挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第一章 脱出

5/112

四話 初生産

 程よい朝の光を感じながら藁の匂いに包まれ目を覚ます。寝苦しさも寒さも感じずに、一度も目を覚ます事も無く朝を迎えられた。
 時計が無い為に確認のしようが無いが、かなり満足のいく時間、睡眠が取れた様で快適な寝起きだ。

「ふぁ~……」

 立ち上がり大きく息を吸い込み体を伸ばす。
 伸ばした体が小さくなっている事に気づき、目を見開くほど驚いたが、すぐに原因を思い出し安堵の息を吐いた。

 歯磨きをする為にコップ一杯の水を汲み、歯ブラシを手に取り表に出る。
 何の毛か分からない謎の歯ブラシで歯を磨いていく。当然、歯磨き粉なんて無いのでそのまま磨くだけだが、しないよりかはずっとマシですっきりした。
 部屋の外は垂直にそびえ立つ壁に囲まれている場所だが、暖かい日差しが差し込み俺の体を温めてくれる。
 朝の運動がてらに軽く体を動かしながら辺りを見回すが、何も居ないようで気配などは全く感じなかった。

 歯磨きをして吐いた水が地面に吸われているのを見て、水の扱いを暫し考える。
 鍛冶で使う水に関しては炉を動かせない事もあり諦めてはいるが、その他の部屋の中で使う水は極力表に出て行おうと思った。
 単純に部屋の中で使うと湿気がやばそうで嫌なんだよね。
 また、現状は柄杓やコップしか水を汲める物がない事に軽い不満がある為、それなりの量が使える桶などが欲しいと思い始めてきた。
 欲しい物を上げていくと、今ある素材ではどう考えても足りなくなるのは火を見るより明らかではあるが、それを解決する方法が目の前にある事に歯を磨いている時に気付いた。

 無いなら伐ればいいのだと。

 都合よく目の前の通路には木が一本生えている。
 昨日進んだ三方向のどの道にもこれ以外の木は生えていなかった事を思い出すと、こんな近場にあるのは神様の配慮だと思える。レシピの中にも斧がある事を考えれば間違いないのだろう。
 同じく素材という事で言えば、鉄に関しても同様に掘れば出るような気がしている。レシピの中にこちらも当然のようにツルハシが有り、あの炉を使えば製錬作業が行える事を考えると、どこかを掘れば鉄か何かが出てきそうだ。

 部屋に戻り朝飯を食べた後、報告するのもお下品だが、この世界で初めて用を足した。
 結果、次に作成する優先度が最大になった物は木のヘラになった。
 初めはレシピに在るのがおかしな位に不要な物だと思っていたが、今さっき最重要アイテムだと気付かされた。
 簡単に言えば生活用品の中には紙が無いのだ。
 どうしようも無いので勿体ないとは思いながらもレシピで拭こうと思い、手に取った木のヘラのレシピを見て用途を気づかされたのだった。

 伸ばした手が掴んだレシピが木のヘラのレシピだった事が偶然だったのか、それとも天啓だったのかは分からないが、手にしたレシピを見た瞬間稲妻を受けたかの様な衝撃を受けたのだった。
 最初から生活用品の中に入れて置いてくれとは思ったが、レシピに在るという事はスキルに関係するような気もしたので気にしない事にした。
 その時は結局はもう使わないであろう、ナイフのレシピを使い処理をして事なきを得たのだった。
 消臭の壺は名前の通り機能してくれたが、先に土か何かを入れておかないと大変な事になる事だけは分かった。
 ナイフの柄を作った時に出た木の破片を使い、部屋の外で壺を掃除しているとつい考え事をして愚痴交じりの疑問が浮かんで来る。

 こんなファンタジーな世界なのに、こんな事で悩むなんて思わなかったわ。
 この世界の文明水準は分からないけど、普通はどうしてるんだろう? 用意してもらった道具を見る限りこの世界に水洗トイレなんて無いっぽいけど。

 んっ……あれ?
 全く考えてなかったけど居るよな?
 この世界にも人間は。

 ここを出ない事には疑問は解決されない事は分かっているので、直ぐに考える事を諦め、綺麗になった壺を片手に部屋に戻った。

 さて、今日は予定通り一日レシピを処理していく。
 先ずは木のヘラからだ!
 朝のごたごたも一段落したので、作業台で一息付きながらレシピを素材ごとに纏める。

 木のヘラ、木の食器。

 レシピは木材製品を削るだけの工程で出来る簡単な物ばかりで、慎重に削って行けば問題無く作れた。だが、昨日のナイフ作りで感じたようなスキルの補助は感じる事は出来なかった。
 食器のレシピがあった事に何かの冗談かと思ったがいつか役に立つと信じて保存しておこう……。

 次に金属製品を作製する為に炉に魔力を注ぎ火を入れる。昨日の充填分が無くなっていたかは分からないが体から何かが減っていく感覚を覚える。

 斧、ツルハシと調子よくレシピを消化をしていく。続いて剣のレシピを見て手が止まる。

 剣か……。

 無策で突っ込んだとはいえ、あの弱そうなスライムにさえこの体と技術じゃ通用しないだろう。それなら今持っているスキルの投擲術を活かせる物を作りたい。
 そうすると、投げ槍を作るのが良いのかな?
 投擲術って言う位だし投げる物、全般いけそうだけど投げナイフも有効かもしれないな。
 よし、剣は辞めだ。
 そもそもスキルさえ持ってないんだ、もし何かと対峙する事になっても近づいて戦うとか怖すぎる。あの痛みの地獄は二度と御免だしな。
 大昔の人が投げ槍でマンモスとか狩ってた絵を見た事あるし、結構な名案なんじゃないか?

 鍛冶スキルの中のレシピから投げ槍を探す。しかし、有るにはあるのだがかなり大型のようだ。まあ、これは自分の体と比較してなのでしょうがないのだろうが、これではレシピ通りには作っても使えないんじゃ意味がない。
 仕方が無いので、レシピを元にイメージを修正して行く。

 ある程度イメージが固まって来た所で、一つの考えがが思い浮かんできた。槍の全体を鉄にするか、穂先だけ鉄にし残りを木にするかだ。
 この選択はかなり素材の消費割合が変わってくる。
 本来、鉄製品の作成は剣が最後でインゴットが有る程度残って終わる所なのだが、最初にイメージした槍の形である全て鉄製にするとインゴットを全て消費する量が必要になる。これは子供サイズを作るので辛うじて足りているが、元のサイズで作ったら足りない量だ。
 また、もう一つの案の木を使う方は今ある素材では長さが足りず、加工して組み合わせる事で出来そうではあるが、加工には時間と技術が必要で高確率で失敗しそうな予感がする。
 もし成功したとしても、今ある素材を大量に使う事は変わらず、慎重に行動しなければ取り返しのつかない事になりそうだ。

 投げ槍で行く方向は良いとして、素材的には一端保留にした方が良いか?
 鉄なら溶かせばやり直しは効くけど、木はどうしようも無くなるからなあ。
 どの道、投擲武器を使う様になったとしたら数は揃えたいんだ。
 実際に作ってスライムに効くか試せるならば、それもやっておきたいしな。
 そう考えるとやられたままとか舐められすぎだろ、何かやる気が出て来たぞ。
 そうなればやっぱり柄は木だな。
 残りのインゴットをほぼ全部使って、また剣の様に無くしたら笑えない。
 あそこに生えてる木を使えれば、数本は投げ槍を用意出来そうだし、他にも使えるだろうから一石二鳥だろ。

 考えが纏まったので投げ槍の作成は一度中断する。木を入手してから再度行う事にした。

 一休みしようと作業台に腰を掛けると、小腹が減っている事に気付いた。
 水とパン、まだ辛うじて全然飽きてはいないが早い段階で飽きるだろう事は予想できる。食べられるだけ有難いと思うべきなのだろうが、つい先日まで日本で普通の食生活を送っていただけに、食べ物への欲求が高くなる。
 せめてハムでもあればパンに挟んだだけで美味いのに。
 いや、ハムなんて贅沢かレタスでいい草だし贅沢じゃないだろ。
 はぁ考えるだけ無駄か、素直に腹を満たして続きをしよう。

 恐ろしいほどに質素な食事を済ませて、次のレシピに取り掛かる。
 作業台の上に黒狼の革と浮魔の瞳石を用意して、マジックバッグと言う物を作る。レシピにある説明では名前の通り、魔法の鞄で見た目以上の物が収納出来ると書いてある。
 四次元ポケットか?

 革をレシピに書いてある型紙通りに切っていき、紐を通す穴を錐で開け縫い合わせていく。一つ一つ手作業でしていくのは時間が掛かるが楽しい作業だ。
 この手の物作りやプラモ作りなどは数える位しかやった事は無かったが、案外俺に向いているのかもしれない。

 そんな事を考えながら作業を進めていると、革の縫い合わせの作業は完了した。
 本来は服の腰紐に通してウエストポーチの様に身に着ける為、ベルト通しが付いているだけなので今の格好では身に着けられないので、革の余りを紐のように細くして縫い合わせ、腰に着けれるように加工した。
 黒狼の革の濃い黒色がシックな感じを出していてかなり良い。
 縫い合わせてある場所は素人丸出しなのだが、そこを見なければ結構なクオリティーに思える。
 この革まじでいいな。

 さて、この段階では単なる【黒狼革の腰鞄】で、まだ作業は残っている。
 鞄の中頃まで覆うかぶせを上げて、鞄の中央に取り付けてあるバックルの上に装飾のように浮魔の瞳石を取り付ける。
 取り付けると言っても金具などで止めるのではなく、ポケットを作り瞳石を入れて縫い付ける。そのポケットには瞳石を露出させる程度の切れ込みを入れていて外からでも石が触れるようになっている。
 もっとかっこよく金属の台座を作って、瞳石を埋め込んで縫う形を思いついたが、魔法のアイテムだけに今回は手を加えずにレシピ通りに作成した。
 瞳石を取り付けただけではまだ完成では無く、この魔法の鞄にはまだ工程が残っている。
 それは所有者登録だ。
 どうやらマジックバッグには物理的な鍵ではなく、血を登録することによって登録者のみが使用出来る機能が有るらしい。
 最初の登録者が所有者となり最高権限が与えられ、登録者の追加などの管理も行えるらしい。
 らしいが多いがレシピに使い方が書いてはあるが実際やらないと実感できないからしょうがないよね。

 まずは、登録を行うべくナイフの先端で親指を刺して血を出す。 鞄に付けた瞳石に親指を乗せると、一瞬指先に電気が走った様なしびれを感じた。
 反応が有るって事はたぶん成功したんだろう。
 鞄の中を見ると水面のように波紋を浮かべる銀色の空間の膜が作られていた。
 恐る恐る手を突っ込んでみると、どこまでも腕が沈んでいく。
 流石魔法の道具だと感心はしたが止まる事無く沈む腕を見て、抜いた先が無かったらどうしようかと急に怖くなり、急いで腕を引き抜いた。
 引き抜かれた腕は依然と変わらず何の問題も無く生えていた。
 ほっと息を吐き作業台の上に乗っている、先ほどまで使っていたハサミを入れてみる。
 ハサミの刃を先にして収納していく。ゆっくりと浸ける様に入れて行くと抵抗なく入って行く。ハサミを持つ俺の指が空間に接触するとハサミの感触が消えた。

 今度は取り出しをしてみる。
 マジックバッグに手を突っ込むと先程には感じなかった、ハサミが入っていると言う情報が頭に浮かんで来る。
 頭の中で選択をすると手にハサミが収まるのを感じる、マジックバッグから手を引き上げるとハサミを持っていた。
 面白いので手当たり次第道具を入れて行く。
 小物ばかりではあるが本来であれば相当の重さを感じるはずが全く感じない。

 まったくもって素晴らしい。
 こんな物が日本に有ったらトラックなんて走ってないんじゃないか?

 鞄の口に入らないような大きい物は片手で瞳石を触ったまま、もう片方の手で対象に触れて収納を願えば実行されるらしい。
 その際は、対象の形を完全に認識していないと駄目らしい。
 要するに地面に埋まっていて一部が露出している物などは全体像を把握しているか、分からなければ掘り出さない限り入れられないって事だろう。
 また、生物は駄目らしい。
 生物がダメなら無菌状態の物しか入らないと思ったが、予想ではあるが認識の問題何だと思う。
 個人の認識かこの世界の認識か分からないが、ステータスとか鑑定とかそんな物がある以上、その手の判断は簡単に出来そうな気がする。
 原理が分かってない魔法のアイテムに一々いちゃもん着けても本当に意味が無いって事だ。

 最後の説明には入る許容量が書いてある。
 マジックバッグを作れる石には等級があり、それにより容量が変わると書いてある。
 この瞳石で1m3の容量らしい。たしかに手を突っ込んだ時に感じたイメージでは、それ位の容量が有りそうだった。
 縦横20㎝も無いような小さな鞄が重さを感じずに、それだけの容量を持っていると増々違和感しか無いのだが魔法万歳と言っておこう。

 ここまでの製品作成での作業は、子供の体ながら以前と変わらない感覚で行えている。
 十歳の子供がここまで正確に作業を行えるとは思ってもいなかった。
 体の操作は魂に依存するという事なんだろうか?
 まあいいか、体が思い通りに動かせている事実が有ればいいんだ。

 マジックバッグを作り終えた頃には、すっかり日が落ちて暗くなってきていた。暗い中で作業する気は無いしもう疲れたので今日は終わりにする事にする。
 作業台から立ち上がり背を伸ばす。踏ん張った足に少しの痛みを感じたが、大分良くなってきている。
 若い体は直りが早いって事かな? 長い間おっさんをしすぎてもう忘れてるよ。

 本格的に暗くなる前に食事を取る。
 布団に潜り寝る前にステータスの確認をした。
 そうそう、ステータスは別に言葉にしなくても頭の中で意識をすれば見れるっぽい。
 気が着いた時には出来ていた。慣れが必要なのかな?

【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 1 【状態】--
【H P】 137/162 【M P】 14/22

【スキル】
・投擲術Lv1(0・0/100)・格闘術Lv1(0・0/100)
・鑑定 Lv1(3・8/100)・料理 Lv1(0・0/100)
・魔法技能Lv0(0・4/50)・鍛冶 Lv0(1・2/50)
・錬金  Lv0(0・5/50)・大工Lv0(0・4/50)
・裁縫  Lv0(0・2/50)

【加護】・技能神の加護 ・*******

 何かすごいスキルが増えてる。しかも結構上がってる。今日やった作業に対応したスキルが追加されていってる感じか。
 ふふふ、これは楽しすぎるな、しかも簡単にレベル1には成れそうだし。
 明日は残りのレシピを片付けて、木こりタイムだな。
 んじゃ、おやすみなさい。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ