感染症にかかった生後まもない赤ちゃん。
抗生物質が効かず一時、深刻な事態となりました。
今、抗生物質が効かない耐性菌が現代医療を脅かしています。
子どもたちに身近な中耳炎などの感染症。
免疫力が低下したがん患者の治療。
医療のさまざまな現場に耐性菌が出現。
これまで治っていた病気が治らなくなってきているのです。
耐性菌の脅威は欧米でも深刻化。
アメリカでは推計で、年間2万3000人もの人が死亡。
国を挙げた対策に乗り出しています。
次々と出現する耐性菌。
危機に直面する医療現場で今、何が起きているのか。
最前線を取材しました。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
このまま手を打たなければ世界は抗生物質がなかった時代に逆戻りし近代医療が成り立たなくなる。
WHO・世界保健機関は報告書の中で警鐘を鳴らしています。
私たちががんなどの手術を受け体力が低下しても感染症にならず回復できたり子どもが重い肺炎になっても命を救われるのは抗生物質があるからです。
ところが今、使える抗生物質がなくなる時代が来るのではないかと危惧されています。
その理由が抗生物質が効かない耐性菌の存在です。
日本で初めて使われた抗生物質はペニシリン。
70年前に登場しました。
以来、新しい抗生物質が開発されるたびにそれが効かない耐性菌が生まれてきました。
今、抗生物質の切り札とされているのがカルバペネムですがこのカルバペネムが効かない菌がすでに現れ、日本ではこの1年余りで1700人以上の感染が報告されています。
カルバペネムに代わる新薬が求められていますが開発は進んでいません。
次がない中で大事なのがカルバペネムが効かない耐性菌の拡散を防ぐことです。
主な感染ルートは医療行為そして便などを介して接触するとリスクが高まります。
誰しも何らかの耐性菌を持っていたとしても不思議ではありません。
耐性菌は、健康な人が持っているだけでは問題はなく体内の数は僅かです。
病気になって抗生物質をのむと体の細菌がやっつけられ耐性菌が急増します。
耐性菌を拡散させるリスクが高まるうえ免疫が低下した人の血液に入り込むと、感染症を発症させ命の危険にさらされることになります。
深刻化する耐性菌の問題。
医療現場の実態をご覧ください。
子どもを中心に年間50万人がかかる中耳炎。
ここ数年、耐性菌によるものが目立つといいます。
1歳7か月の男の子です。
抗生物質を投与してもなかなか治らずことし1月以降30回近く受診しています。
男の子は39度の高熱が出て夜、眠れない日が続いてきたといいます。
男の子の中耳炎を引き起こした細菌です。
検査したところ、抗生物質への強い耐性を示しました。
中耳炎は治らないと鼓膜を切開するなどの外科的な処置が必要になります。
悪化すれば難聴などにつながることもあり少しでも効く抗生物質を選んで治療していくしかありません。
医師は小さいころからかぜなどで多くの抗生物質をのんできた子どもに、耐性菌が特に多いと考えています。
それらの菌が保育園など集団生活の場でほかの子どもにも広がっていると見ているのです。
耐性菌への危機感は新生児医療の現場でも高まっています。
早産で生まれた赤ちゃんたちが入院する、新生児集中治療室です。
免疫力が弱い赤ちゃんが感染症にかかると命の危険にさらされます。
このため、外から耐性菌が持ち込まれないよう厳重な感染対策を日々行っています。
ところがことし思わぬ事態が起きました。
生後1日目の赤ちゃんが細菌に感染し、髄膜炎を発症。
3種類の抗生物質が投与されましたが、容体は悪化。
半日もたたずに亡くなりました。
病院は赤ちゃんが死亡した背景に一般の人たちの間での耐性菌の広がりがあると考えています。
赤ちゃんから検出されたのは抗生物質が効きにくい大腸菌。
母親の体からも同じ菌が検出されました。
この耐性菌を持つ人の割合はここ数年急増し、1割以上に上るとする報告もあります。
地域に広がっていたこの菌が母親に感染し、さらにおなかの赤ちゃんへと感染した可能性があるというのです。
妊娠中に、この耐性菌がおなかの赤ちゃんに感染した女性です。
子どもは脳内の出血や呼吸器の障害など一時、深刻な状態になりました。
有効な抗生物質が見つかり奇跡的に回復しましたが女性はいつ、どこで菌をもらったか分からず耐性菌の怖さを感じています。
抗生物質が効きにくい耐性菌が身近にも広がる中医療界が特に懸念している菌があります。
CRE・カルバペネム耐性腸内細菌科細菌。
耐性菌への最後の切り札といわれるカルバペネムを含めほとんどの抗生物質が効かない最強の耐性菌です。
CREはみずから増殖するだけでなく抗生物質を分解する遺伝子を仲間の細菌に次々と渡しCREに変えていく特殊な力を持っています。
このため広がりやすく欧米では5年ほど前から急増。
体力が低下した手術後の患者やがんの患者などが多数、死亡しています。
日本でも、去年初めてCREの大規模な集団感染が報告されました。
大阪市にあるこの病院では114人の患者がCREに感染。
23人が死亡し、少なくとも2人がCREが原因で死亡した可能性があると発表しました。
中でも、医師たちに衝撃を与えたのは60代の女性が死亡したケースでした。
消化器系のがんだった女性は手術が成功。
食事もとれ歩けるまでに回復していました。
ところが突然、高熱を出し容体が急変。
カルバペネムを含む6種類もの抗生物質が投与されましたが亡くなったのです。
院内感染に気付いた病院は患者を隔離するなどの対策を実施。
しかし、いったん広がった感染を抑え込むまでには1年以上がかかりました。
今夜のゲストは、国際医療研究センターで、感染症の治療に当たっていらっしゃいます、医師の大曲貴夫さんです。
ご自身もがん治療の現場にもいらっしゃるわけですけれども、助かるはずの方が助からない耐性菌がその背景にあったケースというのは、目の当たりにされてらっしゃいますか?
そうですね。
残念な経験はやっぱりあります。
例えばがんのお話、出ましたけれども、手術を受けるにも、いわゆるその傷がうまないように、抗生物質って実は使うんですよね。
抗がん剤治療をすると、どうしても白血球が下がって感染症にかかりやすくなるんですけれども、その際にも抗生物質は使います。
それらがうまく効くことによってがんの治療もうまくいってたんですよね、今までは。
ほかの多くの高度な医療もみんなそうです。
ただ、耐性菌が出てきてしまいますと、そのときに、いざというときに抗生物質が使えなくなってしまって、残念なことが起こってしまうということは、やっぱりあります。
この耐性菌の広がりというのを、外来なども通して、どういうふうに実感されてますか?
そうですね、病院の中での耐性菌の問題は、以前からよくいわれていたんですが、今おっしゃった外来ですよね、つまり病院の外での耐性菌の問題というのを、われわれ5年、10年、非常に強く感じるようになりました。
例えば、分かりやすい例でいいますと、よくかかる感染症でぼうこう炎というのがあります。
あるいは、それほどまでではないですが、同じ尿の感染症、腎う腎炎という、腎臓の感染症があります。
そこで原因となる菌は、ほぼ80%から90%以上が、大腸菌といわれる菌ですね。
人間の実は、おなかの中にもともといる菌なんですけれども、ただ実はこの大腸菌を調べますと、今、日本では15%前後が薬の効きにくい菌に変わってきてしまってるんですね。
ということは、外来の感染症であっても、常にわれわれはそういった耐性菌の存在を意識しなければいけない、そういう状況になっています。
身近な所に広がっているとなりますと、例えば今のリポートで、妊娠してるお母さんから子どもにその感染が広がったというケースもありますけれども、どのように今、妊娠されている方っていうのは、怖がるべきなのか、怖がるべきではないのか、どう考えたらいいんでしょう?
今のような事例って、やっぱり大変ですし、悲しいですし、本当にお母さん、お父さん、ご心配になられると思います。
問題自体は本当に最近、気付かれ始めたところなんですね。
ただ医療者は、現場の医師や、ナースは確実にその問題に気付き始めています。
ということで、こういう感染症になるのは、例えば生まれたときに体、小さかったりして、そういう方々は感染症のリスクが高いんですけれども、そういった方々が入院して来られたときに、ドクターであるとか、ナースが、ひょっとしたら薬の効きにくい菌の感染症もあるかもしれないということを、認識し始めてますので、われわれ医療者はそこをしっかり注意して、見極めて、治療を速やかに始めていくことということが、今、大事じゃないかと思います。
健康に生まれた場合は、心配しなくてもいいと?
と思っています。
それにしてもなぜ、これほどまでに耐性菌が広がってしまったのか。
原因はどう見たらいいんでしょうか?
1つはやはり抗生物質なんですけれども、結果的に使い過ぎてしまったんではないかということがあります。
抗生物質の特徴は、ほかの薬と違うのは、使い過ぎてしまうと、その対象であるところの微生物が効かなくなるということなんですね。
中でも使わなくていいところで使ってきてしまった。
例えばいい例はかぜです。
かぜは実は、菌ではなくてウイルスが原因なんですね。
インフルエンザもウイルスです、同じようなものです。
抗生物質全然効かないんでね。
でも治るんですよ。
自然治癒力で治る。
ただ、そういった熱で病院に行ったっていう場合に、抗生物質を出されることは今までは多くて、のむ側の患者さん側からすると、それでよくなってきたような印象がやっぱり、持つものですから、どうしても熱が出たときに抗生物質を求めてしまう。
例えば自分が熱が出たときに手元にお薬があったら飲んでしまうかもしれないし、友達からもらうかもしれない、家族に出されたものをのむかもしれない。
あるいは先生に出してくれって言うかもしれない。
そうやってのみ過ぎてしまった面はあるでしょうし、医療者ももっと反省すべきで、本当は抗生物質がいらないようなそのかぜのような状況でも、出しておいて損はないだろうと、害はないだろうということで、心配だから、出してきてしまってた。
患者さんの目もあるしということで、結果的には使い過ぎだったと。
だから耐性菌が増えたということはあると思います。
2点目は、耐性菌がやはり人から人に広がっていったということはあると思います。
例えば今は医療は、病院の中だけではなくて、病院の外に広がっていますけれども、それは要は、医療を受けた方が病院の外にたくさんおられてということを意味しまして、そういう方々は、どうしても耐性菌を持っているということはありえます。
その方々がほかの方と接したりとか、家族の方とかですね、ということで耐性菌が広がっているという面もあると思います。
抗生物質が使えなくなるという最悪の事態をどうやって防ぐのか。
今、世界的に危機感が広がっています。
国内で始まった耐性菌を増やさない、広げないという取り組みをご覧ください。
耐性菌が原因で年間推計2万3000人が死亡しているアメリカ。
ことし3月、オバマ大統領は国を挙げた対策を宣言。
不必要な抗生物質の処方の削減などに乗り出しました。
一方、日本では医師たちによる地道な取り組みが始まっています。
開業医の前田稔彦さん。
耐性菌を生み出さないため抗生物質を極力使わないようにしています。
導入しているのがグラム染色と呼ばれる検査方法です。
かぜや中耳炎などの症状を訴える患者にはまず原因が細菌であるかを確認。
抗生物質を処方するのは細菌の種類などを特定できた場合に限っています。
この結果、抗生物質の処方は従来の5分の1に減り治療期間も短縮したといいます。
地域での耐性菌の広がりを防ごうという取り組みも始まっています。
およそ50万人の医療を担う沖縄県立中部病院です。
力を入れているのが3年前に始めた訪問診療での感染対策です。
これまでに診療した患者180人のうちおよそ2割から耐性菌が見つかっています。
こんにちは。
訪問診療を担当する内科医の高山義浩さんです。
熱出してるというひそかなうわさを…。
耐性菌を持つ患者を診療するときには必ずエプロンや手袋を着用します。
患者専用の血圧計や体温計を家族に用意してもらいほかの患者との共用を避けています。
訪問診療を行う医師を通して耐性菌がほかの患者にうつったり患者の入院によって、病院内に持ち込まれたりすることが考えられるからです。
高山さんは耐性菌を持つ患者の情報を地域の介護スタッフや訪問看護を行う看護師と共有する体制も取っています。
大阪では、介護施設での感染対策に乗り出しています。
施設の高齢者は医療機関への入退院を繰り返すことが多いため病院から専門の看護師が出向き感染対策を促しています。
地元の保健所が中心となり病院と介護施設が連携して地域全体で耐性菌に備えようとしているのです。
病院から家庭にその患者さんが帰ってくるケースが増えてる中で、訪問診療を行っている医療関係者が、結果として、耐性菌の運ぶ役になってしまうということを、どう防ぐかということが問われてるわけですけれども、同時にこれを見て考えさせられるのは、患者と接する家族はどうすればいいのか、あるいは介護施設にいる関係者、それこそ入所者どうしはどうしたらいいのか。
どんな対策、どういう考え方で、これを捉えるべきですか?
この課題は、実は世界的にも大きな課題です。
解決策をこれから一緒に考えるところなんですが、ただいえるのは、在宅であるからこそ、あるいは長期療養型の施設だからこそ、感染症のリスクの高い方、おられるので、絶対的に対策はいるだろうと。
ただ、一方で、生活の場としてのそういった場のありようを崩しちゃいけないと思うんですね。
なぜならば、生活の場であるからこそ、健康が保たれ、あるいは回復すると。
ただ一方で、対策は足りないというところはありますので、そこはやっぱり専門家の目が必要じゃないかと思います。
これまで専門家、なかなか入れませんでした。
ということで生活の場としてのありようをうまく生かしながら、専門的な目を入れて、うまく対策ができる、そういった取り組みを始めていくということが大事ですし、現場の家族の方、職員の方がまずできることは、やっぱり手をきれいにすることじゃないかと思います。
手指衛生です。
水とせっけんで手をきれいにする。
そこから始めていくのが、僕はいいやり方ではないかと思います。
カルバペネムという、今、切り札といわれる抗生物質。
それに対する耐性を持ったCRE、これは今、どの程度、広がっているんですか?
統計をお出しします。
WHOの統計ですけれども、CREの中でも、肺炎や肺血しょう肺炎かん菌というものの中で、CREがどれぐらいあったかというものを見たものなんですけれども、ギリシャは68.2%、日本は今のところは0.2%と、非常に低いんですけれども、これから上がらないともかぎりませんので、これをなんとか抑えていくということが大事だと思います。
それを抑えていくには、今、何が必要ですか?
まずこういった耐性菌の問題自体が、なかなか意識されてなかったと思います、ほかの国では例えばアメリカやイギリスでは、国ぐるみでも対策を立てています。
社会保障上の危機であるということで、日本でもそういった議論を始めることがやはり一つ、大きな課題だと思いますし、もう一つ大事なのは、新薬の開発ということを期待したいところなんですけれども、ただそれではこれまでと変わらないですね。
ということで、ということは新しいお薬が出たら、またそれをつかいつぶしてしまったら次はなくなるんです。
2015/11/17(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「治る病気が治らない!?〜抗生物質クライシス〜」[字]
抗生物質が効かない“耐性菌”が耳鼻科や新生児医療、ガン治療など様々な現場で広がっている。WHOは「このままでは使える薬がなくなる」と警告。最新の実態と対策に迫る
詳細情報
番組内容
【ゲスト】国立国際医療研究センター 国際感染症センター センター長…大曲貴夫,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】国立国際医療研究センター 国際感染症センター センター長…大曲貴夫,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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