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六話 採掘
「うがぁ……腕が……」
寝返りで動かしたのか分からないが、腕の痛みで目が覚めた。
昨日散々槍を投げ続けた結果に、当然ながら腕が悲鳴を上げている。
「若いっていいなぁ」
腕だけでなく体全体がだるく、全身から疲労感と筋肉の痛みを感じるが、運動をした翌日に襲ってくる筋肉痛に嬉しさも感じてしまう。
そういえばこれ自分の体か……。まだまだ、意識がおっさんなんだよなぁ。
自分の体の事だが、どうしても今だ認識に齟齬があるような感じで、一歩引いて自分を見てる感覚が消えないでいる。
当然と言えば当然だよな、まだ数日だし。
そんな事を考えながら痛む体を無理やり起こし、作業台に置いておいた半分使った【低級ポーション】を取りに行く。
右腕で取ろうとしたが上がらない事に気づき、左腕で【低級ポーション】を掴む。流石にやり過ぎたかと少し反省をしながらコルクの詮を抜き一気に喉に流し込む。
「ぶっふぁ!」
不味すぎる!!
寝起きでこのポーションの味を忘れていた。
危うく全部吐き出す所だったが、辛うじて口から少し垂れる程度で我慢できた。
危ねえ……貴重なポーション、略してキチョポを無駄にする所だったぜ。
朝っぱらからアホな事をしていると、ポーションの効果が出始める。右腕を中心に体中が熱くなりダルさが取れてくる。腕を動かしてみると少しの違和感が有るが痛みはほぼ消えていた。
筋肉痛にも使えるとかポーション有ったらいくらでも肉体強化出来ちゃうじゃねえか。
てか、自動で患部の判定もしてるんだよな。分からない事は今は魔法って事で片付けていいとしても、ここを出れたらかなりのお勉強が待ってそうだな。
体を動かし確認しながら出た後の事を考えるが、部屋の外に出て自分のいる場所を確認すると、取らぬ狸の皮算用と言う言葉が浮かび笑ってしまった。
そう言えば、この通路はやっぱ魔物の徘徊とかは今の所無いんだな。
朝の歯磨きをしながら通路を見ていると、そんな事を考える。
この世界に来た初日に痛い目にあって以来、生き物は今だ見ていないのだ。
当然小さな虫何かは、地面だっり外の壁とかで見る事は見るが、動物は空に飛ぶ鳥でさえ未だ見ていない。
もし何か動物がここに来るとしても通路を通るとなれば魔物と当たるし侵入は無理か。
「あっ、撒いたパンはどうなった?」
俺は昨日撒いたパンを思い出し、撒いた場所を見に行くがパンはそのままだった。
まあ、根気良くやるしかないか。
一度部屋へ戻り作った桶に水を入れる。桶の重さに揺られながら再度部屋の外に出る。
大量の水が使えるのは最高だと改めて実感し顔を洗おうと水面を覗き込むと、そこに映った自分の顔に驚き体が硬直した。
ここまで全く思い付かなかったが、一度も自分の容姿を見ていなかったのだ。
三十年位前の記憶とはいえ、幾ら何でも子供の頃の自分の顔は覚えている。
覚えているがどうも違う。
不細工とは言われた事は無く、所謂フツメンという奴が友人達からの評価だった。
だが、今水面に映っている顔は確かに自分の顔なのだが、他の誰かと混ざった様な、まるで俺が外国人の子のとの間に産んだ様なハーフの子供みたいな顔立ちになっている。
水の鏡では中々細かな所までは見れないが、髪の毛の色も違うみたいで、明らかに黒髪では無く明るい色が見えている。
「これは……」
流石に声が出ない。
数分水面を見続けていたが、容姿が良くなってる分には何も問題ない、むしろ万歳だと考えをまとめた。
まあ、ベースは元々の俺の顔みたいだから別人という感覚も薄いのだが。
しかし、誰と混ざってるのかだけは気になるな。
気持ちが悪いとは思わないが、流石にこれは気にならない方がおかしいだろう。
〝いつか神様に聞けたら聞くリスト〝を心の中に作っておこう。
一頻り驚いた所で、朝のゴタゴタに一段落就かせ部屋へ戻り今日の予定を考える。
今出来る事は限られてくるが、大体こんな所かな?
・採掘
・投擲術の訓練
・余っている木材を使っての大工の訓練
特に採掘は優先的に試したい。
穴を掘って脱出が出来ないか気になっているからだ。正直横に掘って行っても出れる気はしないが、試すだけはやってみようかと思う。
出来たら鉄とか金属が掘れれば良いのだが出るだろうか?
炉に機能があるのとレシピの中にツルハシが有った所を考えると、掘れと言っている様な物だと思うんだけどね。
他の投擲武器も欲しいし、既にインゴットが尽きてるから次の行動の第一の候補だな。
投擲術は毎回ポーションを使うわけにはいかないから程々にして日課として上げて行きたい。
再度スライムに挑戦して見るのも良いかもしれない。
今の威力じゃ突き刺さら無い感じがするからスキルのレベルが上がったらだけどね。
あいつは追っかけて来ないようだし、投げ槍なら近付かないで良いから逃げるのも楽だろう。
大工は木材がまだ木の半分は残っているが、鍛冶をする時に使う椅子以外作りたい物が無い。風呂は欲しいが、材料が足りないし、作る技量も無い。さらに言えば大量のお湯をどう確保するかと問題だらけだ。
また、採掘をするとなると梁が必要になるので今の所はこの木材には手を出さないのが正解かな。
後はもう一度通路の先を調査したいとは思う。
記憶を辿っても道中に何か目に付く物は無かったから、新しい発見は難しいとは思うが、落ち着いて調べれば魔物に関してはもう少し情報が得られそうだからだ。
あの時はもろ冒険気分で浮かれていたのと、初っ端から馬鹿でかい生き物を見て、興奮状態だったのが重なり録に確認もせず撤退している。
若干動物園感覚なのだが、この世界の生き物を観察するぐらい許されるよな。気付かれなければ問題無いのだし。
という訳で、先ずは採掘を試すことにした。
最大にして最初の問題は何処を掘るかだ。
ツルハシを片手に部屋の外に出て壁を掘ってみる。
先日登ろうとした時に、下見に近い事はしていたので予想は着いていたのだが、ツルハシを入れるとボロボロと崩れる。簡単に掘り進められて良いのだが、乾燥と土質からか二十センチも掘ると、上から崩れて来る。
土をどけ改めて掘り進めると、その振動で先程崩れたそのさらに上から土が崩れ降って来た。これを繰り返し四度目の崩落で俺の心が限界に達した。
崩れて来る土の量が掘れば掘るほど増えるからだ。
堀り進めれば当然崩れる面積も広くなり掘るより土をどける方に時間が掛かった。
また、崩れて来る高さも増し拳大の石が結構な威力で降り出したのだ。
まあ、この結果には対して気落ちはしていない。
本命はやはり地面に有るからだ!
さっき掘っていた所から少し離れ、俺はツルハシを天高く構える。腕の力とツルハシ自身の重さを乗せたツルハシが地面に深々と突き刺さると思いきや、五センチ程削っただけで、地面に弾かれた。
「痛ってえっ!」
地面を叩きつけた反動がモロに腕に伝わり、痺れを伴った痛みに襲われた。
腕を振り回し痛みに耐え、収まった頃にはツルハシを引きづりなが部屋へと戻っている自分がいた。
少し休憩しようと藁の上に寝っ転がる。
普通に考えたら開墾とかの作業は昔でも大人が大人数で、更には力のある家畜を使って地面を耕していたのだ、簡単に子供の力で掘れる訳が無いって事だ。
「うーん、どうしたものかね。って、これ可能性あんじゃね!?」
藁の上で唸りながら寝返りを打つと、目の前にある部屋の壁が目に入る。
そこだけ他から持って来たかのように外の壁とは明らかに異なる地質で、触った感じも掘れ無いという訳でもなさそうだ。
外からは部屋の奥までは大体六メートルという所だろうか、ここから掘れれば流石に土も乾燥している事も無く、簡単に崩れる事も無いだろう。
思い立ったら吉日、早速取り掛かる。
部屋の入り口から見て左手側の再奥に、ツルハシを入れる。
簡単ではないが確実に掘れ、一時間程度で自分の体がすっぽりと収まる程度の穴が出来上がった。
少し時間は掛かってはいるが、こんなものだろう、何せ子供の体がなのだ。
その場で座り込む休憩をする。
掘った土を手に取り調べてみるが、まだ土質が変わった感じは無い。
予想ではこの部屋の外壁を越えれば、外部と同じ土になると踏んでいるのだが、結構な厚さが有るみたいだ。
空腹を感じ、大分飽きて来ているパンと水を取り作業に戻る。
今日の目標は取り敢えず、この部屋の外壁を抜く事にしよう。
あれから休憩を挟みつつ、二時間近く掘り続けやっと違う土が見えて来た。
思った通り深い場所の土は湿っていて、簡単に崩れる気配は無い。 まだ日は出ているが、朝から動き続けていたので、大分疲れてきている。
今日の作業は取り敢えず終了にして、藁の上で体を休める。
横になりながらステータスを開くと採掘という新しいスキルが増えていた。まあ当然だよね今日これだけ掘って追加されていなかったら泣きたくなる。
あまり長い間横になっていると寝てしまいそうなので、日が落ちるまでの数時間で投擲術を上げこの日は終えた。
◆
今日は朝から採掘作業に勤しむ。
朝に外に蒔いたパンを見たが変化は無かったが、二つ分を追加で撒いておいた。
この世界にも鳥って居るよね?
作業に取り掛かり掘り進めて行く。
ゆっくりだが確実に穴が深くなって行く。
土の質が変わり若干脆くはなったが、まだ崩れる様子は無いみたいだ。
だが、甘えは怖いので昼飯を境に何時でも使えるよう梁を作っておく。
木を切り出し穴のサイズに組み合わせる、単純な物だが取り敢えず三セット作って穴の近くに置いておいた。
ついでに鍛冶で使いたかった椅子と掘った土をどかしやすいように、ちり取りを作っておいた。
午後は採掘をしてから投擲術を上げた。
まだ何も出ていないから坑道と言って良いのだが分からないが坑道は、現在二メートル位は掘れている。
これ以外やることはないのだが時間は腐る程ある。地味に確実に掘って行けばいいだろう。
採掘の成果が出るまで当面は、採掘と投擲術をすることにしよう。
布団の中でそんな事を考えながら眠りについた。
◆
今日は鳥の鳴き声で目を覚ました。
鳴き声の近さから撒き餌をしていた所に居る様だ。
遂に食い物(予定)が舞い降りてくれた!
この世界で初めて見た鳥は、カラスを一回り大きくした位の結構デカイ鳥だった。
デカイはデカイ、だが俺には分かる彼奴は喰われる側の存在だ。 決してこちらに害を成す存在じゃない、だって見た目がまんま鳩なんだもん。
落ち着いて先ずは餌付けだ。
部屋の入り口から覗き込みながらなるべく姿は見せずに追加のパンを投げてやる。
あの大きさだ、かなりの量食うだろう。おっ、此方に気付いたか。
ふふ、だが奴は自動的に餌が供給されるシステムに気を取られて逃げないようだな!
パンを投げ続けていると、姿を完全に見せても鳥は逃げない程には警戒心を解いたようだ。
今はこれ以上近付く気は無いけどね。
やがて腹が膨れたのか、翼を羽ばたき飛び去って行った。初日にしたら中々の成果じゃないだろうか。
ははは、朝飯の何時もと同じ味がするパンも少しは美味しく感じるという物だ。
俺もパンを食べなから、撒き餌のパンを前と同じ場所にまた撒いて置いた。
しかし、本当に鳥が来たがどうやって捕まえようか?
実は来たら良いな位にしか考えて居なかったのだ。
一番は罠で捕まえたいけど、俺罠の作り方なんで知らないんだよね。てか、普通の日本人なら罠の形なら見れば分かるだろうけど、さあ一から作れと言われてもまず無理だろ。
とまあこんな具合で捕まえる方法が無い訳だが、やっぱ餌付けで距離を縮めて如何にかするしかないか。
奴が鳩ならば手で餌やりまでは行けそうなんだがなぁ。
採掘をしながら捕まえる算段をするが、名案は浮かばない。
槍を投げるとか考えて見たが、相手がデカくても当たる気がしない。鳥に何かを投げて捕まえるとか簡単に出来てたら公園の遊びに鳥狩りがない方がおかしいって話だ。
弓やボウガンなどが有れば話は違うのだろうが、そんな物無いし有っても使えない。ボウガンなら行けそうだが無いからね。
ツルハシを振るだけの簡単な作業なので、つい考え事にハマってしまう。
気が付いたらまだ昼にもなっていないのに、昨日の七割位の深さが掘れていた。この現象に説明がつくのは当然スキルアップだ。ステータスを見ると採掘がレベル一に上がっていた。
やっと入門って感じなのかな?
このスキルのレベルはいくつまで上がるか分からないが、少なくともレベル一はそんな物だろう。
効率が上がった採掘作業は、昼の腹の虫が鳴く前には既に昨日以上の深さまで坑道を掘り進めていた。
こりゃ倍近くの速さが出てるんじゃないだろうか?
掘るのが楽になったのが面白く、つい全力を出してしまうが、ここで調子に乗ると明日動けなくなるのは分かっているので自重しながら掘り進めていく。
昼飯を摂った後、数時間採掘を続けていると物凄く硬くツルハシが弾かれる場所に出くわした。
遂に何かを掘れるかと思ったが、幾らツルハシで叩いても全く歯が立たず、これ以上やってツルハシが壊れても困るのでその場所は迂回することにして掘り進める。
掘れない所を避けながら、なるべく坑道が真っ直ぐになるように脇にずれながら進むと、掘れない場所の半分程が綺麗に剥き出しになった。
それは硬いのだが鉱石とかが見える訳でもなく、そこだけが保護されていると感じる不思議さを持っている。
形だけを見れば子供の体で抱え込める位の大きさで、外見は単なる土の塊だ。
半分は埋まってるから実は奥に長い可能性もあるけどね。
鑑定もして見るが、見た目通り土とだけしか出なかった。鉱石が露出してれば分かるだろうけど、どう見ても土の塊だからな。
さてこれは何で掘れないんだろうか?
一番可能性が有るのは、このツルハシでは掘れないって事か。硬いものを掘るには、それ以上の硬さのものが必要なのは当然だ。この場所に埋まっている物が、ツルハシより硬いって事だろう。だがこれは地球の常識であり、俺としては次の可能性の方が高いと思っている。
それは採掘スキルが足りないって所だろう。見た感じ不思議な力で保護されてるんだ、スキルという不思議な力で対抗するのも可能性がある。
もしかしたら物凄いお宝って事もあり得るか?
それを取らせない為にどんな力でも破れない保護属性を付けてるとか。神様からの手紙が来る世界だ、そんな物が有っても可笑しくはないな。
この世界は思っているよりゲームな世界なのかもしれない。
そう思いながら、現状はどうしようもないので、先に掘り進めることにした。
こんな事もあり、今日は投擲術のスキル上げは休みにして採掘作業に集中し、四メートル程掘り進み今日の作業を終了した。
今日も成果は出なかったが、作業の終盤で効率を上げる良い案を思い付いた。
深くなるほど土をどかす作業に時間が掛かるようになって来て、いい加減に掘った土の排除方法を考えていたのだが、凄まじく効率的で労力も掛からない方法を発見した。
それは、マジックバッグを使った土の運搬だ。
思い付いた当初は土を塵取りですくい、バックに入れていたのだが、土を直接手のひらに乗せ、形を認識出来ればバックに収納出来る事に気付き、効率が恐ろしく上がったのだ。
土の山に手を突っ込み、滑らせるように移動させれば収納出来るので、まるで掃除機様だった。
バックから出すのも簡単で、バックを逆さまにしてバックの瞳石を触り念じれば、土がシャワーの如く流れ出てくる。
今日はまだマジックバッグの中には、色々な道具が入りっぱなしで、容量が少なかったが明日は道具を出しておけば、かなりの量が入るはずだ。
この様子だと水とかも同じ様に扱えるのだろ。
便利過ぎてこの世界の運業は死んでるだろうなと思ってしまった。
ちなみに、バックに塵取りで入れてた時に分かったのだが、瞳石を触らずに入れようとすると、一度は入るのだが一瞬で弾けたポップコーンみたいに弾き出てきた。
正直楽しくて少し遊んだ。
こんな感じて今日はもう休むのだが、寝る前にステータスを確認しておこう。
【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 1 【状態】――
【H P】 162/162 【M P】 22/22
【スキル】
・投擲術Lv1(31・9/100)・格闘術Lv1(0・0/100)
・鑑定 Lv1(3・9/100)・料理 Lv1(0・0/100)
・魔法技能Lv0(0・6/50)・鍛冶 Lv0(2・0/50)
・錬金 Lv0(0・7/50)・大工 Lv1(0・7/100)
・裁縫 Lv0(0・2/50)・伐採 Lv0(2・0/50)
・採掘 Lv1(6・2/100)
【加護】・技能神の加護 ・*******
採掘と投擲術がいい感じに上がっている。
採掘はレベル0だったし入門以前の状態だったんだ、これだけ掘れば穴掘り入門ぐらい成れても可笑しくないか。
んじゃ、おやすみ。
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