[PR]

 「ミスタープロレス」と呼ばれた天龍源一郎(65)が15日、リングを去った。大相撲で前頭筆頭まで進んだ後、プロレスに転身して39年。東京・両国国技館での引退試合を支えたのは、一人娘の嶋田紋奈(あやな)さん(32)だった。

 午後7時15分すぎ、国技館に試合終了のゴングが鳴った。今のプロレス界を引っ張るオカダ・カズチカ(28)との試合。倒れ込んだ天龍はゆっくりと起き上がり、「負けたー」と叫んだ。所属団体の代表として試合の運営を担ってきた紋奈さんはリングに立ち、観客に「最高の舞台を与えて下さったことに、心から感謝します」と涙ながらにあいさつした。

 紋奈さんが生まれた1983年、父は人気レスラーだった。逆水平チョップ、パワーボムといった必殺技を繰り出し、ジャンボ鶴田(故人)、藤波辰爾(たつみ、61)、長州力(63)らとプロレス人気を牽引(けんいん)した。

 紋奈さんは中学生の時から、リング設営や音響を手伝うようになり、所属団体を変えながら時代を代表するレスラーと闘い続ける父の姿を見続けてきた。5年前、新団体を立ち上げた父に頼まれ、代表となった。

 最後のリングを両国国技館に決めたのは紋奈さんだ。1万人規模の会場。「両国は無理。観客は500人でもいい」と父は反対したが、「天龍のしこ名をもらった場所で天龍を終わらせてあげたい。絶対に成功させる」と押し切った。

 この日、チケットは完売し客席は満員。プロレスは相手の必殺技を受け続け、立ち上がった先に勝利がある。「相手から逃げずに受け止める勇気」を教わった。

 天龍は試合後の記者会見で、紋奈さんについて「両国をとって、これだけの大観衆を集めてくれて、我が娘ながら男前です」と感謝の言葉を口にした。また、「この体の痛さが今までの俺の全てを物語っているようで心地良い。(亡くなった)ジャイアント馬場さんや鶴田選手のように、志半ばで最後までできなかった方たちのことを思い起こした」と心境を語った。(宮嶋加菜子)