白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

2015年11月12日

(2)急な発熱、白血病が再発

 白血病という言葉は、心に大きなストレスをもたらします。一般的には映画やドラマの悲壮感あふれるシーンや、白血病で若くして亡くなった著名人(女優の夏目雅子さん、歌手の本田美奈子さんら)を思い浮かべ、「不治の病」というイメージが強いのかもしれません。私自身、2013年7月に初めて白血病と告げられた時、「それは、私が死ぬということですか」と医師に恐る恐るたずねた記憶があります。

 急性骨髄性白血病は、すべての血液細胞の源である造血幹細胞が、骨髄の中で分化(特定の機能を持った血液細胞に成長・成熟すること)する過程でがん化し、骨髄や血液中で急増する病気です。正常な造血幹細胞なら、骨髄の中で増殖、分化し、赤血球、血小板、白血球などに成熟した上で血液中に送り出されます。しかし、白血病細胞(がん細胞)は増殖して骨髄を占拠し、正常な血液細胞が作られなくなります。このため、感染を防ぐ機能が低下して敗血症(血液中に菌が入り込み、高熱や血圧低下、意識障害などの重篤な症状が出る)などの重症感染症を合併し、多臓器不全(肝臓など複数の臓器が正常に機能しなくなった状態)に陥ることもあります。

 ほとんどの場合、白血病の原因は不明で、生活習慣や遺伝もほぼ関係ないといわれています。健康的な生活をしている人も含め、いつ、だれにふりかかるかわからない病気なのです。

 私は新聞記者という職業柄、夜更かし、寝不足は日常茶飯事でしたが、山登りやゴルフなど運動が大好きで、ジムでのトレーニングにもほぼ毎週通っていました。たばこも吸ったことはありません。13年の発病時に、医師から「取材で福島の原発事故現場に行きましたか」と聞かれました。被曝ひばくの可能性を念頭に置いた質問でしたが、「いえ、福島市は行きましたが、現場は行っていません」と答えると、「では、原因はわかりませんね」と言われてしまいました。

「入院してください」…想定外でぼうぜん

 白血病の再発は、イスラム過激派組織「イスラム国」による日本人人質殺害事件が大詰めを迎えた時期で、取材、原稿作りで忙しかったころでした。当時、私は政治部デスク(次長)で48歳。15年1月31日、仕事明けで家にいた私は夕方から急に体がだるくなり、夜、38度を超える熱と寒けに襲われました。「これはインフルエンザに違いない」と思い、翌2月1日、かかりつけの虎の門病院分院で血液検査を受けたところ、「好中球(白血球の一種。体内に侵入した細菌をのみ込む)が極端に少ない。白血病の可能性もないわけではないので念のため入院してください」と告げられました。入院も白血病も全く想定外だったのでぼうぜんとしてしまいました。

 3日に骨髄検査(骨髄に針を刺して中の骨髄液を取る検査)を受け、その結果から、翌4日には急性骨髄性白血病が再発していると主治医から告知されました。前回の白血病の退院から約1年2か月。この間、かぜ一つひかず、ずっと元気に過ごしていた私に、「再発」という最も恐れていた事態がさしたる前兆もなく、突然訪れたのです。

 ショックが大きすぎて、状況をしっかり自分のこととして受け止めることができませんでした。何しろ、つい先日までふつうに働いていたのです。告知された時も、熱はあっても、ほかに大した苦痛はありません。それなのに白血病再発とは……。悪い夢でもみているかのようでした。

 後に冷静に考えれば、すでに私の骨髄では白血病細胞が異常増殖し、逆に正常な血液細胞が著しく減少。細菌やウイルスに対する免疫力、抵抗力が急速に衰え、高熱が出たとみられます。

抗がん剤でがん細胞全滅ねらう…化学療法

 急性骨髄性白血病の代表的な治療法は、「化学療法」と「造血幹細胞移植」の二つです。

 白血病を発病したとき、体内にはおよそ1兆個の白血病細胞が存在するとされています。白血病を完治させるにはこの白血病細胞をすべて殺さなければなりません。抗がん剤による化学療法によって、1兆個の白血病細胞を1度の治療で全滅させるにはとてつもない量の抗がん剤が必要で、患者の体はとても耐えられません。

 そこで何度かに分けて抗がん剤治療を行い、徐々に白血病細胞を減らしていく戦略がとられます。最初に行う治療を寛解導入療法といいます(寛解とは病気が落ち着いている状態を指し、決して治ったという意味ではありません)。治療により白血病細胞が一定程度少なくなると、正常な血液を造る働きが回復します。末梢まっしょう血(体の中を流れている血液)には白血病細胞が見られなくなり、骨髄では白血病細胞の割合が5%未満になります。この状態を完全寛解と呼びます。このとき、白血病細胞は当初の1000分の1、つまり10億個程度まで減少しています。しかし、完全寛解とはいっても体内にはまだ10億個もの白血病細胞が残っており、ここで治療をやめると早晩再発してしまいます。

 このため、さらに地固め療法と呼ばれる強力な化学療法を何度も追加します(通常約1か月1回のペースで抗がん剤を数日間投与。これを3~4回行います)。体内の白血病細胞が100万個程度まで減ると、感度が高い遺伝子検査でも白血病細胞を検出することができなくなります。この状態を分子生物学的完全寛解といいます。

「病気と決別、移植しかない」…医師が断言

 13年に病気の見通しが良いとも悪いともいえない予後中間群の急性骨髄性白血病と診断された私は、寛解導入療法と地固め療法の2段階の化学療法を同年7月から11月まで受け、分子生物学的完全寛解に達しました。退院後、まもなく会社に復帰。後遺症も全くなく、体調は良好でした。しかし、化学療法による抗がん剤の「波状攻撃」を受けても生き残った白血病細胞がいたらしく、それが1年余の時を経ていきなり増殖し、再発と診断されてしまいました。

 私は化学療法を経験していたので、再発直後、「今回も化学療法で治してもらえませんか?」と担当医師に聞いたのですが、医師はとんでもないといった表情を浮かべ、「化学療法でいったん白血病細胞をやっつけても、再々発してしまう可能性大です。そうなると、一層治すのが難しくなります。白血病と決別したければ、移植しか道はありません」ときっぱり告げたのです。

 医師が示した移植とは、もう一つの代表的な治療法の造血幹細胞移植です。それは、私のように白血病が再発してしまったケースや、化学療法だけでは再発の可能性がかなり高いと予想されるケースなどで行われます。

 かつて化学療法で入院中、脱毛、口内炎、下痢など苦しい抗がん剤の副作用がいくつもありましたが、移植治療は化学療法とは比べものにならないほど、肉体的にも精神的にもきつく、つらいものでした。

コメント

そうですか・・・。
[UG]2015年11月14日

 第二段拝見させていただきました。
 どのような病気でどのような治療法があるのか?少しわかってきたような気がします。
 ここに投稿されている方々は同じ病気を体験されていらっしゃる方が多く、ありがたいことに今まで大した病気をしたことがない僕ごときには「場違い感」たっぷりですが、覗かせていただいています。
 今回は白血病という病気がどのような病気なのか?わかりやすく説明していただきました。
 さすが新聞記者さんなので文章は読みやすく、淡々とご説明されていらっしゃいますが、その行間に込められたお気持ちやご苦労は計り知れないものと感じます。
 看護婦であったうちのカミさんも読ませていただきました。「ご本人も大変だけど、奥様やご家族もきっと大変だったと思うの。その時ご家族はどのような気持ちでいらっしゃったのか?聞かせてもらえたらなあ、と思うわ」と。
 もし、よろしければ、よろしくお願いします。

いただいたコメントについて
[池辺英俊]2015年11月13日

筆者の池辺です。「今は寛解」された方からのコメント、いつまたほかのがんになるか怖いというお話。いわゆる「二次がん」といわれているものですね。お気持ちお察しします。私も二次がんや、再々発のことを考えると不安になります。ただ、心配してできるだけの対応をしてどうにかなることと、いくら心配しても仕方ないことがあります。がん再発の心配は(前兆がある場合は除き)おそらく後者なのではないでしょうか。いたずらに不安になったり、心配したりしていたは、心も体もまいってしまい、生きる力が失われてしまいます、率直に言って「損」だと思います。お書きになっているように、「元気に生きている今を大切に」という考え方に私も大賛成です。
その流れで、「素朴な疑問」さんの質問に一つ、答えるとしたら、一度目の白血病後、経過が順調だったこともあり、再発におびえることはほとんどありませんでした。忘れるように努め、忘れた頃に白血病が再来したという感じでした。
最初に白血病を告知されたときのショックは、正直、ちょっとだぶり感があるので入れるつもりはなかったのですが、検討させていただきます

素朴な疑問
[ぺピート]2015年11月13日

本当にきつい試練を体験し、そして乗り越えておられる姿にただただ感服するしかありません。
複雑な治療の行程の説明もありがとうございます。

第1回目よりさらに厳しいお話を読んで、素朴な疑問を持ちました。
それは、1番最初の発病のときの気持ちの持ちようについての記述がありません。今回は再発で、さらに厳しくなったことは充分理解できますが、最初の発病のとき、医師から説明を受けたときのショックは察するにあまりあります。
たとえ一時的によくなったとしても、再発の恐怖はどのような恐ろしさだったのか。

これからのお話の中で言及していただけるとありがたいです。

急性リンパ性白血病で移植しました。
[今は寛解]2015年11月13日

移植は科学治療よりきついもの というコメント本当にそのおとおりでした。
しかし、その移植の前に二人の100%マッチするドナーから提供を断られたのが一番ショックでした。

移植を断る側はきっと軽い気持ちで断るのでしょうが、その細い糸の先には一人の人間の命がつながっているっということをよく考えてから断っていただきたいものです。
そして、ドナーになる気がないなら、最初からドナー登録などしないでほしいです。
ドナーが見つかったときの喜びから断られたときの奈落の底に落とされる失望感、死への恐怖は言葉で表されるものではありません。

型の合わない姉妹からの非常に危険をともなう移植しか助かる見込みがありませんでした。

危険な移植、でも移植しなけレナ必ず訪れる死。1%でも助かる見込みの高い移植を選びました。

移植後のたくさんの困難を乗り越えて今に至ってます。移植するときに放射線を大量に浴びているので今後、別のがんに罹患する可能性が高いといわれています。いつまた他のがんになるのかはっきりいって怖いです。

寛解で元気でいる今を大切に毎日過ごしています。

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プロフィル
池辺英俊(いけべ・ひでとし)
 
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。
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