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十五話 脱出
今日から、ある計画を元に採掘をする。
その前にボスの部屋と繋がったままの穴を塞ぐ事にした。これからやる作業で発生する音や、振動などはなるべく気づかれない方が良いだろうと判断してだ。それ以上に、あの穴から何かが侵入してこられても困る。
塞ぐ前に一度だけ慎重に慎重を重ね、あの目玉を見てきた。初期の配置に戻った様で、こちらに気付く事も無く本来の入り口であろう通路に対峙しているみたいだ。
長居は無用なので静かに立ち去り、マジックバッグから土を吐き出して穴を塞いでいく。三回分の土で壁を作り完全に坑道が埋められた。
さて、ここから採掘の再開だ。
この作戦で必要なのは多量のルーンメタルと、適切な位置に採掘する事だ。
まずは目標の量のルーンメタルを集める事から始めよう。
俺はボスの部屋から少し離れた場所の坑道を拡張して、目的のルーンメタルを探す採掘をしていった。
◆
ルーンメタル採掘の為に、坑道の本線を基本にそこから木の根が伸びる様に広げていき、埋まっている鉱石を探す。ボス部屋の背後に位置するこの場所ならば、ダンジョン外の領域のようで、坑道を伸ばしていってもダンジョンに当たる事も無く採掘が出来ていた。
探知の気配も反応することなく安心して掘り進められるので、効率よく採掘が進み、そろそろルーンメタルは目標の量が集まりそうである。
ふぅと息を吐き一息ついて、目の前にある壁に埋まった、ルーンメタルの採掘を再開する。取り敢えずこの鉱石が掘り出せたら、ルーンメタルの採掘はやめてもいいだろう。
そう思うとこの作業も苦にならなくなる。気合を入れ直しツルハシを振るう腕に力を込める。
一度部屋へと戻り、採掘したルーンメタルの鉱石をマジックバッグから取り出して、再度採掘へと戻る。
お次の作業はこの作戦の下地作りだ。
今度の採掘作業は、ボス部屋の方向へと掘り進める。だが、今回は前に開けた穴より上方に向かい掘り進めていく。
ボス部屋の真上に出る様に調整しながら、鉄の棒で小さい穴を空けて覗き込み位置を確認していく。子供の軽い体とは言え、ボス部屋の天井をぶち抜いてしまわないよう気を付けながら掘り進み、やっとでボス部屋の中央部分。つまりボスの真上の位置に到達した。
位置の確認後、作業が出来る位の小さな空間を作り、ボス部屋の天井を保護する為に作った、鉄の板を張り合わせた鉄板をかぶせる。
ここからは、真上へと掘り進める。希望では十メートルは掘りたいと思っているが、果たしてどれ程の時間が掛かるのだろうか。
採掘作業だけでは無く、もう一つの重要な作業である武器作りも同時に行っていく。
今回作る武器は槍だ。だが、ただの槍を作る気は当然ない。このマジックバッグに入る最大サイズの槍を作る。
当然持って投げる事など不可能なのだが、そんな必要は無い。容量の制限はあるが、どんな形状の物でも入るマジックバッグが有れば目標に当てる事は出来るのだ。
そう、俺が考えた作戦とはボスの真上から超重量の槍を落として串刺しにするという内容だ。
落下の力と槍の重量だけを利用して攻撃するのは、このスキルのある世界では間違っている気もするが、そんな事も言ってられない。既に長い時間を掛けて用意してきたのだ。ここでやめるなんて選択肢は絶対にない。
そんな訳で今はマジックバッグを一度空にして、最大限までルーンメタルと鉄を詰め込んでいる。この方法ならば入る限界のサイズが図れるからだ。その際に今迄掘り出した全てのルーンメタルを投入して測定する。
今回ルーンメタルの採掘をしていた理由は、第一に武器として優れているので、槍の先端部分に利用する為なのだが、それと同じ位大きな理由は、ルーンメタルは鉄に比べて体積当たりの重量が重いという事だ。
この作戦では重さ=威力だし、高さ=威力でもある。
出来る限り双方を突き詰めるのは当たり前の事だったのだ。
ルーンメタルと鉄の量も測れたので、早速作っていく。
まずは槍の穂先をルーンメタルで作る。これから作るサイズになると、この炉では小さくて作れない。なので、炉で熱したインゴットが熱で溶けている間に外部で形成してく事にした。
溶かしたルーンメタルのインゴットを組み合わせて、円錐状に仕上げていく。鍛冶スキルのお蔭で、サイズは頭の中に浮かんで来ているので、迷うことなく進めていく。
溶かして貼り付けて、軽くハンマーで叩くだけの作業なので、直ぐに俺の力では持てなくなるほどの重さになってきた。
一度マジックバッグに収納して、盛った土に突き刺し、それを土台にして上からルーンメタルを張り付けるように追加していく。その後、ルーンメタルも尽き、鉄を追加していく。
日を跨ぎながら、段々と高さを増していく太い槍が、二メートル程になり遂に完成した。
見た目はまさに鉄の杭。穂先にあたる部分だけがルーンメタルの黒い色をしている。こういう物を無骨とでもいうのだろうか。そんなイメージを槍全体から発している。
槍の周りの土台にしていた土を取り払う。
途中で作った鉄柱の支えだけでも、バランスを取れているみたいで、倒れる事は無かった。
このままでは怖いので素早くマジックバッグに収納して最後の用意が整った。
既に採掘の方も終えており、その他の下準備も済んでいる。
これで何時でも作戦が開始できる。
ここまで来るのにこのボス部屋を発見してから約三カ月を掛けて準備の採掘と武器作りをしてきた。地味な採掘作業が特に辛かったが、この後の喜びを考えれば、我慢できる事だった。
目玉の討伐は明日にして、今日は美味い物でも食べて精をつける事にした。とは言え、ある食材はここ数カ月全く変わる事のない、鶏肉とパンなのだが、料理レベルが上がったお蔭で肉の焼き加減もかなり上手くなっているので、完全に飽きたということも無い。調味料が無い事がかなりの不満なのだが、それはここを出てから考えよう。あぁ、照り焼き食べたいな。
◆
朝の日課の鳥の餌付けを終え、大鳩のポッポに近日中にここから移動するかもしれない旨を伝えておく。俺のペットになってからは、ポッポからは俺の大体の方角が分かるらしいので、もしここに居なくとも問題なく探せるらしい。
そんな機能初めて聞いたんだけど……。
朝食を取り終え、ボロボロになっている歯ブラシで歯を磨き顔を洗う。これで完璧に目が覚めた。
いよいよ今日は時間を掛けて用意した作戦の決行日だ。頬を両手で叩き気合を入れる。
この日の為に作った槍の入ったマジックバッグを腰に着け、今回は毛皮の服を着て坑道に入る。もしかしたらを考えたくないが、上半身裸よりかはいいだろう。
改めて鎧を用意するか考えたが、やはり身軽な方が良いと思い、防御に関しては、現地に既に置いてある鉄で作った盾を使用する事にした。
この盾は俺が作戦を決行する場所に、合わせたサイズの盾で、地面から起こすとすっぽりと蓋が出来る大きさになっている。これなら直撃さえしなければ爆風は防げるだろう。たぶん……。
そうこうしている内に現場に着いた。ボス部屋の真上、ボスの頭上にくり抜かれた直径一メートル、高さ十メートルの穴を登って行く。勿体なかったが、毛皮を細く切って紐代わりにして、木材を使い簡易的な梯子を作ってある。
上がった先には俺の体が収まる程度の大きさの窪みと、盾が置いてある。
ここが作戦の決行場所だ。ここからマジックバッグから取り出した巨大な槍を落とす。
マジックバッグから取り出した時の方向などは、事前に何度も検証していて、収納時の状態を維持して取り出せることは分かっている。真っ直ぐに収納している槍は、この穴に沿って落ちてくれるだろう。
さて、そろそろ行動開始だ。
これから落とす槍は一体どれ程の重さなのだろう?
鉄の詳しい重さ何て覚えていないが、水の何倍も重い事は分かる。一立方メートルに入る水の重さは一トンなので、それの数倍の重さと考えると、少なくとも数トンは有るという事だ。ましてやルーンメタルは鉄の一・五倍は重さが有る。槍の先端から三割ほどの量を使用しているので軽くても五トンは有ると考えてもいいのだろ。
そしてここからボスまでの高さは大体一五メートルはある。ダンジョンの壁を取り払ってはいないが、最大限まで削ってあるので、大した障害にはならないだろう。
これ程の高さでこの重量の物を落として倒せないのであれば、人の力では殺すのは無理と判断しよう。
さて、やるか。
右手を穴へと突出し、左手でマジックバッグの瞳石を触る。マジックバッグの内容リストには、槍の一つだけが入っている事が分かる。それを選択し取り出すイメージを実行する。
目の前に現れた巨大な槍が一瞬空中に留まるが、直ぐに自由落下を行い落ちていく。その姿は目の前の穴に吸い込まれるかのように見えた。
瞬く間に落ちて行った槍が、ボス部屋の天井に接触すると、いとも容易く突き破り、更に加速して落ちていく。
槍と壁の隙間から目玉が僅かに動いたのが見えたが、反応しきれなかった様で、その体のど真ん中にまるでトマトに釘を打ちつけるかのよう位に槍が吸い込まれていった。
ズンッと物凄い音を立てて、地震が来たかのような衝撃がここまで伝わってくる。どうやら作戦は成功したらしく目玉の化け物を串刺しにみたいだ。
穴を覗きこみ下を見てみると、目玉が激しく痙攣しているが、身動きが取れず徐々にその動きも弱まってくる。頭の上に着いている蛇が四方八方に火の玉を飛ばして爆発音が聞こえてくるが、直ぐに一匹一匹倒れていき、すべての蛇が倒れた直後に、目玉が大きく痙攣したかと思うとその姿を消して、その場には巨大な槍が地面に突き刺さっている姿だけになった。
「うしっ!」
小さくガッツポーズを取り勝利を確信する。
程なくして、体に力が漲って来る。レベルアップしたみたいだ。漲る力の大きさを考えると、スライムの時の様に大幅なレベルアップの予感がする。
ステータスを確認したい所だが、今はそれよりも下に降りて状況を確かめる事の方が大事だ。何かの変化が起きていてそれを見過ごした何て事になりたくない。
突き破った穴に落ちないように気を付けながら梯子を下り、坑道を少し戻り用意していた別の梯子を手に取り設置してボス部屋へと投げ入れる。
大分大きな音がしたが、探知では気配は感じないので、安全だろうと考え、一度穴から下を覗きこみ確認してから梯子を降りた。
下に降りてみるとまず部屋の大きさに驚いた。ドーム型のその部屋は中から見てみると、まさにボスの部屋、ここで戦いなさいと言われているかのような印象を受ける。
はぁと感心しながら部屋を見回すと、目に入ってくるのは俺が落とした槍と、その後ろにある槍より高さが有る水晶の塊だ。
やや青みががった多角形の柱状をした水晶は、自身から光を発している様で、綺麗に輝いている。近づき目を凝らして見ると、上から一度見た時にも見えていた、水晶の中に埋め込まれている物体が何か分かった。
それは蛇の頭が付いた白い杖だった。
良くあるゲームのパターンで言えば、ボスを倒した報酬として貰えそうだが、果たしてどうだろう。
俺は水晶に近づき手を伸ばして触ってみると、水晶は割れる様にその形を崩していく。驚いた俺は一歩飛びのいて様子を伺うと、崩れた水晶から出てきた杖が地面に垂直に立っている。
手に取られることを待っているかのような杖に、近づき右手を伸ばして掴み取る。すると、背後に気配を感じると耳元で「祝福を」と言う声を聴いた。
いきなりの事に体がビクゥと震え上がり、急いで後ろを振り返るが誰もいなく、感じた気配も既に消えていた。
一瞬の事だったが、何だったのかと思い返してみると、探知で感じる気配では無く、言わば俺の第六感的な物だが、嫌な感じは無くむしろ暖かい印象さえあった。
でもあれはやめてほしい。俺はビックリ系が大嫌いなのだ。
一体あれは何なんだろう? 祝福と言う言葉から神様的な物を感じるが、もしかしたらあの目玉に殺された地縛霊かもしれない。なにせファンタジーな世界だ。そんな事もあり得るかも知れない。いや、そんな世界マジ勘弁だけど。
くだらない事を考えてしまったが、取りあえず分からないので、放って置くことにして手に取った杖を鑑定する事にした。
名称‥【霊樹の白蛇杖】
素材‥【霊樹 オリハルコン ルビー】
うぉぉぉ! なんかすさまじい鑑定結果だな。ってオリハルコンキター。この所どころで装飾に使ってある金属がオリハルコンか、金色してるだな。ルビーは蛇の目玉だな。霊樹は良く判らんけど、木で出来てるみたいだしこの杖全体の素材か。
素直な感想を言えば、綺麗だけど成金臭い杖だ。いや、余りいちゃもんを付けても仕方がない、素直にいただいておこう。
子供の体では少し大きい杖を持ちながら辺りを見回す。
そういえばあの目玉のドロップ品を忘れていた。後ろを振り返り地面に視線を向ける。地面に突き刺さった槍の傍らに、手に持てるほどの小さな宝箱と、二つの石が転がっている。
杖は一度槍に立てかけて置き、地面に置かれているそれらを手に取確かめる。
石の一つは毎度おなじみのエーテル結晶体で、これまでで最大サイズの大きさをしている。両手を使わなければ持てないほどの大きさで、抱える様に持ち上げるとかなり重い事が分かる。
次に手に取った石はこれも良く見た事があり、今回の作戦でも大いに役に立ってくれた馴染みの深い石だった。
名称‥【古代浮魔の瞳石】
素材‥【エンシェントゲイザー】
アイツはエンシェントゲイザーって言うのか。正面から戦った訳ではないが、あの威圧感はたしかに名前に負けていなかった。
それよりも、瞳石が手に入ったのだ、当然試してみるべきだよな。
ちょうど今はマジックバッグには何も入っていない。マジックバッグから最初に作った時に取着けた瞳石を外し、古代浮魔の瞳石と交換する。両方を見比べてみると、古代浮魔の瞳石の方がより色合いが濃く、その模様も生き物の目により似ていて、目力と言って良いのだろうかそれを強く感じ、少し怖いくらいな印象を受ける。
マジックバッグに古代浮魔の瞳石を新しく取り付け、所有者登録を行おうとしたが、手元に刃物が無いので何か変わりの物を探していると、先ほど砕けた水晶の破片を見つけた。
鋭利な形に砕けている物を探し、それを使い親指を少し切る。マジックバッグに取り付けた、新しい瞳石の上に指を乗せると、ビリっと電気が走った様なしびれを一瞬感じ、登録は完了したようだ。
早速手を突っ込んで見る。
「ひぃぃ! なんじゃこりゃ」
手をマジックバッグに入れて感じた容量の大きさに、ビックリして情けない声を上げてしまった。容量の大きさがイメージとして浮かんで来るのだが、新しく取り付けた石では、体育館ほどの広さを感じる。
いきなりそんな巨大な空間のイメージが頭に浮かぶのだ、自分がそこに落ちるような感覚を覚えた。
だが、これには顔がにやけて来る。これなら大概の物は何でも収納できるだろう。ここを脱出するのに一番心残りだった大量の鉱石や、作って積んである様々な武器など全てが持ち出せる。
試しに目の前にある、地面に突き刺さった槍を収納して見るが、何の問題も無く収まった。
最後に小さな宝箱を手に取る。よく見ると綺麗な装飾がされていて、この箱だけでも価値が有りそうだ。鍵は付いていない様で、開いてみると中には多種多様、大小様々な宝石が入っていた。
数個を鑑定してみると、エメラルド、トパーズ、サファイアと来て、ダイヤモンドまで入っている。
流石この辺で一番の気配の持ち主から出たドロップ品だ。凄まじいとしか言いようがない。
宝箱、杖、瞳石を全てマジックバッグに収納して、もう他に何もないかと部屋を見回り、水晶が有った場所に近づくと、砕けて地面に散らばっている水晶が震えだし、一点に集まりだした。
集まった水晶の欠片が、逆再生の映像を見るかのように、天に向かい伸びていきその形を変えていく。瞬く間に大きな楕円形の輪を作りだし、そこで動きが止まった。
突然の事に驚いたが、良く見てみるとマジックバッグの様に、楕円形の輪な中に膜の様な物が見える。更に一歩近づいてみるとそこには、鏡の様に映し出された、どこかの森の中の様子が見えてくる。
「出口か!?」
身を乗り出して中を見ようと思うが思いとどまった。
大した確認もせずに吸い込まれる訳にもいかないし、何よりマジックバッグが強化されたので部屋に残してある物が、持って行けるのだ、欲が出てしまった。
そう思い、少し水晶の輪から離れてみると、水晶の輪が崩れ地面に散らばった。
「あぁっ!」
これは不味いと思い、慌てて水晶に身を寄せると、先ほどと同じように水晶の輪を作り出す。
離れると崩れる。近づくと作り出す。
「おい! ビビらせるんじゃねえよ!」
これは流石に悪態の一つぐらい言っても許されるだろう。
この水晶の輪が、どんな仕様かは不明だが、取りあえずは離れても大丈夫なのだろう。そう考えて俺は、急いで梯子を上り坑道を駆け抜けていく。
ここから部屋までは、どんなに急いでも数分は掛かる。
その間にステータスの確認をする事にした。歩きスマフォ何かは危ないけれど、これならちゃんと視線は前を向いてるからね。
【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 38 【状態】――
【H P】 709/709 【M P】 138/138
【スキル】
・投擲術Lv3(210・3/300)・格闘術Lv1(96.3/100)
・鑑定 Lv2(185・0/200)・料理 Lv2(60・9/100)
・魔法技能Lv0(33・8/50)・鍛冶 Lv2(175・6/200)
・錬金 Lv0(0・9/50)・大工 Lv1(15・5/100)
・裁縫 Lv0(20・8/50)・伐採 Lv0(35・1/50)
・採掘 Lv3(258・9/300)・探知 Lv3(30・7/300)
・調教 Lv2(20・3/200)
【加護】・技能神の加護 ・医術と魔法の神の加護 ・*******
やはり一気にレベルが上がっている。かなりの数のトレント群を倒していたので、先程までレベルは二七だったが、それが一気に十一も上がっている。大物の経験値は違うって事か。
経験値と言えば、あの目玉は結局投擲術などのスキルを使う事なく倒してしまった。この世界の法則を破っている気もするが、要するにスキルなんて使わずとも銃などを使えば強敵も殺せるし、経験値も得られるのだろう。
だが、設置した人が経験値を得るのだろうか? それとも、発動させた人か?
今回は俺一人で全部やったから良いが、もし片方しか貰えないなら、パーティーとかじゃ喧嘩になりそうだな。
レベル以外では、スキルは当然長い期間の間に、採掘だけをしていた訳では無いので、色々と上がっている。メインは採掘だったので、次のレベルまであと少しと言う物も放って置いたが、それらは今後やって行けばいいだろう。
ん? あれなんか増えてるな。
よく見ると加護の項目が一つ増えている。医術と魔法の神の加護か……。俺両方とも知識も技術も無いんだけど、恩恵貰った意味あんのか?
しかし、何時の間に加護なんて貰ってたんだ?
先程までの記憶を辿ると有る事に引っかかった。
あぁーこれさっきの声の主か。
水晶から出てきた杖を手に取った時に声を聴いている。たしか祝福という事を言っていたはずだ。そう考えればあの声の主が、この神様だったのだろうと考えるのが妥当な所だろう。
そう考えを纏め、この加護の説明を見てみる。
―――
医術と魔法の神の加護‥加護の対象者に、医術と魔法の神の加護より、使用する魔法の効果を高める効果を与えられる。また、回復系魔法の効果を倍増する。
―――
ほうほう、俺もついに魔法の威力がって、魔法使えないっつうの!
まぁいい、杖と一緒だ。貰えるものは貰っておこう。
ステータスの確認が終わった頃には部屋へと到着した。
片っ端からマジックバッグに収納していく。整理が必要ないし、右手で吸い込むだけなので、部屋にある物がどんどんと無くなっていく。
残るはこの部屋に最初からあった、炉と水瓶と作業机だ。
だがこれらはマジックバッグでは収納が出来ないみたいで、右手で触れてもうんともすんとも言わない。どうやらこれらの持ち出しは不可能なようだ。炉はかなり欲しいが、背負うにも重たく無理だし、マジックバッグにも入らないなら諦めるしかない。本当に勿体ない。
水瓶も俺の生命線なのだが、これも入らないので仕方がない。だが、水だけは持っていきたいので、マジックバッグに注いでいき、水瓶で約三十杯分の水を収めた。これなら当分持つだろう。
これでこの部屋も見納めになるだろう。まだ、あの水晶の輪が本当に外へと繋がっているかは確定していないが、この予感は当たっていると思う。
部屋に付いた汚れの一つ一つに思い出が有るのだろうが、思い出せない。俺そんなにロマンチックじゃないし、一々覚える性格でも無いからね。
それでも、感慨深い物が有る。
最後に部屋に一礼をして坑道へと戻った。
ボスの部屋まで駆け抜ける。これは今迄で一番のタイムがでるんじゃないだろうか。レベルが上がった体がとても軽く感じる。
程なくしてボス部屋の上までたどり着き、階段を使い下に降りる。何だか今ならそのまま飛び降りても問題な気がして来るが、ここに来て怪我何かしたくないので止めといた。
水晶の欠片に近づくと、輪を形成する。こう見ると中々美しい光景だ。
ふと、光る物を感じて、水晶の輪から少し離れた場所に目を移すと、そこには丸い大人の拳ほどの水晶が転がっていた。水晶の輪に目を取られて気付かなかったようだ。
近づき手に取って鑑定をしてみる。
名称‥【ダンジョンコア】
素材‥【クリスタル】
ダンジョンコアって、これ持っていたらこのダンジョンどうなるんだろう? でも、落ちてる時点で機能して無さそうだし持って行ってもいいのか。
用途は分からないが、マジックバッグに収納しておいた。
水晶の輪の前に戻り、輪に近づき映し出された景色を観察する。
映し出されているのは、木だけしか見えない森の中。太陽のわずかな光が注いでいて神秘的だ。生物の姿は見えず、木の葉が風でそよいでいるのが見える。
多分大丈夫だろう。
そう判断して、水晶の輪に手を入れてみる。
すると、ダンジョンの中とは気温が違う事が、入れた手から伝わってきた。
他の場所に出れるのは間違いないようだ。
俺は一つ気合の息を吐き、飛び込むように水晶の輪に映る景色に飛び込んだ。
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