NHKスペシャル シリーズ認知症革命 第2回「最後まで、その人らしく」 2015.11.15


この日認知症研究の世界的権威のもとを一人の男性が訪ねてきました。
アルツハイマー型認知症と診断されて11年。
今は歩く事も話す事もできません。
しかしある事で周囲の人たちを驚かせています。
月に一度筆を握り絵を描いているというのです。
認知症が進行すると何も分からなくなってしまう。
そんなイメージを覆す事実が今次々と報告されています。
重い認知症の人に文章を書いてもらい心の内を読み解くという取り組み。
見えてきたのは症状が進んだ人にも残っているこまやかな感情です。
心の内が見えてきた事で家族を悩ます徘徊や暴力などを和らげる手だても分かってきました。
今も急速なペースで増え続けている認知症。
日本では10年後700万人を突破し高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。
それでもその人らしく穏やかに生きる事はできる。
それが今夢ではなくなり始めているのです。
これは認知症の人たちによるソフトボールの全国大会。
選手のほとんどが認知症。
中には症状が進み施設に入所している人もいます。
あなたはまだ認知症になったら人生は終わりだと思っていませんか。
いやいやいや…認知症っていうのは何も分からなくなるのが認知症っていうふうに理解してましたけどそれが絵を描いたりとか暴力がなくなったりとか徘徊がなくなっていくってそんな事ありえるんですか?たまたまじゃないんですか?今日私たちがお伝えしたいのはこちらでございます。
今日はもうこの事が決して夢物語ではなくて可能なんだという事を徹底的にお伝えしたいと思います。
これが本当なら周りも非常に楽になりますよね。
まずは認知症が進むと何も分からなくなるというこれまでのイメージを覆すある驚きの報告からご覧下さい。
ここに全国から注目されている施設があります。
(取材者)おはようございます。
おはよう。
精神科クリニックが運営するデイケア施設…利用者は自宅から通い日中ここで過ごします。
30人ほどいる利用者の多くは重い認知症の人たち。
家族が徘徊や暴力などに悩みここに通うようになりました。
去年から通っている…京子さんの認知症は前頭側頭型と呼ばれるタイプ。
もの忘れに加え言語機能の障害によって同じ言葉を繰り返す事が多く意思疎通が難しくなります。
京子さんの変化に最も心を痛めてきたのが…功さんと結婚し会社勤めを続けながら2人の子どもを育て上げた京子さん。
4年前認知症と診断されました。
2年前には徘徊も始まり日を追うごとに理解できない言動が増えていきました。
功さんは妻が何を考えているのか分からずにいます。
認知症が進みコミュニケーションが難しくなった人たち。
心の内はどうなっているのか。
こんにちはどうも。
施設を始めた精神科医の高橋幸男さんです。
長年その課題と向き合ってきました。
バ〜ン!重い認知症の人たちと接する中でその心の奥には何かがあると感じていた高橋さん。
たどりついた試みの一つが手記を書いてもらう事でした。
すると喜んだり悲しんだりさまざまな感情がある事が見えてきたのです。
それまで周囲から文章など書けるはずがないと思われていた重い認知症の人たち。
しかし信頼関係を築いたスタッフが時間をかけて接すると半分ほどの人が気持ちを書けるようになるといいます。
前は若い頃はね。
この日手記を書くのは…もの忘れに加え家族にも手を上げるようになりここに通い始めました。
水師さんが書き始めたのは夫が営む印刷所での客とのやり取りでした。
途中で何を書いていたのか忘れてしまう事もあります。
その度にスタッフが丁寧にフォローし最後まで書き上げていきます。
「仕事にお客様の注文が出た時名前と顔が一致しなくて困ります。
近所の人からももの忘れがひどいと笑われます。
近所の人はもの忘れをしないのかな?私だけなのか?とかなしい思いをします」。
こうして施設でつづられた手記は70を超えます。
そこから認知症の人たちの心の内が見えてきました。
最も多く書かれていたのは水師さんと同じもの忘れがつらいという気持ちです。
「もの忘れが酷くなり思い出す事が出来なくなりとても息苦しく感じる事がこのところ多くあります。
友達と逢う事も出来ずとてもつらい日々を過ごしています」。
「やっぱり駄目になってしまったナァと泣くことはないが悲しくなる。
『謙よしっかりせよ今迄やって来たんだないか!!』」。
夫との意思疎通が難しくなっている…京子さんも手記を書きました。
そこには認知症になったつらさがつづられていました。
「家では旦那や息子が時々怒る事がある。
何で怒るかと私も怒る。
怒られると家出する事がある。
私はいない方がいいと思われると思うから家出する」。
夫の功さんは妻の気持ちを初めて目の当たりにしました。
手記を通して妻の気持ちを知った功さん。
疲れた。
疲れたか。
言葉で伝え合う事は難しくても妻は確かに心を持ってここにいる。
そう思って過ごしています。
ほんならよかったよかった。
(笑い声)
(取材者)ごめんなさい。
それはないだろ。
いや〜認知症の方が文章書いてるっていう事にまず驚きましたし。
しっかりした字で。
すごく心に響きましたね。
はい。
今日は認知症に詳しいゲストもお呼びしております。
医師の新田國夫さんです。
新田です。
よろしくお願いします。
そして認知症のご本人の立場から仕事もなさりながらいろいろな提言を発信していらっしゃいます丹野智文さんです。
よろしくお願いします。
まずこちらに認知症の進行を図にしてみました。
軽度から中等度重度こう進んでいく訳なんですけれども丹野さんは軽度という事ですけど先ほどの施設小山のおうちではこの中等度から重度の方たちが助けを借りて手記を書いて自分の思いを伝えているという事だったんですね。
新田さんいろんな方を見ておいでですけれども…もちろんでございます。
その方によって例えば…先ほどの前頭葉型の方は言語能力が落ちて…丹野さんは認知症の当事者の方たちのグループを主宰していらっしゃっていろんな方と出会っていらっしゃいますけれどもやっぱり同じような事を感じる…皆さん…。
そうですね。
私の仲間にも…待ってあげるっていう…。
(丹野)はい。
そうですね。
更に驚きの報告があるんです。
何何?治らないというイメージの強い認知症なんですけれども…改善できる?ちょっとこちらご覧下さいね。
今たくさん出てまいりましたこれは認知症の主な症状なんですね。
不眠暴力徘徊記憶障害無気力。
いろいろありますでしょ。
でね実はこれらの症状大きく2つの種類に分ける事ができるんですね。
ちょっと見て下さい。
こういうふうになるんです。
真ん中赤いところありますけれどもこれらは原因となる病気の種類にもよるんですがそのほとんどが治す事ができないというふうに言われているんです。
一方この周りの青いところある事を大切にすれば改善できると。
あるんですか?そんな事。
最前線からの報告です。
家族を悩ます徘徊や暴力などの症状をどうしたら緩和できるのか。
認知症ケアの分野から研究を続けてきたコラノウスキ教授です。
介護施設で暮らす認知症の人にさまざまなケアを提供し症状の変化を調べてきました。
これまでアメリカでは暴力などの症状を抑え込むため抗精神病薬と呼ばれる薬がよく用いられてきました。
しかし高齢者に使うと死亡リスクが高まるとして懸念の声が上がっていました。
薬に頼らない新たな方法はないか。
注目したのがどの施設でも必ず行っているレクリエーションでした。
通常は全員で同じプログラムを楽しみますが研究ではそれぞれ違う内容を提供する事にしました。
まず初めに認知症の人128人と一人一人面接を実施。
詳細な性格分析を行いどんなプログラムに興味があるか探りました。
その結果を踏まえ一人一人最も興味を抱きそうなプログラムを決めていきます。
例えば美しいものが好きで内向的な人は…頭を使う事や競争が好きな人は…更にそれらを行う能力がどれくらい残されているかについても考慮し3週間にわたってプログラムを提供しました。
その結果本人の興味と能力に見合ったプログラムを提供した場合暴力や暴言などの症状が24%減少したのです。
こうした研究の成果などを踏まえ今年7月アメリカ政府は認知症のケアを行う施設に対するガイドラインを改正。
薬を減らし本人の興味や能力などを重視したケアを行う事を補助金を出す条件にしたのです。
日本でも9割以上の人に症状の改善が見られたという報告があります。
(ベル)認知症の人が手記を書く取り組みを行っている小山のおうちです。
ここではどんなに症状が重くても一人の人間として接します。
ほとんど反応がなくても丁寧に声をかけます。
その人なりの心があると考えているからです。
何より大切にしているのは認知症の人たちのどんな言動も肯定する事。
例えば毎日こんな問いかけをしています。
小山のおうち…これはもの忘れを肯定する取り組み。
多くの人が手記に書いていた「もの忘れを叱られるのがつらい」という気持ちを和らげるためです。
ありがとうございます。
こうしたケアを続ける事で暴力が絶えなかった人も次第に穏やかさを取り戻していくといいます。
更に認知症の人の気持ちを家族に理解してもらう取り組みにも力を入れています。
多くの人が「家族の中でつらい思いをしている」と訴えていたからです。
この日ある家族が施設を訪ねてきました。
認知症の母親を通わせています。
今母親の真夜中の行動に悩んでいます。
深夜に起きだし大音量でテレビをつけたり「夕飯を食べさせてもらっていない」と騒いだり。
家族を困らせているといいます。
良恵さん親子が暮らす自宅の様子です。
毎晩深夜0時を過ぎると母親が起きだします。
その度に様子を見に行くのが良恵さんの日課になっています。
週に6日働きながら母親を介護する良恵さん。
ここ2か月の間ほとんど眠れていません。
一方母親の美恵子さんも睡眠不足から表情を失い口数も少なくなっていました。
このままでは共倒れになってしまう。
良恵さんの訴えに高橋医師が見せたのは母親の手記でした。
「私は娘がしかっても言いたい事もがまんしています。
私はさからわず聞いています」。
良恵さんには思い当たる事がありました。
母親がもの忘れをする度につい厳しい口調で指摘してしまう事があったのです。
高橋医師は接し方を変えてはどうかとアドバイスしました。
良恵さんは早速改善を始めました。
まず変えたのは食卓での会話です。
(笑い声)もの忘れをするとつい厳しく指摘していた良恵さん。
この日は笑って話を聞きます。
行った?うん。
(笑い声)そして夜。
母親を無理に寝かしつけようとするのはやめました。
はい。
じゃあねおやすみ。
おやすみ〜。
はいおやすみ。
相談からひとつき半。
美恵子さんに変化が現れていました。
皆さんおはようございます。
(一同)おはようございま〜す。
娘の良恵さんが書いた連絡帳。
そこには家での様子が書かれていました。
「最近は夜中に起きる事なく寝ていたりするので以前より良くなった様な気がしていました」。
表情が明るくなり口数も増えてきました。
どうぞ!はい正解!
(拍手)本人の心に寄り添ったケアで多くの人が症状の改善に向けた糸口をつかんでいます。
いや〜娘さんも本当よかったですけどでもああいうふうに非常に包容力を持ってやるっていうのは大変ですよね家の中でね。
そのとおりですね。
そのとおりですね。
それをですね恐らくあの高橋先生はですねそのお母さんの気持ちを分かって対応されててで娘さんが対応変化をして夜寝れるようになると。
そうはなかなかいかないんですよ。
ちょっとしたきっかけででもその考え方というか対応のしかたでものすごく変わるという事…。
丹野さんは今のVTRどのようにご覧になりましたか?全然違うんですか?やっぱり。
はい。
で実は朝私起きてきて自分でコーヒーいれるんですね。
ちょっと違う事考えるとこれをいれたっていう記憶がないんですよ。
そして誰かがいれてくれたな妻がいれてくれたなと思って「ありがとう」って言うんですね。
そうすると妻は笑いながら「うんいいよいいよ。
でもパパがいれたけどね」って言ってそこで笑い話で終わるんですよ。
なるほど。
そこで「何言ってんの?パパ。
自分でいれた…」。
「あなたがいれたじゃないの!」。
…って言われたら私はもう何にもしゃべらなくなると思います。
そこでやっぱりすごくストレスがかかる?あ失敗したんだなって。
人の顔とか見てあっ何か違うんだなと思うんですけど…だから何で自分で失敗したか…まあしかし現場では毎日の事ですから。
ご家族とかね…。
これはねなかなかこうね…。
その包容力を持ついうのは難しいですよ。
そのとおりですね一つは。
まあ病気だから…なるほど。
で更にですね先ほどの認知症の方たちの手記からもう一つ大切な事が分かってきたんですね。
実はねこんな思いが多く書かれていたんです。
まあそれはこう…当然だと思いますはい。
でも文枝師匠思い出して下さい。
何を?私が今日の番組の冒頭で申し上げた事を。
何か言いました?こういうふうに申し上げました。
あおっしゃいましたね確かに。
実はですねこの事を地域ぐるみで実現させている自治体。
は〜。
あるんですか?世界から注目されている自治体が…外国じゃなくて…。
日本に?日本にあるんです。
ほ〜う。
人口13万余りの静岡県富士宮市です。
およそ4,000人の認知症の人が暮らしています。
先月福祉先進国オランダから認知症政策を担当する副大臣が視察に訪れました。
この町が行っている取り組みについて詳しく知りたいというのです。
富士宮市のキャッチフレーズは…一体どういう事なのでしょうか?多くの場合認知症と診断されるとたとえ軽度でも家にこもりがちになります。
調査によれば外出や交流の機会が減った人はおよそ7割。
社会とのつながりがどんどんなくなっていくのです。
ところが富士宮では様子が違うといいます。
若年性認知症と診断されて3年になる…人の顔が分からなくなる事もありますが週5日福祉施設で働いています。
認知症になると仕事を辞めざるをえない人が多い中この町ではさまざまな企業や団体が働く場を提供しています。
認知症の人を孤立させないための取り組みも数多く行われています。
近所の住民に誘われ出かけていく男性。
認知症と診断されて4年になりますが今も1人で暮らしています。
やって来たのはよりあいサロン。
認知症の人が家に閉じこもらないよう地域の人が始めたおしゃべりの場です。
この町ではさまざまな場所にごく普通に認知症の人の姿があります。
例えばスポーツサークル。
卓球を楽しんでいるこの男性は認知症と診断されて8年になります。
認知症の人が主役のスポーツ大会も。
選手のほとんどは認知症の人です。
症状が進んだ人を支える仕組みも地域に根づいています。
(2人)こんにちは。
その一つが市内17地区で行われている見守り活動。
薬の管理や買い物の手伝いなど認知症の人の暮らしを地域で支えています。
こんにちは。
互いに顔なじみのため認知症の人が徘徊して行方が分からなくなってもほとんどが1時間以内で見つかっています。
町ぐるみで認知症対策に取り組む富士宮。
なぜこれほど手厚いサポートができるようになったのでしょうか?実は取り組みのほとんどは行政の主導ではなく市民が自発的に始めたものです。
きっかけを作ったのは卓球をしていたこの男性。
話は認知症と診断された8年前に遡ります。
当時ガス会社で営業マンをしていた佐野さん。
仕事は辞めざるをえず友人とのつきあいも途絶えました。
そうそうそう。
よく言ってた。
悩んだ佐野さんは市役所に相談に行き訴えました。
その時対応した稲垣康次さんです。
当時認知症の支援といえばデイサービスの紹介など介護に関するものばかり。
佐野さんの訴えに応えるすべはありませんでした。
しかし行政では対応しきれない問題。
稲垣さんは市民の協力を仰ぐしかないと考えました。
そこで思いついたのが佐野さんから直接市民に気持ちを伝えてもらう事でした。
地区の集まりや学校などに佐野さんが出向き認知症について話す場を作ったのです。
認知症の人が自ら認知症の事を語る。
当時としては異例の事でした。
認知症の人の思いを知った富士宮の人々。
その中から仲間に加わらないかという声が次々に寄せられました。
佐野さんの姿は自宅に閉じこもっていたほかの認知症の人たちの心も動かしました。
認知症である事を明かし思いを語る人が次々に現れそれをサポートしようと見守り活動や寄り合いサロンなどの取り組みが生まれていったのです。
認知症の事を知り支援を行う認知症サポーターも急増。
当初35人だったサポーターは9年間で1万人を超えました。
この日佐野さんが参加した認知症の人のためのランニングイベント。
町の至る所で声援が送られました。
佐野さんから始まった支援の輪は町全体を巻き込んで今も広がり続けています。
(一同)エイエイオ〜!
(拍手)すごいとこがありますね。
ねえ。
これ人口300の村とかじゃなくて人口13万5,000の富士宮市でこういう見守りがみんなでできてるっていう。
これ大事でですね普通の市民にとってはやっぱ認知症は認知症の人としてるんですね。
だからああいういろんなサロンとか行事をやる事によって…そこを…そうか〜。
そうすると大変な人だなと思って押し込んでた。
ところが…これは長寿社会ですから。
はいそのとおりです。
丹野さんはたまたま早く当事者になられましたけどね。
たくさん。
そうです。
ですから…私はあの方はパートナーと思ってるんです。
うん?パートナー。
あ〜なるほど。
そうすると…普通に。
普通って事なんですね。
はい。
いやもう本当に丹野さんにいろいろ教えられましたですね。
ありがとうございました。
今日はありがとうございました。
2015/11/15(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル シリーズ認知症革命 第2回「最後まで、その人らしく」[字]

誰もが認知症になり得る時代、私たちに何が出来るかを考えていくシリーズ認知症革命。第2回は、認知症になっても、その人らしく穏やかに生きていくためのヒントを探る。

詳細情報
番組内容
シリーズ認知症革命、第2回は、認知症になっても、その人らしく穏やかに生きていくためのヒントを探っていく。“認知症=人生の終わり”というイメージが未だ根強いが、先端的な医療やケアの取り組みから、認知症になると何も分からなくなる訳ではなく、その心に寄り添うことで、妄想やはいかい、暴力などの症状が大きく改善できることが明らかになってきた。国内外の先進事例を紹介しながら、その最前線に迫る。
出演者
【出演】桂文枝,丹野智文,新田國夫,【司会】武内陶子,【語り】大沼ひろみ

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
福祉 – 社会福祉
ニュース/報道 – 報道特番

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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