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【放送芸能】

粋にボケて「東京漫才」還暦 息づく浅草生まれのDNA

 漫才といえば、吉本興業をはじめとする関西勢がテレビや劇場を席巻するが、東京・浅草で生まれた伝統の「東京漫才」も健在だ。大阪の「どつき」や「ぼやき」に対し、「粋」にこだわる下町のDNAを受け継ぐ。東京の漫才師らでつくる「漫才協会」(青空球児会長)も今年、発足60周年を迎え、26日には浅草公会堂で記念公演を開く。 (神野栄子)

 東京漫才の“聖地”浅草東洋館。還暦を過ぎた三人の男たちが、満員の約二百席を前に絶妙の掛け合いを見せていた。

 結城たかしさん(66)と大空遊平さん(64)、うたじさん(67)の三人でつくる「トリオザキュースケ」。それぞれ別に相方がいたが、病気や不仲でコンビを解消し、最近、トリオを結成。トリオ名は製造過程で割れたせんべいやあられを集めた商品の俗称「久助」にちなむ。「壊れものが集まりまして」。自虐的な自己紹介に観客席は爆笑に包まれた。

      ◇

 東京の笑いは浅草に始まる。第二次大戦前から終戦直後にかけて、エノケン(榎本健一)やロッパ(古川緑波)が喜劇で活躍。その後はストリップショーなどの合間に行われたコントから、渥美清さんや由利徹さんらスターが生まれた。

 一方、戦前の大阪で人気を博したエンタツ・アチャコの「しゃべくり漫才」の流れを受け、東京でも漫才を志す芸人が現れる。一九五五年には漫才協会の前身となる「漫才研究会」が発足している。

 「桂子・好江」で五〇年代から活躍してきた協会の重鎮、内海桂子さん(93)=写真=は「粋でなきゃ」と東京漫才の神髄を語る。コンビ時代から「歌って踊って体の動きが絵にならないと、漫才じゃない」と芸を磨いてきた。都々逸など三味線で弾き語りをするスタイルは、お座敷芸を舞台芸に変えたものだ。

 二〇〇〇年元日に落語以外の芸事(色物)を専門とする浅草東洋館がオープン。もともとストリップ劇場「浅草フランス座」があった場所で、若き日のビートたけしさんらが下積み時代を過ごした“聖地”だ。そこで今、漫才協会などの芸人たちが連日、ネタを競う。

 「ボケがボケきれていない」。後輩芸人たちに厳しい視線を向ける桂子さんは若手の感性やアドリブ力を磨くため、今も一緒に舞台に立つ。古い謎かけなどのお題を出し、観客の目の前で若手を鍛える。テレビで一瞬のうちに消費される芸やギャグ、他人を中傷するようなネタとはひと味違う。「心優しく温かい浅草の芸」の心を桂子さんは伝えている。

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 協会六十周年の記念公演「第四十六回漫才大会」では若手からベテランまで約六十組が“漫才六十連発”を披露する。開演は二十六日午前十一時と午後四時の二回。チケットはカンフェティ=(電)0120・240・540。

◆時事ネタ多く、知的な感じ ナイツ

 漫才協会の若きエースで、人気の「ナイツ」(塙宣之さん=ボケ、写真(左)、土屋伸之さん=ツッコミ、同(右))。2人に東京漫才への思いを聞いた。

 −東京漫才の特色は。

 塙「分かりやすく聞きやすい。時事ネタが多く、知的な感じがします」

 土屋「関西はどついたりするイメージのツッコミに対し、関東はボケ(の芸)が際立つ」

 −ナイツが浅草の寄席にこだわる理由は。

 塙「コンビ結成の2年後に内海桂子師匠の弟子になった。東洋館に出て芸が磨かれた。浅草の水に合っていたんでしょう」

 土屋「お客さんは毎日、昼から夕方まで、1年生からベテラン師匠までライブで見られる。若手が育っていくのを応援してもらえ、励みになります」

 −尊敬するコンビは。

 2人「(青空)球児・好児師匠。協会のまとめ役で芸にリズム感がある。爆笑問題にも学ぶところが多い」

 −ツッコミの「間」に定評があるが、どう磨いたのか。

 土屋「2007年に(落語の三遊亭)小遊三師匠に入門し、寄席に出るようになってツッコミのリズムが変わってきた。工夫というより舞台でお客さんの反応を見て自然にそうなった」

 −ネタはどのようにつくる?

 塙「周りで獲(と)れた魚を仕入れて、料理するお寿司(すし)屋さんみたいな感じ。東京に転がっているネタを漫才にすれば、新鮮なネタを提供できるじゃないですか」

 −今ネタにしたいことは。

 塙「マンション問題。住民は言ってましたよ。『もう悔い(杭(くい))はないって』(笑)」

◆さらりとした笑い

<お笑い評論家で江戸川大学准教授の西条昇さんの話> とことん押す大阪の漫才に対し、東京は粋でさらりとした引きの笑い。落語中心の寄席で落語家を立て、邪魔にならないような芸。桂子・好江のように華やかな人たちの一方で、コロムビア・トップ・ライトのように知性や毒で笑いをとるコンビも現れた。ツービートや爆笑問題もその系譜。近年は大阪と影響し合い漫才も変化してきたが、浅草東洋館で多くのコンビが舞台に立てるようになり若手が育ってきた。お客さんと生で接し、試行錯誤を重ねて力をつけている。

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