かつてはフォアグラ農家としてフランスでガチョウをたっぷり太らせていた。今はラグビーの原点といえるスクラムを強く、たくましくすることに人生をささげる。ワールドカップ(W杯)イングランド大会に出場中のラグビー日本代表の土台を固めた一人が、マルク・ダルマゾ・スクラムコーチだ。
攻撃の起点のスクラムで負けると、ラグビーは試合全体が崩れがち。体が小さい日本の弱点強化のため、2012年、ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)に招かれた。
独自の練習は選手を驚かせた。スクラムの上に自らの巨体で立ち、重圧を掛ける。FW8人の呼吸のタイミングを合わせることも要求した。姿勢の指導も細かい。ある試合中には「足の位置を3センチ下げろ」。プロップの選手に伝えた。グラウンドから遠い客席上段から見て出した指示なのに、スクラムは安定した。
世界一のスクラムにこだわるといわれる仏出身。1995年のプロ解禁後、家業のフォアグラ農家を離れ、フッカーとしてスクラムで生きる道へ。代表選手になった。
分厚いノートにまとめたノウハウを押しつけることはない。「日本人は体格的に(柔軟性が高く)低い姿勢やいい体の角度をつくれる」。日本の素質に合わせて指導する。この3年、押せる相手は確実に増えた。「ダルマゾの練習はしんどいけど、結果が出てしまうんでやらなあかんということになる」とフッカー木津(神戸製鋼)。
W杯では平均体重で8キロ勝る南アフリカのFWに互角に対峙。金星の一因となった。残り2戦は日本の方が押せそう。「サモアは重くてパワフルだが日本はスピードがある」。組み合う瞬間に一瞬でも速く前に出ることで、有利な姿勢を日本が確保できるとみる。米国もスクラムは強くない。
「ダルマゾはスクラムを語らせたら何時間でも話している」とホラニ龍(パナソニック)。選手がからかうほどの「愛」を本人も隠さない。「休みの日も考えてしまう。1年後、1週間後、1時間後、(世界や日本代表の)スクラムがどうなっているかということを」
もしかするとラグビー自体にはあまり興味がないのかもしれない。選手がボールを使った練習をしていても、ろくに見ない。所在なさげにグラウンドの端を歩き回る。他のコーチにレスリングを仕掛けたり、報道陣にボールをぶつけたり。いたずらの最中にも、頭の隅でスクラムの改善点を探していそうだから怖い。
(ロンドン=谷口誠)
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