美の壺・選「江戸の蕎麦(そば)」 2015.11.15


(テーマ音楽)う〜ん…。
これ何だか分かりますか?そば打ちの道具ですよ。
実はねそば打ちを始めたんです。
趣味かって?いえいえ本気ですよ!そのうちそば屋を始めようと思いましてね。
ハハハハッ。
・ごめんください。
草刈さん。
誰?はじめまして。
柳家花緑ですよ。
仲間の落語家に頼まれましてね草刈さんがそば打ちを始めたらしいからいろいろそばの事を教えてやってくれって。
それで伺いました。
確かにそば打ち始めましたけど噺家さんに教わることなんてあるんでしょうか。
そうはおっしゃいますけどね草刈さんねそばは奥が深いんですよ。
江戸っ子はねそばにこだわったんですよ。
どうせ粋な食べ方なんて言ってうんちくを聞かされるんでしょ。
そんなの結構ですよ。
そばはおいしければいいんです。
いやいやもうね遠慮しないで。
ちゃんと教えてあげますから。
手取り足取り。
いやいいです遠慮します。
いやいや教えますからちゃんと。
お二人とも!もめてる場合じゃないですよ。
そば好きにとって今は大事な季節じゃないんですか?えっそうなの?そう秋は待ちに待った「新そば」の季節。
8月から11月にかけて収穫されるそば。
取れたてのそばは格別ですよね。
初々しい味と香り。
う〜んおいしそう!香りがちょっとねやっぱり違いますよね。
すごいやっぱり新そばだねっていう感じしましたね。
新そば出るとまず食べますね。
やっぱし何て言うかそば食べるとああもうそろそろ秋かなっていう感じがしますね。
江戸っ子とそばの歴史を研究している岩信也さんです。
日本人っていうのは昔から初物好きなんですね。
…という言葉がありますけどもこれは味とか何とかじゃなくて…江戸時代秋の新そばは初夏の初ガツオと並ぶ人気の食べ物でした。
江戸時代の半ば町人たちが江戸独自の食文化を生み出します。
そばはまさにその代表でした。
江戸そばという言葉も誕生します。
つまりそばは江戸のものだと。
そういう江戸自慢ですね。
でその江戸自慢の一つの要素としてそばが取り入れられたと。
そばの打ち方器から食べ方まで独特の美意識が育まれました。
今日は江戸っ子のこだわり抜いたそばの粋を観賞します。
まずはまっつぐな職人から。
江戸っ子が好んだそばとはどんなものだったのでしょうか。
老舗そば屋の三代目そば湯が産湯だったというほどそば一筋の職人鵜飼良平さんです。
江戸の下町っていうのはみんな忙しく動いてたんですね。
だから一気に胃袋にそばを放り込むというかねすすり込む。
(そばを食べる音)ズズズズズ。
だからかんじゃいけないって言うんですよね。
のどを通過する時に香りを味わう。
胃袋に入っちゃうと香りなんか無いわけですから。
通過する時に香りを感じてね。
のど越しでツルッと味わうのが江戸のそば。
そばは細くて滑らかなことが大事だったのです。
でその角を出すにはどうしようかっていうことなんですけど。
そばの角?実際に見てみると鵜飼さんのそばには見事に角があります。
整った四角がツルッと伸びて美しい!とんがった江戸職人の腕の見せどころだったのです。
そこで今日一つ目の壺は…四角くて細い江戸そばはどのようにして生まれるのでしょうか。
江戸そばの多くは「二八そば」と言われ小麦粉が2割そば粉が8割の比率です。
小麦粉を加えることで切れにくく滑らかなのど越しが生まれます。
細いそばを打つための勝負どころは麺棒さばき。
練り上げた生地を薄くそして四角くのしていきます。
厚さを均等に保ち破れないように。
およそ1.5ミリの薄さ。
まるでシルクの布のようです。
のど越しが最も良い太さに切りそろえます。
幅はおよそ1.3ミリ。
ギリギリの間隔です。
切った後包丁をわずかに傾け板をずらしていきます。
幅を均等にする技です。
この時包丁に体重を乗せ垂直に下ろすのがコツ。
大切なのは力ではなくリズムです。
こちらはそば打ちの初心者。
リズムの違いが形に出ました。
おいしいそばの決め手はひきたて打ちたてゆでたて。
ゆで上がったそばは素早く水で冷やします。
こちらでは細いそばを切らないよう「面水」と言って一度水を手に当てそばにかけていきます。
鮮やかな手さばきがキレのいいそばを生み出します。
盛りつけは雪が降り積もるように空気を含ませて。
職人の心意気がギュッと詰まった江戸のそば。
いただきます!まずですねざるがあった時にそばを一つまみ軽くつまみます。
で猪口があってつけるんですけどこの時にですよあんまりジャポンとつけてグルグルかき回したりなんかねそういう食べ方を江戸っ子はしなかった。
そうじゃないんですね。
ちょっと先のほうだけ2〜3割だけつける。
というのがですね…ズズズズズ。
あその音!で食べるという事ですね。
ズズズズズ。
アハハうまいもんですね!さすが噺家さん。
温かいそばですよ今度はね。
箸を割るとこから。
温かいそばですから長さを見て。
やっぱり熱いから吹きますね。
フ〜フ〜…ズズズズズ。
ハフハフハフ…熱いですからね。
でつゆも飲みたい。
フ〜ジュル〜あ〜!こういう感じですかね。
そのズズズっていうのちょっと私もやってみたいんだけど教えて。
やりたい?ズズズですか?教えて。
草刈さんにできるかなぁ。
教えて!次は洒落っ気たっぷりのそばだよ!そばの実のひき方や配合で代表的な3つの種類がありそれぞれ色の特徴があります。
こちらはいわゆる江戸前のそば。
おなじみの薄茶色です。
「田舎そば」は麺が太くて濃い茶色です。
そばの実の茶色い殻や甘皮ごとひき濃厚な色と風味が楽しめます。
真っ白い…そばの実の芯だけをひいて作ります。
お酒で言うなら大吟醸。
江戸時代から手間ひまかかる高級品として珍重されました。
更にこの3色に加えて秋ならではのそばの色が加わります。
「新そば」の淡い緑色。
そば好きを惹き付けてやまない色です。
そばの実は茶色い硬い殻に覆われています。
殻をむいた甘皮の部分がそばの色を決めます。
収穫直後の甘皮は緑色。
新そばの緑はこの色なんです。
香り高き緑のそば。
江戸っ子はそのはかなさを粋に感じたのでしょう。
今日二つ目の壺は…老舗そば屋の主人堀井良教さん。
色を楽しむそばを作っています。
「変わりそば」です。
手前どもでは更科真っ白なおそばに季節のものを練り込んだおそばでございます。
地が白いですから香りも色も引き立つということですね。
変わりそばには更科そばの粉を使います。
そばの実からわずか数%しか取れない真っ白なそばの粉です。
この日は菊の変わりそば。
食用の菊をゆで細かくしたものを混ぜ込みます。
秋の変わりそば「菊切り」は江戸時代にも食べられたというこの季節ならではのそばです。
日本人が古くから親しんできた菊の花。
気品漂う香りとほのかな苦味が秋の深まりを感じさせます。
変わりそばの材料は季節のものに限りません。
江戸時代には50種類もの変わりそばがあったといいます。
お祝いに食べるピンクのそば。
煎った桜エビです。
暑い盛りには爽やかな風味のそば。
生のシソの葉です。
そして最近ではこんな意外なものも。
なんとホールトマト!これを混ぜたらどんな味になるのだろう。
江戸っ子の好奇心はさまざまな変わりそばを生んできました。
ま遊び心と思って頂いたほうがよろしいかなと思います。
初物が好きな江戸っ子の趣味に合ったようなそんなところもあったのかもしれないですね。
そばの色や香りで遊び尽くす。
江戸っ子の洒落っ気です。
ズッウッ…違う。
いやこれですね僕が祖父の五代目柳家小さんに習ったのはほっぺたの内側とベロの舌の外側ここをこすり合わせる。
ズズズズズズズズ。
こういう音です。
ズズズズ。
ズッププッ…駄目ですね私は。
センスない。
がっかりすることないですよ。
だってこれプロの落語家だってできない人がいるくらいですから。
難しいんですこれ。
そうだそれより草刈さんの打つおそば食べさせて下さいよ。
僕食べたいですよ。
ね打てるんですよね。
草刈さんの打つ本当のそばでズズズッとやりたいですね。
え私の手打ちそば食べてくれるんですか?是非食べさせて下さい。
それじゃあ気合いを入れて打ちますか。
ハハハッ。
いえそうじゃない。
打つのはこっちですから。
その打つじゃない。
こっち。
あれ?おそば屋さんでめっけもん。
そばのもう一つの楽しみそれはそば専用の器たちに出会うこと。
おなじみのそば猪口や汁徳利。
もともとは酒を飲むための器がそばにも使われるようになりました。
そば湯を入れる湯桶は湯や酒を注ぐのに用いられたと言われています。
角に持ち手とつぎ口が付いたこの形。
注いでみると使いやすい。
よく考えられた形なんですね。
こうしたそばを取り巻く世界をこよなく愛する人がいます。
高遠彩子さんです。
高遠さんはミュージシャン。
さまざまなアーティストと共演してきました。
そば屋に関するエッセーも出版している高遠さん。
20年にわたり日本各地のそば屋を巡ってきました。
高遠さんのそば屋での楽しみの一つが器です。
浅草の老舗そば屋。
こちらでは1枚のお盆の上にざる汁徳利そば猪口薬味入れが整然と並べられています。
お盆の中に完全な世界がある。
シンプルさ素朴さ。
鮮やかな色も何も無いのにこんなにきれいな格好いい世界がここにあることに私は毎回感動します。
そばを楽しむために考え抜かれた潔い景色です。
今日最後の壺は…この日高遠さんが向かったのは一風変わったたたずまいのお店。
まず楽しむのは「そば前」です。
そばを食べる前にお酒を頂きます。
肴はシラスおろし。
日本酒との相性ぴったりです。
おいしい!片口と清水焼の猪口をめでながらそばを待ちます。
お待たせ致しました。
せいろでございます。
まず目に飛び込んでくるのはそばを高々と頂く竹ざる。
おそばの香りが好きなのでちょっと高い所にあるこのおそばを眺めた時にこのおそばの中に含まれている香りというのを私は想像してしまうんですね。
その香りがここに浮かんでるということがうれしくなるしここに主役として真ん中にいるというお立ち台。
さまざまな太さの竹を用い異なった編み方で目を楽しませるざるです。
高台の付いた作りがそばをありがたく演出しています。
東京の郊外住宅地の中の不思議なそば屋で見つけたのは…。
陶器のそば皿。
ご主人手作りの器です。
いろいろ作っていくうちにたどりついたのがこちらのそば皿。
工夫したのは真ん中の部分。
細かい溝が施されそばを盛った時ベタつかないようになっています。
この器にはもう一つこだわりがあります。
店の名物産地の異なる手打ちそばを盛ると陶器と3色のそばの肌が響き合います。
そばの肌に合わせてこの器が出来たというのがよく分かる。
本当にそばの粒がきれいなんですよ。
それとよく合ってるこの器の肌。
その手作りの器の世界の中にこのそばが収まってる大切な感じ。
さておそばの後のお楽しみは「そば湯」。
こちらも手作りの器です。
大ぶりの八角形。
内側の織部調の緑が白いそば湯を引き立てます。
形もそば湯の量も豪快でうれしいですね。
おそばの後に今食べたおそばに浸りながらそば湯とそばつゆを味わうという幸せ。
すみませんそば湯お代わり頂けますか?・はい分かりました。
最後は柴又帝釈天近くにやって来ました。
そば好きには外せないとっておきのメニューをご存じですか?それは名物…そば粉をお湯で練っただけの料理。
それだけにそばそのものの風味を存分に味わえます。
特注の信楽焼の器で頂きます。
おそばが温和な豊かな丸い塊なのがこの大胆な武骨と言っていいこの形のせいでより真ん中に柔和な優しい人がいる感じが引き立ってる感じがします。
そして高遠さんぞっこんのお膳がこちら。
目を引くのは冷たい水に入った「水そば」。
まずつゆをつけずに新そばそのものの色と香りを楽しんで頂きます。
ウイスキーグラスをアレンジした器で。
薬味入れは小さな錫の皿です。
脚付きのつゆ入れ。
金継ぎして大事に使われています。
極め付きはこのせいろ。
白木の箱に緑の新そばが収められていました。
宝物がこの小さい箱のこんなすてきな細工がしてある箱の中にギュッと入ってるという。
開けた時のワッといううれしさ。
よくぞ!という感じですね。
所詮そばと言うことなかれ。
江戸っ子のこだわりはとどまるところを知りません。
さあ新そばのおいしい季節。
皆さんはどんなふうにそばを楽しみますか?ではそば打ちますよ〜!よっ待ってました!まずはそば粉をと。
あれ?そば粉が無い。
あ…この間全部使っちゃった。
いや悪いね悪い。
うっかりしてて。
いやこんなはずじゃなかったんだよ。
もう草刈さんの打ったそばを僕食べられると思って楽しみにしてたのに。
ごめんね花緑ちゃん。
あそうだ。
そば屋へ行こうよ。
え?近くにねそば屋が出来たんだよ。
そこでねズズズッてやってみようよ。
いやちょっと待って。
僕も面と向かってこれ見たいんだ。
いやそれよりねそば粉買ってきましょうよ。
僕が買ってくる。
ここにいて。
いやごめんなさい。
僕だった。
いやいいから。
来る時スーパーがあったからそこへ買いに行くから僕が。
どうせ2人でズズッてやるんだから。
やらしいな今のズズッって。

(「いい湯だな」)2015/11/15(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「江戸の蕎麦(そば)」[字]

身近なテーマを3つのツボで指南する美術番組。今回は「江戸のそば」。老舗職人の手打ち技、ざるやそばちょこ等道具、柳家花緑さんの江戸そば指南も必見!案内役:草刈正雄

詳細情報
番組内容
「秋新」と呼ばれる淡い緑色と香りの“新蕎麦(そば)”の季節。のどごしで味わう江戸蕎麦の秘密。老舗の主人が見せる!細くて角張った江戸蕎麦の手打ち技。殿様が愛した真っ白な更科蕎麦は、菊や桜えびなど自然の素材を活かして色とりどりの蕎麦に変身!!蕎麦通が案内するとっておきの名店。そば猪口・蒸篭(せいろ)・ザル・湯桶など蕎麦をおいしくする道具も必見!落語家の柳家花緑さんが草刈さんに江戸っ子の蕎麦作法を伝授。
出演者
【ゲスト】落語家…柳家花緑,【出演】草刈正雄,【語り】礒野佑子

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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