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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

四章 クズノハ漫遊編

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閑話 心眼

インターバル代わりの閑話です。
 真が勇者二人に先んじて魔王と会っていた頃。
 クズノハ商会ロッツガルド店は大忙しだった。
 理由は単純、人手不足だ。
 実質店の責任者としても見られている識が主の供で留守、御用聞きや配達、それに売り場の店員までこなすライム=ラテが巴の密命によりこれもまた留守。
 広くなった店舗に、上がりはすれど下がらない店の評判。
 訪れる客に対して対応する店員が追いついていっていなかった。
 もちろん、大きな商談や寄り合いへの出席については事前に手を打ってあったが、それでも日常業務が回るか回らないかギリギリのラインと言えた。

「も、もうすぐ閉店にできる。しかしもう耐えられない、私は早退す……」

「寝言か、エリス。むしろもっと分身を増やせ。ラストスパートのようにお客様が来ている」

「ははは、アクア。私はもう、からっからの雑巾だよ。絞っても何も出ない。この上接客奥義を酷使すればコスモが枯渇する」

「ほら、お前の常連が来たぞ? 笑顔笑顔」

「ん、いらっしゃいませー!! ……はっ、もはや染み付いた業がっ!」

 日暮れ前の一時。
 今日も大量の客を迎えたクズノハ商会で、浅黒い肌の娘が二人、まるで同時に複数人存在しているかのような足捌きで接客に励んでいた。
 長身のアクア、小柄なエリス。
 どちらもフラフラながら、何とか乗り切ろうと踏ん張るアクアと、残り時間に絶望するエリスだった。
 彼女たちの救いは店主ライドウが定めた一日の販売量だった。
 それがあるからこそ、ゴールが見える。
 もしも無制限に商品を売って、毎日閉店時刻まで店を開けていたなら。
 既に二人は寝込んでいたかもしれない。
 商人としての嗅覚が鈍いライドウこと真だったが、今回の魔王謁見の前に彼が決めた販売量については偶然にも素晴らしい一点を突いていた。
 従業員の一日の体力をギリギリまで削るその一点と言えた。

「あと一時間もない。気合だ、エリス。からからでも引き千切る位に絞れ。で、飲もう。皆と飲もう」 

「せめてライム、ライムさえいればぁっ」

「巴様の命で今頃はローレルだ。無茶を言うな」

「……決めた。今日はバナナブリス・ライムを飲む」

「ライムが考案したカクテルか。あれで意外と何でもやるな、あの男は。あの酒については、若様が名前をつけていたから原型が別にあるかもしれんが」

「……ジョッキで」

「……介抱はしないからな。でも一杯目は付き合おう。なら今日は亜空で飲むことになるか。うん、頑張ろう」

「ろ、六番目じゃあ駄目なんだ。もう目覚めるしかない、究極のコス……」

「だから寝言は止めろと。あ、いらっしゃいませー! 今日は……はい、そうですねいつものはまだ時期が早いと思っていました。では、こちらなどいかがですか?」

「お土産は高い奴だぞっ、ライムめぇぇ!」

 まだ夜も初めだというのに在庫切れでの閉店が見込める程。
 クズノハ商会は繁盛していた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「っくし!」

「あら、ライム。風邪?」

「いや、誰かが噂でもしてんだろ」

「だったら良いけど。……夜はお盛んみたいだもの、その内刺されたりしないでしょうね?」

「勇者殿のパーティとは別行動の体だ。気にしなさんな」

 瓦や土蔵のある、しかし日本とはどこか違う奇妙な光景の街を男女が歩いていた。
 男はライム=ラテ。
 クズノハ商会の一員であり、今は勇者と行動を共にしている。
 女は音無響。
 リミア王国が有する勇者であり、ヒューマンと魔族の戦争においてヒューマンの希望となっている存在だ。
 クズノハ商会の店主ライドウこと深澄真とは日本では先輩後輩の関係にあった。

「別に、私が女遊びをするなって言ってる訳じゃないわ。綺麗に遊ぶなら別に構わないって思ってるし」

「へえ、若い女にしちゃ寛容なことで」

「ウーディは妻子持ちの上、奥さんにベタ惚れ。ベルダは娼婦を買う気自体が無いみたい。あの分だと女性経験もまだないんじゃないかな。女遊びをしてって言う気もないから特に意見もしないけどね」

「……ベルダの兄さんについちゃ、もう一つあるだろ?」

「やっぱり、わかる? 私の事が好きみたいね。好かれるのは嬉しいけど……彼の想いに応える気はないわ」

「きっぱりとまあ。だったら、さっさと言ってやるのも優しさだと思うぜ?」

「彼が告白してきたら、きちんと断るわ。想いを察してこちらからフる、なんて後味悪いでしょ? 彼にしても、ちゃんと覚悟して、言って。それで終わりにした方が引き摺らないと思うんだけど。男ってそうじゃないの?」

「……優しいんだか、きっついんだか。ま、俺には関係ねえや。話をふっといて何だが好きにしてくれ」

 ライムが両手で天を仰ぎ、肩をすくめた。

「そうするわ。今日は悪いわね、付き合ってもらっちゃって」

「別に。兄さん方二人が風土病でダウンとくりゃ、仕方ねえさ」

「ウーディもベルダも、運が悪いわ。それともライムが幸運なのかな」

「俺が幸運なのは間違いねえな。だから今も生きてるしクズノハ商会に勤めてる」

「その辺りは……聞いても?」

「構わねえよ? まあ、答えられる事は殆どないけどな」

「……なによ、それ。大体、ロッツガルドとツィーゲで商売をしてる貴方達がどうしてローレルにいるのよ?」

 響とライムが歩く先には、一際大きな建物がある。
 長い石階段の先にある青色の神殿。
 そこが目的地である事は二人の足取りから知れた。

「ローレルのお偉いさんに、どうしてもってうちの旦那が誘われてるんだよ。お店出しませんかってな。だから俺はその下見って訳だ。あんたらと一緒になったのは偶然だぜ?」

 ライムの本当の目的は響らの動向調査だ。
 だが、そうと思われない為の表向きの理由も巴によってきっちり用意されている。
 その辺りに抜かりはなかった。

「お偉いさん、ね。名前は?」

「おいおい、まるで尋問されてるみてえだな。彩律ってお人だ。先方に確認すんのは自由だけどよ、俺が来てるってのは内緒で頼むぜ。下見に来た、なんて知れちまうとまた旦那に念話と手紙のオンパレードがきちまう。あんた、旦那の先輩でもあるんだろ? 少しは後輩を助けてやってくれても罰は当たらないぜ?」

「彩律……。ふぅん、わかったわ。貴方の名前は出さない」

「よろしく」

「先輩後輩だっていうなら。先輩にも手を貸して欲しいものだけどね」

「そこは先輩なんだから、一つやせ我慢で頼む。旦那もあれで一杯一杯で苦しんでおられるんでな」

「……困った後輩だわ」

 幅の広い石の階段を二人が登る。
 中央に手すりが設けられ、沢山の人が上り下りしている。
 この先の神殿に詣でる人が多い事が一目でわかるほどだ。

「それにしても……ローレルは本当に精霊への信仰が盛んね。確か水の精霊だったかしら。明らかに女神よりも信仰を受けている」

「庶民にとっては女神よりも出現の機会も多く、また強力な存在でもある上位の精霊は十分信仰の対象になる。それに精霊信仰なんて言っても、精霊は皆女神に仕えるものって括りなんだから、実質は女神信仰でもあるんだしな」

「中々詳しいのね」

「お、見直してくれたかい? ならついでにもう一つ。かつて魔族が大侵攻をかけた時に彼らにも助力した土と火の精霊は、その行いから亜精霊とも言われている。実際には意思持つ中位の精霊のいくつかと上位精霊を指して言うんだが……まあ、この二つは人でも亜人でも今なお信仰している連中は少ないな。ドワーフなんかは頑固に土の精霊を信仰しているが、彼らはその際立った鍛冶の腕からか目こぼしされている感じだ」

「……大したものよね。クズノハ商会ってただのヒラ従業員でもその位知識が無いと入れないの?」

「どうかな、ウチはどっちかっていうと一芸を尊ぶ傾向があるから別に物知らなくても特技があればいけるんじゃね?」

「なら、私も入社しようかしら。深澄君のコネで」

「コネは一芸じゃねえだろうよ。……勇者稼業は転職考えるほどブラックかい?」

「真っ黒ね。相手も環境も最悪に近いわ。ま、それ以上にやり甲斐があるのが問題か。やめられないもの。兼業は無理かしら、コネでも店に利益を出す店員になる自信はあるんだけど」

「ウチはかけもちは禁止。残念」

「あら……ふぅっ。ようやく到着ね、まったく長い階段。チヤちゃん、そろそろ終わりだって言ってたんだけど、どう思う?」

「この程度で息を乱すようじゃ、修業が足りねえよっと。どう思うって言われてもな、俺はあの巫女さんが何をしてるのか知らねえから何とも。あんたに付き合って一緒に来ただけだしな」

「……本当にチヤちゃんが何をしているか、知らないの?」

「……ああ、なにも」

「……じゃ、そういう事にしといてあげる」

「信用されてねえなあ」

「ふふっ」

 軽口をききながら、響とライムは神殿に入る。
 簡単なチェックを受け、身分を確認された後で神殿内の部屋に通された。
 彼ら、というか響は今日ここにきたのはパーティの仲間でもある巫女チヤの修業が今日で終わると聞かされた為だ。
 幼くも頼れる仲間を自ら迎えに来た訳だ。
 同じパーティメンバーであるウーディやベルダも同行しようとしたが、彼らは病に伏している。
 よって響は何故かローレルで出会ったクズノハ商会の従業員を名乗るライムと行動を共にしていた。
 何故彼を誘ったのかは、響にしても直感としか言いようがない。
 一人で行く事が危険だと、そう感じたのだ。
 ライムの方は突然の勇者の来訪にも慌てる事は無く、気軽に付き合う旅先の友として、彼女の誘いを受けた。
 巴から命じられた勇者の動向調査にこれ以上の距離は無いのだから彼の行動は当然とも言える。

「で? あの巫女さん、修業してどう強くなるんだ?」

「それは秘密ね」

「出来れば自分の身は守れるような成長だと、有り難いんだがなあ」

「ありがたい? それってどういう……!!」

 響の訝しげな顔に一気に緊張が走る。

「気付いたかい?」

「何か、変ね」

「変、か。まあ直感だけで言っているなら大したもんだ。ソレ、抜いときな」

 ライムが腰の刀に手を掛けつつ、響の背にある剣を見た。

「敵? でもローレルには魔族の侵攻なんて過去一度だって……」

「さ、魔族かどうかは知らねえが。とりあえず、空間が隔離されたのは事実だ。今のここは異界とか異空間とかって奴だな」

「空間の隔離? 結界が発動したって事?」

「そういう事。ただし、随分と大掛かりだ。神殿の防御機構とは思えねえ。神殿の影に何かを長期間かけて仕込んでおいた、そんな感じだな」

 ライムは冷静に状況を分析する。
 クズノハ商会で斥候を担当する事もあるだけに、彼は慌てたり戸惑ったりがない。
 誰よりも先に異常を察知し、誰よりも先に考え始めていた。

「っ!? じゃあ、チヤちゃんが!」

「ああ、危険に晒されている可能性は高いな。だから、どんな強さを得たか聞いてみたりした」

「何を悠長な! 手を貸して、すぐに救出に動く!」

「……ああ、“貸す”ぜ。その言葉は、忘れるなよ?」

「ええ、貸したと思ってくれていいわ。いずれ、返す」

「いやいや、それほど大仰に考えてくれなくていい。あの巫女さんがどんな力を得る予定なのか、そいつを聞かせてくれれば、それでいい。どうも、知りたいと思うとどうしても知りたくなっちまう性質たちでな」

「なら、移動しながら話すわ。貴方、前衛よね?」

 刀を見た響がライムに問う。
 頷くライム。

「ああ、肩並べても背中預けられても。それなりの仕事をするぜ、俺は」

 ドンッと。
 木製の扉を響が蹴り破る。
 廊下はそれまでと違い、少し歪んだように揺らぎを見せている。
 通常空間とは違う、不安定な場所にいることを示しているようにも見える光景だ。

「ならついて来て。後ろも隣も、どっちもやってもらうわ」

「了解。まずは右と左、どっちで? 巫女さんのいる場所は勇者殿が知ってるだろ?」

「左ね。それから、私の事は響で良いわ。勇者殿って何かくすぐったいのよね。同じ戦場に立つ人には、実はあまりそう呼ばれたくはないの」

「響ね。そう呼べってなら俺は構わねえよ。じゃ、いくか」

「ええ。ホルン!」

「うおっと」

 響の呼びかけに呼応して、彼女の腰に巻かれた銀帯から見事な毛並みの狼が出現する。

「チヤちゃんの所に行くわ。もし何かわかったら教えて」

 主の言葉に頷く狼。
 意思の疎通が出来ているようだ。

「召喚ならそう言ってくれ。びっくりするだろうが」

「あら、ごめんなさい。あまり臨時のメンバーとは組まないから無頓着だったわ」

 駆け出す二人と一匹。
 ライムが言った通り、神殿はダンジョンの様になっていた。
 本来の構図とは異なった廊下が続いていたり、鍵のかかっていない扉が開かなかったり。
 それに本来なら神殿内部には絶対にいないはずの魔物の類までも出没していた。
 それらは敵対的であり、先を急ぐ響らに容赦なく襲い掛かってくる。

「随分と、余裕で戦うのねっ! やっぱり、ただの従業員じゃないでしょ、貴方!」

「なに、他国に下見に行かせてもらえる程度に心得があるだけさ。それより、そちらの狼さんといい、あんたも勇者の名前に恥じない強さだ。見直した!」

 だが、響たちはそれらの魔物を相手にもせず、殆ど一撃のもとに斬り伏せて、むしろ徐々に速度を上げて突き進んでいく。
 ライムは時折響を観察するように見ては、頷いて見せたりしてぴったりと彼女の後をついていった。
 響は自身の速度に息を乱すでもなくついてきて、更に自分の呼吸を読んだ様に刃を振るうライムを見て、かつて共に戦った仲間の幻影を思い浮かべたが、振り払うようにそれを散じさせた。
 彼女、ナバールはもう帰ってきてはくれないのだと、響は自身の心に言い聞かせた。

「お、どうやら、ここか?」

「……はぁっ、はぁっ」

(こいつ、凄い。息も殆ど乱れてない。それに私の動きを邪魔しないように、立ち回って。本当にナバールみたい……いえ、彼女よりもきっと上手うわてだ……)

 響は先を走るのが自分ながら、後を付いてきたライムよりも疲労を抱えている事に驚き、そして彼の身のこなしや刀捌きに驚いていた。

「少し休むかい? 巫女さんも多分無事みたいだぜ?」

「……」

 息を整えながら、響は黙って首を横に振った。

(それに、私自身もそうだ。明らかに本来の私よりも強くなっているような気がした。この人が、ライムが力を引き出してくれた? まさか、そんな事もないだろうけど……)

 一つ大きく息を吐く。
 そして響が視線を上げると、そこにはライムの背がある。
 何故か、響には随分とその背が大きく見えた。

「しっかし、心の目? 心眼だっけか? そんな能力だけで良く耐えたもんだ。あんまり一人での戦闘とか得意そうじゃなかったのにな、あの巫女さん」

 ライムは道中で響から聞いた巫女の新しい能力に言及する。
 響がライムに教えたチヤの能力の名が心眼。心の目だ。
 対象の真実の姿を問答無用で見抜く巫女だけが持つ能力だが、響は一つライムに隠し事をしている。
 それは心眼は副作用のような能力であることだ。
 全体的な能力強化を施す儀式を受ける事が今回の目的で、その過程で心眼という能力も得る。
 能力強化については響はライムに教えていなかった。

「それは……いえ、行きましょう!」

 危うく、ライムに全てを話しそうになった響。
 だが、直前で思いとどまる。
 確かに現在は協力関係にある相手だが、ライム=ラテはクズノハ商会の一員。
 そしてクズノハ商会は響から見てひどく危うい存在だ。
 全てを明かすのは危険な気がした。

「あいよ」

「っ!!」

 ライムが応じ、そして大きな扉を開ける。
 そこには。
 膝を突き両手を組んで、目を閉じて祈りを捧げるチヤの姿。
 そして彼女を護る力強い障壁が見えた。

「魔族、かい。何だかな、どうもこりゃ計画的じゃない匂いがしやがる……上手くねえ。らしくもねえな」

 ライムが呟く。
 彼の目には巫女と障壁を取り囲む三人の魔族。
 肩で息をして、魔術を編んでいるのがライムにはわかった。
 その周囲には巫女の護衛の無残な姿。
 その目に映った光景から、ライムはそのお粗末さに何か突発的な事があったのではと予測したのだった。

「待てよ。そうか、心眼か。それの習得で思わぬものを見ちまって、それであの三人が慌ててって構図か? それならこの様子も――」

「こ、のっ!!」

「っ!?」

 情報から状況を推測するライム。
 だが、冷静だったのは彼だけだったようだ。
 右方向から怒りの声を聞いたライムは、そちらにいる筈の響の方を見た。
 飾り帯の銀帯がにわかに輝き、彼女の全身を包む。
 同時に異様な力の高まりをライムに伝えたかと思うと、次の瞬間、響の姿がかき消えた。
 そう。
 巴に鍛えられたライムの目にも、響が消えたように見えた。
 思わず背に冷たいものを感じて息を呑むライム。 

「ぎゃあっっ!!」

「……マジかよ」

 前方からの悲鳴でライムは響の所在を知る。
 チヤの張った障壁の傍に彼女はいた。
 そして、そこには三つの魔族のむくろもだ。
 反応できた、訳ではなく。
 幸運にも反射的な防御が“当たった”三人目だけが悲鳴を許された。
 後の二人は反応すら出来ずに一太刀で両断されている。
 悲鳴を許された一人も、明らかに致命傷の一撃を受けている。
 即死ではなくなった、ただそれだけ。
 間もなく、口から大量の血を吐いた魔族は死に至った。
 場に静寂が戻る。

(やれやれ。生かして顛末を吐かせるのが常道だとは思うが……。響にとってはあの巫女は特別な存在なのかもな。だとすれば、いざという時の牽制にあの巫女は使えるかもしれねえ。実際人質にしなくても匂わせるだけでも動きは鈍るもんだしな。にしても……とんでもねえ速さだ。ありゃあ、反応できねえわ。下手すれば俺も一瞬でやられるな。見ておけて良かった。……あの物凄い格好を含めて、な。冷や汗分以上の目の保養だわ、拝んどこ)

 ライムは響の行動の一切を記憶に留める。
 加えて巫女の存在や、彼女の張った強力な障壁、それに響の奥の手かもしれない超高速機動を。
 ……またその機動の際の彼女の、実に露出度の高い衣装も。

「大丈夫だった!? チヤちゃん!!」

「響お姉ちゃん! 来てくれた! 来てくれたーー!!」

 障壁が脆く崩れ去り、響とチヤが抱き合う。

「良かった! 間に合って本当に良かった! もう大丈夫だからね、私が来たからね」

「怖かったけど、きっと助けが来るって信じてたの! だから、ずっと障壁だけ張って頑張ったの!」

 チヤの対処は少女ながら、実に冷静で勇敢だと言えた。
 下手に攻めに出るよりもミスを犯す可能性は低く、確実で長く生きながらえることが出来る。
 代償として相手を排除できないため、助けをどの程度期待できるかで最終的な生存率はかなり変わってくるが。
 チヤは助けが来る方に賭けて耐える事を選び、見事にその賭けに勝った訳だ。

「感動の再会のとこ、悪いけどよ。とりあえず帰らねえか、お二人さん? 神殿の祭壇が血まみれで子供と若い娘が抱き合って泣いてるってのは、ちょっといただけねえよ」

「うっ、確かにそうね。ライム、今回は本当に助かったわ。ありがとう」

「別に、報酬はちゃんともらったし、あんまり気にされると疲れるからやめてくれ。感謝し足りねえなら晩飯はお前さん持ち、それでいい。……ん、どうした巫女さん?」

「……森を育てる大樹。それに……竜と慈雨じう

 突然、チヤが遠い目でライムを見てそう呟いた。

「……ああ?」

「チヤちゃん?」

「凄く、安心する人……」

「響。巫女さんはだいぶお疲れみたいだぜ。さっさと報告を済ませて休ませてやりな。なんだかんだでまだ子供なんだからよ」

「そうね。そうするわ。チヤちゃん、立てる?」

「うん、大丈夫。お姉ちゃんは……お姉ちゃんだ。凄い、何にも変わらない」

「……? そう?」

「うん!」

 響とライムは顔を見合わせる。
 何故か嬉しそうに笑うチヤを不思議に思っての事だ。
 三人で通常の空間に戻った神殿の祭壇から出て、神殿の神官控え室に向かう。

「おっと。俺がここにいると色々面倒かもしれねえし、お先に失礼するぜ。じゃな、響、巫女さん」

 しばし考え込むようにして歩いていたライムが、唐突に顔を上げた。

「ちょっと、貴方も当事者なんだから!」

「ライムさん!」

「いなかった事にして二人の手柄にしてくれりゃいいよ。響、晩飯は忘れんなよ。俺は宿にいるからな」

 ライムは口早に言い切ると、控え室付近で二人を置いて駆け出す。

「あの巫女さん、心眼ってのは精神防御関係なしに何かをみるらしいな。これも報告しておいた方がいいか。……やっべ、姐さんに定時報告する時間、すぐだ! さっさと戻って人のいねえとこにいかねえと!!」

 ローレル連邦にて。
 ライムは少しずつ、響と関わっていく。
 その一件ではからずも彼女達と親交を深めてしまう事に、まだ彼は気付いていない。
ご意見ご感想お待ちしています。
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