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七話 鉱石発見
「おいで、怖くないよ。こっちにおいで……」
別に寂しくて頭がおかしくなった訳じゃない。昨日パンを食べに来た鳥がまた来てるだけだ。姿を見せても逃げないが、声を掛けても全く反応してくれないんだけどね。まあ、まだ反応してくれなくても良い。
ここで近づいて逃げられるのは素人のやる事。プロは待つ。相手が油断するまでひたすら待つのだ。なんてアホな事を考えてるが、ただ単に逃げられるのが怖いだけです。
さて、今日は午前中に投擲術を上げておく。
昨日やらなかったし、槍を投げるだけとは言え、気分転換になるからね。出来ればナイフを作って的でもあればダーツ見たいでより楽しく出来そうなんだけどな。投げ槍を一本溶かして作ってしまおうか悩むな。ナイフ投げても投擲術って上がるよね?
この後は採掘をするから、なるべく体を酷使しないでやりたいけど、全力でやらない事にはスキルが上がらない。体力の分配が難しい。
そもそも、午前も午後も体を使う事をするのが間違ってるんだろうけど、他にやれそうな事が無いのが問題なんだよな。午前いっぱいじゃなくて、切りの良い所で辞めるべきかな。
そんなこんなで午前を終え、午後の作業を始めて二時間ほど経った頃、遂に初めて鉱石が採掘できた。
その時は何時も通りの調子で掘っていたのだが、土を叩いたツルハシから明らかに違う手応えを感じた。何だと思い掘れた場所を見てみると、なんと鉱石が露出していたのだ。
どう考えてもおかしいのだが、出た物は出たのだ、真っ直ぐ掘っていたその側面に鉱石が露出したので、その場所を鉱石に沿って掘り広げた。
最後の一振りでゴロンと地面に転がったその塊は鑑定の結果は青銅と出た。
「おぉ青銅かぁ……ってすごいのかこれ?」
別に文句は無いんだけど、どうしてだろう、そこまでテンションが上がらないのは。
青銅って要するに銅だよな? 銅と青銅ってどう違うんだっけか、鉄と鋼と同じような物だっけ? やばい思い出せないぞ……。
叩いた感触だとすげえ硬いんだけど。某RPGだと銅の剣て思いっきり初期武器だったような。そういえば十円玉もたしか銅だよな。あれも相当硬いし何か同じような色してるし金属の性能としては悪くないんじゃねえか?
鉄より硬度が低いんだろうけど、なんで駄目武器扱いなんだろうな。
いやそんな事より、鉱石ってこんな出方する物なのか?
思いっきり一か所に集中して固まってんだけど……。
幾ら俺がこの手の知識が無いとはいえ、もっとこう石ころの中に成分が含まれてて沢山集めて抽出します。みたいな感じだったような。
まあいいか、本当の出方なんて知らないしこの世界じゃこれが普通かもしれない。何より成果が出たんだ文句はいけない。余り文句を言ってると、この世界はマジで神様がいるっぽいから、俺の心を読まれてたら怖い。
俺は掘り出した卵型をした青銅の塊を両手で持とうとしたが、結構な重さがあったのでマジックバッグを使い収納した。
よし、今日はここで切り上げてこの鉱石を試してみるかな。
今日の採掘作業を終えて穴から抜け出し部屋へと戻った。
一息つく為、作業台の椅子に座る。
机の上にはマジックバッグの中身を空ける為に様々な道具が置かれていたので、それらを少し横にずらし机の真ん中に掘り出した青銅の塊を出してみる。
河原に転がってる大き目な石という感じの大きさで、青銅が剥き出しになっている所は、黄金色でちゃんと加工をすれば結構綺麗になるんじゃないかと思う。
大部分は土というか石に覆われているが、中身はどうなってるのかは分からない。
ずっしりと重いから中まで石って訳じゃなさそうだけど。
とりあえずこれを如何するかだけど、やっぱり一度インゴットにしてからだよな。縦にすれば炉に突っ込めそうだからたぶん行けるだろう。
持つのが億劫なのでマジックバッグに再度青銅の塊を戻し炉の上に取り出す。
炉の両脇に乗る様な形になった青銅の塊を、何とかを縦にして炉の中に入る様にずらしながら動かしていく。
ゴンッっと音を立て少し乱暴になったが、やっとの事で炉の中に少しはみ出てはいるが青銅の塊は収まった。
以前に見たレシピの説明では、ここまで来れば後は自動で金属の抽出を行い、インゴットの精製までしてくれるらしい。
炉のペダルを踏み俺の体内のマナを送り込み、目盛りを最大に合わせる。
すると、青銅の塊は瞬く間に高温になった様で、明るく輝きだした。
暫しの間を置き、青銅の塊が崩れる様に溶け出して、炉の底にある四角い窪みに流れ込む。窪みに溜まった青銅が一杯になると目盛りが自動で切に戻った。
「うわぁ……」
この炉ってやっぱおかしいだろ、高性能すぎてちょっと引くわ。
地球でもやろうと思えばできそうな仕組みだけど、明らかに火力がやばい。青銅の融点は知らんけど、こんな高速で溶けるとか恐ろしいわ。
しかも、速攻で金属溶かす程の熱なのに外部にほとんど漏れてねえぞ。
う~ん、俺のMPの半分程度で出せる火力がこれって、この世界魔法ってどんな威力してるかすごい気になるわ。
炉の底で冷え固まっていく青銅のインゴットを見ながらそんな事を思う。
止まってから間もなくすると、冷えてきたのか見た目からも固くなっている事が分かる。
平ハシを両手で持ってインゴットを取り出し、地面に置いておく。
目盛りを最大にして残りの青銅をインゴットに変えていき、三本のインゴットを作り上げた。
「一回でこの数は結構いい感じだな」
あの塊は大体四分の三程が青銅だった様で、周りに付いていた石の他に、中にも多少の石が含まれていたみたいだった。
それらの残りカスを炉から取り除き、炉を綺麗にしてまずはナイフを作って見る事にした。
今ある鉄のナイフと比べられるし、一度作ってる物はやっぱり作り易いんだよね。
青銅のインゴットを炉にセットして炉に火を入れる。
鍛冶スキルを使い、溶けた青銅をナイフの形に成形していく。ハンマーで叩き細かい調整をして水で冷やしてから研いでいく。
う~ん、やっぱり簡単だな。色々な工程とかすっ飛ばしてる感がすさまじいけど。
出来上がったナイフは、鈍い黄金色で見た目は悪くない。むしろ、黄金色に魅力を感じるぐらいだ。
銅というイメージだけで、価値の低い見た目も悪い金属だと思い込んでいたが、これはこれでありだと感じた。
さて、問題は切れ味だが果たしてどんな物かな。
切れ味を試せる物として、木の廃材を用意した。
万力で木を固定して、まずは基準として鉄のナイフを使って試し斬りをしてみる。
全力で木の廃材に鉄のナイフで斬りつける。
五センチ位の厚さの廃材に半分ほどまで食い込み刃は止まった。思った以上に切れて気持ちが良い。
次に青銅のナイフを試してみる。
廃材に着いた切り口を逆さまにして万力にセットし直し、今度も全力で廃材を斬りつける。
青銅のナイフは廃材の半分には、届かない位置で刃を止めた。
あれ? 鉄とあんまり変わらないんだけど何でだ?
多くのゲームでは鉄以下の扱いを受けてるはずが、この切れ味なら遜色がないと思える。
あぁ……青銅って鋼とかと同じ合金だっけ?糞っ、全然思い出せねえ。
あいまいな記憶に少し苛立つ、学生時代は余り真面目な生徒では無かった事を、こんな状況で後悔するなんて人生分からないものだと心底思った。
まあ、思い出せないものはしょうがない。とにかく普通に使える金属って事だ。
今日はまだ日が落ちるには時間が有る。それならと、欲しかった投げナイフを作ってみる事にした。
さて、どんな形がいいのかな?
投げナイフのイメージを頭の中で浮かべてみるが、どうしても苦無が頭に浮かんでしまう。
流石日本人だな俺。だがあれは、実は投げる物じゃ無く手で使う武器らしい。もちろん、投げたりもしただろうけどメインの使い方では無かったとの事だ。昔グーグル先生が教えてくれたから間違いない。
頭の中に浮かぶ武器のレシピを参照していく。ナイフのカテゴリから数種類を候補として選択して作ってみる事にする。
両刃と片刃、細い刃と太い刃、実際に使って気に入った物を量産すればいいのだ。ただ、普通にナイフを作ると投げるには大きそうなのでこの体のサイズに合わせて作ろう。
2時間ほどで合計五本のナイフを作り上げた。早速ナイフをテストして見ることにする。
流石にナイフを土の壁に投げつける気は起きず、丸太を五センチ位の厚さで切り出し、それを壁に埋め込んでみた。年輪がうまい具合に的に見えて加工する事も無く簡単に作った。
投擲術のお陰か手に持ったナイフがしっくりとくる。
何かジャグリングなんかも出来そうな感じだ。でも、怖いからやらない。
的から大体五メートルの位置に立ち、ナイフの柄を掴み、体をねじり腰からの力を伝えながら腕を振りぬく。
想像していたより効率よく体の力が腕に伝わったのが分かる。投擲術の恩恵を受けている様だ。
足は上げていないがボールを投げる様なオーバースローで投げられたナイフは、真っ直ぐに飛んで行きカッと音を立てて的へと突き刺さった。
狙ったど真ん中には刺さらなかったが、点数が有れば八十点って所へ当たった。
残りのナイフも全て的に当たり、衝撃からか土埃が舞っている。
「うーん。気持ちいい!」
これは遊びにもいいな。
ふと、スキルの上昇が気になりチェックするが上がっていない。まあ、この程度じゃ駄目だよな。
その後、日が暮れるまで一時間程距離を伸ばしたり投げ方を変えたりとナイフ投げをしていると槍に比べると少ないがスキルの上昇が見れた。
疲労感も少なく遊びの感覚が大きいのはデカイな。俺は楽しみながら上手くなる方針が大好きだからね。
今後の投擲術の訓練には投げナイフも取り入れる事が決定した。
◆
採掘で青銅が出てから四日ほど経った。
連日採掘を続けているので、今日は気分転換にもう一度道の先を見に行くことにした。
危険なのは分かってはいるが、行動範囲を広げられる可能性が有るならばその手段は絶対にほしいのだ。だって、ずっと穴掘るとか槍投げるとか飽きちゃうだろ……。
まあ、気づかれる前にその場を去ればいいだけだ。前に行った時の距離を保てば大丈夫だろう。
念の為一応の今まで作った武器をマジックバッグに入れて置く。使う気なんて本当に無いのだが、丸腰は本当に怖いからね。
さて、どの道に行くかだがスライムは当分見たくないので、トカゲかクロサイの二択になる。
どちらに興味があるかと考えた所、やっぱりあの馬鹿デカいサイをもう一度見たく思い、部屋の正面に伸びる道を進んでいく。
「こんな長かったけな?」
道を歩きながらそんな事を呟く。
あの時は余程浮かれていたのか、改めて歩くこの道は結構な長さが有り、特に目で楽しめる物も無いので余計に感じるのだ。
大きく曲がっている道を数分歩くとやっと記憶にある開けた場所が見えてくる。
「居たっ!」
遠目から見てわかる大きさに思わず興奮をする。
黒い体を揺らしながらクロサイがゆったりと闊歩している。
こちらの姿を見られないギリギリの場所から目を出して観察をする。
やはりあのデカさはヤバイ。これが本能的って奴なんだろうか、これ以上は近付くなという警告が頭の中でガンガン鳴っている。
二度目だがやはり見た目は大きいサイだ。だが、普通の大きさでは無い。動物園で見た象よりも大きいと感じる。
そして、その大きさと同じく特徴的な黒い色は地球ではまずお目に掛からないであろう色で凄まじく威圧感を感じる。
遠目からではあるがその濃い黒色の肌は肉厚で硬そうな皮で覆われている様に見える。
とてもじゃないが、今持っている物を投げ付けても突き刺さるは愚か、傷さえも付かない。そんな圧倒的なイメージを受ける。
そんなクロサイはこちらに気が付く様子は無く、その場を行ったり来たり移動したり、その太い尻尾を地面に叩きつけたりと中々と飽きさせずにくれる。尻尾を叩きつけた時に起きる振動が此方まで届き、その威力を想像すると震えがくる。
長い時間見ていると時折、鼻の上にある反り返った角が眩しく光、バッチッと言う音を放っている。
あれってどう見てと放電だよな。
雷を操りし漆黒のサイ……。何と言う中二病的存在。
一周回って、中二病も悪くないと思っている俺の心をくすぐり過ぎるだろ!
飽きる事も無くその場に座り込み、数十分観察を続けていると、何だが変な感覚を感じ始めて来た。
何と言えば良いのだろうか、何と無く目の前に居るクロサイの気配を感じるのだ。
見えて居るのに気配も糞も無いのだが、存在の大きさや距離を感じられる様になったみたいだ。
これアレだよね。スキル開花してるよね。
ステータスを確認すると、思ったとおり探知と言うスキルが発現していた。
いや、もういい加減慣れてきたんだけど、一体幾つのスキルが有るんだよ。余り覚えすぎると規制食らうとか無いだろうな、心配になって来たわ。
スキルの正確な仕様が分からない以上、想像でしかないのだが、そんな事を考えて少し不安になった。
探知のスキルの説明には、有効範囲内の生物の動きを探知するとある。クロサイの他にも上方で小さい反応を感じる事から結構な距離が範囲になるみたいだ。
スキルも覚えたし切りが良いのでその場から立ち去り道を戻る。
観察も結構長い時間出来たし、新しいスキル迄覚えられかなりの収穫を得られたな。
歩いて程なくして、さっき迄感じていたクロサイの気配が消える。これが有効範囲に対象が出たって事なんだろう。
探知は意識してオンオフを切り替えられるみたいで、取り敢えずはずっとオンにして置くことにした。
部屋に戻り一息付ながら探知でこの周りを調べてみると、数点の小さい気配を感じる。一体どれ位の距離を感じる事が出来るのが疑問だが、方向的に全て上から来るもので、この渓谷の外は生き物がいるみたいだ。
気配の大きさはあのクロサイと比べると、極小な物で多分小動物何かなんだろう。
慣れない気配が少し気にはなるけど、危険を感じて不愉快と言う訳でも無い。スキルの上昇判定が分からないが、練習がてらこのまま着けておくことにした。
まだ昼には早いが毎度のパンと水を取る。
そうだ、パンと言えば今日も朝に鳥が来ていた。餌付けが出来始めているっぽい。だが、まだ一匹だけしか姿を見てい無い。あの鳥は群れないのだろうか?
俺の予定ではもう少し経てば二羽、三羽と増えていき群れが毎朝この場所に来るはずなのだ。見た目が鳩だから生態も似てるのかなと思うのは当然だよね?
と言うか、群れで来てくれないと継続的に食べれないじゃないか……。
こんな食生活を続けていたらそんな皮算用もしたくなるだろ。
そんな一人会議を終え今日の残りは採掘に勤しむ。
特に目立った成果は無かったが、地味にスキルの熟練度は上がっている様なので良しとしよう。
今日の作業は全て終え床に就き寝る前に今日の事、特にあのクロサイの事を思い出していた。
あのクロサイは一体何を食べて生きているんだろう?
クロサイがいる場所にはあの体を維持できそうな食料は見当たらなかった。もちろんあの開けた場所全体が見えていた訳じゃないし、夜になったら移動してるとかそんな可能性もある。
別に夜じゃなくとも、俺が見てない時に道の先に有る食べ物を摂取している可能性もある。
だが、何故あのクロサイはあの場所に居るのだろう?
あそこが縄張りだからという理由も納得は行くが、あのサイズの生物があんな狭い場所だけで満足するのだろうか。あそこが巣と言う可能性もあるか。
そもそも、三つの通路全部に魔物が居て道を塞ぐ様に居座っている。まるでゲームのダンジョン構造みたいだ。
普通のゲームなら道中の道にも魔物が出る事が有るのだろうけどここではそれはないっぽい。
それに助けられてるのかも知れないが、考えれば考えるだけ謎が深まるなあ。
あぁ、スキルチェックも忘れちゃいけないな。
【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 1 【状態】――
【H P】 162/162 【M P】 22/22
【スキル】
・投擲術Lv1(42・6/100)・格闘術Lv1(0・0/100)
・鑑定 Lv1(4・2/100)・料理 Lv1(0・0/100)
・魔法技能Lv0(1・0/50)・鍛冶 Lv0(16・4/50)
・錬金 Lv0(0・7/50)・大工 Lv1(0・7/100)
・裁縫 Lv0(0・2/50)・伐採 Lv0(2・0/50)
・採掘 Lv1(31・0/100)・探知 Lv0(2・2/50)
【加護】・技能神の加護 ・*******
新スキルの探知はずっと着けっぱなしにしていたお蔭か、若干の上昇を見せている。身を守れそうな便利なスキルっぽいから出来るだけ上げておきたいな。レベルが上がれば性能上がるって認識は間違ってないだろう。
後は投擲術のレベルが一つ上がったらスライムに一度挑戦してみるのも良いかもしれない。スキルレベルの上昇でどれ位威力や精度が上がるかは未知だけど、大工や鍛冶が上がった時の明らかに性能が上がったあの感じが投擲術にも適応されるなら可能性はあると思うんだ。
青銅が出た事だし金属がまた出てくれる事を期待して、使い捨て出来るぐらい武器が作れれば検証がてらに投げてみるのも良いだろう。
何にせよ牛歩の歩みでも良い。時間はあるんだ。食事の問題だけは如何にかしたいが、進展がない訳じゃない。焦らずに頑張ろう。
んじゃ、おやすみなさい。
あっ、風呂もどうにかしたいなぁ。
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