大阪市河川事務所内部告発者懲戒免職事件・大阪地裁勝訴判決 弁護士 鎌田幸夫
1.大阪地裁勝訴判決
大阪地裁は、2012年8月29日、不正行為を内部告発した後、懲戒免職処分となった大阪市河川事務所の職員が、内部告発の報復であるとして懲戒免職処分の取り消しを求めていた事件で、懲戒免職は違法であるとして取り消す男性の勝訴判決を言い渡しました。勝訴を伝える新聞で「ようやくこの日が来たのか、という安堵の気持ちでいっぱいです」との男性のコメントが報じられました。私も、この事件の弁護団でしたので、男性や家族が喜ぶ姿を見て、本当に嬉しかったです。簡単に事案の概要と判決の意義を報告します。
2.事案の概要
大阪市河川事務所では、長年にわたり職員らが河川清掃中に浮遊物のなかの金品を物色し、着服する不正行為が行われていました。原告の男性は、2009年6月、河川事務所に赴任して以降、所長ら上司に止めるように再三申し入れましたが、聞き入れられませんでした。男性は、2010年6月、内部告発目的で、同僚が清掃中に拾った鞄のなかの10万円(千円札)を取得する行為を腕時計ビデオカメラで隠し撮りしました。その際、男性は、警戒されずに撮影を続け、後で落とし主に返す目的で、同僚からいったん5万円相当を受け取りましたが、落とし主がわからず、船のゴミ槽に戻しました。男性は、同年9月、大阪市議に不正行為を告発しましたが、市による調査は進まなかったので、10月、DVDをマスコミに提供しました。11月2日、鞄を物色し現金を領得している衝撃的なテレビに映像が流れました。11月4日に当時の平松大阪市長が厳しく対応すると記者会見し、不祥事調査チームが立ち上がりました。ところが、大阪市は、12月、男性が5万円を受け取って破棄したこと、同僚が拾得した金銭で購入したジュースを飲んだことに加えて、河川事務所の同僚らに対して「暴言」「恫喝」をしたとして、他の不正行為をした5人と一緒に懲戒免職処分としたのです。この同僚らに対する男性の「暴言」「恫喝」とは、内部告発に反発した同僚らが、不祥事調査チームに申告したものでした。
3.大阪地裁判決の内容
今回の判決は、5万円を受け取りその後破棄した行為や、同僚に対する「暴言」は、懲戒事由には該当するとしましたが、@長年にわたり河川事務所ぐるみで物色、領得行為が行われており、それを招いたことには管理・監督を長年怠ってきた大阪市に大きな責任があること、A男性の内部告発によって河川事務所の領得行為の調査が行われ、完全な是正が図られたのだから、懲戒処分の選択にあたり男性に有利な事情として考慮すべきことは明らかであること、B男性の行為は重大な非違行為とは言えないこと、C男性には懲戒処分歴はないことから、懲戒免職処分は重きにすぎ、裁量権を逸脱し、濫用したものであり、違法と判示しました。
4.判決の意義
今回の判決の意義としては、第1に、長年にわたる河川事務所組織ぐるみの不正行為が継続したのは大阪市の管理・監督を怠ったことに大きな責任があるのだから、今回の内部告発で偶々、物品の領得行為が明らかになった職員だけに責任を負わせることは許されず、男性の内部告発があったからこそ、長年にわたる不正行為が是正されたことを懲戒処分の選択でも有利な事情として考慮すべきとしたものであり、公務職場における不正行為の内部告発者保護を前進させる内容であることです。
第2に、懲戒免職処分は、公務員の地位や身分を奪い、退職金も支給されず、再就職も困難になるなど重大な不利益をもたらし、職員にとって「死刑判決」に等しいものであり、「厳密かつ慎重に」なされるべきであることを確認したことです。時の政治権力の思惑や政治的情勢、市民へのアピールのために、いたずらに厳罰(懲戒免職)をもって臨むこと許されないのです。
5.おわりに
橋下徹大阪市長は、判決当日の記者会見で、「内部告発者を守る」として、控訴しない方針を表明し、男性の勝訴判決が確定しました。そのこと自体は、弁護団としては歓迎です。もっとも、橋下市長は、職員の政治活動規制条例に関連して、違反者を「バンバン、懲戒免職する」と言っています。懲戒免職はそんな簡単にできるものではないことを今回の判決を通じて知ってほしいと思います。
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