1.はじめに
IBM FileNet P8 (以降、FileNet P8と略します) は、企業が抱える膨大な量のファイルやデータを一括管理するようなシステムを構築するためのサーバー製品です。このような製品のカテゴリーをエンタープライズ・コンテンツ管理 (Enterprise Content Management, ECM) と言います。簡単に言えばファイルやデータを保管する入れ物ですが、単なるファイルサーバーとは仕組みや機能が大きく異なります。ECMについて詳しくは、「エンタープライズ・コンテンツ管理」をご覧ください。
FileNet P8 は単なる一つの製品ではありません。様々な機能を持った小さな製品 (コンポーネント) の集まりです。それらのコンポーネントを組み合わせることでお客様の多様なニーズに応じたシステムを構築することができます。その中でベースとなるのが FileNet P8 Platform です。FileNet P8 Platform は次の4つのコンポーネントで構成されています。
- Content Engine (CE)
- Process Engine (PE)
- Application Engine (AE)
- Rendition Engine (RE) (オプション)
この FileNet P8 Platform に必要に応じたコンポーネントを追加することで様々な用途のサーバーとして使用することができます。また、FileNet P8 ファミリー製品以外のコンポーネントと連携して動作することも可能です。FileNet P8 Platformについての詳しい説明は「IBM FileNet P8 Platform」に掲載されています。ぜひご覧ください。
一方、機能面から見れば、FileNet P8 が持つ主要な機能として大きく以下の3つが挙げられます。
- コンテンツ管理機能
ファイルやデータの保管や検索などを行います。主に Content Engine がコントロールします。 - ビジネスプロセス管理機能
各文書に対して承認や確認などのワークフローを作成して実行します。主に Process Engine がコントロールします。 - コンプライアンス管理機能
法令準拠のための改ざん防止や保存期間などを管理します。主に Records Manager がコントロールします。
これらに加えて、ユーザーインターフェイス構築機能 (主に Application Engine がコントロールします) も備わっています。本稿では、まず Part 1 として「コンテンツ管理機能」についてご紹介致します。他の機能については Part 2 以降でご紹介します。
2.FileNet P8 Content Managerの概要
コンテンツ管理機能のことを FileNet P8 では、Content Manager と呼びます。あくまで FileNet P8 Platform の持つ機能名であり、FileNet Content Manager という製品があるわけではありません。Content Manager は、コンテンツ(=ファイルの中身)に識別情報を付けてサーバーに保存し管理します。Windows や Unix のファイルシステムにとてもよく似ていますが、コンテンツ管理の仕組みが大きく違います。下図はあえて Content Manager の構造を Windows のファイルシステムに当てはめて考えた場合の概念図です。
コンテンツ(ファイルの中身)を管理するために、各コンテンツには識別タグが付けられます。Windows ではこの識別タグは「ファイル名」「サイズ」「種類」と「更新日時」しか持ちません。対して、FileNet P8 ではこの識別タグの型を自由に定義することができます。この型のことをオブジェクトクラスと呼びます。オブジェクトクラス内の個々のデータの入れ物をプロパティと呼びます。プロパティに入る実際のデータをメタデータと呼びます。メタデータは文字や数字や日付などです。メタデータとコンテンツを合わせた実際のデータ一式をオブジェクトと呼びます。Windows で言うところのファイルに相当します。一つのオブジェクトは必ず一つのオブジェクトクラス(型)に従ってデータが登録されています。
コンテンツを持たないタイプのオブジェクトクラスを定義することもできます。それをカスタムオブジェクトクラスと呼びます。コンテンツ付きのタイプはドキュメントクラスです。 フォルダーもオブジェクトの一つです。フォルダータイプのオブジェクトクラス(フォルダークラス)に従って登録されています。フォルダークラスでは「フォルダー名」だけでなく、いろいろなプロパティを追加定義することができます。
また、ツリー構造で言うところのルートフォルダーのその上をオブジェクトストアと呼びます。Windows システムにおける論理ドライブに相当するようなものと考えてください。オブジェクトストアをまとめているのが FileNet ドメインです。
FileNet P8 のこの構造は次に示すような特徴を持っています。
- オリジナルのプロパティを自由に作成できます。(例:文書管理番号、有効期間、カテゴリー名、担当者名、公開済みフラグ、など)
- 専用のオブジェクトクラスを自由に何個でも定義できます。(例:保険証書の型、自動車カタログの型、など)
- オブジェクトストアをいくつでも増やせます。(例;営業グループ用、岩手第三工場用、機密文書保管用、など)
- ひとつのオブジェクトストアの中にオブジェクトクラスは複数存在できます。
- ひとつのオブジェクトストア内でも、各オブジェクトごとにオブジェクトクラスを別々に指定できます。
このような構造をとることで複雑なデータの管理や難しい条件検索などに容易に対応することができます。また、FileNet P8 には独自の便利機能が標準でたくさん備わっています。これらについては後半で紹介します。
一方、製品面から見ると、コンテンツ管理機能を主に司っているコンポーネントが Content Engine です。Content Engine を中心として見た場合の FileNet P8 全体の構成図を示したのが下図です。
Content Engine は J2EE のアプリケーションとして動作しています。Content Engine にはデータを保存するためのデータベースシステム(RDBM) とユーザーを管理するためのディレクトリーサーバー(LDAP) が不可欠です。さらに Process Engine や Application Engine などの他のコンポーネントと複雑に連携しながら動作するようになっています。Content Engine 単体では動作しません。他のコンポーネントが Content Engine と通信するためには Content Engine 用のクライアント (CE Java Client) をそれぞれに導入する必要があります。連携動作や内部動作の詳しい仕組みについてはここでは触れませんが、以下のサイトに紹介と技術資料一式がありますのでご覧ください。
3.FileNet P8 Content Manager の機能紹介(1) - 基本機能
まずは、ECM サーバーの持つコンテンツ操作の基本5大機能というのをご紹介します。これらは FileNet P8 に限らず、ECM に属するサーバーには必須の機能です。それぞれの頭文字をとって、C.S.R.U.D. と略することもあります。
- 登録 (Create)
- 検索 (Search)
- 読出し (Retrieve)
- 更新 (Update)(コンテンツ更新、プロパティ更新)
- 削除 (Delete)
加えて、FileNet P8 には多数の便利な機能が備わっています。それぞれ専門用語の説明も交えて以下にご紹介します。参考のために標準クライアントであるワークプレース (Workplace) のユーザー画面を下図に示します。
オブジェクトのリスト画面
オブジェクトのプロパティ画面
- オブジェクトストア定義
- オブジェクトストアとはフォルダーやドキュメントなどのオブジェクトを入れるためのルートフォルダーが存在するところです。Windows で言うところのドライブ(論理ドライブ)のようなものと思ってください。コンテンツをデータベースの LOB(Large OBject) 領域に保管するか通常のファイル形式として保管するかなどを設定しておきます。
- オブジェクトクラス定義
- オブジェクトクラスとはコンテンツに付随する識別タグの型のことです。プロパティの組み合わせとコンテンツの有無で構成されています。一般にはデータモデルと言います。オブジェクトクラスには次の3つのタイプがあります。1.ドキュメントクラス、2.フォルダークラス、3.カスタムオブジェクトクラスです。それぞれデフォルトの標準クラスが用意されています。ユーザー独自のオブジェクトクラスを定義することもできます。
- プロパティ定義
- プロパティとはコンテンツに付随する識別タグに用いる要素のことです。メタデータが入る入れ物です。Windows で言うところの「ファイル名」や「ファイルサイズ」などに相当します。ユーザーは新しいプロパティを自由に作成することが出来ます。通常はそれらのプロパティを用いてユーザー独自のオブジェクトクラスを定義します。なお、ここで言う「プロパティ」はWindows の右クリックで表示されるプロパティとは違うものなので混乱しないように注意してください。混同しないようにプロパティテンプレートと表記される場合もあります。
- チョイスリスト機能
- プロパティに入れるメタデータの候補の値をあらかじめ作成しておくことができます。ユーザーはその候補をプルダウンメニューの中から選べばメタデータを簡単に入力することができます。
- 自動バージョニング機能
- システムが自動的にオブジェクトのバージョン管理を行います。コンテンツが更新されるたびにバージョンが上がります。更新履歴が残りますのでコンプライアンス機能としても重要です。"バージョン 2.1"といった場合の小数点以下をマイナーバージョン、整数部をメジャーバージョンと呼びます。ドキュメントクラスのオブジェクトに対してのみ有効な機能です。
- セキュリティ機能
- ユーザーやグループに対してオブジェクトストアや各オブジェクトへのアクセスを管理します。ユーザーやグループを管理しているのはディレクトリーサーバーです。このサーバーと LDAP のプロトコルで通信しながら、ユーザーからのアクセス要求に対して認証 (Authentication) と認可 (Authorization) を毎回確認します。この作業は Content Engine 内に持つ JAVA の標準クラスである JAAS (Java Authentication and Authorization Service) を介して行われます。
4.FileNet P8 Content Manager の機能紹介(2) - 拡張機能
さらに、Content Manager には次の拡張機能も標準で備わっています。ここでは、その概要のみを簡単にご紹介します。
- エントリーテンプレート
- FileNet P8 では各コンテンツごとにオブジェクトクラスが違うのでコンテンツの登録作業がとても煩雑で面倒になることがあります。そこで、あらかじめメタデータなどが入力してあるテンプレート(雛形)を用意しておき、それを使うことで簡単に登録作業を行うことができます。この雛形のことをエントリーテンプレートと言います。
- サーチテンプレート
- 同じ検索を何度も行う場合、あらかじめ検索条件などを入力しておいたテンプレート(雛形)を用意しておけば、それを使うことで検索操作が簡単に行えます。この雛形のことをサーチテンプレートと言います。
- 複合ドキュメント
- オブジェクト同士を親子関係のように階層的に関連付けしておくことができます。例えば、あるドキュメントの参照先のファイルを子文書として関連付けしておくといった形です。
- ライフサイクル管理
- ドキュメントに対してあらかじめ設定しておいた状態を遷移させることができます。例えば、[起票]→[受理待ち]→[調査中]→[解決案準備]→[解決済み]といった具合です。それぞれの遷移時に外部 JAVA クラスを自動でコールさせることもできます。
- フルテキスト検索 (Content Based Retrieval, CBR)
- コンテンツの中に対してキーワード検索を行います。全文検索とも言います。検索エンジンには、Autonomy社製のK2という製品を組み込んで用いています。フルテキスト検索とプロパティ検索を組み合わせて検索を行うことも可能です。
- 注釈機能
- コンテンツに対して文字や図形などの注釈を追記することができます。例えば、全ページに「コピー不可」のスタンプを追記しておくといった形です。TIFFなど画像ファイルのコンテンツに対してのみ有効です。
- アプリケーション統合
- マイクロソフトオフィス製品(ワード、エクセルなど)に FileNet P8 と連動させるプラグインを追加することができます。アプリケーション統合機能をインストールするとエクセルなどのメニューリストに「FileNet P8から開く」、「FileNet P8 へ保存」というメニューが追加されます。ローカルディスクと同様に FileNet P8 サーバーを保管領域として使うことができます。
5.FileNet P8 Content Manager の操作方法
ここでは、「ユーザー独自のプロパティとオブジェクトクラスを定義して、それを使ってオブジェクトを登録する」という基本操作を具体例に沿って紹介します。例としては、「保険会社が保険の契約書を保管するケースで、契約書は印付きの PDF 形式のファイルである」とします。操作を追っていくことで FileNet P8 の機能の特徴がより具体的にイメージされると思います。
まず、「申込書」の型を作成します。作成するプロパティは以下のように設定します。
プロパティ名 | メタデータの値の型 | 備考 |
---|---|---|
契約書番号 | 文字型 | 必須項目 |
氏名(姓) | 文字型 | 必須項目 |
氏名(名) | 文字型 | 必須項目 |
生年月日 | 日付型 | |
住所 | マルチ文字列型 | |
保険のタイプ | 文字型 | チョイスリストより選ぶ |
コンテンツ | 有り |
この表に従ってプロパティを新規作成します。Content Manager の設定操作は、標準管理コンソールのエンタープライズマネージャ (Enterprise Manager) よりすべて行います。右クリックメニューより、ウィザードを起動させていくつかの質問に応えれば簡単に作成することができます。
次にオブジェクトクラスの新規作成です。「コンテンツ有り」なのでドキュメントクラスのタイプで作成します。右クリックから同じようにウィザードを使えば簡単です。その際に先ほど作成した6個のプロパティを取り込みます。
これで「申込書」のオブジェクトクラス(ドキュメントクラス)が出来ました。
次にワークプレースからこのオブジェクトクラスに従ってオブジェクトを登録します。メニューバーから「ドキュメントの追加」アイコンをクリックして、クラス設定で「申込書」を選びます。するとプロパティの値の入力画面に標準の「ドキュメントタイトル」に加えて上で設定した 6個のプロパティの入力欄が表示されます。後はウィザードの指示に従って値を入力していけば登録完了です。もし、あらかじめ設定しておいたメタデータの型と違うデータが入力されたら、「入力することができるデータが違います。入力できるのは…。」というようなエラーメッセージが出ます。
登録されたオブジェクトに対する操作はすべて右クリックメニューから行います。プロパティの確認や修正などもメニュー操作で簡単に行うことが出来ます。ちなみに、コンテンツを開く場合は、「ダウンロード」(表示モード)あるいは「チェックアウト」(編集モード)を選びます。
以上のように、プロパティ構造を自由に構築できることが Content Manager の最大の特徴です。もし、コンテンツに紐付けしている情報が「ファイル名」だけの構造であったならば、数千万件を超えるような膨大なコンテンツから本当に自分の探したい情報を見つけ出すのは非常に困難です。不可能と言ってもよいかもしれません。対して、このような Content Manager の構造ならば、たとえコンテンツが画像などのイメージファイル類でも簡単に検索できるような仕組みにすることができます。
なお、ワークプレースの操作画面は自由にカスタマイズして使うことができます。各ユーザーが自分の好きなように画面を作りこんでおけばいちいち操作方法を覚える必要はありません。また、Windows エクスプローラとほぼ同じ操作画面の標準クライアント製品(ワークプレースXT)もご用意しています。
6.まとめ
今や世の中のすべての情報がデジタル化されていると言っても過言ではないかもしれません。しかし、デジタル化された情報といえどもきちんと整理されていなければそれらを存分に活用することはできません。今後は企業における膨大な情報の管理は生命線とも言えるでしょう。ECMサーバーは各企業の情報管理に欠かせない製品となるはずです。そんな中で FileNet P8 は拡張性、操作性、連携性などで非常に優れた製品です。また、面倒な設定なしで他のコンポーネントと連携しますので承認ワークフローや改ざん防止などと組み合わせたトータルビジネスソリューションが容易に構築できます。すでに金融や製造など様々な業界のお客様に広くご愛用頂いております。
次回は Part 2 として、FileNet P8 の 3つの主要機能の中で最も重要なビジネスプロセス管理機能についてご紹介します。
参考文献
- IBM FileNet P8 Platform
- FileNet P8 System Overview (Product Documentation for FileNet P8 Platform より)
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