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【社説】

「先生の数」論争 元気に働ける環境こそ

 少子化の歩調に合わせ、先生の数を減らせと主張する財務省。子どもと丁寧に向き合うには、応じられぬと反論する文部科学省。肝心なのは、先生が活躍しやすい環境をどう整えるかという視点だ。

 全国の公立小中学生は九百六十九万人。今後九年間で九十四万人減る。一学級当たり一・八人という今の先生の数をどう見直すか。来年度予算案の編成を控え、財務省と文科省の綱引きが激しい。

 割合を維持しても、今の六十九万四千人から三万七千人減らせると財務省ははじく。人件費の国庫負担分を抑えたい立場としては当然の主張だろう。

 文科省統計では、いじめや校内暴力は増加傾向にある。不登校の人数も高止まりだ。学級の小規模化も、学力の底上げにつながるとは限らないとする論議もある。

 先生を手当てすれば、課題は解消するのか。さらなる増員が不可欠というなら確かな証拠を示せと財務省はいう。費用対効果にこだわる気持ちも分からなくはない。

 しかし、子どもが抱える問題の背景には入り組んだ困難がよく潜んでいる。障害や貧困、虐待に苦しんでいるかもしれない。日本語に不慣れな外国人の子も多い。

 学校教育とは学力面ばかりではなく、子どもの全人的成長を支える営みである。いじめや暴力といった負の経験でも、成長のための肥やしに転化させようとする努力もまた、そこには含まれる。

 さればこそ、先生の数と子どもの成長ぶりとの因果関係を可視化するのは難しい。むしろ、うかつなデータ化は、子どもを一面的にしか評価しない風潮をますます強めかねず、かえって危うい。

 それより職場環境の改善という見えやすい議論を望みたい。先生といえども生身の労働者である。

 文科省によると、先生の一日の平均在校時間は小学校十一時間三十五分、中学校十二時間六分。加えて、成績処理や授業準備などの仕事を自宅で一時間半余り。長時間労働が常態化している。

 厚生労働省が定める月八十時間の残業を基準とする“過労死ライン”を超えている恐れが強い。それなのに、切れ目のない特殊な仕事という理由で、相応の残業代は出ない仕組みだ。

 最も深刻なのは、精神疾患で休職する小中学校の先生が年四千人前後に上ることだ。文科省も財務省も、先生の熱意や善意に甘えすぎていないか。どんな数合わせをしようとも、先生が健康的に働けなくては絵に描いた餅である。

 

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