EX大衆×ZAKZAKEX大衆×ZAKZAK

【イチから分かる自衛隊最前線レポート】掃海部隊

★国民の安全を守るため、空を飛べ!海を行け!地を駆けろ!

2015.11.14

◆安保法制でも話題になった掃海部隊

 今年の夏、国会にて掃海部隊がクローズアップされた。安全保障関連法案の中に、他国での機雷処理を含めるのか、というのが争点になっていたからだ。

 一口に機雷処理といっても、1991年の湾岸戦争後にペルシャ湾沖で行なったような戦後機雷処理であれば、現行の自衛隊法でも対処できる。ただし、戦争中の機雷処理となると、いかに後方での活動とはいえ、戦闘行動に違いなく、集団的自衛権の行使となる。これを認めるのかどうかが話しあわれていたのだ。

 日本は自衛隊創設以前から実任務として、機雷の処理を行なってきた伝統がある。しかしそれ故に“井の中の蛙”となってしまっていたが、前述したペルシャ湾派遣を契機に、海外の掃海部隊が推し進めていたハイテク化を採用。これにより、これまでの職人技に加え、近代化が合わさり、世界トップクラスの掃海部隊となった。

 掃海艇の数だけを見れば、海自は27隻を保有している。東西冷戦当時は世界最高と言われたイギリス海軍の掃海部隊も、いまは15隻のみ。

 アジアを見ればお隣韓国は9隻。世界でもっとも掃海艇を配備しているのが、ロシアの約50隻。次いで中国の約40隻。日本は世界第3位の配備数なのだ。

 世界はまさに日本の掃海部隊に対し、一目置き、そして期待している。

◆機雷処理ロボットを使った訓練を実施!

 海自掃海部隊では、練度を高く保つため、年4回ほど、大規模な掃海訓練を実施している。訓練場所となっているのが、陸奥湾、伊勢湾、日向灘、硫黄島の4カ所である。なお2012年に1度だけ八代湾が試験的に使われたが、その後採用されることはなかった。

 今年の夏は国会にて、安保法案について喧々諤々の討論が繰り広げられていたが、そんな中、7月18日から30日までの間、陸奥湾において「平成27年度機雷戦訓練及び掃海特別訓練」が行なわれた。

 安保論議のひとつとして、ホルムズ海峡での海自の掃海を行なうことは是か非かを問うている最中での訓練となったため、毎年実施している訓練であるにもかかわらず注目を集め、掃海訓練としては珍しく多くの報道陣が詰めかけた。

 掃海母艦や掃海艇など18隻の艦艇、及び航空機9機、人員約850名が参加した。これに加え、米海軍からも、掃海艦2隻、航空機3機の参加があった。

 陸奥湾内に設定された横12km、縦6kmの訓練海域に、訓練用機雷を敷設し、それを探し出すところまで訓練していく。最終的に爆破処理するまで訓練したいところであるが、さすがに湾内では行なえない。

 報道陣に訓練を公開したのが第41掃海隊だ。この部隊は強化ガラス繊維プラスチックGFRP製の最新型掃海艇である「えのしま」型3隻で構成されており、今回は「えのしま」と「ちちじま」の2隻が参加した。

 主たる武器は、国産の水中航走式機雷掃討具S‐10だ。これは簡単に説明すると、機雷処理用のロボット。本体に装備されたカメラやソナーの情報をもとに、遠隔操作で海中を進む。もし係維機雷を発見すれば、おもりと機雷を結ぶ係維索をカッターで切断し、浮かびあがらせる。沈底機雷であれば、機雷の真上から、胴体に当たる場所に格納された爆雷を投下し爆破処理する。

◆知ってる!? 機雷の仕組みと処理方法

 そもそも機雷とは何か。ちょっと知っている人だと、「ウニのようにトゲトゲが付いた海面を浮遊している爆弾」と答えるだろう。実はその通りで、大戦中から姿形にそれほど大きな変化はないのだ。ただし、その中身はハイテク化されている。

 機雷戦は、機雷を撒く機雷敷設戦とその機雷を処理する対機雷戦とに分けられる。一番厄介なのが、対機雷戦である。

 機雷には船体が発する磁気を感知して爆発する磁気機雷や、スクリューなどの音に反応する音響機雷などがある。これらは水上艦艇に対する脅威となる。また機雷とおもりを係維索というもので繋ぎ、索の長さで敷設する深度を変えることができる係維機雷や、海底に敷設し真上に向けて攻撃する沈底機雷もある。これらは潜水艦を攻撃することも可能だ。

 こうした機雷を処分するため、世界中の海軍で掃海艇が配備されている。掃海艇は掃海具というものを曳航し、機雷を処分する。わざと磁気や音を発する掃海具を引っ張ることで、機雷を反応させて爆発する機雷掃海と言われる方法や、ロボットを用いて機雷を直接攻撃する機雷掃討という方法がある。

 処分している掃海艇がこうした機雷の被害にあわないように、長らく船体は木造となっていた。艦内にも鉄製のものを置かない。机やロッカーも木製、個人のキーチェーンまで持ちこみを制限する徹底ぶりだ。

 だが木造船体だと耐用年数が短く、大体15〜20年ぐらいしか保たない。そこで、近年は強化プラスチック(FRP)製の船体が主流となってきた。海自もこの流れに乗り、最新掃海艇からは、FRPにガラス繊維を混ぜてさらに強度を上げたGFRP製の船体とした。これにより耐用年数は30年となり、船体重量の軽減も成し遂げている。

■PROFILE 菊池雅之 1975年2月3日生まれ。1995年、海上自衛隊が実施している半年間の遠洋練習航海に完全同行取材を敢行。その後、週刊誌カメラマンを経て、フリーの軍事フォトジャーナリストとなる。陸海空自衛隊のみならず、米軍やNATO軍、アジア各国の軍事情勢を取材してまわる。最近では危機管理をテーマに警察や消防の取材も行なっている。著書は『試練と感動の遠洋航海』(かや書房)等多数。また自衛隊に関するアニメや漫画の監修なども行なっている。

(本内容は「EX大衆11月号」からの抜粋です)

EX大衆

このニュースのフォト