安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」実現に向けた、関係省庁案と自民党の提言が出そろった。政府はこの中から子育て支援や介護に絞って緊急対策をまとめ、今年度補正予算案や来年度予算案に反映させる考えだ。

 「希望出生率1・8」と「介護離職ゼロ」を優先する安倍首相の意向を受けたものだ。子育て支援や介護に重点を置くことは大歓迎だが、検討中の緊急対策には「大きな穴」がある。保育や介護の人手不足の問題と財源の問題である。重点分野であると言うなら、この問題への対応も示すべきだ。

 緊急対策の「目玉政策」になりそうなのが、保育所や介護施設の整備だ。「保育の受け皿」は2017年度末までに40万人分を整備する計画だったのを50万人分に上積み。介護も特別養護老人ホームなどを2020年度までに34万人分増やす計画だったのを、2020年代初頭までに40万人分整備するという。

 保育にしろ、介護にしろ、いまの一番の課題は人手が足りないことだ。いくらハコモノを作っても、そこで働く人がいなければ役に立たない。

 実際、東京都社会福祉協議会が昨年行った調査では、都内の特養の約半数が職員不足で、人手が足りないために利用者の受け入れを制限している施設もあった。

 厚生労働省の案などでも、人材確保策に触れてはいるが、介護職をめざす学生への支援の拡充など限定的で、抜本的な対策は見当たらない。

 おひざもとの自民党の会合でさえ「職員の待遇改善をしなければ人材難は解決しない。介護報酬も引き上げますと言うべきだ」といった声が出ている。

 その財源は、こころもとないのが実情だ。子育て支援は、税と社会保障の一体改革で、充実させることになった。保育士の増加や処遇の改善などに1兆円を充てることになっているものの、消費税が10%になっても3千億円が不足、穴があいたままになっている。

 さらに、6月に決まった「骨太の方針」では、社会保障費の伸びを抑える方針も掲げている。この中で、どう子育て支援や介護を充実させるのか。

 予算全体を見直して、子育て支援や介護を厚くしようとするのか。あるいは、社会保障充実のために増税などで必要な財源を確保するのか。そうしたことも含めて語るべきではないか。

 ゆめゆめ来年の参院選挙までの間の一時の「打ち上げ花火」に終わらせることのないようにしてほしい。