日曜美術館「夢のモネ 傑作10選」 2015.11.15


ここはパリ市内の美術館。
世界各地から人々がひっきりなしに訪れる一角があります。
熱い視線の先にあるのは…。
クロード・モネの代表作…淡い色彩。
心落ち着く自然の描写。
しかし2014年の科学調査で想像を超えた躍動感のある事が分かりました。
モネは下描きせずに一気に描いていたのです。
みんな動いてるっていう感じが好きですよね。
ライブな感覚というか…ダイナミックさを感じますよね。
更に睡蓮を巧みに描き分けたモネ。
その変化からモネが追い求めた壮大なスケールの美が浮かび上がります。
この水の鏡の全ての中にですねなんか地球を思わせるぐらいの力があるというか。
風景画の名手・モネの傑作10選。
知られざる魅力をひもときます。
「日曜美術館」です。
今日は印象派の巨匠クロード・モネ。
もう大変な根強い人気を誇る画家ですよね。
モネの絵は自然の中にある情緒というものがあふれ出している感じがとてもいいですよね。
日本人の心にもその部分がこうすっとはまってくるんじゃないのかなって感じますけど。
ほんと見ていて心落ち着く穏やかな絵美しい絵という印象があるんですが今回は傑作10選10の作品を通してまたモネの新たな別の魅力を見ていきたいと思います。
まずはこの名作からご覧下さい。
傑作選1つ目はこの秋21年ぶりに東京にやって来たあの名画です。
「印象、日の出」。
そのタイトルから「印象派」という言葉が生まれた歴史的にも名高い作品です。
描かれているのは北フランスの港町の朝。
移ろいゆく太陽の光が当たって赤く輝くみなもを船が進んでいきます。
素早い筆遣いでみずみずしい気配まで見事に捉えた一枚です。
あっなんか…光ってる。
光ってません?なんか…目の錯覚ですか?なんで?なんか明るいですよね。
絵本作家の荒井良二さん。
モネが大好きで「印象、日の出」の来日を誰よりも楽しみにしていました。
自由奔放なタッチと豊かな色彩で描かれた心温まる世界。
荒井さんは児童文学のノーベル賞と言われるアストリッド・リンドグレーン賞を受賞したただ一人の日本人です。
荒井さんはこの絵の魅力は動きにあると言います。
(荒井)「空気描きたかったのか」ってなんか現物を見るとそんな気さえしますよね。
まあ光とか言う方もいらっしゃるんだろうけど俺はもう何ていうか空気とかそういう臨場感なのかなと思いますけどね。
ライブな感覚というか…。
何もかもがなんか動いてるというかそこなんじゃないですか。
止まってないなっていう感じはしますよね。
水も動いてるし船ももちろん…とまってるっていっても揺れてるだろうし。
これは進んで見えますけど。
太陽だってねえ動いてるわけだし煙突の煙だって動いてるわけだし空の雲だって動いてるわけだし。
何も止まってなんかいないよというダイナミックさを感じますよね。
みんな動いてるっていう感じが好きですよね。
クロード・モネが「印象、日の出」を描いたのは32歳。
まだ公募展で落選を繰り返す売れない画家でした。
モネは画家仲間と共に独自の展覧会を企画。
そこで初めて「日の出」を発表します。
作品はたちまち大きな驚きをもたらしました。
絵の具の質感が分かるほど筆跡がはっきりと残されています。
そしてまるでスケッチのような大胆なタッチ。
当時未完成と誤解されるほどでした。
モネの修復を手がけてきた…2014年フランスで行われた「日の出」の調査に参加しました。
そこでモネの驚くべきダイナミックな挑戦を発見しました。
赤外線を当て撮影した写真です。
赤外線は材質によって映り方が変わり鉛筆などの下描きは黒く浮かび上がります。
モネと同時代の画家ミレーの…そこに赤外線を当てると…。
落ち穂を拾う貧しい農民は緻密な下描きの線で描かれているのが分かります。
目や鼻の表情もあらかじめしっかり書き込まれていました。
絵ではぼやけたように描かれた人物にも下描きはありました。
しっかり決めた形や構図で農民が暮らしていく大変さを表そうとしていました。
しかし「日の出」には物の輪郭や構図を描いた下描きの線が全く見つかりませんでした。
モネが形や構図よりあるものを優先させようとしたからだと森さんは考えています。
色彩だとかタッチのリズムによって作品を構成させようとしていると。
色彩自身の力というものを使ってまずそれを中心にして画面を構成していく。
何かここに山があるとか船があるという事を中心にして構成しているんじゃなくってそこに光が当たってそこに色彩がある事を拾い出していくと。
そこにまず絵の具を置けばいいわけですよね。
大胆にも色と絵筆のタッチで描ききってしまう。
これこそモネが追い求めた新しい絵画でした。
「日の出」の7年前の作品。
森の中でピクニックを楽しむ人々がしっかりとした構図で描かれています。
モネは何度もデッサンを重ね木漏れ日が降り注ぐ光をアトリエの中で描こうとしました。
しかし屋内ではどうしても生き生きとした光が出せません。
完成を諦めてしまいます。
以来モネは屋外で実際の光を見ながら創作する事にこだわり続けます。
そしてここル・アーブルで「日の出」を描くのです。
「日の出」はモネの常宿だったホテルの窓から見た景色と言われています。
頭の中で出来上がった構図をもとに一気に描き上げていきました。
灰色のみなもに映し出された太陽の光。
そこからモネの想像を超える素早い描き方が見えてきます。
その光の一部を拡大してみると…。
赤と白の絵の具はほとんど混じり合っていません。
すごく早いタッチでこういうふうにパッと赤を置いといてその上にサッと白を混ぜるとか赤と白が混じっていない状態で筆についたままサッと置くとか。
…というほんと一瞬の判断だと思いますけどね。
色彩と色彩が混じってしまった濁ってしまった状態ではなくて混じってはいるんだけれども混じりきってない状態を画面の上に表現するんですよね。
モネは巧みな技法をいくつも忍ばせています。
港をゆったりと進む船。
奥にある船ほど淡い色を使い極端に少ないタッチで絶妙な遠近感を表しました。
またあえて白い塗り残しを作り流れる雲の動き空の明るさを出しています。
生き生きとした絵を求めたモネはこうしてダイナミックな筆遣いと色彩で動きのある風景を生み出したのです。
今日のゲストは作家でキュレーターとしてもご活躍の原田マハさんです。
(一同)よろしくお願いします。
もう原田さんといえばモネの人生を描いた小説も書かれてその時以来特別な感情も抱くようになったとも伺いましたがその惹きつけられる魅力って何ですか?ほんとにこう私たち日本人ってどうしてこんなにモネが好きなんだろうっていうのがまずその小説を書き始める時に最初に感じた素朴な疑問だったんですけれども追いかけているうちにやはり自然に対するモネのまなざしですとか時々刻々と変化していく風景に対する非常に探求心といいますかそういうものが私たち日本人が持っている風景とか花鳥風月に対する感性みたいなものにちょっと近いものがあるからかなというふうにもちょっと見えてきたような気がします。
そちらのこの「印象、日の出」ですけれどもこの作品静かに躍動してるなというふうに感じてライブ感がやっぱりいいなって思うんですけれども。
VTRの中にもありましたけれど動いて見えますよねほんとに。
動画じゃないかと思うような気さえします。
ちょうどこのころに写真というものが出てくる。
それまでの世の中には写真がなくて絵画というのはどれだけ写実的に描けるかというのが画家たちにとっても大きな命題だったと思うんですね。
ところが写真が出てきて肖像写真ですとか風景画のようなものも写真に取って代わられる時代がやがてやってくるというのを恐らくモネや他の印象派の画家たちというのは感じ始めていた時期ではないかなと思うんですね。
つまりどういう事かというと絵画の中に実際に自分たちの目に見えてる実際の風景や人っていうものをそっくりそのままに描き写さなくてもいい時代が来るという事なんですよね。
という事は画家たちに与えられた命題というものがちょっと変わってくる。
つまり画家たちが自分たちが描きたいように描いてもいい時代が来るんじゃないかというのを印象派の画家たちというのは予感していたと思うんですね。
モネはまさしくこの「印象、日の出」をもって自分にはこう見えると。
自分には動いて見える風景そのまま写し取るという事をやってもいいんだっていうふうにこの時代に気が付き始めたんじゃないかなと思いますね。
ですからまさしく本当に自分の印象のままに描いた一作に仕上がってると思うんですね。
最近の調査で下描きをしていない。
まさに勢いそのものが表れているのではないかという事も分かってきていますが下描きをしないでじゃあもうバーッと一気に描き上げたと原田さんもそこは?いやあもうまさしく多分そういうふうにしか描けない絵だと思いますね。
この世界は止まっていないと。
世の中は動いている。
まずこの時にモネが非常にフォーカスしていた事というのはやっぱりタッチ。
タッチをどう残していくかという事とそれからその色彩。
全てにおいて色彩とタッチを優先させたという結果この「印象、日の出」という作品が出来たんじゃないかなと思います。
「積みわら」と題された2枚の絵があります。
向かって左は日の高い日中を。
右は夕暮れ時です。
しかし2枚には描いた時間帯だけではない違いがあります。
何だと思いますか?その違いにこそモネの飛躍が隠されています。
それを解き明かすにはまずこの絵から。
2つ目の名作モネ37歳の作品…パリ市内のターミナル駅。
蒸気機関車から立ち上る煙に光が降り注ぎます。
モネはその明暗をコントラストを用いて写し取っています。
19世紀産業革命が進み新しい街へと生まれ変わろうとするパリ。
ガラス張りの屋根を持つサン=ラザール駅は近代都市を象徴する建物でした。
このころパリからフランス各地へと鉄道網が整備されていきます。
休日都市の人々は鉄道に乗って気軽に郊外へと出かけるようになります。
セーヌ川沿いののどかな行楽地を描いたのが…みなもに映る光をモネはコントラストを強調して表しています。
最新のファッションを身にまとい水辺でのピクニックを楽しむ人々。
若い頃のモネにとって光はかつてない活気に満ちた都市の輝きを象徴するものでした。
この延長線上にあるのが2枚の「積みわら」のうち左の一枚です。
画面奥まぶしいほどの光に包まれた積みわら。
モネはあえて手前に日陰の部分を描いています。
家畜の餌となる干し草に寄りかかるのは都会からやって来た親子。
都市の人々が楽しむのどかな休日を表す光のコントラストです。
近代美術史が専門の六人部昭典さん。
六人部さんは若きモネの光の描き方には19世紀の時代の機運が反映されていると言います。
パリ郊外の水辺であったり森であったりそこでパリの人々が休日を過ごす。
まあ水浴をしたりピクニックをしたりって事ですからやっぱりそういう新しい人々の近代という時代を享受していくそういう非常に楽しい場面を生き生きとさせているのが前半期の光かなと思いますね。
でも80年代から90年代という時代を見ていきますと実はそういう加速度的に進行していく進んでいく物質的な富そういう豊かさに対してやっぱり疑問を感じていき始めてるんですよね。
近代の光に満ちた「積みわら」。
もう一枚はその3年後です。
ここには人の姿はありません。
モネはこの絵を境に人物を一切描かなくなります。
光の描き方にも変化が。
コントラストは用いず僅かに異なる色を隣り合わせ光の微妙な表情を出しています。
更にモネは同じ風景を繰り返し絵にします。
朝と昼。
夏と冬。
時間帯や季節を替え描き分ける「連作」という創作スタイルでまるで生きているかのように変化する光を追い求めていくのです。
(六人部)朝日と夕日というその違いをモネはかなり描き分けようというのが意図していたと思いますね。
しかも夕日の場合ですとほんとに微妙な光の効果というのを繊細に描き出すというのが作品から伝わってきますのでやっぱり同じ光の描き方でも変わっていくしモネのまなざしがそういう光の微妙な効果に移っていく。
しかもそこで取り上げられた刈り穂積みというモチーフと密接に関わっているというのがやっぱり後半期のモネの連作を考えていく一番の手がかりだろうと思うんですけど。
実はこの2つの「積みわら」見た目はよく似ていますが中身が違います。
向かって右の絵は干し草ではなく小麦。
西洋の人々の主食である小麦は大地の恵みの象徴でした。
小麦を包み込む夕日。
そこにモネは命を輝かせる光の力を見いだしたのだと六人部さんは考えています。
「刈り穂積み」と私たち呼ぶ事があるんですけどもそのモチーフとそこにさす光の効果だけに焦点をあてるという形で大きく変わっていってそこでの光というのはまさに大地から麦を育み育てていくそういう光だろうと思いますのでそういうふうにいうならば生命を生み出していく光。
「生命の根源」としての光。
その光の持つ意味は前半期から後半期へと大きく変わっているという事だと思います。
6つ目の名作は…一見すると都市を礼賛する風景。
しかしもはやコントラストは用いられず光の描写は繊細です。
都市を照らす光にも命を生み出す力がある。
モネはそう語りかけています。
モネといえば「光の画家」とも言われていますけれど同じ光でもこんなにも描き方が違っていたんですね。
モネの光へのまなざしからモネのどのような変化が感じ取られますか?他の印象派の画家と比べてみても同じモチーフをこれだけ繰り返し一日のうちの変わる時間帯の中で描いていくっていうのは他にちょっと見当たらないような気がするんですね。
ほんとにモネに非常に特徴的な事だと思うんですね。
例えば積みわらを朝も描いて昼も描いて夕方も描いて夜はさすがになかったようですがそれだけ一日のうちで見え方が違ってくるという事に気が付いたというのはモネが初めの画家ではなかったんではないかなと思います。
モネの人生を振り返ってみた時に私1つ節目になる年があったんじゃないかなと思っていましてそれはモネが39歳の時の事なんですけれども自分の奥さんがですね…カミーユという奥さんが亡くなってしまうんですね。
病気で亡くなってしまった。
その時に次男が生まれたばかりで本当にどうしたらいいかと。
そしてその日々をどうしていたかというとただもんもんとしばらくうつうつとして暮らしていたそうなんです。
ところがですねモネが39歳の1879年というのがフランスに大寒波が襲った年だったんです。
もう本当にすごく寒い冬だったそうなんですけれどもそしてめったに凍らないセーヌ川が凍ったそうなんですね。
このセーヌが凍ってしまったと。
まるで自分の心のようにセーヌも凍ってしまってますますモネは落ち込んだそうなんですね。
ところがある時にようやく雪解けの時期がやってきて春が近づいてきた時に氷結してたセーヌ川が流れ始める瞬間があったそうなんです。
この時にモネはその凍ったセーヌがもう一度流れ始めるのを見て季節は巡り来て一日のうちでもこんなに目まぐるしく日の光というのは変わっていってそれは春を迎えると日の光というのはやがて凍ったセーヌもとかして動かし始めるんだという事に気が付いた。
そしてモネは時々刻々と変わっていく季節とセーヌ川をまず描いてみようという事で一日のうちでも朝と昼と夜のセーヌというのは全部表情が違うという事に気が付いてこの連作というのを思いついたという事なんですね。
パリから北西に80キロ小さな農村…モネは43歳の時この地に移り住みます。
亡くなるまでのおよそ40年間をこの家で暮らしました。
生命の根源に目覚めたモネはこの地で自然の手触りを徹底的に追い求めていきます。
自ら庭に造った睡蓮の池です。
柳がしなだれる水辺にモネは毎日のように立ち200点以上にも及ぶ作品を描きました。
7つ目の傑作です。
画面の中央には日本風の橋。
その下に睡蓮が咲き誇ります。
緑一色の世界に潜む微妙な光の表情を捉えています。
やがてモネの視線に変化が現れます。
ひたすら見つめたのは睡蓮の花が浮かぶみなもです。
そこにはモネの更なる境地が隠されているといいます。

(六人部)「睡蓮」の連作に入っていきますとまさに水というもう一つの重要なモチーフが関わってくるんですよね。
実は水も「生命の根源」なんですよね。
だから彼が生涯を通して描いてきた光と水が水面に宿された光の効果という「反映」というモチーフでいわば一つになってるという言い方もできますししかもその2つがいずれも生命の源泉なんだという。
これはやっぱりモネの晩年「睡蓮」の時代を考える一番重要な手がかりなんだろうと思うんですけどね。
やがてモネは水そのものへの関心を強めていきます。
この絵の大半は水鏡。
絵の主役だった睡蓮は脇役に。
描き方も簡単なものになっていきます。
モネはなぜ水鏡を主役に描くようになったのでしょうか。
高知県東部にある北川村。
ここにモネの「睡蓮」の絵に魅せられた人がいます。
庭師の川上裕さんです。
川上さんは12年前からモネの庭造りに取り組んできました。
川上さんが手がけた睡蓮の池。
フランスにあるモネ財団から世界で唯一「モネの庭」と名乗る事を許された庭園です。
まずここですよね。
ここ。
これ一番きれいじゃないですか。
バランスですね。
睡蓮のバランス。
水面に映るものと水の空間というかね。
それと映り込むものと。
水の鏡の中に。
レイアウトするそのねデザイン性みたいなものと。
人為的なものと自然のもので周りのものがいろいろ映り込むそれが一番きれいじゃないでしょうかね。
川上さんは週に1度の池の手入れを欠かしません。
最も大切なのは美しい水鏡をつくる事だといいます。
四季折々さまざまな命が映し出されます。
それは水に映るもう一つの自然。
そこにこそモネが水鏡を描き続けた本当の理由があると川上さんは考えています。
ここの庭って花を咲かす事が主体やったんですけど初めは。
でもそういうふうな水の鏡であったり全体の雰囲気とかそういうものがものすごい大事でモネはそういうものを捉えていく。
でもそれがどんどんどんどん水面だけに特化される。
そういうところを見ると彼もですねより一層水の鏡のすばらしさを自分の庭で自分がつくってきてみてそしていろんな事を考えながら毎日絵を描いていく中で本当にこの水の鏡がきれいででも一生かかってもなかなか描けないぐらいこの水の鏡の全ての中になんか地球を思わせるぐらいの力があるというか。
地球って外から見ると青い海というか水ですよね。
多分空の映り込みもあるしいろんなものが…。
自然のすべてを映し込んでくるんじゃないかと思いますけど。
水に映る地球の壮大な命を追い求めたモネ。
しかしやがて病魔に襲われます。
白内障を患い失明の危機に直面しました。
それでも絵筆を持ち続けたモネ。
その格闘の中で生まれたある「睡蓮」の絵に絵本作家の荒井さんは強く惹かれるといいます。
これはもう…これは大好きですね。
ほんとに大好きですね。
うん。
もう一体化してるというか水あるいは草植物となんか多分一体化しようとしてるような。
モネ79歳の時に挑んだ大作が傑作選最後の一枚。
睡蓮光水。
もはや画面にははっきりとした形はなく色と絵筆のタッチだけがうごめいています。
水と陸と空。
そこに感じる命の力そのものを絵筆に託そうとしたかのような作品です。
(荒井)自分がだから自然に一部になってるっていう。
そういうなんか心境なんじゃないですかね。
もう「草だ。
僕は草だ」とか「俺は木だ」とかなんかねそんな気さえしますけどね。
だからこれが睡蓮が咲いてる水辺を描いたとかそういうのじゃなくてモネはきっとそうなんでしょうけどそうじゃない見方すらできるような気がするわけですよ。
だからモネのなんか気持ちみたいなものが感じられてだからこういうラフな描き方がどうのこうのとかそういうんじゃないところのなんかよさっていうのを僕は感じるんですけどね。
迫ってきますよね。
睡蓮の美しさとかそういう次元じゃないモネの何か。
「俺は描きたいんだ」っていうね。
それはすごく迫ってきますよね。
うれしい一枚ですこれ。
ほんとに。
あの…モネの「睡蓮」というともうあまりに著名で人気で世界の各地の美術館にあってというある意味固定のイメージが私の中に出来てたんですけどよく見ると実に幅の広い「睡蓮」が存在しているんだなという事を改めて認識しました。
ここまで計算し尽くされて描き分けられていたのはなんでだと原田さんは感じますか?やはりジヴェルニーに移ってからモネが新しいターゲットを見つけたというのは一つあると思うんですね。
それが睡蓮だった。
私はモネは風景のハンターだったんじゃないかなと思っています。
ハンターですか。
はい。
まあこの優しそうな静謐な光に満ちあふれたモネの絵からするとハンターっていう言葉はちょっと意外かもしれませんけれど私もモネの足跡を追い求めてモネハントをしているうちにモネこそがほんとにこの風景とがっぷり四つに取り組んでみたいという風景を求め続けてそのハンターとしてずっといろんな所を旅していたっていうのがだんだん分かってきたんですね。
そして40代の時にジヴェルニーに自分のついの住みかを見つけるわけなんですけれどもモネがその人生の最後で風景ハンターとして見つけたそのターゲットが睡蓮と水鏡池だったんじゃないかなというふうに今は思います。
そしてこの…。
いやあこれすごいなあ。
この抽象画のような「睡蓮」ですよねこれも。
なんかもう爆発してますよね。
爆発してますね。
筆を置くとかっていうそういう次元ではなくて体全体で描いているような。
ほとんど抽象表現主義のような新しい時代の…。
ほんとにこれからやってくる非常にシュールで抽象的な現代アートの幕開けをまるで告げるかのような彼のほんとに晩年の作品なんですけれども私はいつもモネと風景の間にはカンバスがあったんだなと思うんですね。
当たり前の事なんですけども。
モネはこの世界…止まっていないこの世界を自分のカンバスの中に全部移し替えようというふうに闘いを挑んでいたような気がするんですね。
そしてどうやって自分のものにするべきかどうやって自分のアートの中に取り込んでいくかというのに本当に彼の命を注いできたと思うんだけれども最後に老境に至った時に本当に自由になってその「睡蓮」の世界というのを…。
「睡蓮」の世界の中に自分自身が入っていってしまった感じが非常にしますね。
風景と自分の間を隔てていたカンバスというもの。
皮肉にも一枚のカンバスというものが隔てていた。
けれどもついにモネはそのカンバスを飛び越えて風景の中に入っていってしまったっていうそういう非常にフリーダムを感じる。
すごく自由で生き生きとしていてもう何にも関係ない。
好きだから描く。
今自分は世界と一体化してるという伸び伸びとした感性がこの一枚からは表れているような気がします。
晩年の作品そのものにもやはり相当なパワーというかエネルギーが…。
ありますよね。
そして本当にジヴェルニーの庭というか風景がこういうふうに抽象的に最近私も見えてきまして。
いや見えるじゃないかと。
それはまさにモネの印象なんですよね。
本当に人間の視覚って不思議なものなんですけども結構皆さん最近スマートフォンなんかで写真撮ったりデジタルカメラで気楽に写真撮ったりしますけれども記録に残すっていう事は意外と結構イージーにできる。
簡単にできますよね。
けれど実は「印象」というものを聞かれると「ん?」って戸惑ったりする事なんか結構あるんじゃないかなと思うんですけどもモネのすごいところは結局自分の印象というものをカンバスの上に一瞬で写し取ってそしてその一瞬を永遠に残したという事だなと思います。
やっぱり絵画の宿命というのはいかにそのアーティストが自分の表現を永遠に残していくかという事が一つあると思うんですね。
それをモネは時々刻々と変わりゆくこの世界の時間ですとか光そして風景というものを自分の印象をもとに非常に素早く瞬間的にカンバスの上に写し取りながらそれを結局永遠に残した。
つまり永遠性を与えたという意味ではやはり本当に歴史に残る画家だったんだなと思います。
今日は本当にどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
2015/11/15(日) 09:00〜09:45
NHKEテレ1大阪
日曜美術館「夢のモネ 傑作10選」[字]

印象派の巨匠、クロード・モネ。代表作「印象、日の出」の調査から、意外な事実が浮かび上がった! 最新の研究を元に、10の傑作からモネの新たな魅力を探っていく。

詳細情報
番組内容
日本人が最も愛する画家の一人、クロード・モネ。柔らかな色と、心落ち着く自然描写が人気とされる。しかし、最新の調査から、そんなモネのイメージをくつがえす新たな発見があった。それは、去年行われた「印象、日の出」の調査。浮かび上がったのはライブ感あふれるダイナミックな画家の姿だった。さらに、あの「睡蓮」の変化にも、画家の壮大な発想を物語る試みが隠されていた。10の傑作からモネの新たな魅力を探ってく!
出演者
【出演】作家、キュレーター…原田マハ,絵本作家、イラストレーター…荒井良二,絵画修復家…森直義,実践女子大学教授…六人部昭典,庭師…川上裕,【司会】井浦新,伊東敏恵

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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