同時多発テロがおきたフランスのパリは、いまも緊張状態にある。関係先とされる現場では当局による銃撃戦もおきている。平穏な市民生活が一日も早く戻るよう望みたい。

 オランド大統領には、当面の治安を回復し、国民の動揺をやわらげる責任がある。同時に、大局的にみてテロの土壌をなくすには何が必要か、冷静で着実な施政を考えてほしい。

 オランド氏は、自国が「戦争状態にある」と宣言した。呼応して、米国とロシアはシリア空爆での連携を確認した。欧州連合では、相互防衛条項を発動することになった。

 テロに怒り、高ぶる世論があるのは仕方あるまい。だが一方で、暴力の連鎖を抑えるうえで有用なのは、力に傾斜した言動ではなく、落ち着いた分析と対応である。

 「対テロ戦」をかかげて軍事偏重の戦略にひた走った米国のあと追いになってはならない。イラク戦争が、今回の事件を企てたとされる過激派「イスラム国」(IS)の台頭をまねいた教訓を思い起こすべきだ。

 テロ対策は、組織網を割り出し、資金源や武器ルートを断つ警察、諜報(ちょうほう)、金融などの地道な総合力を注ぐ取り組みだ。病根をなくすには、不平等や差別、貧困など、社会のひずみに目を向ける必要がある。軍事力で破壊思想は撲滅できない。

 とりわけ今回のテロで直視すべき事実は、容疑者の大半は、地元のフランス人とベルギー人だったことだ。欧州の足元の社会のどこに、彼らを突き動かす要素があったのか、見つめ直す営みが必要だろう。

 オランド政権は、治安対策を強める憲法改正や、危険思想をもつイスラム礼拝所の閉鎖、外国人の国外追放手続きの簡素化などを提案している。

 それらは本当に自由主義社会を守ることにつながるのか、深い思慮を要する。異分子を排除するのではなく、疎外感を抱く国民を包含するにはどうすべきか。人権大国として、移民社会の現状や国民の同化政策をめぐり、開かれた議論を進めることも肝要だろう。

 冷静な対処はむろん、フランスだけでなく、米国、ロシアを含む国際社会にも求められる。

 事件の背後にいるISに対し、有志連合を主導する米国は空爆を拡大し、ロシアもISの拠点都市などを爆撃した。巻き添えになる人びとの被害は、改めて憎悪の連鎖を広げる。

 テロを機に国際社会が最も連携すべき目標は、シリアの停戦を含む中東和平づくりにある。