挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第一章 脱出

3/112

二話 初戦闘

 部屋の探索を終え、外に出る為に革の鎧を装備する。
 魔物が居るって話だし、用心に越した事は無い。まあ、それ以上に純粋に着てみたいってのもある。
 野球のキャッチャーが下げている様な形の、茶色い前掛けを首から通し、脇にある紐を結んで固定する。
 次に腕の部分を着けようと持ち上げて見ると、どうやら先にこちらを着ないといけなかったようだ。

 紐を解き胴部分を一度脱ぎ、木箱に引っ掛けておく。
 腕の部分は肩から手の甲までの一体型で、攻撃を多く受けるであろう部分は、硬い革を縫い付けられ強化されている。
 そんな左右の革の腕は丈夫そうな黒い革のベルトで繋がっていて、そのベルト部分を肩に掛け、締め着ける事で体へ固定させる作りになっていた。
 両腕を通し腕の内側に付いた紐を絞りしっかりと固定させ、肩部分のベルトを締めこちらも固定する。そうして再び、胴部分を上から被り脇にある紐で固定した。

 脚を守る部分はズボンの様な形になっており履ける様になっていて、腰紐を締めれば簡単に身に着ける事が出来た。
 太ももや脛の部分は握ってみても形が崩れない程硬いが、動きが阻害されないよう関節部分は自由に動くようになっていて、違和感無く走り回れる事が出来そうだ。
 最後に飾り気のないヘルメットを被れば装備完了だ。

 軽く身体を動かして、感触を確かめてみると長年使ってきたかの様に馴染む。

 いいねー、やっぱり装備してこその鎧だよな。
 しかし、流石神様が用意してくれた品だな、ここまで違和感も重さも感じないなんて。

 初めて着る鎧に興奮しながら、地面に置かれていた鞘に収まった剣を拾う。

 どこに下げるのがいいんだろ?

 一瞬、某狂戦士が頭に浮かび背中に下げる事を思い付くが、どう考えても抜きにくそうなので止めた。
 剣の長さも無いので基本であろう腰に着ける事にする。
 鞘に付いているベルトを腰に巻き、きつく締め固定出来たのを確認して、剣を抜き中段で構える。
 重さや感覚を確かめてから、足に当たらないように気を付け素振りをしてみる。
 今まで生きてきて真剣など振った事は無いが、小ぶりに作られた剣は中々しっくりと来た。

「ふ、ふははは! 何というファンタジー!」

 こんな物は笑わずには居られない。
 鎧を着て剣を振る、今は子供の体だからまだ有りだろうが、こんな姿を現代日本でやったら何かのイベントとかでない限り、相当アレな人だと思われてしまう。

 やばい、楽し過ぎる。
 早く外に出てこの世界を堪能しなければ!

 自分が異世界で子供になっている事を忘れ、更にはここがダンジョンの中であると言う事、全てを忘れて表に出る。

 一歩外に出たそこは、ダンジョンと言うよりは崖の谷間の様だった。
 自動車が三台位並んでも走れそうな程の幅が有り、見上げなければ頂点が分からない位、高く垂直にそり立つ壁は、十階建ての建物位の高さがあるだろうか。
 今さっき出て来た場所を振り返り見ると、そそり立つ土の壁に入り口だけがポツンとあった。小屋だと思っていた物は、どうやら壁の中に掘られた洞窟の様だ。

 ダンジョンて言うか外じゃないのか?

 部屋に差し込んでいた光を忘れていた訳では無かったが、ダンジョンと言う言葉から、ここは建物か地下の中であると思っていた。

 これなら登れば外に出れるんじゃないか?
 なんか拍子抜けだな。

 期待していた物と違い若干テンションが下がったが、気合を入れ直して探索を始める。

「さて、何処から行くかな」

 改めて周りを見渡すと、俺はT字路の突き当たりに居る様だ。
 と言っても正面と左右に見える道は曲がりくねっていて、ここから見る限り先がどうなっているかは見えない。
 それ以外では、正面の道の脇にはそれほど高くはない木が、一本生えているのが見える。

「まずは正面から行くか」

 俺は正面の道へと進む。
 緩やかに曲がる道の真ん中を進み、数分ほど歩くと開けた場所が目に入ったのでその場で足を止めた。
 注意をして目を凝らしその広場の中央を見てみると、何か動く物が見えて来る。

 更に注意深く見てみると、広場の真ん中には高さ五メートルは有りそうな、象より大きいと思える黒いサイがそこには居た。
 頭部には二本の長い角が生え、棘の生えた太い尻尾を揺らしながら、その場をウロウロとしている。
 俺は圧倒的な存在感に、思わず体を低くして身を隠した。

 でかすぎるだろ!
 あんな奴どうやってこの剣で殺すんだよ。
 見るからに硬そうだし、あれはどう考えても無理だろ。

 早く離れよう、怖い。
 いきなりあれに食われて終わるとか嫌だ。
 てか、あいつサイみたいだけど肉食か?

 一瞬で諦めた俺は、見つからない様にゆっくりと目を離さず後退しながら来た道を戻った。

 部屋の入り口迄戻り一息つき、左右の道を見比べる。

 どっちも道の先は見えないし適当でいいか。

 そう思い俺は、先ほどの事は無かった事にして、部屋を背にして右の道へと歩いて行く。この道も真っ直ぐでは無く先が見通せない。
 さっき居た馬鹿でかいサイ見たいなのがまた居ると思うと、歩くのが慎重になってしまい、だんだん先に進む事に恐怖感が出てくる。

 あんなのに襲われたら確実に死ぬ。
 先が見えない所はゆっくり静かに行こう……。

 慎重になりながら進むと、先にまた開けた場所が見える。

 またなんか居やがるな。
 またデカイし……。
 トカゲか?
 四匹……いや、五匹か。
 しかし、なんて色してんだよ、真っ赤なトカゲとか毒ありそうで絶対に近付きたくねえ……。

 二メートル程の赤い鱗を持つトカゲが、地面に腹を付け寝そべっている。

 コモドドラゴンだっけ、何かあれみたいだな。

 少しの間観察をしてみたが、あの中を進むのは不可能だし、倒すなんてあり得ないと判断し、またゆっくりと気づかれないように来た道を戻る。

 やばいぞこれ。
 倒せると思える奴がいないんじゃないか?
 もし、身体が大人でもあんな化け物に手だせないだろ。
 こりゃ壁を登る方が良いかも知れないな……。

 最初にあったテンションは全て吹き飛び、トボトボとした足取りで部屋の入り口へ戻った。

 残った最後の道を見つめ、一度足を止めて考える。

 まだ一箇所あるんだ。
 悩むのは取り敢えず行って見てからにしよう。
 幾ら何でも神様だって、無理ゲーは用意しないだろ。

 下がった気持ちを僅かではあるが盛り立て、最後の道へと足を進める。
 この道も先が見通せ無い、曲がりくねった道だった。
 先の二つの道よりも長く歩くと、少し狭くなってきた道の真ん中に赤黒い半透明の塊が見える。

「んー? ……っ! あれはっ! スライム来た!」

 俺は思わず笑顔でガッツポーズを取り、握ったままの拳で剣を抜き、前に数歩、歩み出ようとしたが思いとどまった。

 いや待て、落ち着け……。
 あれが何なのかちゃんと確認してから行動しないとやばいだろ。
 俺は何でこんなに興奮してんだよ。

 少し冷静になって考えて見ると、どうも感情の起伏が激しい気がする。
 この状況がそうさせるのか、身体が子供になっている所為かは分からないが、もう少し抑えられないと自分でも思ってもいない突発的な行動を取りそうで怖い。
 そう思い直し目線の先にいる物を観察する。

 赤黒いスライムは、子供になった俺の腰ぐらいの高さがあり、上下に水面の如く揺れているが、場所の移動はしていない。
 姿を隠さず二十メートル程の距離から見て居るが、こちらに気づいている気配は無い。

 視覚は無いかな?
 いや、そもそもスライムの前後が分からない。
 もしかしたら、後ろを取ってるから気付いて無いだけかも。

 考察と観察を繰り返していると、スライムの体の中に丸い球を見つけた。

 良くあるパターンじゃ、あれが弱点だよな……。
 あれを狙って攻撃すればいけるんじゃないのか?

 俺は先程見てきた、二箇所の道の先を思い出し考える。
 どう考えてもあの黒いサイには勝てないし、トカゲは数が多い。
 複数を相手をするなんて愚策でしかない。
 例えトカゲとタイマン出来た所で、一噛みで殺されそうだし。
 そう考えると、スライムしか選択肢が無い気がする。
 大体、スライムなんてゲームとかでも序盤で出て来る雑魚なんだし、いけるんじゃないだろうか。
 少しばかし大きいのと色は気になるけど……。
 赤黒いスライムとか不気味だけど、スライム○スとでも思ってやるしかないか。

 よーしまずは、ゆっくりと近づいて動きを見るか。
 あの体だ、俊敏には動けないだろ。

 俺は一歩一歩様子を見ながら、スライムに近づいていく。
 その間まったくスライムからの反応が無かったが、十メートル位まで近付くとスライムの体が大きく揺れ出した。

「げっ! やばいか!?」

 つい声を出してしまったが、その場で直ぐに立ち止まり、体の動きを止め息を潜めて、じっとスライムを凝視しているとその動きは止まった。

 ふ~、この距離だと反応するのか、怖いな。
 こっちに来ないのは本当に見えてないのかな?
 振動とかで探知するのか?

 足元にある小石を拾いスライムの近くに投げて見る。
 すると、数センチ横に落ちた小石に反応して、かなりの速さでスライムが体の一部を伸ばしている。
 また小石を拾い、今度は一メートル程離れた場所に落とすと、先程よりかは動きが遅いが、また体を伸ばしその場所を探っている。

 やっぱり近くに行くと動くか。
 この狭い道じゃ通り抜けるのも無理っぽいな。
 う~ん、しょうがねえ。
 小石で反応するんだ、ゆっくり行っても変わらないだろう。
 反応される前に一気に行くか。

 右手で持っていた剣を両腕で握り、上段に構えスライムに向かい駆けて行く。
 スライムは震え始めるが、こちらに来る様子は無い。
 そのまま走って近付き、スライムの体の中にある小さな球を目掛けて、剣を振り下ろす。

「おぉぉらぁぁ!」

 気合の声と共に振り下ろされた剣は、僅かにスライムの体を歪ますが、まるで粘土を叩いたかの様な鈍い感触が手に伝わり、そこで止まった。

「げっ!」

 俺が驚き声を上げていると、スライムの表面が激しく波打つ。
 まるで物が落ちた水面の様な形になると、そのまま俺の方へ噛みつく様に伸びて来て、一瞬で腕を掴まれた。

「やべええええ!」

 体中から嫌な汗が一気に噴き出て来る。極大の危険を感じ腕を思いっきり引き抜こうとするが、全く動かない。
 驚くほどの速さで、俺の腕を伝い体へとスライムの本体が這い寄って来る。そして、瞬く間に俺の体全体はスライムに取り込まれた。

 ぶぅ息っ!
 やべええ死ぬっ!

 ……っ!
 熱いっ!?
 あぁっ!
 痛てえぇぇぇ!!

 息が出来ずにもがいていると、体中に熱さを感じ次の瞬間には激痛が走った。

 痛いっ!
 いだい!
 やだ!
 だずげで!

 痛みに思考は支配され、ただ痛みから逃げる為に蠢く事しか出来ず、死さえ意識出来ない程の混乱の極みに至ると、指先から暖かい光が溢れ、体中を覆い始めた。

 あれ……?
 痛みが……。

 俺の体を覆った光が膨れるように広がると、スライムが弾ける様に俺から離れる。
 形の崩れたスライムが、元の形に戻ろと核を中心にして蠢いている。

 今の内に!

 俺は脱兎の如く来た道に逃げ込む。
 息が上がり異常な呼吸になっても、裸足になった足の裏に石が食い込み血が噴き出しても、足がもつれ膝から倒れこんで肌をえぐっても直ぐに立ち上がり、とにかくあの場から逃げ出す事だけを考え走る。
 気付いた時には部屋の中で、体中から汗を吹き出し仰向けで倒れていた。

「怖ぇ……。あんな痛み初めてだぞ。痛すぎて何も出来なかった。」

 しゃがみ込み、息が戻るのを待っていたが、あのスライムが追って来ているかが気になり、急いで部屋の入り口へ駆け込む。
 そして、恐る恐る外を覗くがスライムの姿は見えなかった。
 道から目が離せず凝視していると、突然痛みに襲われる。

 足の裏と転んだ時の傷か。

 痛む箇所を見ると、そこから血が出ている。アドレナリンが切れて痛みが出て来た様だ。

 まあ、さっきの傷みに比べたら全然マシだな。
 って、鎧がボロボロじゃねえか。

 他に痛む箇所を調べる為に体を見回すと、着ていた物の状態に気付いた。
 革鎧は殆どの部分が溶けた様に崩れていて、軽く引っ張るとボロボロと地面に落ちる。
 溶けて首にへばりついた、元胴の部分であろう物を引っ張ると、最後の支えを失った様で、見事に体から鎧全てがずり落ちて、下に着ていた服もすべて溶け落ちて、俺は全裸となった。

 服だけ溶かすスライムかよ……。

 実際は肌も溶かしていたのだろう。
 全裸になった自分を見ながら、助かった安心感から軽口も出るが、自分の両手を見てある事に気づく。

「あっ、剣も無いや」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ