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アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第一章 脱出

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十一話 初討伐

 パスタを食べる夢から覚め、そういえば麺類も食べたいと渇望しながら目が覚めた。
 今日は遂に奴を、あの憎っくきスライムを討つ時が来たのだ!
 まあ、討伐予定では有るが気持ちは大事だろう。

 早速、朝飯を取り身支度を整える。
 マジックバッグから総ルーンメタル製の、投げ槍を取り出し点検をする。鉄より重い鉱石から作った槍は、ずっしりと質量を感じて、レベルが上がったスキルの肉体強化の恩恵を受けていなかったら、持ち上げる事も出来なかっただろう。
 先日研ぎ直した刃が朝日を浴びて鈍く光っている。

「うむ、問題ないな」

 これ以外にも最初は追加でハンマーでも用意しようかと考えていた。槍が核まで届かなかった時に槍の石突を殴って突き破れないかと思ったのだが、近づきたくないので廃案にした。
 失敗したらまたやり直せば良いのだ。時間と可能性は幾らでも有るのだから。

 一先ず槍をしまい、既に何度も行き来しているスライムへの道を進む。ストレス発散を兼ねたスキル上げで何度も対峙しているので、緊張感が全くと言って良い程無い。
 程なくして何時も通り同じ場所に、同じ様子で揺らめくスライムを目に捉えた。
 これから殺そうとしているのに本当に何の感慨も無い。今迄割れなかった風船を今日割るだけ。その程度の気持ちしか沸いてこない。

 スライムの色は相変わらずな赤黒い色なのだが、大量に投げつけたナイフのお蔭か若干サイズが大きくなっている気がする。何百回と投げ続けた青銅の分だけ増えてても可笑しくは無いだろう。
 その分、俺の投擲術も確実に強力になっている。
 どうすれば飛距離が伸びるか。どう投げれば力が籠るのか。どう狙えば正確に狙った場所に飛ぶのか。数百回の投擲がスキルの力とは違う自分に対する信頼という力になっている。

 それもこれも全てこの日の為にだった。
 そう考えると少しは体に力が入るが、もはやこの十メートルを外す事は無いので大したプレッシャーにもならない。
 さあ、そろそろ殺そう。

 マジックバッグからルーンメタルの槍を取りだす。
 槍の柄の中ごろを持ち、今日は助走を付けて投げるので、何時もナイフを投げている場所から少し下がった。
 目を閉じ深呼吸をして気合を入れる。
 何百回と繰り返した動作を思い出し、その中でも最高の動きを導き出す為の一歩を踏みしめる。
 足を進めながら体を引き絞り、三歩目で溜めた力を解放し投擲する。
 俺の腕から放たれた槍がスライムの核へと向かってビュッと風を切り裂きながら進む、レベル3の投擲ならばこの距離などほんの一瞬で到達し、スライムの体へと何の抵抗も無しに吸い込まれていく。
 瞬く間に槍はスライムの核へと到達をして核に突き刺さり、そのままスライムの体を突き抜けて後ろの地面へと突き刺さった。槍に貫かれた核が砕け地面にきらびやかに散った。
 核を失ったスライムは一度激しく震えると、その身を一気に溶けるかのように崩し、その姿を消していた。

「うおぉぉ!やったぜえ!」

 俺は勝利の雄たけびを上げ、その場で飛び上がり拳を突き上げる。
 地面に足を付けたその次の瞬間に、体に猛烈な力が沸き上がる。

「なんじゃこりゃああ」

 つい叫んでしまう程の体の変化。まるで今まで何十キロもある重石を背負っていたかの様な解放感に包まれる。その感覚に思わず飛び上がってみると、物凄い高さまで足が上がった。

「うわぁっ! 怖わっ!」

 ここ最近の生活では声を出す事も余り無いのだが、驚きの連発に数十日分の声が口から発せられる。それ程驚くべきジャンプ力だった。
 着地はうまくでき、衝撃も全く感じないで試しに何度かその場で飛び跳ねてみた。自分の身長が今何センチなのか分からないが、自分の肩位の高さは飛んでいるっぽい。
 スライムを倒した直後に飛んだ時の倍以上の高さを飛べる様になった。
 このスキルのレベルアップに似た肉体の劇的な変化は、今回はレベルのアップだよな。
 そう思った俺はステータスを開き確認する。思った通りレベルが上昇していた。

【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 18 【状態】――
【H P】 467/467 【M P】 74/74

【スキル】
・投擲術Lv3(1・0/300)・格闘術Lv1(0・0/100)
・鑑定 Lv2(3・4/200)・料理 Lv1(69・4/100)
・魔法技能Lv0(11・2/50)・鍛冶 Lv2(2・3/200)
・錬金  Lv0(0・7/50)・大工 Lv1(0・11/100)
・裁縫  Lv0(0・2/50)・伐採 Lv0(2・0/50)
・採掘 Lv3(20・2/300)・探知 Lv2(2・6/200)
・調教 Lv1(8・6/100)

【加護】・技能神の加護 ・*******

 うぉぉ、一気に一七も上がってるのかよ。どんだけあのスライム経験値持ってんだ。
 あれだけ攻撃をしても倒せなかった相手だ。良くあるRPGの序盤に出てくる程度の敵では無い事は分かっていたけど、これ程上昇するとは思っても無かったな。
 もしかして、しょっちゅうナイフを投付けてたのが良かったのか?
 それとも経験値が多いレアスライムだったのか?
 う~ん、謎すぎる。まあ、考えても仕方ないか。今は素直に喜ぼう。ってHPが倍ぐらいになってるじゃねえか。MPもか。この辺の計算方法が良く判らないけど、確かに体が丈夫になってる気がするな。何と言うか皮が厚くなった様な、固くなった様な不思議な感覚が有るんだよな。

 実際の肌は子供の体ながら採掘等で筋肉が程よく付いているが、やわらかい水を弾くピチピチお肌で触り心地は依然と変わらないと思える。
 MPに関しては正直良く判らない。炉に補充する時に吸われる感覚しか知らないので、幾ら上限が増えても何も分からないのだ。この辺は有るであろう魔法が使える様になるまでは理解するのは無理な気がする。

 レベルが上がった恩恵は、ステータス上ではHPとMPが上昇してるのがちゃんと分かるのだが、ここに表示されていない事の方が劇的に変化してる。
 先程もジャンプをして確かめた身体能力だ。
 明らかに体が今までと比べて軽い。それだけでは無く、体に籠る力も上がっている。全体的に身体能力が数段階上がっているのが分かるのだ。この解放感は素晴らしく脳からやばい成分が一気に噴き出してるかの様に感じるぐらいだ。

 その場で体を動かして変化した肉体を確認をし、ルーンメタルの槍を持った感覚がどれ位変わっているか見てみようと思い、槍を拾いに行こうと視線を槍に移すと、キラリと光る物が目に入った。スライムが消えた場所に何かがあるようだ。
 もしかして、ドロップ品とかあるのか?
 ってあれ? スライムが居た痕跡が何も残ってないんだが……。
 スライムが消えた場所に少し近づき、しゃがみ込んで地面を見るが、綺麗さっぱり破片も無ければ濡れてさえもいない。あるのは子供のこぶし大の黒い石と手のひらに収まる程度の丸い半透明の球体が転がっている。
 なんだこれ、スライムの核とは違う物だよな。まじでドロップ有るのか、どんな仕組みだよ……。
 正しくゲームな展開に呆れてしまう。ここまで似せてくると、この世界を作った神は、絶対にRPGをやってるんじゃないかと勘繰ってしまう。地球でこの世界観を作った人物がこの世界の事を知る事はあり得ない事だろう、ならばやはり神様は参考にしたんじゃ……。
 じゃあこの世界は何年前に生まれたんだって話になるか。う~ん、分からねえ。

 思考の螺旋に捉えられそうになるが、目の前にあるドロップ品を手に取りそこから抜け出す。考えても仕方ないし今は目の前の事をちゃんとしよう。
 両手に持った石と球体を鑑定する。

 名称‥【エーテル結晶体】
 素材‥【エーテル】

 かっこいい名前だな。エーテルなら知ってるぞ宇宙を満たしている謎物質だろ。その結晶か。これ地球に持ってったら俺ノーベル賞楽勝じゃね? まあ、絶対に戻れないんだろうけど。

 名称‥【スライムボール】
 素材‥【スライムアベンジャー】

 素晴らしいほどそのままの名前かよ。素材の所はさっきのスライムの名前かな? 中々物騒な名前してるけどあの色からしたら納得だな。しかし、このボール触り心地が最高だな。プにプにしてて気持ちがいい。まるでおっぱいだな。そういえばおっぱい揉みたいな。
 この体は子供なのか性欲が全くないのだが心は大人だ。当然おっぱいは大好きである。このボールは当分俺のおもちゃとしておっぱい替わりをしてもらおう。
 ふざけた事を考えているが仕方ない、だって用途が全く分からないからね。両方とも名前が分かってもどう使えば分からないのでマジックバッグに突っ込んで置くことにした。

 ドロップ品を回収したので槍を拾いに行く。
 持ち上げたルーンメタルの槍は、やはり強化された肉体では軽々と持ち上がる。ルーンメタルの比重は知らないが、同量の鉄より重い。それを苦も無く持ち上げる程の体になった事を更に実感した。

 さて、どうするか。
 道は先に続いてる。このまま進むか一度戻るか考えたが、戻ったとしてもやる事は無いので、先に進むことにした。
 道を進み程なく経つと、前方に何かが居るのを探知スキルが捉えた。数は歩みを進める程増えて、今では五つになっている。これ以上は増えない様でこの反応はある程度の範囲に固まっている様だ。トカゲの様な固まり方をしているので、この先には魔物がいる広場があるのだろう。
 注意しながら先に進むと開けた場所が目に入った。予想通り魔物がたむろしている場所に出たらしい。壁に隠れながら覗き込むとそこには木が生えた広場があった。
 魔物の姿は見えないのだが、探知は効いていて、どうやら木の方から気配を感じる。注意深く手前の木を観察するが、何かが木の上に居る様子は無い。他の木の上を見てみても、何もいる様子は無いのだが、気配だけは感じる。
 おかしいと思いながら木々を眺めていると、一本の木の幹に顔みたいな物が有るのに気付いた。

 「あっ、あいつ木のモンスターじゃん」

 思わず声に出してしまったが、慌てて声を抑え様子を伺うが、気づかれた様子は無かった。
 俺はゲームでよく見るあの魔物を知っていた。リーパーやトレントと呼ばれる木の化け物だ。確か木の枝で攻撃したり、魔法を使う奴もいる記憶がある。見た目が完璧な木なので探知による気配察知が無ければやばかった。
 あれが俺の知っている木の化け物ならば、肝心なのは動くタイプなのかそうでは無いかだ。
 もし動くのであれば手が出し辛くなる。レベルが上がった今なら、あの太さであればルーンメタルの槍を投擲して、突き刺すぐらいは楽に出来そうだ。だが、動くならば例え一撃で一匹を撃破出来ても、その後に地獄を味わいそうだ。スライムの様に部屋までは追って来ない可能性はあるが、同時に部屋まで追ってくる可能性もあるからだ。

 やばい橋を渡る必要は無い。ここは武器の調達と俺のお友達に協力を仰ごう。

 俺は一度部屋まで戻り鉄製の槍を複数作った。ルーンメタル製の物が欲しいのだが、鉱石が無い以上贅沢は言えない。レベルも上がっているのでこれでも十分威力が出そうなので良しとした。
 続いてもうすぐ来る俺の親友である、大鳩のポッポちゃんを待つ。我ながら適当な名前を付けたとは思っているが、中々可愛いのでは無いかと最近思っている。可愛いよね?

 日がやっと昼を迎えた頃に何かを咥えた大鳩が、部屋の前に降り立った。飛び跳ねながら部屋に入ってきて作業台の椅子に座っている俺の膝に飛び乗ってくる。咥えていたのは何度か既に持って来てくれている、ブラックベリーの酸っぱく甘い実だ。これまた地球にある物で、実物を食べた事は無かったが、こちらで初めて食べたこの実はおやつとしてかなり高評価を与えられる味だった。

 俺の膝の上に乗り休んでいる大鳩を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めているのを見ると本当に癒される。何時もは俺の気が済むまで撫でさせてくれるのだが、今日はお願いをしないとならない。

 大鳩の身体を持ち上げ作業台の上に乗せる。
 木の化け物が居るので動けるのか知りたい旨を伝え、他の鳥をパンで誘導してどう反応するか確かめて貰おうと説明してみると、意外と理解出来たようで渡したパンをクチバシで咥えて部屋から出て行こうとするが、思い出したかの様にこちらを振り返りその木なら知っていると言い出した。君って首が百八十度曲がるんだね……。

 一度戻して話を聞くと、どうやら生活圏の中にも生きている木は居るらしい。近付いたらいけない木として有名なんだとか。「捕まったらこわいのよー」とか言っているが、話を聞く限りではその場から動けない奴と動ける奴も居るが、ほぼ全て足がとんでもなく遅いとのことだ。
 大鳩が一生懸命説明してくれる姿が可愛いので、撫でながら褒めてやると、とても自慢げなご様子でもっと撫でてと催促をして来る。有益な情報をくれたのだ、思う存分撫でてやることにした。

 大鳩の話が確かならば、これで一番の問題は解決した。相手が動かないか、動いたとしても足が遅いのならば、積極的に殺していこう。レベルと言う概念があり、今さっきその力を思い知った身としては、是非とも上げる機会があるならば狙っていきたい。
 物量に物を言わせて遠距離から一方的に攻撃出来れば多分やれるだろう。レベルが上がったからか、自信が溢れる程に漲っていて、やる気満々なので少し冷静になってもう一度考えて見るが、問題無いと判断して、改めて木の化け物をやることにした。
 その為にも、もう一本位ルーンメタル製の槍が欲しいので、出来上がり次第作戦を決行する事を決定した。
 また採掘の日々に戻る事になったが、今日は大きな前進が出来たので、これからも精力的にやっていけそうだ。
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