国際社会は、喫緊の人道問題に団結して向き合えるか。暴力と迫害の連鎖を断ち切るための世界の力量が試されている。

 フランスを襲った同時多発テロを機に、中東シリアの内戦をめぐる論議が再燃している。

 首謀したとされる「イスラム国」(IS)は、シリアを拠点にしつつ、戦乱に乗じて伸長した過激派組織だからだ。

 テロの翌日にウィーンであったシリア問題の多国間協議は、異例なことに、和平づくりの具体的な目標の合意をみた。対立してきた米欧とロシアが一気に危機感を強めたためだ。

 パリの市民らの悲劇によって生まれた機運を無駄にしてはならない。国連を含むあらゆる場で、内戦の収束へ向け、国際社会は本腰を入れるときだ。

 17カ国が集ったウィーン協議は、シリアのアサド政権と反体制派による移行政権を6カ月内につくる目標を定めた。来年元日までに、政権と反体制派の公式交渉を国連が開くという。

 ウィーン協議に政権も反体制派も参加しておらず、反体制派には統一された組織もない。目標のハードルは極めて高いが、テロを共通の脅威とみて論議の歩を進めた意義は小さくない。

 アサド大統領が退陣すべきかどうかをめぐり、米欧とロシアはいまも意見が食い違う。国連安保理がシリア問題に大きく動けずにきたのもそのためだ。

 だが事態は急を要する。アサド大統領の処遇問題は当面棚上げして、停戦の枠組みづくりを急ぐべきだろう。混乱を放置すれば、ISを利するだけだ。

 もはやどの主要国にとっても、ISは遠い中東の問題ではあり得ない。エジプトでのロシア旅客機墜落、レバノンの連続爆発、そしてパリのテロと、先月から相次いだ事件はいずれもISが犯行声明を出した。

 さらに、ISが支配していたイラク国内の町では、多数の女性の虐殺遺体が見つかるなど、蛮行が横行している。

 パリの悲惨なテロにより、中東の人々が日々さらされているISの脅威が、日米欧など世界にも「可視化」された形だ。

 オバマ米大統領はテロ直前まで、これまでの空爆の成果を強調して「ISを封じ込めた」と語っていたが、それは希望的な見方に過ぎなかった。

 ISの掃討に米欧の軍事的関与は必要ではあるが、空爆で過激思想の病根を絶つことはできない。シリアはじめ中東の和解と安定化があって初めて、ISの温床をなくすことができる。

 そのためにも、国際社会が真剣に結束せねばならない。