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【社説】

自民党結成60年 「国民政党」の原点に返れ

 六十年前のきょう自由民主党が産声を上げた。以来、昭和から平成までほとんどの間、政権の座にあったが、今も原点である「国民政党」と言えるのか。

 一九五五(昭和三十)年十一月十五日、自由民主党、略して自民党の結成大会が、東京・神田にあった中央大学講堂で開かれた。

 吉田茂元首相の路線を引き継ぐ自由党と、自主憲法制定を主張する鳩山一郎首相(当時)率いる民主党との「保守合同」である。

 政治路線の違いを乗り越えて二つの政党が合同したのは、この年の十月、左右両派の社会党が統一したことへの危機感からだった。

◆ほとんど政権の座に

 以来六十年。現職首相の安倍晋三総裁は初代の鳩山氏から数えて二十五代目。共産党に次ぐ長い歴史を持つ老舗政党となった。

 歴代総裁の中で首相の座を逸したのは河野洋平、谷垣禎一両氏だけ。六十年の党史を通じて、野党経験は約四年にすぎない。政権政党としての長さが際立つ。

 自民党がなぜ、これほどまでに長期にわたって政権政党としての党史を刻むことができたのか。

 それは、自らを「国民政党」と位置付けたことと無縁ではあるまい。結成時に綱領などとともにつくった「党の性格」は冒頭で「わが党は、国民政党である」と宣言した上で、こう記す。

 「わが党は、特定の階級、階層のみの利益を代表し、国内分裂を招く階級政党ではなく、信義と同胞愛に立って、国民全般の利益と幸福のために奉仕し、国民大衆とともに民族の繁栄をもたらそうとする政党である」

 特定の階層や利益団体にとどまらず、国民に幅広く支持される政策、時には革新政党の主張をも取り入れて選挙での得票につなげたことが、長期政権を実現する要因の一つだったのだろう。

◆間口広く実力者集う

 安倍首相は自著「美しい国へ」で、自民党についてこう記す。

 「社会民主主義に近い考えの人も混在する間口の広い国民政党だといってよい。なぜなら、自民党は、その成立過程からして、共産主義を否定する人ならだれでも受け入れた政党だったからだ」

 さまざまな考えの実力者が参加した間口の広さは、政策・理念の多様性につながり、政策や政治腐敗をめぐって自民党政権への国民の不満が高まっても党内で首相・総裁を代える「疑似政権交代」で不満をかわすことも可能にした。

 結成当初、総裁すら一人に絞り込めなかったバラバラの状態は逆に、派閥を率いる実力者たちに切磋琢磨(せっさたくま)を促し、活力を維持した。

 激しい派閥抗争は、時には国民を顧みないとの批判を受けながらも、国民政党としての多様性こそが自民党のよき伝統でもあった。

 しかし、二〇一二年の第二次安倍内閣発足後、自民党から多様性が失われたとの指摘が、党内外から後を絶たない。例えば、憲法学者の多くが憲法違反と指摘する安全保障法制である。

 報道各社の世論調査では法案反対や違憲性を指摘する答えが半数を超えていたが、自民党内からは一部を除き異論は出なかった。

 そればかりか党内の会合で、安保法制を批判する報道機関を「懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」などと、異論は許さない趣旨の発言が飛び出し、その場で戒める議員すらいなかった。

 極め付きは、九月の自民党総裁選である。党内の各派閥・グループは次々と安倍首相の再選支持を表明し、推薦人集めに最後まで奔走していた野田聖子衆院議員は立候補断念に追い込まれた。

 議論を自由に戦わせるよりも、異論を認めず「一枚岩」の方が得策という党内の空気である。

 こうした自民党の変容には、小選挙区制の導入が影響している。

 政党同士が争うこの選挙制度では、候補者の公認や資金・ポスト配分など、政治家の生殺与奪を握る権限が党中枢に集まる。党執行部には異論が唱えにくくなるのは当然の帰結だろう。

 加えて、二〇〇九年衆院選での政権転落が党に結束を促した。党内で議論を戦わせるよりも、政敵・民主党の攻撃に政治的エネルギーをより多く注ぐようになった。

◆多様な声に謙虚さを

 昨年の衆院選で全有権者数に占める自民党の得票数、いわゆる絶対得票率は小選挙区で24%、比例代表では17%にすぎない。投票率低下があるにせよ、全有権者の二割程度の支持では、幅広く支持を集める国民政党とは言い難い。

 自民党が安倍政権下での重圧感から脱するには、立党の原点に返る必要がある。党内の多様性を尊重し、よりよい政策決定に向けて衆知を集める。国民の間に存する多様な意見に謙虚に耳を傾ける。それこそが自民党が国民政党として再生するための王道である。

 

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