潘事務総長の訪朝は金正恩氏にとっても大きなメリットがある。北朝鮮の現在の政策は、核兵器開発と経済復興を並行して行ういわゆる「並進路線」だ。つまり核兵器を保有した状態で国際社会から支援を受け、経済発展を成し遂げようとするものだ。しかし国際社会はこのどちらも手にしようとする北朝鮮の試みを絶対に認めない。もし北朝鮮が経済を発展させたいのであれば、必ず核兵器を放棄しなければならない。しかし金正恩氏はそのつもりは全くない。すでに国際的なルールを何度も破り、核実験と長距離ミサイル発射を繰り返して国際社会から制裁を受けているが、自分たちの過ちを認めたことは1回もない。北朝鮮が非核化の合意を何度も破ったことで、米国は「今後は北朝鮮が核兵器を放棄する何らかの行動を示さない限り、対話には応じない」との方針を今も引き続き堅持している。
国連は毎年、北朝鮮に対して人権問題を改善するよう何度も勧告を続けてきたが、金正恩氏は全く意に介していない。つまり金正恩氏の考えも態度も何も変わっていないということだ。このような状況で潘事務総長が北朝鮮に乗り込み、金正恩氏に会って笑顔で握手した場合、国際社会は北朝鮮に「免罪符」を与えたと受け取りかねない。専門家が予測するように、もし金正恩氏が年末年始を前後した時期に中国を訪問し、習近平・国家主席と会えば、国際社会は自らの核兵器保有を認めたと錯覚する恐れも出てくるだろう。そうなれば潘事務総長の訪朝は実績の積み上げに全く効果がないだけでなく、大統領選挙に臨むに当たっても大きな負担になるはずだ。潘事務総長も自らの訪朝が金正恩体制の宣伝に利用される可能性について理解していないはずはない。潘事務総長がもし実際に北朝鮮に行くことになっても、絶対に金正恩氏に利用されるだけで終わってはならない。