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さて、基本事項をある程度確認した段階で、放射性カリウム(K40)と、放射性セシウム(Cs134/137)の違いについて、話を戻してみましょう。
説明したいテーマは、K40=無害、Cs134/137=有害、というインパクトの差が生じ得る可能性に関する議論です。 <<K40がβ崩壊を起こす際のことを考えてみる>> 言うまでも無く、K40のβ崩壊は K40-->Ca40 + e- + ν- まずは、細胞質内で起こったら、という思考実験。 前のページに述べたように、自由水に緩く囲まれた、この「緩い」状態では、おそらく、崩壊時に「反跳」でエネルギーを獲得しても熱エネルギーとして消費し、あまり効率よく他分子に影響を与えることもなく、効率的に水分子を電離することもないだろうが、 たとえ、低い確率で水分子を電離してラジカル生成しても、細胞内にはSODという無毒化酵素がたんまりあるので、 すぐに無毒化されるはず。たぶん、生体内にあるK40の量程度では、まったく細胞はダメージを受けない。 一方、Kチャネル通過時に崩壊が起こったときの思考実験。 いってみれば、自由水分子に囲まれているのと同じような「ゆるい」状態のK40イオンが、イオンチャネル通過時に 崩壊を起こしても、やはり、反跳にエネルギーを消費して、K40原子がCa40に変化したところで、K-channelに与える影響はごく少ないだろう、と予想できる。 あ、そうそう、ちょっと違和感を覚えられる議論だと思うので、説明を補足しておきます。
もう一度確認しますが、K40のβ崩壊は K40-->Ca40 + e- + ν- ですね。 生成するe-や ν- の方ばっかり見ると、これがどこに飛んで行こうが、飛んでいく先の相手分子・原子に与える影響なんて、 一旦e-やγが生成した時点で、どの核種も(K40もCs134/137も)同じだろとなりますよね。 (これが、従来の考え方です) でも、こここでは、残されたK40(Ca40)のことに関して、注目しながら、議論をしていってみたいとおもいます。 Csの例を挙げるときに、もうすこし詳しく議論してみます。 話を、Csに切り替えましょう。 <<KチャネルはCsイオンに対して、全く別の認識をする>>
語弊はありますが、Csって、食物連鎖的には、ほぼ無視していい元素です。言ってみれば、希少元素なんです。 だから、哺乳類にはCsチャネルというのは存在しない。神様が設計する必要を感じなかったからです。 じゃあ、生命体細胞はCsイオンを取り込まない、となってくれりゃ、原発事故の心配事も少なくてすむんですが、残念ながら、(乱暴な言い方をすると)Kイオンと誤認識されて、細胞内に取り込まれてしまうんですね。 この時に、Kチャネル(など)が関与する、と考えられています。(実際には取り込みは、「ポンプ」と呼ばれるの分子が主因と考えられていますが) ところで、KイオンとCsイオンがKチャネルを通過するときに、決定的に異なる、あるひとつのパラメータがあります。 通過時間です。 上に書いたように、Kイオンは、ほぼ時間ゼロでKチャネルを通過するが、Csイオンは、通過時間がめちゃめちゃ長いんです(ref)。嵌り込んでロッジする、と言ってもいいくらいです。 ちなみに、Csイオンがロッジする生命体分子は、Kチャネル系分子だけだ、と考えられています。 少し、詳しく補足してみましょう。 細胞質内にフリーで浮いているときのCsイオンが自由水和水に囲まれているのはKイオンと同じです。
前に書いたように、Kイオンにしても何にしても、チャネルをくぐろうとするとき、この自由水和水を「脱ぎ捨てて」、 替わりにチャネル構成アミノ酸残基側鎖のチャージを「身に纏う」ことになっています。 だから、フリーのイオンの状態での水和水の配列と、イオンチャネルのアミノ酸のチャージの配列が、完璧にマッチしていないとマズイ、というのは説明しましたね。 (Naイオンが、サイズが小さいにも関わらず、絶対にKチャネルをくぐれない理由です) さて、Csイオンの問題は、K-channelの開閉部をくぐろうとしたとき、その水和水の空間配列のピッチが、Kイオンのそれとは、 かなり異なるわけで、だから、「嵌まり込ん」で、堅くロッジしてしまう。 CsイオンはKチャネルに、長時間、「堅く嵌り込んで」そこに居座り続けることになる。 次に考えるべきこテーマは、もうお分かりとおもいますが、 <Kチャネルに「堅く嵌まり込んだ」状態で、Cs134/137が崩壊を起こしたら、どうなるか> <<次に進む>> <<最初にもどる>> |
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Csのイオン通過時間は「めっちゃ長い」とありますが、具体的にどれくらいの時間単位を想定されてますか?
2013/3/5(火) 午後 0:47 [ やまだ ] <<コメントに返信する
やまだ様 コメント有難うございます。今は、チャネルブロック試薬なので、ほぼゼロ時間のカリウムイオンに比べると、長いという定性的な議論にとどめさせて置いてください。後ほど述べる、再分極伝播の議論とあわせ、いろいろなタイプのカリウムチャネルに関して、時間を作って、もう少し丁寧に補足しておきたいと思います。
2013/3/8(金) 午後 7:07 [ 大山敏郎(*) ] <<コメントに返信する
やまださま、ご存知かもしれませんが、patch-clampという、単一チャネルに流れる電流を測定する医学実験方法というのがあるのですが、ある種のカリウムチャネル測定時には、わざと、ある程度の濃度のCsClを液中に入れてやります。Csイオンが、カリウムチャネル電流をある程度阻害してくれて、カリウムイオンの流れが、極端にゆっくりになり、チャネル記録がしやすくなる、と言われています。このような種類のカリウムチャネルでは、10倍から数百倍程度の時間、カリウムチャネルの種類によって、かなり幅があります。一方、この議論で想定しているのは、もう一種類、全く別のカリウムチャネルがあり、液中にほんのちょっとでもCsClが存在しただけで、完全にブロックされてしまうものがあり、そのようなカリウムチャネルの記録時には、絶対にCsClを抜かないといけないことになっています。
2013/6/19(水) 午前 0:42 [ 大山敏郎(*) ] <<コメントに返信する
たとえば、あるKir系の分子では、1mMのCsClで、完全にブロックできますが、これは、細胞中5万個のKirと計算すれば、わずか5分以下の前処理、約1:100程度のstoichiometryの過剰量でblockできる計算になります(計算をまちがっていたら、ごめんなさい)。細胞外液中の液中濃度で、この程度なのですが、実は、もしかしたら、あくまでも個人的な、根拠の薄い推測でしかないのですが、細胞の内側からKirをブロックする際には、もっと効率よくブロックできる可能性もあるのではないか、と思っています。ともかく、以下の議論で、途中から話がKir系のチャネルにフォーカスしていくことになるのですが、このあたりの理論背景というのがベースにあります。ただ、KイオンとCsイオンでの異なるパラメータで、「通過時間」と、最初に書いてみましたが、実際には、「結合の強さ」の方こそが、非線形性の創出に大事なのかもしれないな、と思っています。Kirのように、通過時間ほぼ無限大のカリウムチャネルでは、結合は堅い、ということになるのでしょうから、結局同じことなのかもしれませんが。
2013/6/19(水) 午前 3:50 [ 大山敏郎(*) ] <<コメントに返信する