島根県安来市郊外にある日本で最も美しいと謳われている日本庭園をご覧ください。
足立美術館の庭です。
枯山水の見事な庭の背後には色づき始めた山々が広がります。
館内にあるこの茶室ではお茶を楽しむことができます。
嬉しいですね。
そっと目を移せば露地の眺めは格別。
色づいた鮮やかな紅葉が。
秋だわ。
今日の一枚はこの美術館にあります。
大正から昭和にかけて日本画の世界をダイナミックに革新した巨人です。
今日の一枚の題材は紅葉。
でも描かれた世界は男と女の愛なのです。
心が真っ赤に染まるような。
う〜んこれか。
今日の一枚…。
縦横168センチ。
二曲一隻の屏風絵です。
画面を覆うのは紅葉。
片隅に群青の水面が見えます。
澄み渡る池を散った紅葉が埋め尽くしているのです。
その上を2羽の鴛鴦が泳いでいます。
大きく色鮮やかなほうがオス。
その視線の先には…振り向くメスの鴛鴦。
見事なのはオスの鴛鴦の色彩です。
羽毛に使われた胡粉の白さ。
つやめく濃紺の肩羽。
赤いクチバシに金緑色の冠羽。
恐らく求愛の真っ最中なのでしょう。
さりげなくメスに視線を送っています。
愛染という言葉にはこんな意味があります。
この屏風には画家の何か深い思いが隠されているようです。
静かな画面の中に動きが感じられ時間の経過をも描き出すことに成功している。
強烈な色彩の対比ですよね。
明るい群青と鮮やかな辰砂をぶつけていくっていうのはやっぱりすごく紅葉って描くのは難しいのかしら。
というわけで今回はたま子さんが挑戦します。
10年前まだ私が学生だった頃紅葉の絵を見に行ったことがあります。
川端たつこの紅葉です
たつこ?
何?これは
これは『愛染』を見て失神してしまった駆け出しの日本画家修業の物語。
《あれから10年目の秋です》《食パンの耳をかじったばっかりなのにお腹が空きました。
あっ八百屋さんだ》《私は貧乏です。
栗を1個描いてから栗ご飯にしようか。
お芋を1本描いてからお芋を夕食にしようか。
でもやはり食事と修業が一緒になってはいけません。
都合がよすぎる。
動機が不純だと思うのです》どう?松茸。
あっ…。
この紅葉の葉を1枚ください。
《10年経ちました。
失神したあの頃の私とは違います。
今なら描けると思うのですたつこの紅葉を》たつこじゃなくてりゅうしなんだけど。
《え…描けない。
何?この紅葉は…》そうこの紅葉には特別な秘密があるようですよ。
いったいどんなものなのか?再現していただいたところ…。
細部を見てみると『愛染』について川端龍子はある言葉を残しています。
その謎めいたひと言に川端龍子という画家のすさまじい情念と情熱が隠されていたのです。
《ただの紅葉じゃないのか…》それはいったい?東京大田区の住宅街に川端龍子の記念館があります。
現在…。
龍子のダイナミックな大作を堪能することができますよ。
記念館の向かいにある邸宅では龍子が制作に励んだアトリエが公開されています。
広いです。
60畳の檜の床張り。
天井の高さは4m。
庭の豊かな緑が目に優しいアトリエです。
今日の一枚『愛染』は…。
でもただ美しいというわけではありません。
その理由が紅葉に隠されているらしいのですが…。
川端龍子は異色の画家です。
《たつこじゃなくて龍子。
男でしたかこれは失礼》挿絵画家だった20代の頃洋画家を志していた彼は留学先のアメリカボストン美術館である日本美術と出会いました。
鎌倉時代の大和絵の傑作『平時物語絵巻』。
洋画への志に反し日本の美というものに心を奪われてしまうのです。
龍子は独学の人です。
師匠は持たず自ら学び考え修練を積み上げた新しいタイプの日本画家でした。
やがて龍子は人々に衝撃を与えます。
大衆と絵画を結びつける会場芸術を唱え観客を圧倒する大作を発表していくのです。
目の覚めるような群青の海を描いた屏風を2つ合わせると8mを超える超大作です。
濃紺の地に金泥で描かれた鮮やかな草花。
まるで蒔絵のような世界。
このダイナミックな作風で日本画を変革していくのです。
戦う芸術家だった龍子は日本美術院を脱退し自らの美術団体青龍社を立ち上げました。
古い因習の残る画壇に新風を巻き起こしていくのです。
《日本美術院といえば横山大観や下村観山らの巨人たちがいる日本画の総本山のような団体だ。
その向こうを張って新団体。
なんて強いんだ龍子は》『愛染』は目の覚めるような燃える秋。
2羽の鴛鴦が紅葉の葉とたわむれるように浮かんでいます。
その紅葉を一枚いちまい見つめてみれば他の画家が描くものとはちょっと違うようです。
紅葉は日本画で愛されてきた画題です。
伊藤若冲は友禅の模様のように優しく品のある紅葉を描いています。
横山大観の『紅葉』は絢爛たる様式美の世界です。
ところが龍子の紅葉は一枚一枚がリアルなのです。
時を経た葉の黒ずみまで描いています。
龍子はどうやって描いたのか?文化財保存修復の第一人者である荒井経さんにその一部を再現していただきました。
まずこれが重要なポイント。
次にこれは輪郭線を引かず筆の面を使って形を表現する辰砂は上澄みのものと沈殿したものとを使い分けて紅葉の鮮やかさに変化を持たせているのです。
いかがでしょう?乾いたらこうすることで紅葉が水に浸かった印象を与え立体感が生まれました。
最後に完成です。
龍子の紅葉の特徴は荒井さんは言います。
銀砂子も辰砂で紅葉を描くっていうことも伝統的にあるんですけれども…。
そうすると銀が黒くなってくると。
見えてるっていう部分もあるんじゃないかと…。
細部を見てみると銀の砂子は時間の経過とともに黒ずみを帯びていきます。
これが龍子の紅葉。
《画面を覆い尽くすリアルな紅葉。
その水面でつがいの鴛鴦が遊んでいる。
それだけなのにめまいがする。
ドキドキする。
どうしてなんだろう?あれ?》あっ何か気づきました?《これどこから見てるの?》画家は水面に散った紅葉を真上から見て描いています。
しかし二羽の鴛鴦はどうでしょうか?斜め横のアングルから見て描かれているのです。
紅葉と鴛鴦はそれぞれ視点が違います。
どうして龍子はこの不思議な構図で描いたのでしょうか?
気になったので龍子の暮らしていたお屋敷を訪ねてみました。
案内をしてくれた学芸員の木村拓也さんがその理由を教えてくれました
川端龍子の作品の特徴のひとつなんですが。
『愛染』で描かれていたあの俯瞰というのは龍子がまさに上からのっかりこんで描いてたそのときの視点。
もうひとつ作品をですね今度は縦にして仕上がりを龍子はチェックしてたんですね。
縦にすると…。
大きな弧を描くオスの鴛鴦のライン。
そしてひとまわり小さな弧を描くメスの鴛鴦のライン。
この2つのラインのなかに驚くべき愛の姿が隠されていたのです。
男と女の夫と妻の。
なんだか大変なことになってきましたね。
え?愛染明王?それは何か?鴛鴦は夫婦円満のシンボルとして愛されてきた水鳥です。
メスのほうが地味でオスのほうが派手。
というのがおもしろいですね。
水鳥を飼育している根本さんに今日の一枚を見ていただきました。
今銀杏羽根を思いっきり広げてる状態なのでメスに求愛行動を表しているのを感じます。
まだ夫婦にはなっていないんですね。
では川端龍子は何を描こうとしたのかしら?今日の一枚『愛染』は昭和9年に制作されました。
その前の年龍子は父に反発しときに憎んだ息子でした。
龍子は自ら育った家庭環境から愛について深く考え続けた画家でした。
その父の死後に描いたのが『愛染』です。
愛染とは仏教の言葉です。
人間はときに愛欲に執着しとらわれます。
しかし人間の生きる力の根源ともなります。
この本能を悟りの境地に導くのが『愛染明王』なのです。
《紅葉の赤は激しく燃え上がる愛欲の色だったのか。
ではあの言葉は?》水巴とは鴛鴦が動いたあとに出来る弧を描く水の軌跡のこと。
オスの鴛鴦は当初画面の右上にメスは画面の左側にいたことがわかります。
メスを見初めたオスは大きな弧を描いて接近していきます。
メスも一瞬近づきますがすっと離れたようです。
しかし互いに相手を忘れられずに見つめ合っています。
赤く燃え上がる紅葉に包まれて。
その愛の軌跡を画家は金泥を用いて描いています。
これが龍子の水巴の工夫。
そういう先生でしたね。
オスとメスが見初め合った瞬間の姿です。
冷静な心は一瞬にして消え去り水面は紅葉の赤に染まっていきます。
その燃え上がる愛を龍子は描きました。
男と女の夫と妻の愛を水巴の線に託して。
それは父との別れの果てにようやくつかんだ『愛染』という悟りの世界だったのかもしれません。
《龍子先生描かせていただきます。
ようやく紅葉1枚出来ました》《精進いたします》足立美術館では12月1日から『愛染』が公開されます。
美しい庭とともに川端龍子の愛の世界をお楽しみください。
一見ほほえましい鴛鴦の姿です。
しかし激しい動きが描き込まれているのです。
求め合う2つの心の動きが。
川端龍子作『愛染』。
愛の決定的瞬間。
ガラガラと引いて歩くこのキャリーケースが2015/11/14(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 川端龍子『愛染』屏風絵の傑作!モミジに託した情念と革新的技法[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、川端龍子(かわばた・りゅうし)作の屏風絵『愛染』。
詳細情報
番組内容
今日の作品は、日本画家・川端龍子作の屏風絵『愛染』。縦横168cmの屏風に描かれているのは、池を埋め尽くす真っ赤なモミジ。その上を泳ぐオシドリは、色鮮やかなオスがメスに求愛中。一見微笑ましい情景ですが、愛染には「心が真っ赤に染まるような激しい愛。男女の愛欲に囚われること」という意味があるのです。紅く燃え上がるモミジに託した、凄まじい情念、情熱、愛の姿とは?また革新的な驚きの技法や構図にも迫ります。
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
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ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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