パリ同時テロ:IS、札束に火を付けろ 劇場で人質証言
毎日新聞 2015年11月18日 10時41分(最終更新 11月18日 12時46分)
【パリ賀有勇】13日のパリ同時多発テロで89人の犠牲者を出したパリ中心部のバタクラン劇場で人質となっていたフランス人男性が17日、実行犯と言葉を交わした様子を仏テレビなどに語った。実行犯は過激派組織「イスラム国」(IS)として来たと告げ、札束に火を付けるように指示したという。
男性は仏南部アルル出身のセバスティアンさん(34)。米ロックグループの公演が半ばに差し掛かった13日午後9時40分(日本時間14日午前5時40分)ごろ、武装した実行犯3人が正面入り口から侵入、銃を乱射しながらステージ前に向かった。
セバスティアンさんは劇場の2階に逃れ、窓のそばで身を潜めた。その際、窓の外でぶら下がっている女性に助けを求められた。他の観客が逃げ惑う中、セバスティアンさんは力尽きて約15メートル下の路上に落ちそうになっていた女性を引き上げた。女性は妊婦だったという。
妊婦を助けた後、2階から1階の観客を狙撃していた実行犯の2人に見つかり、他の観客約15人と共に約1時間、人質に取られた。
実行犯は「ISとして来た」「シリアで人々が感じている恐怖をお前たちに感じさせるためだ」「これは戦争だ。始まりに過ぎない」と告げた。
セバスティアンさんは、実行犯2人が身につけた起爆装置を見て死の恐怖を感じた。機嫌を損ねないよう冗談を言ってみたが、実行犯らは「黙れ」と逆上した。
実行犯は電話で警察に「警察を撤退させろ」と要求。人質を窓の見張り役につけ警察の位置を知らせるよう要求し、「近づくな」と何度も大声で叫んだ。
セバスティアンさんは、50ユーロ(約6500円)紙幣の札束を手渡され、「カネは大事か」と聞かれた。否定すると、ライターで札束を燃やすように指示された。
「途中で逃走をあきらめたように見えた」と話すセバスティアンさんは、2人について「理想を渇望しているように見え、それを求めることができない世界への復讐(ふくしゅう)心を感じた」と語った。
事件発生から約2時間半後の14日午前0時過ぎに警察特殊部隊が突入。それを見た一人が起爆装置を作動させて自爆し、もう一人が後に続いたという。
セバスティアンさんと助けられた妊婦は無事だった。セバスティアンさんは「私は英雄扱いされているが、英雄は亡くなった人たちだ」と語った。