごめんねゼフっち」
「え~っ!もっといっぱい欲しいよ~っ!」
駄々をこね、レディアにしがみつくアインを引き剥がすが、レディアも満更ではないようである。
「言っておくがレディア……」
「わ、わかってるってばぁ~次は控えめに、ね?」
「ならいいが」
それからレディアは回転重視になり、十体程度引き連れてすぐに戻って来るようになった。
アインは最初はぶーたれていたが、それでも倒す度に幾つかドロップする高級媒体を拾っていく内に機嫌もかなり直ってきた。
ガーディアンを夕方まで大量に倒し続け、終わる頃には袋に入りきらないほどのドロップアイテムを獲得していた。
効果はゴミだがガーディアンカードも二枚、もちろんレベルも皆、上昇したようである。
「私、レベル上がったよー♪」
「私は多分六つくらい上がったと思います」
特にレベルの低いシルシュはかなり上がったようだ。
ワシもミリィと同じくレベルが上がったようである。
浮かれている皆を見ていると、頭の中に直接声が聞こえてきた。
(ゼフ君、少しいいか)
凛とした女性の声、どこかで聞いたような……まさかっ!?
(アゼリア……か?)
(あぁ、久しぶりだね。元気をしていたかな?)
以前関わりを持った派遣魔導師のアゼリア、である。
東の大陸で別れて以来、ずっと音沙汰がなかったが一体何の用だろうか。
(実はキミが今使った魔導なんだが……ダンジョンの魔力を大きく削ぎ落としてしまうので今後は使わないで貰いたい)
(……見られていた、というわけか)
(おいおい、私だって見たくて見ていたわけじゃないんだ。先日雪山で凄まじい魔力の痕跡が見つかって協会では大騒ぎになっていたんだよ。残った魔力の感じから心当たりを調査してみたら……やはりキミだったというわけさ)
しまったな……あれほどの威力の魔導だと、確かに魔導師協会が目をつけても不思議ではなかった。
一度目はともかく、二度も使ったのは完全に失敗だった。
(ま、上には報告しないでおくよ。だからもう二度と使わないでくれよ? 私もキミと事を構えたくはないしね)
(……わかった。忠告感謝する)
(オッケーいい子だ)
アゼリアはそのまま念話を切ってしまった。
うーむもうプラチナムスラッシュは使わない方がいいな……。

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