14/112
十三話 木の化け物
トレント狩りから戻った俺は、桶を水で満たして左腕にできた血で汚れた傷を洗い流した。既にかさぶたが出来ていて血自体はもう止まっている。熱を持った鈍い痛みが有るが、これならポーションなど使わず放っておけば治るだろう。
破傷風とかは怖いが、受けた攻撃はたぶん空気を飛ばす魔法の攻撃なので、その手の心配は大丈夫だと思おう。
さて、武器が無くなり帰ってきたのだが、まだ今は昼前で時間はたっぷりある。あのトレントを放って置くと今まで与えたダメージが回復するか分からないが、出来るだけ早めにケリを付けたい。
ルーンメタル製の槍は材料が無いので作れないが、鉄ならば大量にある。これで今から武器を作り早めにに決着を付けたいものだ。
壁際に積まれている鉄のインゴットを、マジックバッグに入れて炉の前に移動する。水桶は昨日使ったままの水がそのまま入ってるので、直ぐに鍛冶が出来る状態になっている。
取り敢えず先程と同じ鉄の槍を十本ほどと、今回は同じ重さ位の投げ斧とハンマーを用意してみた。重さを同じにすると、両方ともかなりごっつい物が出来上がり、人に当たったらまず死ぬだろという武器だ。
想定している用途としては、斧は相手が木なので単純に投げる為だ。木の弱点が斧とか安直な考えなのだが、果たして効くかは俺自身半信半疑で作ってみた。まあ、物は試しと言う奴だ。
ハンマーはトレントに突き刺さっている槍の石突の部分に当てて、より深く突き刺さらないかと思い作ってみた。トレントも木の化け物ではあるが、生き物である以上体に穴を空けられれば死ぬことは先程の戦闘で分かったので、これは中々いい案なんじゃないかと思っている。
問題としてはちゃんと上手く当てられるかだが、そこは数撃ちゃ当たるってのを実行していこう。
こんな感じで新しく武器を作りだしその日は終え、翌日の昼飯の鳥サンドを頬張りながら、俺の膝の上に乗っている大鳩のポッポを撫でて癒されている。鳥を撫でながら鳥を食べる……。彼女は一体俺の事をどう思うんだろうか。まあいいか、今日のデザートは木イチゴらしい、有難くいただこう。
食事を取りながら、改めて鍛冶のスキルのすさまじさを感じた。こんな短期間にこれだけの武器を作り出す事が出来るなんて自分の事ながらびっくりである。
そう言えば今までは武器だけを作ってきたが、今後毛皮がまだ取れるのであれば、防具も作ってみてもいいかもしれない。
今まで防具はこの炉のサイズでも出来る物ならば、作ろうと思えば作れたのだが、二つの理由で作ってこなかった。それは、ます第一に、直接肌に金属を付けるのがありえない事だったので作ってこなかったのだ。
この世界でもそうなるかは分からないが、金属アレルギーが有った俺には、直接金属と肌を触れるなんて恐ろしい事は絶対にできなかった。もしこの体にアレルギーが無くとも、あれは体に蓄積された物が許容量を超えた時に起こる現象だと記憶にある。袋の服を着ていようが、腕や下半身は剥き出しだし、汗をかけば直接触れて無くとも反応するのだ。怖すぎる。
第二に鎧を着れば音が出るだろう事だ。基本的に気づかれないように行動しているので、鎧を着た事で望まぬ戦闘が起こるなんてアホらしいと考えていたのだ。
その二点を考えて今まで手を出していなかったが、毛皮の革部分は厚くあまり水を通さない事は、腰に付けた物で既に分かっている。鎧の内側に張り付ければ俺の懸念している第一の問題は解決できるかもしれない。
音に関してはもう既に戦闘を前提に動いてるので、あまり関係ないかも知れないと思ったからだ。
だが、翌々考えれば鎧が効果を発揮する状況になったら、投擲術しかない俺はどうしようも無くなるって事か。ここは機動性を重視して今までのスタイルで行くのが良いのかもしれない。遠距離攻撃を防ぐ盾なんかはあれば有効かもな。
結局は当分はこのままで行くことを結論として、先ほど作り上げた武器をマジックバッグに収めて再度の挑戦に向かった。
今回も狼が沸いており、槍の一撃で処理をした。正直弱すぎるのだがこのダンジョンバランスどうなってんだ? ドロップ品をマジックバッグに収めて先へ進む。
道中で探知に気配を捉えたが、どうやら復活などはしていないようで、数を減らしたままの一つだけの気配だけが有った。
先程まで槍を投げていた場所にたどり着き、壁に隠れながら様子を探る。目に入ったトレントは俺が投げた槍が刺さったままで、少し萎れている様な感じを受ける。効いてる効いてるって状況だな。
こちらにも気付いて居ない様子なので、先制攻撃を食らわしてやろう。
まずは斧を投付けてみる事にした。助走を付けて投擲した斧は、すさまじい回転をしながら目標へと達した。ドンッと響く音を出してトレントに突き刺さった斧が、そこから木の幹を砕く様に裂いていた。想像していたよりも威力があり、これはこれでいい手段かもしれない。
素早く壁際に体を隠して次に投げる槍を用意する。この後に投げようと思っているハンマーの為にも、的は増やしておきたい。投擲術のお蔭でこの距離であのデカさの相手ならば、外すことは無いのだが、ピンポイントの投擲には少し距離が有る。よって、的は多ければ多いほど当たるという事だ。
立て続けに槍を投げまくり、トレントをハリネズミにしていく。これだけ投げも消えないという事は、あのトレントは魔法も使ってきたし特別な奴なんだろう。というかタフすぎる。
そろそろ良い頃合いと思い、ハンマーを取り出す。どうせ複数回投げる事になるだろうと思い、作ってきた五本のハンマーをマジックバッグから出して地面に置いておく。
ハンマーを右手で持ち、全力で投擲した。回転をしながら進むハンマーは、僅かに槍の石突を外れて鈍い音をさせてトレントの体に直接当たった。その際に突き刺さっている槍を掻き分けるように進んだので、刺さっていた槍にも力が加わり、傷口を大きく裂いた様で、トレントが声なき絶叫をしているように見えた。
ちょっとだけ可哀そうになったが、早めに殺してあげようと思い次の投擲を行う。
狙っているのは先日投擲したルーンメタルの黒い槍なのだが、二度目の投擲でも当たらなかった。三十メートル先にある直径二十センチも無い目標にハンマーを投げて当てるのは、スキルの恩恵が有ってもすさまじく難しい。スキルが無い世界で同じことをしようと思ったら、もうマグレや奇跡の類いになるんじゃないだろうか。
次の三投目はようやく槍の石突を捉えた。狙っていたルーンメタルの槍では無かったが、その隣に刺さっていた槍を深く押し込むことに成功したが、まだ足りないらしい。
続く四投目の投擲で遂にルーンメタルの槍を捉え、ハンマーの衝撃で槍が貫通した。ハンマーはそのままの勢いで貫いた槍を追いかけ、穴の開いた幹の中身を強く叩くとトレントは仰け反りながらその姿を消した。
ふう、と一息突くと体に力が漲る。どうやらレベルアップしたみたいだ。だが、初めてスライムでレベルアップした時と比べると、その力はわずかに感じる。ステータスを開いて確認をしてみるこの様になっていた。
【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 20 【状態】――
【H P】 474/492 【M P】 71/80
【スキル】
・投擲術Lv3(11・7/300)・格闘術Lv1(4・5/100)
・鑑定 Lv2(16・3/200)・料理 Lv1(70・6/100)
・魔法技能Lv0(12・6/50)・鍛冶 Lv2(15・6/200)
・錬金 Lv0(0・7/50)・大工 Lv1(0・11/100)
・裁縫 Lv0(2・6/50)・伐採 Lv0(4・3/50)
・採掘 Lv3(32・5/300)・探知 Lv2(15・3/200)
・調教 Lv1(11・8/100)
【加護】・技能神の加護 ・*******
一気に二つもレベルが上がっている。それだけの相手だったのだろうが、対して被害も無いのでそれ程感慨も感じない。
HPを見る限り怪我をした分は回復しない様で、前にレベルが上がった時はHPの上限と共に現HPも上がっていたので、若干の可能性を感じていたのだがハズレだった様だ。そこまで期待するのは酷な事か。
ちなみに最近毎日一時間ほどシャドーボクシングをしたり、蹴りの練習をしてみている。若干ながら熟練度が上がっている所を見ると効果があるみたいだ。
この調子なら槍の素振りでもしていれば新しいスキルが開花するかな? 試してみる価値はありそうだ。
ステータスを確認し終わった俺は、探知で周囲を察知して気配がないことを確認してから、トレントが居た場所に向かった。
視線の先には俺が投げた武器が転がっている。その傍らにお馴染みのエーテル結晶体と木材が転がっていた。木材は木の幹の細くなった先端部分をそのまま切り取った様な太さの円柱で、それがトレントが居た場所に転がっている。
マジックバッグには全ては入らなかったので、入らない分は槍を先程まで投擲を行っていた場所に置いておき、今後にまた来た時の為に備えておくことにした。
武器回収とドロップ品の回収を終え、辺りを見渡すとどうやらここは袋小路の様だ。先が有る事に期待していたのだが、これは少し残念な結果になった。これ以上この場に居ても仕方ないので一度部屋まで戻る事にした。
戻りながら今後の事を考える。進める道が無くなった事に落胆はしたが、別に全てを諦めた訳では無い。最初は何処にも行けなかった事を考えればまだまだマシな状態だ。
残る二つの道だが、クロサイのが居る所はまだまだ無理だろう。あの体を打ち破れるビジョンが浮かばない。トカゲが居る所は今なら初撃で一匹はやれるだろうがその後が怖い。どれだけの速度で近づいてくるかは分からないのだ、続けて殺していけても全部を殺すのは無理だと考えよう。一匹に接近されれば俺に対抗する手段は無いのだ。トカゲもそれが解消されるまで手を出すべきではない。
となれば、現時点で取るべきは地下の坑道を掘り進めて、ボスと思わしき気配が有る所まで進む事だ。リスクは有るが地下のダンジョンに出てヤバかったら塞げばいい。探知で気配が探れるのはやはり大きい。
次なる目標を定めた俺は部屋に戻り、マジックバッグの中身を整理する事にした。
武器は対して損傷も無いのでルーンメタル製の槍以外は、そのまま取り出し壁に立てかけておく。ルーンメタルの槍は一度研ぎ直して乾かしたらマジックバッグに入れて置く。これだけは何かあった時の為に、ナイフと共に常に持つようにしている。
続いて先程回収したドロップ品を整理する。エーテル結晶体は作業机の上に今迄拾った分と合わせて並べて置き、トレントからドロップした木材を取り出し、これも机の上に並べる。
合計五つの木材は一つだけ色が違い、それだけが普通の木の色では無く、濃い赤い色をしている。
鑑定の結果、名前は木材で素材は四つはトレントで色違いの物だけはエルダートレントと出た。
あれだけ攻撃しても死なず、魔法まで使ってきたのだ。当然上位種等の存在だとは思っていたが、エルダーと言う事はもしかして年齢を重ねると生物としての格があがるのだろうか。一発だけ攻撃を受けたが、そんな名前が付いてる奴の攻撃とは思えないほど弱かったんだけど。
そう考えると、これ以上のトレント種が居るのでは無いかと思えて来る。動かないで一方的に攻撃できる環境が有るならば是非ともお会いしたい魔物だ。
ドロップ品の木材は名前は分かったが、性能などは分からないので、当分お蔵入りする事になるだろう。まだ以前に伐った木材は残っているからだ。
そう言えば、俺の頭の中の出来事なので、そこまで可笑しいとは思っていなかったが、この鑑定で浮かんで来る名前は果たして現地の人に通じるのだろうか?
鑑定で分かる名前等は、あくまでも俺の頭の中から引き出された情報を元に導き出されているなら納得できるが、どうもそれは違うような気がする。
多数の鑑定結果は正直俺でも思いつく名前だと思っている。たとえば今さっき鑑定したトレントなどだ。
これは俺の地球でのゲームの知識から導き出されるが、数点の物、たとえば【浮魔の瞳石】や【雫草】等だ。
石の模様を見れば瞳石までは思い浮かぶが、浮魔なんて思いつくはずがない。同様にハート形の草を見て雫草なんて分かる方が、どうにかしている。
そう考えれば鑑定で導き出される結果は、この世界のシステムからの返答なんだと考えた方が自然だ。
まあ、所詮俺が想像してみた事だ、こんな疑問はこの世界に来てから何百回とした事か……。まるで自分が学者か何かになった様な気分だ。
ふとマジックバッグに付いている、浮魔の瞳石を鑑定レベルが上がってからしていない事に気付いた。既に一つのアイテムとして成立しているマジックバッグだが、瞳石に意識を集中すれば個別に鑑定が出来る事が出来た。
名称‥【浮魔の瞳石】
素材‥【ゲイザー】
あぁなるほど、アイツが浮魔になるのか。
俺は出た鑑定の結果に納得してしまった。ゲイザーと言う名前の魔物は知っている。デカい目をした浮かんでいる魔物だ。とあるゲームでは何度も殺された記憶があり、攻略方法を知るまで真面に戦う事も出来なかった。
ゲームの知識が通用するかは分からないが、真正面に立って戦いたくない相手だ。いや、そもそも俺の知ってるゲイザーが、この世界のゲイザーと同一とは限らない。もしかしたら羽の生えた人型なんて事もあるかも知れない。
だが本当に俺の知っているゲイザーならば、実は無意識で鑑定結果に反映していたのか?
う~ん、謎だ。不毛すぎるもうやめよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。