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アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第一章 脱出

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十話 スキル上げの日々

 今俺は約三か月ぶりにトカゲを見に行く為に歩いている。
 今迄も何度か見学しに行こうかと思っていたのだが、結局行かずじまいになってしまっていた。
 確か記憶だと色は真っ赤で、あのサイズであの色は地球ではお目に掛らない生き物なんだろうが、見た目が単なるトカゲなのでどうしてもクロサイを見に行ってしまっていたのだ。

 少し進むと道が広くなっている場所が目に入る。
 既に探知スキルで大体の位置は把握しているので安心して歩みを進める。
 体を隠して覗き込む様に広場を観察すると、真っ赤な体を持ち、ワニの様な姿勢でその場で伏せ、目を閉じている大トカゲの姿が有った。
 よく見ると体は柔らかそうで、今のレベルの投擲術ならば刃が通るのではないかと思えて来る。しかし、目視だけでも五匹、ここからでは見えない位置に一匹を探知スキルで確認している。
 もし、一匹をやれても残りの奴らに襲われればゲームオーバーだ。今の技量では高精度の投擲を連発する事は出来ないし、そもそも何回攻撃が当たれば殺せるのかも分からない。ナイフならば少ないモーションで素早く投げられるが、槍はそうもいかない。
 俺はちゃんと迂闊な事をするのは身を危険に晒すだけだと、この世界に来た初日に身を持って学んでいるのだ。

 今回ここに来た理由は、トカゲを観察する以外にも、ある目的が有った。
 それは、探知スキルの熟練度の上昇をテストしたかったのだ。
 ここで少し探知スキルについて話していこう。

 このスキルは範囲の拡大は出来ないが、縮小は出来る。レベル上昇では単純に有効範囲が広がるだけのようで、探知した相手の詳細情報が分かる事は無い。目視しながら探知スキルで認識した相手は、その後何となく気配で分かり、区別が出来る様になる。探知する対象が増えると熟練度の上昇率が増える気がする。
 以上が、今分かっている探知の仕様だ。
 この仕様の探知する対象が増えると上昇しやすい点を、今回は検証したいのだ。
 スキルの上昇には、難易度が高ければ上がりやすいと言う点を生かして、数匹居るトカゲなら効率が良いのではないかと思っている。
 その為、相手に気づかれ無い探知の範囲内で待機して見ようと思っている。
 探知のスキルが有れば相手が動けば分かるので、携帯ゲームでもあれば、暇つぶしをしながらスキル上げが出来るのになぁと思ってしまった。
 取り敢えず今回は検証なので、トカゲの観察をして暇をつぶすことにする。

 この場に留まって三十分程経ったか。そろそろステータスのチェックをしようと思う。
 探知スキルの熟練度をチェックすると、思った通り上昇している。
 普段は一日で1上がれば良い方なのだが、この場に三十分居ただけで0.5も上がっている。一時間で通常の一日分の訓練になるという事だ。恐ろしく効率がいい。
 ただ、暇なのがどうしようもない。他のスキル上げが出来ればいいのだが、音を立てる訳にもいかず出来る事は限られそうだ。
 まあいい、効率が良い方法が分かっただけで十分だ。まだ時間は掛かるだろうがスキルレベルが上がる候補だ。当分は日課として組み込んでいこう。

 トカゲ観察の方は殆ど動かないので、全く楽しくないのだが、一つだけ分かった事が有る。それは、あのトカゲは火を噴きそうって事だ。
 やる事も無いのでずっと眺めていたのだが、偶に口から光っている粉みたいな物を吐いてた。何度かそれを見て火の粉だと分かったのだ。
 このトカゲもクロサイも何かしらの攻撃手段を持っている可能性が有る。ファンタジーな世界だし口から火を吐くとかは余裕で有りそうだ。まあ、手を出す気は無いのでどんな攻撃を持っていようが関係ないけどね。

 そんなこんなで色々分かったので、今日はもう戻って投擲術でも上げるかな。



 先程まで作っていた投げナイフを、鑑定スキルを使い延々と鑑定している。繰り返し繰り返し作ったナイフを鑑定して、終わった物は適当に放っている。
 鑑定スキルの上昇には常に新しい物が必要で、一度鑑定した物では熟練度が上がらない事が長い間の検証で分かっている。
 その為、最近は連日にわたり金属の消費が少ない投げナイフを大量に作っては鑑定をして溶かしてまた作り直す事をしている。
 部屋の片隅に売るほど鉄や青銅は詰まれているのだが、幾らなんでもこれを全部武器にする気は起きないので、今迄は溶かして作り直していたが、最近はもう間も無く鑑定スキルのレベルが上がるので、投擲術の訓練で投げる為にも残している。

 鑑定スキルは余り重要視してなかったので、長い間意図的に上げる事はしてこなかったが、スキルアップで身体能力が上がるなら、もう直ぐ上がるので試してみる価値はある。
 予想では肉体的な強化は望めないのだが、この世界にはMPと言うものがあるのでそちらの成長を期待しているのだ。
 後0・4程上がれば次のレベルなのだが、ランダム性が有るのでそうは簡単には行かない。とは言え、数をやれば絶対的に上昇はするので時間の問題なのだ。

 そうこうしている内にスキルが上がった。
 採掘や投擲術が上がった時に感じた肉体的な強化は感じない。だが、若干だが頭がすっきりとしてくると同時に体の中の力が膨らむ感じがする。
 感じるのは物凄い小さな物なのだが、この小さな変化は俺の体をどう変えたのだろうか?
 ステータスを確認して見ると、MPの上限が上がっている。今迄の二十二から二十六へと変化していた。約二十%の上昇か。元が少ないので結構な上昇率だと考えても良いのだろうか。
 兎に角これで、スキルのレベルアップ時には、二通りの上昇パターンが有る事が分かった。肉体的な物と精神的な物と言うのだろうか。ゲームな考えで言えばまだステータスには他の項目何かもある気がするが、その都度確認できれば良い事だな。

 スキルが上がった事だし、早速鑑定を試してみる。
 手元に有ったナイフに集中をして情報を頭の中から引きだす。

 名称‥【ダガーナイフ】
 材料‥【青銅】

 おぉ、項目が増えてるぞ。材料が分かるようになるのか。地味だが未知の物を見つけた時は役に立つな。
 未知と言えばこの部屋で一番未知な物が目の前に有った事に気付いた。

 名称‥【小型魔力炉】
 材料‥【神造石 魔石】

 うむ、見事に未知だ、謎の素材が出てきたな。神造石って事は、神様が作った石って事だよな? そのままの意味でたぶん合ってそうだけど。確かに性能は神の名がついておかしくない。あれだけの溶けた鉄やら何かが付いても、炉自体にへばり付いたりはしてないのだ。テフロン加工もびっくりの性能だ。
 魔石は良くゲームで出てくるけど結局何なんだっけ? 何時も俺のMPを入れてるから、タンクの役割でもしてるのか?
 流石神様が作った炉だ、謎が謎を呼ぶぞ。

 鑑定はこの感じだとスキルのレベルが上がると、分かる項目が増えるみたいだ。今の所余り訳が分からない物は無いからそれ程必要では無いけど、ここを出られたら役に立ちそうではある。それで無くともスキルのレベルが上がれば、肉体的・精神的な恩恵を受けれるのだ。上げるに越した事は無いか。

 鑑定は地味にでも上げていくスキルとして今後も取り組んでいこう。



 今日の午前は鑑定スキル上げで、大量に作っていた青銅製のナイフを百本程持って、スライムに投げ付ける事にする。
 廃棄処分とストレス発散と投擲術の訓練との一石三鳥である。
 まだスキルが上がるのには時間が掛かるので、効率が上がるこの方法は積極的にやっていきたい。
 鍛冶も大量に作っている武器のお蔭でもう直ぐ上がる。残っている鉱石はまだまだ有るのだが、ルーンメタルはまだまだ量が欲しいので採掘も再開する。

 こうしてスキル上げと採掘を両方始め、予定を立てて行動していると中々充実した日々を過ごせた。

 そうこうしている内に十三日が経った。

 鍛冶のレベルも上がりまた一段階肉体的に強くなった。予想通り鍛冶は肉体強化でHPが増えている事も確認した。大きな変化ではないが、ツルハシを振る力が増えるのでより楽に採掘が出来る様になっている。
 元から鍛冶は炉からの補助を受けていてレベル2相当の力が有ったので、スキル的には何も変わった事は無い。

 採掘は先日新しい事に気付いた。
 どうやらこの場所の地下には何かが居るという事だ。
 先日までは比較的上層でルーンメタルを探していたのだが、余り成果が無い為、より深層へと掘り進んで横に広げてみたのだ。
 その掘り進めた一方から、何かの気配が探知に引っかかった。
 反応した場所は距離はあるので、まだ安心しているが反応の大きさから言ってトカゲ程度は有り、どうやら移動をしているみたいだ

 最初に予想したのは、地下にモグラの様な生き物が居る可能性だが、神様からの手紙を思い出して他の可能性に気付いた。
 神様はここをダンジョンの中と言っていたのだ。
 探知した相手は比較的スムーズに移動しているように感じる。地下を掘って進む生き物の動きでは無いと考えると、そこには通路が有るのではないかと考えたのだ。

 まだ反応は少数なのだが、掘り進めて行き数が増える様ならば、この予想は当たってそうな気がする。
 だが、本当にこのまま掘り進めても良いのだろうか?
 探知スキルの範囲内であれば、反応している相手からは奇襲に会う事は無いと思うのだが、本当に信頼していいのか微妙である。
 この手のスキルには、それに対応するスキルが有るのが、ゲーム的な考えでは当然だからだ。
 もし地下を掘って進む生物が居る場合は、下手に掘り進むとこの坑道とぶつかって、這い上がってくる可能性もある。
 そもそもダンジョンが地下にあるという事は、外は本当に表層でそこにいる魔物は雑魚と言うのが常識だろう。掘り進んだ先にクロサイの様な化け物が大量に居たらかなりおっかない。

 考えれば考える程この先を掘るメリットが無い様なのだが、一点だけ掘りたい理由は有る。それは、この方向に掘った方が鉱石の埋蔵量が多いからだ。
 指でつかめる程度の大きさではあるが、ミスリルやルーンメタルが結構な量出ている。投擲術のレベルが3になったら攻略したいスライムの為にも、総ルーンメタル製の武器を是非一本用意したい。
 危険なのかも知れないが効率を考えると掘りたいんだよなぁ。う~ん、難しい。
 他の方向を掘ってみてダメならまた考えるか。



 今日は明日に備える為、採掘もスキル上げもお休みにする。
 先日やっと投擲術がレベル3になり、探知もレベル2に上がっているので、明日のスライム討伐の為に英気を養うのだ。
 レベル3になった投擲術は威力が更に上がった。
 スキル上昇による肉体強化と投擲術が上がった事による強化で、今回は飛距離が恐ろしく伸びた。
 投げ槍では投擲術レベル2では大体四十M飛べば良い所を、レベル3ではその倍の距離は飛んでいると思われるからだ。
 なぜ思われるかなのかと言うと単純にそんな直線が無いからだ。全力で投げた槍は想像以上に飛んで壁に突き刺さってしまった。手が届かない場所に刺さったので今でもそのままになっている。
 投げナイフも有効射程距離が伸びた様で精度も更に上がっている。
 開けた場所であれば遠くにいる動物ぐらいなら殺せる勢いになっている。予想ではトカゲなら槍を投げれば突き刺さるんではないかと思ったが、あのクロサイには敵わないとは思う。あれは槍が一本刺さったぐらいじゃ死なないだろうからね。

 探知スキルの上昇ではHPもMPも増えなかった。その代り、上がった瞬間に体が軽くなる感じを受けたのだ。探知はどうやら素早さの様な物が上がるらしい。とても弱い上昇の様で劇的に変化はしていないが、体の切れが良くなる、そんな感覚を得ていた。

 今日は休みと言っても明日の用意が多少あるので、スライムを殺す為に作り上げたルーンメタルの槍を研いだり、余ったルーンメタルで投げナイフも作っておく。
 ルーンメタル製の槍は、全てをルーンメタルで作り上げた非常に重量が有る武器に成っていて、切れ味も恐ろしい程だ。
 テストで壁に向かって投げた時は、槍の半分ほどまで埋まってしまい引き抜くのに手間取った。
 威力を測る方法としてはどうなのかとは思うのだが、これならやれると確信している。

 そう言えばこのルーンメタルを集める為に、結局は探知に何者かが反応する方向に掘り進んだ。
 掘り進めば進むほど何かが居る反応が増えていき、地下には巨大な施設があるのだろう仮説が正しい事が分かった。まだ、そこまで掘り進めてはいないのだが、このまま進めば確実に地下道にたどり着くだろう。
 反応には複数の種類があり、大きく分けて二つある。定期的に移動している物と、その場で動かない物だ。動いてると言っても道が見えている訳では無いので、実際はどんなルートを通っているかは判断できない。ただ、動いているのが分かるだけだ。
 その二つの反応にも大小の大きさが有り、あのクロサイよりも大きい物を複数探知している。このダンジョンの地下が本番だとしたら、クロサイはまだまだ前半戦の中ボスという所なのだろうか。
 そうなったらここクリアーするのまず無理なんだけどね。

 まあ、何にせよ取り敢えずは明日のスライム討伐をしてからだ。
 出来ればトンカツでも食べて勝負に勝つとかしたいのだが、あいにく鶏肉しかないので、今ある素材を使って無理やりトリカツモドキを作った。パン粉が幾らでも作れる事に気付いたのと、鳥の油を使えるので可能になった料理だ。ただ、つなぎになる物が無いので本当にモドキなんだよね。
 こんな物を食べてると本当に米が食いたくなる。
 外に出て町を見つけたら絶対最初に食うんだ。あるよな米? 頼むからあってくれ。

 まだ寝るには早いが明日の為に早寝をしよう。せめて夢の中だけでも米が食べられますように。
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