スマホを下駄のように両足に履いて行う??
某夜。新橋の中華屋で塩田さんに直接聞いてみた。
梶原「<歩きスマホ>の謎ですが…」
塩田「確かに!ただ、あの文章にも書いた通り、二つの言葉を一つにして作られた複合語は通常、横書きなら右、縦書きなら下の言葉、即ち後ろに来る言葉に大事で本質的な意味を持たせることを原則としています」
梶原「じゃあ<忍び歩き>も<スマホ子守り>も主要部は<歩き・子守り>という後ろに来る言葉。前の<忍ぶ・スマホ>は<歩く・子守りする>という主要部をかなえる手段に過ぎないということですか?」
塩田「そうなりますねえ。<スマホ歩き>では後ろの主要部分<歩く>を<スマホ>という手段で行うことになってしまう、ともいえます」
梶原「極端に言えば、歩くという主要な行動を、スマホを下駄のように両足に履いて行う、ともいえるんですか?」
塩田「極論ですが、後ろ部分を主要と考える複合語の理論からすればそうですね。その点<歩きスマホ>とすると、後に来る主要部分<スマホをする>という行為を<歩く>という手段を伴って成立させる、と解釈できます。考えてみたら<歩きタバコ>もそうでしたね」
梶原「複合語の後ろの方、<タバコを吸う>が主要部。前にある<歩き>は<タバコを吸う状況の説明に過ぎない>と考えるんですね。そう考えると<座り小便>も、後ろが主要で…」
新橋の夜はこうして更けて行くのだった。
>> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです
◇ ◇ ◇
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』『毒舌の会話術』『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』『即答するバカ』『あぁ、残念な話し方』ほか多数。最新刊に『ひっかかる日本語』 (新潮新書)がある。